SWEET BOX5




WEEET BOX 5





はリーマスと結構表立って仲良くしていた。
甘いもの談議は楽しいもので、よく談話室で語り合っていたり授業に向かう時も一緒にいたりもする。
二人きりという場面は少ないのだが、それでもリーマスのファンに目を付けられるのは当然のことだった。


丁度今は一人だった。
ホグワーツの調理場からの帰り道。
お菓子を作るのに寮にキッチンなどあるはずがないのでホグワーツの調理場を借りる。
おかげで屋敷しもべ妖精とは結構仲良くなっていた。

今日はケーキを何種類か。
一口サイズのものを何種類か作り、いろいろな味が楽しめるようになっている。
丁寧に箱の中に並べてそれを両手で抱えるように持っているのである。
楽しい気分では寮に向かって廊下を歩いていた。


「ミス・。ちょっといいかしら?」


突然を囲むような女子集団が現れた。
は彼女らの視線にびくっとなるが、これはいつかくることだと思っていたので仕方ないと思う。
怒りと妬みと憎しみの視線。

「うん、分かった」

は頷き大人しく彼女達についていく。
今まであまり一人になることがなかったから、彼女達も仕掛けにくかったのだろう。
リーマスに近づいた以上覚悟していたことだ。
けれど、今のはリーマスは大切な趣味を語れる友人であり、嫌がらせされても離れる気はない。
となれば、この場は自分でどうにかするしかないだろう。

(あまり、この手は使いたくないんだけどな)

リーマスのファンにネチネチ嫌味を言われたり、目をつけられたりするのをあれほど嫌がっていたなのだが、意外に余裕である。
それはには対抗手段があるからなのだろうか。



どんっ

ホグワーツの奥にある使われていない教室。
埃がたまっているところをみると、今は全然使ってないのだろう。
は彼女達の一人に押され、無理やり中に押し込められる。

「あんた、生意気なのよ」

そう言ったのは同じグリフィンドール生。
他にもレイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンまでいる。
特に多いのはグリフィンドール生。
ざっと20人ほどだろうか。

「リーマスに話しかけたりして、リーマスが迷惑してるの分からないの?」
「あんたみたいな何の取り得もない子がリーマスの側にいるなんて認められないわ」
「そうよ!もうリーマスには近づかないで頂戴」
「あたし達も不愉快だわ」
「リーマスもなんでこんな平凡な子が側にいるのを嫌がらないのかしら」
「そんなの、リーマスが優しいからに決まってるじゃない」
「あんたはそのリーマスの優しさを利用しているのよ!」

言いたい放題言ってくる。
言われることは傷つくけど黙って我慢していればいい。
はじっと耐える。

「なによ!なんとか言いなさいよ!」
「黙ってるなんて卑怯よ!」
「生意気だわ!」

一人の生徒がひゅっと手を振り上げる。


ぱしんっ


の頬に見事に平手が決まる。
手加減なしだったのか、の頬は真っ赤になる。
叩かれた頬を手で触れ…はすぅっと視線を上げ彼女らを見る。

「な、なによ…」

その視線に圧される。

「何を言えばあなた達は納得してくれるの?」

は今の立場を変えるつもりはない。
せっかく仲良くなった友人との距離を置くなどするつもりはないのだ。
それも数少ない甘党仲間。
好きなことを一緒に語れる友達は少し特別。

「そんなの決まっているじゃない!」
「これ以上リーマスに近づきませんって言えばいいのよ!」
「あんたなんか、ピーターくらいでお似合いよ!」

流石のもその台詞にはかちんっときた。
にとってリーマスは大切な友人だが、ピーターの方が付き合いは長い。
ピーターが1人でいるときなどは話をよくしていたものだ。
のんびり優しいピーターとは結構話しやすいとは思っている。
それを馬鹿にするようなことを言われたのだ。

「ピーターは私の大切な友達よ。「くらい」って何?ピーターとリーマスの何が違うの?!ピーターの方がリーマスより優しいわ!リーマスの方がピーターより話が合うわ!でも、二人ともとてもいいところがあるのよ!どうしてそういう風に言うの?!」

