黄金の監視者 23
はゼロの私室で何故か正座させられている。
別に悪いことをしたわけではない…いや、昔覗きをしていたことは悪いことかもしれないのだが…、なんとなくゼロの仮面をとったルルーシュの表情が怒っているように思えてしまうので逆らえないのだ。
「あの、義兄上…?」
が恐る恐る声をかけてみれば、ため息が返ってくる。
いつまでもこうしているわけにはいかないだろう。
「いつから知っていた?」
「へ?」
「俺がゼロであることを、いつから知っていた?」
言っていいものだろうか。
しかし、言えと目で命じているルルーシュに逆らうことなどにできるはずもない。
ルルーシュが怖いということではなくて、ルルーシュが嫌がることはしたくないから自然と逆らうこともしなくなってしまうのだ。
「結構前から…」
スザクを助けたときに偶然”視て”しまったのだ。
「騎士団に入団を希望したのは、知っていたからか?」
「それもあるけど、やっぱりナナリーにとっての優しい世界ができればって理由の方が大きい」
「どうやって知った?」
「えっと…、偶然ゼロが仮面をとるところを”視”たから」
「ああ、そうか…。厄介だなそのギアスは」
遠くからの視線を感じ取ることなどできないだろう。
気配もない、視線も感じないのに”視”られてしまうのだ。
「あの、義兄上」
「何だ?」
「試してみたことはないんだけどね。多分、義兄上が仮面かぶってても”視”ようと思えば仮面の下を”視る”ことはできると思うんだよね」
仮面の下のルルーシュの顔をを知っているから、はそんなことをしたことがない。
のこのギアスは、障害物は関係なく視たいものを視ることが出来るものだ。
仮面という障害は関係なく、知ろうと思えばゼロの素顔を知ることはできた。
ルルーシュは深いため息をつく。
「全く、本当に厄介だ」
「義兄上…」
はしゅんっと捨てられた子犬のような目でルルーシュを見る。
厄介だからと見捨てられてしまうのだろうか。
「後は何を知っている?全部吐け」
「え、えっと…」
ルルーシュはがルルーシュに逆らえないことを知っているのか、普通に命令してくる。
「義兄上については、ゼロのことと、多分僕とは違うギアスだっけ?それを持ってる?」
「そこまで知っているのか」
「だって、スザクを助けた時のブリタニア軍人の行動、明らかにおかしかったもん」
強制催眠をかけられたかのような行動。
ゼロに説得されたとは考えにくい、ならばギアスを使ったと考えた方がいい。
ギアスのような力が存在するかもしれない事を知っているだから、そう考えることができたのだ。
「他には?」
は考える。
ルルーシュが知りたいことでが知っていること。
「他…えっと、他…って言われても」
ぱっと思い浮かばない。
父であるブリタニア皇帝がこのギアスについて何か知っているかもしれないということ、シュナイゼルの直属であるロイドがこのエリア11にいること、ランスロットのパイロットがスザクであること。
だが、それらはルルーシュが知りたいことになるのだろうか、ルルーシュが知らないことなのだろうか。
「いい。とにかく、不用意な発言はするな、」
「う、うん」
「お前は昔から不用意な発言が多いし、考えていることが手に取るように分かりやすすぎる」
「そ、そんなこと言われても…」
そういう性格なのだから仕方ないだろう。
だが、とて本当に隠そうとしていることは隠し切ることくらいは出来る。
絶対に知られたくないことは、普段から頭の中で切り離して、必要な時にだけその情報を引き出すようにしているのだ。
「だが、だからこそというべきか」
「義兄上?」
「周囲を騙し易い」
きょとんっとなる。
「戦いに関してはスザク並みの実力はあるだろうことは知っていたが、人を殺すことに躊躇いが全くないほどとは思っていなかったよ」
「ナリタの時のこと?」
「イノウエから報告を聞いた。他の団員に指示を出して、随分と綺麗に片付けたようだな」
そう言えばとは思い出す。
ナナリーに血生臭いことを聞かせたくなかったから、ルルーシュも知らないのだろう。
が強くなるためにしてきた事を。
「初めて殺したのがブリタニア人…か」
「5歳くらいの時だったかな?確か、本国のテロ集団の殲滅」
「5歳?」
「師匠が実戦が必要だからって、同行したんだ」
にとってはもう随分過去の事のように思える。
初めて人を殺めて、10年以上も年月が経ってしまっているのか。
「その後はエリア8の制圧戦争に参加して…」
「エリア8?」
「うん。やっぱり実際の戦争を経験するのは違うと思って、師匠に頼み込んで参加させてもらったんだ。短いけどブリタニア軍人としての訓練も受けたし」
「ブリタニア軍にいたことがあったんだな」
「正式に所属していたのは半年くらいだけどね」
元軍人であり、それなりの地位にいたの師匠はかなり優秀だったようで、一声かければ軍への参加の了承が出た。
「師匠とは?」
「今は退役していると思うけど、フィディール・クリンド」
「フィディール…銀の騎士か」
