開き直りは大切05




開き直りは大切 05




は相変わらずスリザリンで孤立し、ついでにスリザリンの先輩方及び同級生をことごとく口で負かしているので、何故か他の寮の友人は出来ていた。
だが、スリザリン生とは口喧嘩以外では殆ど口を聞かない。
それはリドルとも例外ではなく、2年生になった今では、話さなくなって1年以上も経つ。
何故か休暇中、孤児院に戻ってもリドルとは会話の機会がなかったのだ。

ま、いっけど。
あっちはあっちで、闇の道爆走中っぽいし。
係わり合いになりたくないし。

「さて、今年の闇の魔術に対する防衛術だが、今年からはレベルを上げる」

防衛術の教師は何故かスリザリン贔屓だ。
とは言っても純血主義のようで、マグル出身のは目の敵にされている。

「ミス・!禁じられた呪文を答えろ!」

は自分が指名されてとりあえず教師の顔を見る。
禁じられた呪文はも知っている。
だが、魔法界では禁じられているというその説明の通り、その呪文を知る学生は少ない。
禁じられている呪文があるという事は知っているらしいが、それが何であるかは知らないらしい。

「マグル出身には酷な質問だったかな?それとも、知っているのならばその呪文を私に使っても構わないのだよ、ミス・。ああ、知っているならば、だがね」

くくくっと嫌な笑いを浮かべる教師。
こういう教師はは大嫌いだ。
同じスリザリン生はを馬鹿にしたようにくすくす笑う生徒多数。
同じ授業を受けているハッフルパフ生の中には、教師を睨むつわものもいる。

どーしよっかな…。

はかたんっと立ち上がり、くるんっと杖を教師に向ける。
魔法というのは余計なことを考えなければ結構するっと上手くいく。
劣等生のだが、バジリスクの黒曜のお陰で知識は何故か豊富だ。

多分、できると思うんだけど…。

精神年齢大人なりの要領の良さというのがにはある。
多分呪文を唱えれば成功するだろう。
となれば、アバダ・ケダブラはまずい。
冗談で教師を殺してしまったなんて洒落にならない。

「んじゃ、お言葉に甘えて、教授」

ぴたりっと杖を教授に向ける

『クルーシオ』

呪文と同時に煩いほどの悲鳴が教室内に響き渡った。
物凄く煩い。
冷静に見ているのはくらいだろう。

あ〜、もう、年取るとこういうの表面上は動じなくなるんだね。

教授の反応に思いっきり驚いていただったが、表面上は無表情である。

「なんじゃ、さわがしいの」

教室内にゆっくりとした足取りで入ってきたのは何故かダンブルドア。
はぽりぽりっと自分の頬をかく。

「ミサキ、何があったのかね?」
「いえ、教授が禁じられた呪文を自分に使ってみろと言ったので、ご要望にお答えしただけですけど?」
「教授がそう言ったのかね?」
「ええ。とりあえず、アバダ・ケダブラはまずかろうと思って、無難なクルーシオにしたんですが、インペリオの方が騒がしくなくてよかったですかね?」

ダンブルドアが叫び声を上げて倒れた教授を見る。

、さっきのはやりすぎだったと思うぞ』

しゅるりっとの袖から顔をひょっこり覗かせた黒曜が呆れたようなため息をつく。
とてあの教師の反応を見て、ちょっとやりすぎだとは自分でも思った。

『いや、でも、あんなに綺麗に決まるとは思わなくてさ』
『…らしい』


こそこそっとパーセルタングで会話する。
ダンブルドアが立ち上がっての方を見る。
とても複雑そうな表情をしていた。

「ミサキ、後でわしの部屋に来なさい」
「はい、分かりました」

流石に今度こそは退学かな〜?

