黄金の監視者 40
富士山周辺による行政特区日本の設立の日。
特区には多くの日本人が招かれている。
そしてブリタニア側からは、発案者のユーフェミア、そして行政区の方々と、コーネリアの騎士であるだろうダールトンが控えている。
勿論ユーフェミアの騎士であるスザクもいる。
会場がざわりっと騒ぐ。
上空にナイトメア、ガウェインの姿が確認されたからだ。
ゼロとC.C.はガウェインに、ガウェインの肩に長い黒髪を揺らしてサングラスで目を隠しているが乗る。
ゆっくりと降り立ったガウェインを、歓迎するようにユーフェミアが笑顔で近づいてくる。
ゼロがゆっくりと降り立つ。
「来ていただけたのですね!ゼロ!」
それは純粋な信用と嬉しさ。
もすとんっとその場に降りる。
ゼロに待てと言われているので、はこの場で待機だ。
「皇女殿下、2人だけで話がしたいのですが、よろしいですか?」
「はい、勿論構いませんよ」
にこにこと笑顔で応じるユーフェミアにダールトンが駄目だと言うが、ユーフェミアの強固な意志によって結局はユーフェミアとゼロは2人連れ立って、奥の方に行ってしまう。
その間にC.C.がガウェインから降りてくる。
がC.C.ににこっと笑みを浮かべると、C.C.は苦笑した。
「大丈夫?」
「誰にそれを言っているつもりだ?」
「それでも、痛いのとかは変わらないみたいだからさ」
ルルーシュのギアスが暴走した時、C.C.にも影響があった。
あれからかなりの時間は経っているが特に影響はないのだろうか、という意味では聞いたのだ。
C.C.が普通の人と違うことはなんとなく分かる。
それでも、痛みや感情は普通の人と同じらしい。
「2人だけで何を話すつもりなのか…全く」
「忠告とかじゃないかな?」
「クルセルスか。来るのか?」
「うーん、ちょっと待ってて」
ここに来る前に視た段階では、特にこちらに向かってくる様子はなかった。
が視て得られる情報は現状だけであり、先の行動を読めるわけではない。
出来るだけの情報をルルーシュに与えて、その情報からルルーシュが先を読む。
クルセルスがいるだろう方向を視ながら、は僅かに顔を顰める。
「向かってる…みたい」
「だろうな。行動が遅いのが気になるが…」
「誰か先に送ってるのかな」
「誰が部下にいるのかは知らないのか」
「今の部下は分からない。流石に8年前のじゃ情報古いだろうし…」
ブリタニア皇帝の動向だけは、ずっと探っているものの他の皇族の動きなど把握していない。
はコーネリアがこのエリアの総督になることすら知らなかったのだから。
とりあえずはユーフェミアの安全を考えればいいと思い、すいっと周囲を見渡すだったが、ばちりっとスザクと目が合ってしまう。
いや、はサングラスをしているので相手はと目が合ったとは気付いていないかもしれないが、相手が相手なので気配で気付いていそうだ。
「おい、クルルギがこっちに来るぞ」
「ええっと、別に睨んだ覚えはないんだけど…」
「あっちはこちらが黒の騎士団の人間というだけで、敵視するには十分なんだろう」
「僕がクルルギ・スザクがクルルギ・スザクであるだけで敵視するのに十分なように?」
「理由は似たようなものだな。私にとっては馬鹿馬鹿しいだけだが」
とC.C.は慌てずにそのままガウェインの側に立っている。
静かに近づいてい来るスザクの表情は厳しいものだ。
「何か用?クルルギ少佐…だっけ?」
「君は神根島にいた人だね」
「うん」
スザクはちらりっとC.C.に視線を向けるが、何も言わずにそれだけだった。
「暢気にこっちに話しかけている場合でもないと思うんだけどね、騎士様?」
「それはどういう意味だい?」
「もうちょっと警戒しろって事だよ」
は気を探る。
視るのもいいが、周囲の動きを探るのならば気を感じるほうが早いし慣れている。
多くの日本人がいるために気がごちゃごちゃしているが、物騒なものはすぐ分かる。
ははっとなって顔を上げる。
「C.C.さん」
「動いたか?」
「うん、多分」
「行って来い。私は念のためガウェインで待機している」
ルルーシュに伝えろ、と口には出さないがそう言いたいのが分かった。
はゼロとユーフェミアがいるだろう奥にある部屋の方へと走り出す。
「待て!どこへ…!」
「ぼさっとしてないで、ついてきて!」
「は?!」
「騎士なら主を守るのが仕事でしょうがっ!」
訳が分からないまでも、スザクはの行動を見逃すわけにはいかないようで大人しくついてくる。
しかし、その行動を大人しく見守る人ばかりではない。
「待て!その先は…!」
「あなたはこの特区周囲の警戒をお願いします!」
「何を…」
「ユーフェミア皇女殿下の安全を望むのならば、警備の再度の見直しと警戒、ついでにコーネリア殿下に連絡を!」