「銀の騎士?良く知らないけど、エリア1とエリア2を落としたのは師匠だって聞いているよ」
「ああ、間違いない、銀の騎士だ。随分といい師匠の下にいたんだな」
「兄上が取り計らってくれたんだけど…」
「シュナイゼルか」
嫌そうにシュナイゼルの名を吐き捨てるように言うルルーシュ。
昔はそんな仲が悪かったように見えないのだが、今のルルーシュはシュナイゼルが好ましいとは思っていないのか。
それも、にとってはどうでもいいことである。
「エリア8の制圧が終わってからは日本に来て、ここがエリア11になってからはゲットーに住んでたから、日本人とかブリタニア人とか色々相手をしてきたよ」
「随分と物騒な生活を送ってきていたんだな」
「そうかな?」
「しかも、クラブハウスへ住むのを断ってどこにいたかと思えば…」
「だって、租界で暮れらせる所がなかったんだもん。下手にブリタニア軍に世話になるわけにはいかないし…」
事情が事情だ。
ブリタニアに頼るわけにはいかない以上、ゲットーが一番過ごしやすいという選択に落ちついたにすぎない。
「紅月ナオトとはゲットーで会ったのか?」
「ナオトさん?うん、そう。ナオトさんがテロ活動していた時に、丁度ブリタニア軍に追っかけられているところを見られてね、そこで助けてもらってからの縁」
「ブリタニア軍に追いかけられるって一体何をやっていたんだ?」
「あはっ、ちょっと欲しいものがあるといつもブリタニア軍から拝借していたから、追いかけられるのなんて結構頻繁でさ」
「…」
「でも、ナナリーにはそういう物騒な雰囲気知られてたくなかったから、ナナリーと義兄上と会う時にはちゃんと気をつけていたよ?」
「ああ、全く気づかなかったよ」
知られたくないと思ったことは、とことん隠し通す。
他の事は駄々漏れだが、それだからこそ隠し事を隠し通すことがうまいのかもしれない。
必要な情報は大公開しているのだから、誰もに隠し事があるなど思わないだろう。
「ギアス所持者がもう1人か…」
「僕と義兄上とあと…えっと、マオ?」
ぴくりっとその名前にルルーシュは反応する。
「バイザーつけた銀髪の男、マオって言うんだよね?C.C.さん」
「そうだ」
「会ったのか?」
は頷く。
ルルーシュは険しい表情になっているが、別に何を警戒する必要があるのだろうか。
それとも警戒するべき何かがあったのだろうか。
「何を言われた?」
「何って…、僕がナナリーと義兄上を大切に思っているってこととか?あと僕が今までやってきたこととか?」
ついでにが知っている人の醜さや絶望もおまけにつけてやった。
の深層心理まで覗こうとしていたので、抵抗せずに見せてやったのだが、結構堪えただろう。
あれは普通でない人がみても、決して良い気分になるようなものではない。
「義兄上にとって邪魔なら、見つけたら始末しようか?」
軽い口調で言う。
「随分と気軽に言うんだな。相手は心を読むギアスを持っている」
「うん、分かってる。でも、心を読めるだけじゃ、僕にとっては普通の人とあんまり変わらないよ」
はにこっと笑みを浮かべて立ち上がり、座っているルルーシュの前に立つ。
手を後ろで組んでにこりっと笑う。
「あのね、義兄上。今から義兄上の頭上を足が通るから動かないでね」
「?」
「それから怒らないでね」
小さく息を吐いて、はすっと一瞬で構えて右足でひゅっとルルーシュの上の空気を蹴る。
ふわりっと風が舞い上がり、ルルーシュの髪の毛が揺れる。
そのスピードは常人ならば反応することすら難しいもの。
「とまぁ、こんな感じで。分かっていても身体がついてこなければ意味ないわけだし」
ルルーシュは一瞬驚いた表情をしていたももの、すぐに考え込む。
「いくらお前がマオに勝てるとしても、会えなければ意味がないのではないか?」
「C.C.さん?」
「一度マオに会っているのだろう?」
「うん」
人の心を読めるギアスを持っているというマオ。
ならばの能力もその力で把握できているのではないのだろうか。
「お前がマオをどうにかできる手段を持っているのならば、マオはあえてお前に近づこうとはしないだろうな」
「あ、そっか…」
自分を倒しかねない相手にそうやすやすと近づくだろうか。
がたとえマオを見つけても、相手は人の心を読めるのだ。
が近づいてくることが分かってしまう。
マオがに何かをすることはないだろうが、同時にもマオに何も出来ない。
「が手を出す必要はない、俺だけで十分だ。それよりナナリーに気をかけてやってくれ」
「うん。ナナリーに手を出してこないように出来る限り、ナナリーの側にいるよ」
「必要以上側にいる必要はないからな」
「う、せっかく義兄上公認でナナリーにべったりできると…」
「ナナリーに触るなよ」
「うう…」
早々にクギをさされてしまう。
ナナリーに甘いルルーシュだが、に必要以上に厳しいと思うのは気のせいだろうか。
スザクには結構甘いというのに、ちょっと寂しいかも、とは思う。
だが、ルルーシュのその態度は気を許しているからなのだと、対等の存在であると思われているからだと、が気づくのはいつのことだろうか。