授業をサボったり、校則違反して禁じられた森を歩いたり、夜中校内散策をしたりと、の学生生活はあまり褒められたものではなかった。
だが、そのあたりがどうもグリフィンドール生の好感を買っていたらしく、スリザリン生には珍しくグリフィンドールでは好かれていた。
おかしなものである。


授業が終わってはダンブルドアの部屋に向かおうとする。
この時代、ダンブルドアはまだ副校長であり、校長はアーマンド・ディペットだ。
気の弱そうなふつうのおっさんである。

「よ!ミサキ!防衛術の教師を再起不能にしたんだって?!」
「ナイスだミサキ!この調子で頼むぞ!」
「そのまま退職に追い込んでくれ!」

ダンブルドアの部屋に行く途中、何がどう広がったのか分からないが、グリフィンドールの先輩方にエールを送られてしまった。
スリザリン贔屓で純血主義の防衛術の教師は、大変嫌われているようである。
教師を嫌っていた生徒達は、先ほどの授業の結果を好意的に受け取ってくれた者が殆どで、が禁じられた呪文を唱えたことなどさっぱり気にしていないようだった。
なんともまぁ、大雑把でおおらかである。

「あれ?」

ダンブルドアの部屋に向かう途中、を待ち構えているようにしている1人のスリザリン生がいた。
黒い髪に深紅の瞳の綺麗な顔立ちの、最近さっぱり会話をしなくなった幼馴染もどきのリドルである。
こうして真正面から顔を会わせるのも久しぶりだ。

「ミスター、久しぶり〜。もしかして、ダンブルドア先生に何か用?」

気軽にが声をかけると、リドルは少し驚いた。

「ミスター?」
「昔と同じように声をかけてくれるだなんて思わなかったよ」
「ん?まぁ、外野がいないし、今ならいっかな〜って」

リドルはスリザリン生の中では大変人気である。
その人気を崩してはまずかろうと思って、はあえてリドルには近づかないようにしていた。
リドルもには近づこうとしていなかった。

「ミサキが…」
「うん?」
「ミサキが禁じられた呪文を知っているだなんて、思わなかったよ」
「あ〜、あれね。ま、禁じられた呪文って有名だし」
「有名でも知っているのは、一部の貴族達だけのはずだよ」

あ、そうなんだ。
それじゃ、私が知っているのはおかしかったかな。

「ミサキは何を隠しているんだい?」
「は?何って……」

はぐるぐる考える。
隠していることと言われると、実際結構山のようにあったりする。
実はホグワーツのことは知ってるとか、この世界の未来っぽいことを知ってるとか、リドルの出生の秘密とか、秘密の部屋のバジリスクと友だちで今も一緒にいますとか。

「ホグワーツに来てから、ミサキは僕に話しかけなくなったね」
「だって、邪魔しちゃ悪いし。私、マグル出身って宣言しちゃったしね」
「マグルって言葉、どこで教えてもらったんだい?ミサキ」

あ、れ?
まだ”マグル”って言葉、あの時知らなかったっけ?

「普通の非魔法族はマグルという言葉すら知らない。でも、組み分けのすぐ後、ミサキは自分をそう言ったよね」
「そ、そーだったけ?」
「そうだよ、ミサキは僕が知らないことを知ってた」

それを言われるとどきっとしてしまう。
勿論そんなことは表情には出さないが、リドルが知らないことを知っているのは本当だ。
嫌な方向性に行きそうで、はとりあえず逃げることにしようと思った。

「ミサキが何を隠していても、最終的には僕を頼ってくれるって自惚れてたよ。孤児院で、ミサキは僕に頼ってきてくれていたからね」

そりゃ、言葉全然分からなかったし、リドルのことはたとえ性悪でも知っているには知っている相手だったし。
なにより、意外と優しくて面倒見よかったし、1人は寂しかったし。

「えっと、ミスター?私、ダンブルドアに呼ばれているから行かないと…」

そろそろっとリドルの横を通り過ぎようとする
だが、がしっと腕を掴まれてしまう。
ぐいっとそのまま腕をひっぱられ、そっと壁に追い詰められてしまう。
なんて手際がいいんだろう…と感心している場合ではない。

「あ、あの…み、ミスター?」
「どうして、僕を頼ってくれないの?」
「だって、ミスタースリザリンに溶け込んでたし。私と仲良くするとミスターまで目の敵にされちゃうと思ったし」
「大丈夫だよ。あんな単純なヤツら、にっこり笑顔で適当なこと言っておけば騙されるからちょろいし」

