SWEET BOX 7
「v」
「な、何?」
ぎゅっ
突然現れたリーマスに後ろから抱きしめられる。
それに顔を真っ赤にする。
ここはグリフィンドール談話室。
はリリー、セフィアと一緒にお話をしていたのだが。
「リ、リーマス〜」
困ったような声を出すがリーマスは振りほどいてくれない。
以外に力が強くてでは振りほどけないリーマスの腕。
はこういうスキンシップにあまり慣れていないので恥ずかしい。
未だに、リリーやセフィアに抱きしめられても顔を赤くするのだ。
特に異性であるリーマスならばなおさらだ。
しかし、リーマスはあの満月の日を境にスキンシップが激しくなっている。
前はこんなことしなかったというのに。
「リーマス?は私達とお話しているの?邪魔をする気?」
「うん、邪魔をする気なんだ」
「いい度胸してるわね。私達のを奪う気なの?」
「別にリリーたちのものって訳じゃないよね?だから、僕がもらってもいいよね?」
「駄目よ!リーマスみたいな腹黒狼には可愛いは渡せないわ!!」
リリーはべりっとリーマスとを引き剥がす。
どこにそんな力があるのか不思議だが、これは聞くべきでないと思う。
「まぁ、それは冗談としてね。に聞いてもらいたいことがあるんだ。ちょっと今夜来れるかな?」
「リーマスの部屋にってこと?」
何だろう?とは思う。
わざわざ男子寮にまで誘って聞いてもらいたいことということは、他の人がいる前では言いたくないこと、もしくは言えない事なのだろう。
「うん、そう」
「駄目よ!一人では行かせられないわ!私も行くわよ!」
「リリーも来るのかい?」
リリーがそこに入り込む。
確かにリーマスの部屋は男子寮で、部屋は4人部屋。
言わなくても分かると思うが、同室はあの悪戯仕掛け人たちである。
「いいじゃない、リリーも一緒で。どうせあのことなんでしょう?」
「え?セフィア知ってるの?」
口を挟んだセフィアには聞く。
セフィアの口ぶりだとどんな用事なのか知っているかのようだ。
「あたしは知らないわ。別に知りたいとは思わないもの。でも、リリーは知ってるわよ」
「ジェームズと付き合うようになって教えてもらったの」
セフィアはそういう秘密のことに好奇心を抱くような性格でなく、教えてくれないのならば別に気にしないようだ。
知ろうとも思わない。
このセフィアのさっぱりした性格がは好きだ。
「じゃあ、今夜リリーとおいで。まってるから」
「うん。じゃあ、新作のチョコケーキでも持っていくね!」
「楽しみにしてるよ」
くすくすっと笑うリーマス。
リリーが知っていて、セフィアが知らないこと。
リリーがジェームズと付き合うようになってから教えてもらったということは、ジェームズ達にも関係することで…。
(それをなんで私に教えてくれるんだろう?)
それだけが疑問で首を傾げるだった。
*
夜もふけてお留守番のセフィアに見送られ、とリリーはリーマスたちの部屋の前まで来ていた。
もちろんの手にはお手製のチョコケーキ。
あれだけ甘いものを沢山食べているというのに、とリーマスは良く太らないものだとリリーは感心する。
ある意味羨ましい体質だ。
こんこん
ノックをすると、いきなり扉が開かれた。
にっこり笑顔のリーマスがお出迎えである。
「、リリー。いらっしゃい。どうぞ」
中に入るよう勧めるリーマス。
リリーは慣れているようだが、は男子寮に忍び込むことはあまりない。
それでもお菓子のためならと忍び込んだことはあるのだが…。
部屋の中には悪戯仕掛け人4人が勢ぞろいしていた。
彼らは何か羊皮紙と本を広げて話し合っていたようだ。
やや真剣そうな表情で何が始まるのだろうと思ってしまう。
「リーマス、これ約束のチョコケーキ。洋酒入りだけど」
「ありがとう。紅茶でも用意するよ」
リーマスはからケーキを受け取る。
いそいそと取り分ける為に部屋の真ん中にある小さなテーブルに持っていく。
こんなテーブルはの部屋にはない。
ということは、彼らが独自に買ったか持ってきたものなのだろう。
「リリー、僕に会いに来てくれたのかい?」
「違うわ」
「リ、リリー」
「今日は、が一人じゃかわいそうだからついてきたのよ。いくらジェームズでも私の可愛いには勝てないわよ」
「そんな、リリー…」
いじけ始めるジェームズ。
普段のらぶらぶカップルぶりを見ているとしては不思議な感じである。
