旅の目的01
村で宿をとって、レイはガイ達の旅の目的を詳しく聞くことにした。
最近魔物達が活発化してきたための魔物討伐部隊のひとつであることしか知らない。
「今回の魔物討伐隊の殆どはファスト王家血筋かレストアの王家血筋の者で構成されているんだよ」
「リーズもサナもガイも王家の血筋、ですよね?」
彼らが名乗った時、姓があった。
姓を名乗ることができるのは王家の血筋のみ。
「レストアの現王の子である12人の王位継承権を持つ者は、全てこの討伐隊に借り出されている。レストアからはそれに加えて現王の弟2人、そして各貴族の私営騎士団から数名だね」
説明となるとリーズがメインですることになるらしく、ガイは一切口を挟まない。
サナがたまに付け加えるように二言三言話す程度のようだ。
頭脳労働は魔道士の方が得意なので、おかしくはないだろう。
「でも、レストアの王位継承者というのは12人もいるんですか?」
「殆ど母親が違うけれどね。あのクソ親父は女とみたら見境なしで、認知されていない子を含めれば12人じゃすまないわ」
「……サナ、クソおやじって」
「いいのよ、あんなの。クソ親父で十分よ」
どうやらサナはレストア帝王である自分の父親のことがあまり好きではないようである。
「あたしは7番目の子で第七王位継承権を持っているわ。ガイは第二王位継承者よ。でも、順番なんて便器上のものだけで、実際は条件満たさないと王位は継げないのよ」
「条件というと…、えっと、剣術大会の優勝とか、でしたっけ?」
レストアの王位継承の条件は有名である。
魔法の情報しか集めないレイでも流石にそれは知っている。
詳しく知っているわけではないのだが…。
「ええ、そうよ。今回の魔物の活性化でその条件が追加されたようなものよ。魔物討伐隊への参加ってね」
「見得と世間体の為の参加だね。正直言えばファストとしては大助かりだよ、レストア王家の剣士は皆優秀だから」
「それはそうでしょう?剣術大会優勝のために、男女問わずあのクソ親父に剣術を強制的に習わされるのよ」
レストアの王位継承者である12人の子は、全て剣術を学んでいる。
その実力がどうなのかは、才能と努力によるだろう。
「討伐隊は全部で10。平均すると10〜15人の隊なんだけどね、ここだけは俺がいるせいかなのか、ガイとサナがいるせいかなのか分からないけど、3人のみ」
人数が大幅に違う。
だが、レイが知る限りファストの大魔道士というのは、世界の魔道士の中でも最高峰の称号だ。
サナとガイがどれだけの実力があるのかは知らないが、レストア王家の者ならばかなり腕はたつだろう。
「これで今の魔物活性化の原因を探り、それをどうにかして来いというのが正式な目的なんだよ」
「全く、何もわからない状態でこの人数でどうにかしろって方が無理だわ」
「情報を沢山得るには、人数が必要になってくるしね」
特に魔道士は情報を得るのにいた方が便利だ。
魔法を使っての探査、そして魔物といえば魔力に関係するため、探すとしたら魔道士の方が有利だ。
だが、魔道士はリーズしかいない。
ファストの大魔道士が1人いれば、それはかなり有利といえば有利かもしれないのだが…。
「でも、それでどうにかなっているならば、息の合わない方と組むよりいいと思いますけど…」
「その通りだよ。個々の能力が高いからって、能力が高い者同士が組めば必ずしも良い部隊になるとは限らない…んだよね」
リーズは小さくため息をつきながら、ちらりっとガイの方を見る。
レイが言いたかったのはこの3人に他の誰かを組み合わせたからといって、息が合わないならそれも意味がないんじゃないか、という事だったのだが、リーズが言いたいのは別の意味らしい。
「サナと俺はともかくとして、ガイが人に合わせようとしないからね。今以上の強い魔物が出てきたらかなり厳しい」
ガイはリーズの言葉など聞こえなかったように表情を全く変えない。
「チームワークがとれていないってことですよね?それじゃあ、私が加わったところで何が変わるわけでもないと思いますよ?」
「いや、そんなことはないよ。決してマイナスにはならないだろうし、何かあった時にレイの魔法は頼りになるはずだからね」
悪くはならないが良くもならない。
運がよければ良い方向に向かうかもしれないという程度か。