流石はリドルである。
もうすでにスリザリン生の扱いのコツを掴んでいると見た。

「それに、いつまでもミスターに頼っていられないし。いずれは独り立ちして生活していかなきゃならないし」

言っていて気づいたが、結構それは問題である。
魔法界で暮らすつもりはなかったが、黒曜がいるならば魔法界の方がいいだろう。
それもかなり広い田舎の土地がいい。
職業が困りものだが、魔法界では暖炉をネットワークにつなげてもらえば通勤は問題ないかもしれない。
いや、その前に姿現しを覚えれば…。

やっぱり、もうちょっと真面目に勉強すべきかな…。

「ミサキ?何を考えているんだい?」
「え?いや!べ、別に…!」

何故自分は12歳の少年に圧されているのだろうか、と考えてしまう。
精神年齢は恐らく倍ほど違うのに、完全に相手のペースのような気がする。

「僕としてはミサキに頼ってもらった方が嬉しい」
「は?」

リドルがの頬に手を添える。
にこりっと浮かべたリドルの笑みは、似非笑顔でなくドキッとするような笑みで、思わずほんのり顔が赤くなってしまう。
12歳でこんな表情ができるのは絶対に反則だと思う。
まずい、まずいっとが思っていると、しゅるりっと首筋にひんやりとした感触。
と同時に、シャーっと威嚇するようにリドルを睨みつける黒曜がひょっこり出てくる。

「何だい、これ?ミサキのペットかい?」
『貴様!に何をする気だ』

不機嫌そうに目を細めるリドルと、同じく不機嫌そうに目の色を変えようとしている黒曜。
目の色を変えようとしている黒曜にはぎょっとして、黒曜の目を手で覆う。

!何をする!この小僧など追い払ってやる!』
『ちょいまて!黒曜の追い払うは物騒だってば!目、目はやめて!』
『安心しろ、殺しはしない。適当に仮死状態にするだけだ』
『その時点で十分物騒だってば!』


黒曜は知識が豊富で話も上手、話し相手にはとって良いが、にちょっかいをかける相手に容赦がない。
なんだかとってもこのバジリスクに気に入られていると実感する今日この頃。
を罵倒したスリザリン生がことごとく原因不明の怪我をしていたりするのは、彼の仕業だとは思い込みたくないである。

『懐かしい臭いがする相手だとしても、に害なすなら私にとっては皆敵だ!』
『基準がおかしいってば、黒曜!』


好かれるのは嬉しいが、嬉しいのだが、もうちょっと普通に好かれたい。

『懐かしい臭いって何のことだい?』

ぴたりっと黒曜との動きが止まる。
忘れてはいけない、リドルもパーセルマウスである。
と黒曜の会話はばっちり聞き取れる。

『決まっているだろう?私の元主の臭いだ』

はっ!ちょっと待って黒曜!
それは今ここではまずいってば!

焦っては黒曜の口を塞ごうとしたが、すでに時遅し。

『その寮にいるのだから、名は知っているだろう?サラザール様のことだ』

こ、黒曜〜〜。
なんてことを…。

は思わずリドルをちらっと見る。
リドルは驚いたように目を開いている。
黒曜とを見比べながら、口を開く。

『懐かしい臭い…、サラザール?』
『なんだ、貴様は自分がサラザール様の末裔であることが無自覚か?』
『いや…、つい最近知ったばっかりだったけど、知ってはいるよ。でも、君が何故それを?しかもサラザール・スリザリンをサラザール様と呼ぶ?』


まずい、とってもまずい。
リドルは気づき始めているだろう。
黒曜が秘密の部屋にいたバジリスクであることに。
リドルが自分がサラザールの血縁者であることを知っていたのならば、秘密の部屋のことも耳に入っているかもしれない。
はばっと黒曜を抱きしめて、するりっとリドルから逃れる。

「ミスター!話はまたあとで!本当にダンブルドア先生の所にいかないとまずいし!んじゃ!」

軽く手を振って、一目散にその場を立ち去る
その行動はものすごく怪しかった。
隠し事がありますといっているようなものである。
残されたリドルは、まだ呆然としたままだった。