「リリー、ちょっとそれはジェームズが可哀想だよ?それにべつにリリーだってジェームズに会いたかったんでしょう?」
「!今日は、今日だけは貴方が心配だからついてきただけなのよ!ジェームズとは明日も明後日もその次の日も会えるもの。でも、一人をこんな集団に放り込むなんて…」
くっとリリーは拳を握り締める。
(リリーってこんな性格だったっけ?もっと、おちついてぱきぱきしていて、美人で、まぁ、ちょっと気の強いところはあるけど、そこもリリーらしいところだし)
どうも、悪戯仕掛け人たちと接するリリーをみてると今までの優等生ぶりが嘘だったかのような気がする。
結構容赦ないことを言うし。
リリーにとってはこの接し方が彼らに対しては普通なのだろうが。
「それはちょっと酷いんじゃないかな?リリー」
苦笑しながらリーマスが皆に紅茶を配る。
切り分けたケーキも忘れずに。
何気にリーマスの分だけが大きめなのは気にしないことにしよう。
ちなみに、シリウスには小さめである。
甘いもの嫌いのシリウスに気を使っているのか、勿体無いから小さめのものしか与えないのか。
「元凶は貴方でしょう?リーマス。大体夜中に部屋に呼び出すなんて」
「仕方ないよ、大声で堂々と話せるようなことじゃないしね」
「言う気になったのね、に」
リリーは真剣な表情でリーマスを見つめる。
リーマスはにこっと笑顔。
「いや、はもう知ってるんだ。僕が人狼だってことは」
「え?」
「「「ええ?!!」」」
リーマスの爆弾発言に驚くリリーと、他3名。
に視線が集まる。
その様子から彼らはリーマスが人狼だと知っているということが分かる。
と同時にそんなことで差別しないということも。
ただ、リーマスが人狼だと他に知っている人もいて、なんだかは少し寂しくなっってしまったということに気付かないふりをする。
「!いつからなの?いつ知ったの?」
リリーが質問してくる。
「え?いつって、この間の満月の時に…」
「何もされてない?怪我はかなったの?」
「だ、大丈夫だよ、リリー、むしろ怪我というか痛い思いしたのはリーマスのほうで…。えっと、リーマスごめんね、今度はやるとしてもちゃんと手加減するから」
申し訳なさそうに言うに、リーマスは平気だよ、と笑顔で返す。
リーマスとしてはあの時ほど嬉しかったことはないのだから。
ずっと独りで耐えていた夜だったのに一緒いてくれたから。
「手加減って、何をしたの??」
「あ、えっと、人狼が狼なった時の対抗手段ってのがあってね、私はそれができるんだけど、それをこの間リーマスにやったの」
このことはあまり言いたくないのだ。
何しろその止め方が暴力的な為、母もあまり広めないようにしているらしい。
これが原因で、人狼へ余計な暴力をさせないためだ。
「対抗手段って?」
「こう、拳をね。鳩尾に3回ほど叩き込むの。魔力をこめて」
は拳を叩き込むようなポーズをとる。
リーマスはそれに苦笑する。
あの時はもう、狼に変身していて自我が殆ど残っていない状態だったので、リーマス自身痛みはあまりよくは覚えていない。
「生身でやられたら痛かったんだろうね。でも、あの時の僕はもう狼に完全になってたから」
「うちのお父さんいつも変身前にお母さんに叩き込まれてるよ?やっぱり、すっごく痛いんだって」
それは哀れなほどに。
幼心に、あれは同情を覚えたものだ。
「?お父さんって?」
「あ、そうか。リリーにはまだ言ってなかったっけ。うちのお父さん人狼なの」
さらっと爆弾発言。
「なんですって?!」
「なんだって?!」
「まじか?!」
「え?うそ?!」
それぞれ違う言葉で、でも同様に驚く。
リリーはがしっとの肩をつかむ。
「どうして教えてくれなかったの?!」
「え?え?だって、言いにくかったし」
それはもう色々な意味で。
「そんなことで私がの見る目が変わるとでも思っていたの?」
「あ、そうじゃなくて…」
「が人狼の子でもはよ!」
「リリー、そうじゃなくて。あの、恥ずかしかったというか…」
今まで、の住む所では人狼の子だから蔑まれるなどということはなかった。
父親が人狼でも、いざ満月の夜のあの光景を見た友人達は殆どが「面白いものを見せてもらった」というのだ。
そして、父は同情の視線を向けられる。
蔑まれることはないが、それはそれで恥ずかしいものがある。
