秘密の部屋後日談2
休暇中、とヴォルデモートの住む邸にしばらくお世話になる事になったハリーとロンとハーマイオニー。
何故そんな事になったかといえば、去年”ゴミ”を逃がした件といい、今回のリドルの件といい、「まだまだ修行不足のようだな、ハリー」と、師匠であるヴォルデモートのお叱りがあったからだ。
別名八つ当たりとも言う。
ハリーは1人ではたまらないと思い、ロンとハーマイオニーもちゃっかり巻き込んだのである。
ロンとハーマイオニーがハリーの修行についていけるはずもないが、見ているだけで済ますはずがないのがハリーである。
ハリー、ロン、ハーマイオニーの3人共同作業での修行が始まっていた。
「リドルはまだそのままでいいの?」
『別にいいよ。このままでもの側にいられるからね』
にこりっと笑みを浮かべたのはやや透けた姿のリドル。
そう、実はリドルはまだそのまま残っているのである。
元は同じ人物だったので、ひとつに戻る事は可能らしいが、双方がそれを嫌がるので現状は変わらない。
「でも、リドル、魔力は必要じゃないの?」
『魔力なら賢者の石があるから平気だよ』
「え…?賢者の、石?」
『そう、僕が今宿っているのは、元々の場所の日記じゃなくてこの賢者の石なんだよ。元の日記はハリーがルシウスに投げつけたらしいから』
リドルがひょいっと手にしたのは、紅い石。
どうしてこれをハリーが持っているのか分からないが、去年のあの事件で賢者の石は壊される事がなかったということなのだろう。
「賢者の石をどうしてハリーが…?」
『さぁ?僕は詳しくは知らないし、そんなことどうでもいいけどね』
「でも、これってニコラス・フラメルさんのものなのに、いいのかな?」
『別に悪用しているわけじゃないし、いいんじゃない?』
確かに悪用しているわけではない。
ただ、闇の帝王とかつて呼ばれていた人の過去の記憶、それもホグワーツでバジリスクを使って生徒達を石化させたようなリドルの存在維持のために使っている事が果たしてよい事なのか、それは分からない。
が側にいる限りは悪い事にはならないだろうが…。
『そんなことより、のこともっとたくさん聞かせてよ。僕は少ししかのこと知らないから』
「私のことなんか聞いて面白い?」
『とても面白いし、嬉しいよ。のことならどんな事でも知ることができるのが嬉しいからね』
はほんのり頬を染める。
「リドルって、昔からそういう台詞ばっかり言ってたの?」
『僕がこんなこと言う相手はだけだよ、それ以外は僕にとってその辺の石ころと一緒だよ』
リドルはの頬に右手をそえて、ふっと顔を近づけてくる。
透けているリドルの手の感触はほんの少しだけ、触れているような触れていないような感覚。
リドルの唇がの頬に触れようとしたその瞬間…
ぐわっしゃぁぁぁん!!