敵対していた黒の騎士団の団員に命じられても戸惑うだけだろう。
だが、返答など期待しない、は困惑するダールトンを置いて駆ける。
が感じた気配はまだ遠い。
数も少ないが、気配が僅かに感じられるほど綺麗に消そうとしている所から、かなりの使い手かもしれない。
「走ってる間に気配つかんで!」
「気配って何の?!」
「物騒な連中のだよ!騎士ならそれくらい出来るようになっててよね!」
なんだかんだ言いながらもついてくるスザク。
はスザクに気を使わずに全力で駆けているというのに、それについてくることが出来るスザクの体力はすごいものだ。
だが、やっぱりにとっては気に入らないだけだったりする。
「ゼロ!」
ばたんっと扉を開けて部屋に入り込む。
部屋の中には仮面をしたままのゼロ、そしてユーフェミアが変わらずにいた。
「来たのか?」
「多分」
「本人は?」
「今、エリア11に向かってる」
「数は?」
「全部で6人、でも暗殺者レベル」
ゼロにとっては想定内の事なのだろう、落ち着いたように対応している。
かちゃりっと銃を取り出したゼロにスザクが警戒するが、ゼロはそれを手に持っただけで誰かに向けることはなかった。
「皇女殿下、しばらく大人しくしていて頂きたい」
「ゼロ…?」
「クルルギ、お前は皇女殿下の側で守れ」
一体誰から守るのか分からないだろうが、スザクはすぐにユーフェミアの側に移動する。
この部屋は窓はあるがカーテンがしまっていて、薄暗い。
は物騒な気配がじりじりと近づいてくるのを感じていた。
「ゼロもできればユフィの側にいて」
「銃程度では応戦できない程の相手か?」
「多分」
ゼロはユーフェミアの側に移動する。
スザクが顔を顰めたがそんなことを気にしている場合じゃないだろう。
「全く、物騒で困るよね」
くるんっと持っていた愛用の刀をは一回転させる。
そして静かに持ち、柄に手をそえる。
気配は四方から、は背後にゼロとユーフェミアを、彼らだけは守るように構える。
「ぼさっとしてないで、来るよ、スザク!」
「え?」
その言葉と同時にがしゃんっと窓が割れる。
ばばばっと銃弾が部屋内に降り注ぐ。
窓が割れたと同時にゼロがユフィをかばう様に頭を下げさせたので被害はない。
所どこにある机も防御の役割となったのだろう。
とスザクは飛んで避け、双方共に別の方向へと飛ぶ。
実力はかなりのものだろうが、恐らくブリタニア人ではないだろう。
金で雇ったナンバーズあたりか。
はすぅっと目を細めて人影を目に留めたと同時に、刀を抜き放ち斬る。
さんっと音を立てて血すらつけずに刀は輝きを増す。
(流石に刀が違うと切れ味も違うみたいだね)
斬った相手から飛びのくと同時に相手の身体から血が噴出す。
そしては次に向かう。
1人、2人、は慈悲の欠片もなく相手を斬り殺す。
相当の実力を持っているとしても、かかってきたのは6人。
そしてとスザクにかかれば、倒しきるのにそう時間はかからなかった。
「…ちょうど6、数も合ってるね」
倒れた影の数を数えて、はぱちんっと刀を鞘におさめる。
「ゼロ、銃貸して」
「どうするつもりだ」
「そんなの、決まってるでしょ」
ひょいっと投げてきた銃を受け取り、はスザクが倒した影に銃口を向ける。
それにはっとなるスザク。
だが、はがんがんっとその影の頭に銃弾を打ち込んだ。
「何をするんだ、君はっ!」
「何って、甘いクルルギ少佐の尻拭い」
「何故殺す必要があるんだ!」
「そういう考え、甘いよ」
ありがとう、とゼロに銃を投げて返す。
「それでも、殺す必要なんてなかった!」
「それが甘いんだよ、クルルギ・スザク。軍人でしょ?今まで命令でたくさんの命を奪ってきたでしょ?」
「それ…は…」
「だったら今度同じような事があった時は、迷わないでさっさと始末してね」
スザクはぎゅっと拳を握り締めて顔を伏せる。
甘いのかそれとも何か信念でもあるのか。
どちらにしろ、ブリタニアを相手にするのならば殺したくないなどという甘い考えは捨てるべきである。
どうしても捨てられないというのならば、誰よりも強くならなければならない。
それこそを圧倒するほどに。
「これ以外に襲撃予定はないか?」
ゼロは倒れている影を見回す。
「多分、今回は様子見と…」
「挨拶代わりという所か」
「うん」
クルセルスが本気で仕掛けてくるならば、もっと策を練ってくるだろう。
そして確実な状況を作り出す。
あれでも他のエリアの総督、そして制圧すらもした皇族だ。
コーネリアほどとはいかなくても、腕も実績もある。
ユーフェミアはこの惨状に顔を青ざめた状態でいる。
こんな酷い光景を見たのは初めてだろうか。
だが、この場で気を失わずに立っていられるのだから、随分といい方だろう。
血を見て気絶するようなお姫様では、この先やっていけないのだから。