「恥ずかしいって、?」
「だって、だってね、リリー。ウチのお父さん満月の夜になるとお母さんに殴られて嬉しいって言うんだよ?痛いのに嬉しいっておかしいでしょ?」
「でも、僕はのお父さんの気持ちは分かるけど?」
「リーマス!そういうこと言わないでよ!でないと、マゾって言われるようになるよ?!」
ぷっ
の言葉にジェームズとシリウスが噴出す。
ジェームズはくすくす笑っているが、シリウスなど大爆笑だ。
「ははは!!リーマスがマゾ?!ありえねぇ!」
「シリウス、笑っちゃ駄目だよ」
そう言いながらも笑っているジェームズに説得力はない。
ジェームズはふと笑いを止めるが、シリウスは爆笑を続ける。
「シリウス?何が可笑しいのかな?」
にっこり笑みを浮かべたリーマスの手には特製のチョコケーキが。
勿論甘さはリーマス用である。
なので、シリウスにとっては激甘だろう。
「お、おい、リーマス?お前、何するつもりだ?!」
「何って勿論、甘いもの攻撃」
「やめろ!俺は甘いものが大嫌いなんだよ!」
「うん、知ってる」
にこにことリーマスは笑顔のまま容赦なくシリウスの口ににケーキを押し付けた。
勿論こぼれないように、全部しっかりと。
吐き出さないようにちゃんと口元を押さえておくことも忘れない。
鬼の所業である。
シリウスは真っ青になりながらももくもく食べてようやく飲み込む。
「うげ、激甘…」
「はい、よくできました」
「リーマス、てめぇ!」
「でも、シリウスが悪いね」
「うん、シリウスが悪いと思う」
怒るシリウスに、ジェームズとピーターが容赦なく言う。
意外とピーターも容赦ない。
「ジェームズ、ピーターまで…、ひでぇ」
いじけるシリウス。
なんだか、はこの4人の力関係が分かって来た気がする。
(もしかして、リーマスってこの中で最強?)
「話がそれちゃったね。実は話したいことってのは僕に関係していてね。リリーは知ってるよね?」
「ええ、知ってるわ」
は首を傾げる。
リーマスが人狼であることと関係のあること。
何なのだろうと思う。
「でも、なんでそれを私に?だってセフィアは知らないんでしょう?」
「僕はに知ってもらいたいんだ」
いまいち、にはそれを知る理由が分からないが、教えてくれるというのならば聞いておこう。
「説明はジェームズからのほうがいいかな?」
「そうだね、僕がするよ。とりあえず、その辺でいじけてるヘタレは放っておいて」
「ヘタレ言うな!」
「リーマスの為に僕らはあることをしようと思っているんだ」
「あること?」
「そう、あることさ、僕とピーターとそこのヘタレで」
「だからヘタレじゃねぇ!」
シリウスの叫びをさらっと無視していくジェームズ。
はそれが気になったが、とりあえず先が気になるので見なかったことにする。
も結構酷い。
「リーマスの為にアニメーガスになろうと思うんだ」
ジェームズの言葉には驚く。
アニメーガス、動物もどきとも言う。
人狼は人間に襲い掛かる。
だが、動物に襲い掛かることはない。
だからジェーズ達はアニメーガスになろうというのだろう。
リーマスを独りにさせない為、満月の夜も一緒にいてやるために…。
「には知ってもらいたかったんだ。ジェームズ達が僕のことを考えていてくれているってこと」
「うん。リーマス、素敵な親友だね、ジェームズ達は」
「僕の自慢の親友だよ」
はリーマスの嬉しそうな表情に自分も嬉しくなる。
そして、ふと思いつく。
「アニメーガスなら、お母さんがその関係の本あるかもしれないから、今度聞いてみようか?」
「本当かい?!実はまだ、思うように進んでなくてね」
ジェームズが嬉しそうに問う。
確か、は、母親が以前アニメーガスになろうとしたという体験談を聞いたことがある。
なれたにはなれたらしいのだが、父の側にいるために結局は今の方法を取るようになったとかなんとか。
「じゃあ、お母さんに聞いて見るよ」
「頼んだよ、」
「うん」
も満月の夜一緒にいることはできる。
だけどもっと沢山の人たちが、友人達が一緒にいてくれるならリーマスも嬉しいだろうと思うのだ。
ずしっ
突然のしかかるようにリーマスが後ろから抱きしめてくる。
「リ、リーマス?!」
リーマスの重さよりもまわされた腕の方がは気になる。
どうして最近はこうやってスキンシップが激しいのだろうか?