ひゅっとのすぐ側で何か大きなものが通り、大きな破壊音が響く。
はびくっとなって、通り過ぎた何かが壊れた方向を見る。
よく見てみれば、それは大きな植木鉢だった。
「貴様…」
低くドスの聞いた声がリドルに向けられる。
ついでに杖も向けられている。
「ヴォルデモートさん?」
「、その似非笑顔腹黒糞餓鬼から離れていろ」
『ハリーの修行を放っていていいのかい?の側には僕がいるから十分だよ、耄碌短気還暦爺』
「リドル?」
互いを評している言葉がすごいものだが、どちらも相手は自分だ。
それを分かっていて言っているのだろうか、それとも自分がそうだと自覚しているのだろうか。
はまたしても始まった2人の険悪ムードに困った表情をする。
そんなを避難させるように、こっそりとハリーがを手招きする。
こくんっと首を傾げて疑問符を浮かべながら、とりあえずリドルの所を離れてハリーの所にいく。
まるでそれが始まりの合図かのように、互いに呪文が放たれる。
「ステューピファイ!」
『インペディメンタ!!』
かっと互いの杖から繰り出される魔力はとんでもないものである。
だがその衝撃がこちらに来ない所を見ると、を傷つけないために結界をちゃっかり張っているところが、彼ららしい。
「あれ?リドル、杖なんて持っていたっけ?」
「あれ、多分さんの杖だよ」
「え…?」
確かに良く見てみればリドルが使っているのはの杖だ。
が腰にさしていたはずの杖は何時の間にかなくなっている。
さすがリドルである。
元優等生ながらも手癖はかなり悪い。
「リドル、魔法なんて使って大丈夫なのかな?」
元は記憶である。
ヴォルデモート卿の魂の一部のようなものとはいえ、魔法などを使ってしまったら魔力の消費量が激しくなるのではないのだろうか。
「さん、その辺心配いらないよ。だって媒体が賢者の石だよ?その気になれば普通に復活できるし」
「え?!」
「ちょっと、ハリーそれ本当なの?!」
驚いたのはだけでなく、すぐ側にいたロンとハーマイオニーもだ。
「だって、賢者の石だよ。元々師匠のゴミだってあれつかって復活しようとしていたんだし、同じ種類のリドルだって賢者の石があれば復活できるのは当たり前でしょ」
「ハリー、君それわかっててリドルを賢者の石にいれたのか?!」
「うん」
「うんって、下手をすればあれがヴォルデモート卿になっていたかもしれないのよ?!」
「その辺は大丈夫だよ、師匠に敵う訳ないし、何よりリドルがさんのこと知っているってことは、闇の帝王になることはありえない。断言できる」
きっぱりと断言するハリー。
ロンとハーマイオニーは、リドルVSヴォルデモートの様子をみて、そしてを見てどこか納得できてしまう。
リドルVSヴォルデモートの状況はが原因なのだ。
嫉妬で世界最高レベルの魔法での決闘をする元々闇の帝王達。
「僕、なんで今まで『例のあの人』というかヴォルデモート卿を恐れていたのか、その理由が分からなくなりつつあるよ」
「ロン、私も似たような気分だわ」
どこか遠い目をするロンとハーマイオニー。
「僕なんて師匠が魔法で名を呼ぶほど恐れられるなんて聞いた時、何の冗談かと思ったほどだったよ。確かに反則的に強いし、魔力も知識もすごいと思うよ。でも、さんだけには絶対に敵わないし、なによりさん以外なんてどうでもいいって人だったから、世界征服なんか興味なさそうに見えたし」
ハリーが知っているヴォルデモートは、すでに一筋のヴォルデモートだ。
いや、リドルであった頃から一筋だったのだが…。
ヴォルデモートの側には常にがいて、たまにヴォルデモートが何かの拍子で切れそうになった時、いつもがいさめていた。
本気を出したヴォルデモートは、ハリーでも怖いと思う。
最近では多少は平気だとは思うが、のように本気で怒っているヴォルデモートに抱きついたりなど出来ない。
「さんって、すごいわね」
「え?」
ハーマイオニーの言葉にきょとんっとする。
「師匠よりさんの方がすっごい謎多いし」
うんうんっと頷くハリー。
実際ヴォルデモートに関しては、闇の帝王ということで調べようと思えば過去のこともボロボロ出てくる。
本名が”トム・リドル”であったとか、母がスリザリンの純血で、父がマグルであったことなどなど。
「さんって、本当に魔法使い?この邸の中ってマグルの家みたいな感じだけど…」
「そう言えばそうよね。ガスコンロもあるし、掃除機も洗濯機もあるし、普通に電気がスイッチでつくもの」
「さんが魔法使えるってのは知っているけど…、昔僕と一緒に修行していた事あったから」