レイはじっとガイの方を見る。
初対面時はともかく、話してみるとそんなに我侭な人には見えなかった。
「ガイは人に合わせるのが嫌いですか?」
レイはガイに問う。
「人に合わせる必要性が感じられない。魔物相手などオレ1人で十分だ」
ガイはレイの方を少し見ただけだった。
レイはこくんっと首を少し傾げる。
「でも、効率を考えた場合は、剣士は魔道士と組んだ方がいいと思いませんか?」
「魔道士など足手まといだ」
「そうでしょうか?例えば数十匹の魔物相手の場合は、剣士よりも高位の魔道士がいた方が効率がいいし、余力を残せますよ」
実力のある剣士ならば魔物が何匹来ようとも倒せるのかもしれない。
レイは剣士ではないのでそのあたりは分からないが、広範囲に攻撃をしかけるならば魔法の方が確実で効率がいいのは確かだ。
何故ガイが人の協力を拒むのかが分からない。
「ガイはリーズとサナを信用していないのですか?背中を預けられる仲間だと思っていないのですか?」
ガイはリーズとサナの方を少しだけ見るが、それだけですぐに目を逸らして答えない。
レイは座っていた所から立ち上がり、ガイの側に近づく。
ガイの顔を覗き込むように見る。
「ガイは人が信用できませんか?」
レイの言葉に一瞬空気がぴりっとする。
それはガイの殺気のせいだろう。
レイはそれに気づいていないかのように表情を全く変えない。
世界を旅して禁呪などを相手にしていると、殺気を当てられることなど少なくない。
「オレは意味なく人を殺すことがある」
ガイは冷めた瞳でレイを見る。
その瞳はどこか悲しそうにも見える。
「戦場でオレと一緒にいるとオレに斬られるぞ」
ガイの声に含まれる感情はとても複雑なものに思えた。
レイの同行に反対しなかったガイ。
それはどんな意味を持つのだろう。
「どうして、ガイに斬られるんですか?ガイは仲間を斬るような人ではないでしょう?」
「何故そう言いきれる?」
「だって、戦場で好んで仲間を斬る人は、人を殺すことに歓びを感じるような快楽殺人者ということになります。ガイはそうではありませんから」
「もしかしたらレイを斬る機会をうかがっているだけかもしれないぞ」
レイはガイの腕に自分の手を重ねる
その感触に反応するかのようにガイの腕が少しだけ揺れた。
「ガイは肉を絶つ感触が好きですか?上がる血しぶきを見るのが好きですか?悲鳴を上げながら命が消えていく様を見るのが好きですか?」
レイの言葉にガイの表情が少しだが歪む。
「それとも、命乞いをする滑稽な姿を見下すのが好きですか?」
問うレイの表情は冷静だ。
反対にガイの表情の方が戸惑いと嫌悪がある。
「……いや」
ガイは小さくだが首を横に振った。
それにレイは笑みを浮かべる。
「私は人を殺すことを好む人を見た事があります。ガイはその人とは違います、人を想える心があります。仲間がいらないのは、自分を信じきることができないからではないですか?」
育った環境のせいなのだろうと思う。
誰かを信じられるような環境にいなかったのか、信じても裏切られたことがあるのか。
レイにはそれは分からない。
「ガイは仲間です。私はガイを信じますよ」
信じられない相手に信じてもらう方法。
それはまずは自分から信じること。
相手にばかり何かを求めるのではなく、自分の方から信頼をする。
「ガイは無闇に仲間を傷つけたりしません」
レイの言葉にガイは泣きそうな嬉しそうな笑みを一瞬浮かべた。
ガイのその表情に驚く間もなく、ガイはレイの肩に自分の頭を乗せる。
「ガイ…?」
レイはガイの名を呼ぶ。
ガイから小さくだが声が聞こえた。
ありがとう、という声が。
レイはガイの背中に手をまわし、ぽんぽんっと軽く叩く。
気持ちを落ち着かせるかのように。
(なんか、おっきい子供になつかれた感じかもしれない)
苦笑するレイだが、レイとガイを驚いたように見ているリーズとサナには気づかなかった。
リーズとサナはガイを”知っている”から、接するのに構えてしまう。
だが、レイはガイを知らない。
構えずに接することが、人を信用できなくなりつつあるガイと接するのに一番いい方法であることを、レイは知らずに選択していたのであった。
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