「」
「な、何?」
「が満月の夜に一緒にいてくれるのは嬉しいんだ」
「うん」
「でもね、は女の子だよね?」
「うん、それが?」
(何か問題でも?)
「僕は男では女なんだよ?だから、やっぱり二人っきりってのはね、僕の方が申し訳なくなっちゃうよ、別の意味で…」
「別の意味で?」
きょとんっと見上げてくるにリーマスは苦笑する。
ぎゅっと抱きしめる腕に力をこめる。
するとは過剰に反応してくれる。
「リ、リーマス!」
「ねぇ、」
「リーマス、くっつきすぎ!」
離れて欲しい。
こうやって、抱きしめられるとうるさいくらいに心臓がバクバクする。
この心臓の音が聞こえるんじゃないかと言うくらい。
「食べさせて」
「…はい?」
ちょいちょいっとリーマスはの前に置かれたケーキを指す。
はこれ?と目で聞いてみると、リーマスはにっこりと頷く。
仕方なく、というより食べさせないと離れてくれそうもないので…ケーキを食べやすい大きさにきって、フォークで刺してリーマスの口元に持っていく。
リーマスは嬉しそうにぱくりっと食べる。
「うん、美味しい」
満足そうに笑みを浮かべるリーマス。
「そう?良かった」
やはり、自分が作ったものを美味しいと言われるのは嬉しい。
特にリーマスの為に作ったものなのだから。
「もう一回」
「へ?」
「今度は一切れじゃなくて、そのままで」
「え?え?」
戸惑う。
待ちきれないのかリーマスは手を伸ばして、ケーキを掴み全部自分の口の中に放り込む。
「あ、リーマス!それ私の!」
「だって、食べないから」
「酷い。結構美味くできてたのに」
味見はしたが、やはりちゃんと自分でも食べたかったと思う。
しゅんっとする。
甘いものが大好きなは、自分の作ったものも結構好きなのだ。
リーマスの甘さが自分の好みの甘さと良く合うのもあるが。
の表情にリーマス少し考え、くいっとの顔を上に向かせて、唇を合わせた。
「っ?!」
の口を少し明けさせて、自分の舌での舌をペロリっと舐める。
自分が味わった味を伝えるように。
そしてすぐに唇を離した。
は驚いて声が出ない。
「食べかけじゃ悪いから、とりあえず風味だけね。どう??」
にっこりと問いかけるリーマス。
(ど、どう?じゃないよ!味なんてびっくりしてわからないってば〜!!)
真っ赤な顔で口元を押さえる。
あれは普通の触れるだけのキスとは少し違う。
と言っても、フレンチキスまではいかないだろうが…。
まったく平然と、というより笑顔のリーマス。
「!」
リリーが慌てたようにからリーマスをべりっと引き剥がす。
リーマスから守るようにを抱きしめる。
リーマスがに張り付くと、大抵リリーが引き剥がすことが多いのはもうパターン化してきている。
「、大丈夫?駄目よ、あの腹黒狼に隙みせちゃ」
「え?あ…、リリー」
真っ赤になりつつも嫌がっているそぶりがなかったにリリーはため息をつきそうになるが、そこは我慢する。
リリーはぎっとリーマスを睨む。
リリーの睨み等平然と受け止めるリーマスに苛立つ。
「いい、リーマス!に手を出すのは私が許さないわよ!」
「リ、リリーってば。別にリーマスもさっきのは冗談で…」
「冗談ならなおさらよ!この腹黒狼にみたいな可愛い子は勿体無いわ!」
リリーはびしっとリーマスを指す。
それにリーマスは苦笑するだけである。
は困ったように微笑んでいた。
(リリーってば、なんでそんなに…、リーマスが私みたいな平凡な子を好きになるはずなんてないんだから)
ちくりっと痛む胸。
リーマスは手の届かない人だというイメージがまだこびりついているには、リーマスと恋愛などまだ考えられないのだった。
だから、先程のリーマスの行為も冗談と思い込んでしまうのである。
感じた寂しさや、胸の痛みは気付かないフリ。
そうでもしないと、リーマスとの今の友情が壊れてしまいそうな気がしたから。