黄金の監視者 21




黒の騎士団には人が増えていた。
キョウトからの支援が本格化してきたからか、それについての人材も派遣され、見たことがない人を見るようになった。
中には日本人以外の姿もある。
はディートハルトというブリタニア人の協力者に頼んで、先日の成田連山での犠牲者リストを見せてもらっていた。

「こんなものを見たいだなんて変わっていますね」
「癖みたいなものだから」

ぱらぱらっとその名前に目を通していく
ブリタニア人であり、メディアの人間であるディートハルトほどこういう情報を手に入れやすいだろう。
戦場に出た時も、人を殺す立場に立った時も、はいつもこうして自分が間接的にでも手をかけた人間を認識するようにしていた。
殺された者にだって友人や家族がいる。
そういう人たちから恨みや憎しみを向けられるのは当然だからだ。
それを受け入れる気はないが、その可能性があることを自覚しておきたいから確認するのだ。

「うん、ありがとう」
「もういいのですか?」
「大体頭にいれたから」

人の名前を頭に入れるのは得意だ。
が苦手なのは応用力である。
暗記が決して得意なわけではないが、必要なことを覚えることはすぐ出来る。

「でも、僕の頼みなんて聞いてよかったの?」
「ブリタニア人というのに黒の騎士団に入団した君に少し興味がありますから」
「あなたもブリタニア人だよね?」

の入団も問題になったが、ディートハルトの入団希望の時も問題になった。
数々の情報を提供することで徐々に信用を得たディートハルトと違い、は戦場で活躍したことによって信用を得た。

「ブリタニア人でも日本人でも、どんな人種でも、何かする時にはそれ相応の理由ってものがある。僕もその理由があったから今ここにいるだけ。あなたもそうでしょう」
「確かに」

とディートハルトがここにいる理由はきっと違う。
彼はゼロに尽くすためにここにいるわけではないだろう。
でも、そんなことはには関係ない。
彼がゼロに害を及ぼさない限りは。

「ブリタニアにだって、今のブリタニアを良く思っていない主義者はいるよ」
「ああ、そうですね」
「それを思えば、僕みたいな存在がいたって不思議じゃないでしょ?」

メディアの人間ならば、ブリタニア本国でもテロが多少なりとも起きていることを知っているはずである。
力で人を押さえつけるやり方というのは、少なからず反感を招く。
反対意見を持つ主義者と今のブリタニア。
それらが争う事で自らを高めるのがブリタニアのやり方。

(ゼロのやり方とブリタニアのやり方って、多分すごく似ているんだと思う)

犠牲をいとわないところが特に。
それでも目指すところが違うからこそ、はゼロの方にこそついていくのだ。



戦争での犠牲というのはつきものだ。
その犠牲の中に知り合いの大切な人がいることも、可能性としてはある。
生徒会のシャーリーの父がそうだった。
水蒸気爆発によって起こされた土砂に巻き込まれ亡くなったらしい。
墓の前に立つシャーリー。
ルルーシュだけを残して、他の生徒会のメンバーはそこを去る。
はそれを少し離れた所から見ていた。

(悲しむことが出来るのって、それまでが幸せだったって証拠なんだよ。シャーリーさん)

父が亡くなって泣いている彼女は果たしてそれに気づいてるだろうか。
大切な人を亡くして悲しむ暇さえ与えられなかった子供たちをは知っている。
ナナリーとルルーシュ。
悲しむ間もなく、過酷な場所へと人質のような形で捨てられた。
それを思えば、シャーリーはまだましなほうだとは思う。

複雑な表情をしているルルーシュとカレン。
それは自分達が水蒸気爆発を起こしたからだろう。
シャーリーを悲痛そうに見ているミレイとニーナ、そしてスザク。

「ミレイさん、お疲れ様です」
も付き合ってくれてありがとう」

は首を横に振る。

「義兄上がちょっと心配だったから」

ナナリーは足と目が不自由ということで、今はクラブハウスで待っている。
埋葬を見ることはできなかったが、後でお墓参りには来ることのこと。
本来ならもここに来る必要はなかったのだが、ルルーシュのことが心配だった。

「先に帰っていた方がいいわ。ルルーシュは少し長くなりそうだし」
「うん、そうだね」

ミレイの言葉に従って、はルルーシュを心配そうに見ながらも帰る事にする。
その前に、同じ生徒会のメンバーとして葬儀に参加していたカレンを見る。
顔色がよくないのは、知り合いの父が犠牲になったからだろう。

「カレンさん」
「な、何かしら…?」

どこか不安そうな瞳のカレンに、は苦笑する。

「後悔、してる?」

何をとは言わない。
言わなくても分かるだろう。
がナリタ攻防戦に参加していた事をカレンは知っているし、カレンが参加していたこともは知っている。
互いに黒の騎士団の一員であることを知っているのだから。
カレンはどこか迷っているようにから視線をそらす。

「僕にはカレンさんの気持ちは良く分からない」

ナナリーとルルーシュ以外は、誰が死んでもは同じようにしか思えない。
だから、シャーリーの父親が黒の騎士団の攻撃によって亡くなったと聞いても、は申し訳ないと思う気持ちはなかった。
軍人以外があの水蒸気爆発に巻き込まれているのを”視て”いた時と同じだ。