ちなみにこの屋敷にあるマグルのものと思われる機械類は全部ヴォルデモートの手作りである。
動力は電気などではなく、魔力だ。
明かりはスイッチを押すと、ルーモスを使ったような明かりがともるような仕組みであったりする。
「ハリーたちみたいに魔法学校には行ってないよ。私が行っていたのは普通のマグルの日本の学校。それも中学まで」
最も小学校も中学校も病気がちでろくに通うことは出来なかった。
それでも友人は出来たし、学校行事も参加できたことはあった。
身体が病気がちである事を除けば、ごくごく普通のマグルだったのだ。
「さんの昔のことなんてはじめて聞いた。師匠はさんの昔のこと知っているの?」
「少しだけ知っているよ、話したことがあるからね」
「少しだけ……、それじゃあ、僕らが詳しくは聞かないほうがいいね」
「なんで?」
「師匠が知らないさんのことを僕らが聞いたら、後の修行がスパルタになるだけだから…!それは嫌だ!せっかくホグワーツに行って、師匠のとんでもない苦行から逃れられたと思ったのに…!!」
ぐっと拳を握り締めるハリー。
ロンとハーマイオニーを見てみれば、思いっきり首を縦にふっていた。
同意見らしい。
「ヴォルデモートさんの修行ってそんなに大変?」
はハリー達がどんな修行をしているのか詳しくは知らない。
屋敷に戻ってきたハリー達は、ボロボロにはなっているが、治療されているのか、服も傷も酷いものはにはなっていない。
「大変なんてものじゃないよ!さん!」
「そうだよ!あれは絶対にとんでもない!僕は今なら禁じられた森の大蜘蛛にだって立ち向かっていける自信があるよ!」
「私には少しは手加減してくれるけれども、それでも容赦がないわよ」
「この間なんて、ロンとハーマイオニーはスフィンクスを相手にさせられたし、僕なんてドラゴンだよ?!」
結構無茶だとは確かに思うが、それをやってのけてきたハリー達はすごいのかもしれない。
文句をいいつつもきちんとヴォルデモートの修行についていく。
やはりそれは厳しいだけではないからか。
「ロンもハーマイオニーも変に優秀だから、師匠も容赦ないし…」
「僕は全然優秀じゃないよ…」
「何言っているのよ、ロン。チェスの才能を見て、統率力に関してはとんでもない力を発揮するって言われていたじゃない」
「ハーマイオニーだって。知識量が多いからか理解が随分早くて教え甲斐があるって言われていたじゃないか」
はぁ〜〜と盛大なため息をつくロンとハーマイオニー。
互いにちょっとした才能のようなものを持ってしまったのが運のツキである。
見込みが全くなければ状況も変わっただろうが…。
「クルーシオ!」
『クルーシオ!』
のんびり話をしていた4人だが、唐突に禁じられた呪文が聞こえた。
強大な爆発音が響き渡る。
「し、師匠とリドル……ちょっとやりすぎじゃ…」
確かにやりすぎである。
「うん、確かにやりすぎ。ちょっと叱ってくる」
少しくらいの魔法合戦…とは思っている…ならばいいと思っていたが、禁じられた呪文を持ち出してきては、流石のも黙ってはいない。
むっとした表情をして、はずんずんっとリドルとヴォルデモートがいるらしい方向に歩いていく。
「大丈夫なのか…?」
「あんな魔法が飛び交っている中に入っていって、平気なのかしら?」
「さんなら大丈夫だよ。師匠は絶対にさんを傷つけないから」
心配するロンとハーマオニーをよそに、ハリーはけろりっとしている。
爆音から湧き上がった煙でどうなっているかは見えないが、じっと待っていると…
すぱんっ
ぱこんっ
愉快な音が聞こえてくる。
「もう!リドルもヴォルデモートさんもやりすぎだよ!」
闇の帝王をそんな軽快な音で叩けるのは、世の中広しとはいえ、くらいなものだろう。
ハリーへの厳しい修行がいきすぎているとが判断した時は、いつもがこうやって止めていた。
だからハリーはヴォルデモートが最終的にはに絶対に勝てない事を知っている。
魔法界ではその名を呼ぶことすら恐れられる闇の帝王ヴォルデモート卿。
「ほんと、なんで師匠の名前がそんなに恐ろしいんだろ」
に叱られているリドルとヴォルデモートを見たハリーがぽつりっと呟く一言。
それに盛大に同意したのは勿論言うまでもなく、ロンとハーマイオニーである。
この場にはいないが、その意見に同意を示すものは他にもいるだろう。
それは他ならぬ、ヴォルデモートがに逆らえない事を知っている人達、ジェームズ、リリー、シリウス、リーマス、ピーター、…そしてダンブルドアである。