「だから言える事は1つだけ」

どんな時でも、何があっても共通すること。
迷い始めたら考えて考えること。
時間があるならばなおさら、自分が納得できるまで考えること。

「ちゃんと考えて、納得がいく結論を出したほうがいいよ」
…?」
「でないと、たくさん後悔するよ」

きっと身近な犠牲者は初めてなのだろう。
だから迷いも出てくる。
しかし、これを乗り越えなくては前に進めない。
知り合いの死を突きつけられて、人は一度立ち止まってしまう。
それはにも経験があったことだった。
考えて、何が大切かよく考えて、そして自分のしたことを理解して、それでも前に進むと決意しなければならない。

「あ、そうだ、スザク」

はふと思い出したことがあって、スザクの方を見る。
スザクはきょとんっとしながらもの方を見る。

「何かな?」
「1つ聞きたいことがあったんだ」

会ったら聞こうと思っていたこと。

「スザクの上司ってロイド・アスプルンド?」
「え?」

スザクは軍人であることを言っても、上司が誰であるとか、同僚に誰がいるとかは言っていない。
技術部だから危険なことはないとかなんとかと聞いたことはあるが、それは周囲に心配をかけないための嘘なのかもしれない。

「…うん。知っているの?」
「ちょっと面識があるだけ」

この間ランスロットにスザクが乗っていたのは、一時的なものかもしれないと思って聞いてみた。
だが、スザクの上司がロイドならば一時的なパイロットという可能性は否定すべきだろう。
エリア11の総督はコーネリアなのだが、確かコーネリアはブリタニア人とナンバーズをきっちり区別する人だったはずだが、よくスザクをナイトメアにのせることを許可したものだと思った。
それともまたロイドがいる部署はコーネリアの指揮下ではないのか。

「面識って…」
「あの人はコーネリア皇女殿下の指揮下にいるの?」

スザクの言葉を遮りは質問を返す。

「いや、確か第二皇子殿下の直属って聞いてるけど」
「シュナイゼル皇子殿下の?」

何故シュナイゼル直属がここにいるのか。
いや、ロイドのことだからサクラダイトの特産地であるこのエリア11にいるという理由も考えられる。
しかし、それ以外の理由があるとしたら…。
スザクは自分で言ってが何故ロイドのことを知っているのか気づいたのだろう。
シュナイゼルの弟であるが、シュナイゼルの直属の部下であるロイドのことを知っていてもおかしくはない。

「スザクは技術部だっけ?」
「うん」
「そっか、じゃあ、あの人も技術部なんだ」
「そうだよ」

なんてらしい部署にいるのだろう。
技術部となるとランスロットはテスト機のようなものなのだろうか。
開発者がロイドならばスザクが乗っている理由もなんとなく分かってしまう気がする。
あの人はナイトメア開発のためなら、ナンバーズもブリタニア人も関係ないと思うだろうから。

「もしかして、意外と仲、よかったの?」
「へ?ロイド・アスプルンドと?」
「違うよ。”お兄さん”と」

は少し顔を顰める。

「何でそうなるの?」
「だって、ロイドさんの事を知っているってことはそうなのかなって」

兄弟仲が良ければ互いの友人の事も知っているのだろうということか。
シュナイゼルはが言わなくても、の友人関係くらいは把握してそうだが、は別にシュナイゼルの友人関係に興味はない。
弟として気にはかけられていたのだとは思う。

「別に仲が悪かったわけじゃないよ」

ブリタニアの今の皇子皇女には特徴が1つある。
ルルーシュがナナリーに優しいように、コーネリアはユーフェミアには甘い。
義兄弟達に信用が置けない部分があるから、両親共に同じ血を持つものは兄弟仲がとても良いらしい。
とシュナイゼルにそれが当てはまるかは分からないが…。

「あっちが僕の事をどう思っているのかは知らないけど」

シュナイゼルの事は嫌いではない。
でも、ナナリーに害を及ぼす存在となるのならば、はシュナイゼルに銃口を向けることを躊躇わないだろう。
は昔からとても変わっていた。
閉じこもりがちな生活が2歳まで、それから何か必死になるように武術に打ち込む。
その行動はとても奇妙なものに見えただろう。

「でも、
「何?」

スザクは悲しそうな笑みを浮かべる。

「家族の存在って大切だと思うよ」

スザクはシャーリーがいる方を見る。
父を失って悲しんでいるシャーリー。
そして、スザクは父親を自分で手にかけた。

「僕の父上も母上も、それから兄上も、殺しても死にそうにないけどね」

はそう答えるだけだった。
大切だと思える家族だったら、だって大切にしたかもしれない。
でも、に初めて心をくれたのはナナリーで、その心を育ててくれたのは、ナナリーとルルーシュと、そしてマリアンヌだった。

(家族が大切だと感じることが出来るのはね、スザク。家族と幸せだった記憶があるからなんだよ)

生憎とには、父にも母にもそして兄にも、一緒にいて幸せだったという記憶がない。
彼らと接する時は、少なからず緊張というものを持ってしか接することが出来なかったのだから。