大切な友人を貶められるようなことを言われて黙っていられるではない。
面倒ごとは嫌いだ。
でも、引けない一線がある。

「な、生意気よ!!!」

一人がに杖を向ける。
はケーキの入った箱をかばうようにぎゅっと抱え込んだ。


『ディスチャージ!雷よ!』


ばぢっ


小さな電力がの体を襲う。
たいした威力はないのだが、体がしびれる。
歯を食いしばる

『アクシオ!』

他の子が呪文を唱え、の抱えていた包みを魔法で取り寄せる。

「あ…!」

ぱしっと彼女達の一人の手にそれが渡り、それを手に取った彼女はその包みを床に落とす。
は手を伸ばそうとするが、その子はに嫌な笑みを向けて…

ぐしゃりっ

思いっきりそれを踏み潰した。
はそれをみて目を開く。
せっかく作ったいろいろなケーキ。
食べやすいように工夫して、味は特に色々考え抜いて決めた甘さに調整したり、リーマスとセフィア、リリーが食べられるように甘くないものと甘いものを分けて作ったりと、3日間もかけたのだ。

「いい気味よ」
「これに懲りてリーマスには二度と近づかないことね」

彼女達は教室をでていこうとする。
は踏み潰された包みに慌てて近寄る。
そっと持ち上げてみれば、中身がぐしゃぐしゃになっていることが感覚で分かった。
はその包みを抱えながら、すっと杖を構える。

ぴしゃんっ

魔法で教室の扉を閉める。
彼女達が出て行かないように。

「な、何よ!」

驚いた彼女らはを振り返る。
の目は完全に怒っていた。
その様子はいつものからは考えられないほどの存在感。

「せっかく作ったものを。食べ物を粗末にするような人は…、許さない!」

はまず包みを踏み潰した子にすばやく向かい、それは本当にすばやいもので彼女からは一瞬に思えただろう。

がっ

彼女の鳩尾に肘を食い込ませた。
手加減はしたが、その子は驚きと痛みですっと意識を失う。

「ひっ…!」

それを見た彼女らは、に手を出したが間違いだと悟った。
怒った視線に怯える。
今のは手加減などするつもりはない。

「私、こういう面倒ごとには関わらないようにしてきたのに。でもリーマスの側にいることは楽しいことで譲れないことだから、どんな罵倒でも受けようと思っていた」

邪魔だと、近づくなといわれることは覚悟していた。
実際言われると涙が出そうになるほど悲しいことだし悔しいことだ。
どうして友達になるのに他の人の制限を受けなければならないのだろう…と。
けれど、それはきっとリーマスがそれだけ優しくて人気があるから仕方がないのだと思っていた。

「私の大好きなものを潰されてまで、私は大人しくしているつもりはないよ!!」


ひゅんっ!


が杖を思いっきり上から下へと振ると風が巻き起こる。
ぴしぴしっと風の刃が彼女達に小さな切り傷を負わせる。
呪文もなにもない魔法だ。
呪文もなしに魔法を使うことは可能だが、かなり難しい。
彼女は、そんなに怯えて悲鳴もでない。
別に彼女達に大きな怪我を負わせるつもりはないが、は再び杖を振りぬこうとした。


「「!!」」



ばんっと教室のドアが開き、リリー、セフィア、リーマスが慌てたように飛び込んできた。

「え…?あ、リリー、セフィア…、リーマス?」

さっきまでの怒りがすぅっと消え去る。
近づいてくるリリーとセフィア、リーマス。
とても心配そうな表情をしている。

、大丈夫?何もされていない?」
「え、うん。大丈夫だよ、リリー」
「無理しなくていいのよ。やだ!どうしたのこの頬!叩かれたの?叩かれたのね?!」
「あ、大丈夫だって、セフィア」

苦笑しながら答える
真っ赤になったの頬をおろおろと見つめるセフィア。
リリーも心配をしながらも、彼女らのほうを向いた。
しかし、彼女らは完全に怯えた表情であり。

、貴方、何したの?」
「え?」

リリーはくるっと教室内を見回す。
一人だけ倒れている少女。
そして、小さな切り傷を負ったほかの子達。

「あ。えっと、ちょっとせっかく作ったもの踏み潰されて台なしにされちゃったから、つい怒っちゃって…」
「それで、こう?」
「うん…」

驚いたように周りを見るリリー。
リーマスも驚いているようだ。
普段の大人しいからはあまり想像がつかないだろう。
何しろ彼女らは完全に怯えきってしまっている。

「ちょっと家庭の事情で、簡単な護身術みたいなのとか習っていたから…、その…」
「護身術ね。その護身術でその子を気絶させたりしたのね」
「あ、いや。だって怒ってていて手加減できなくて」

ちょっとやりすぎたと反省している
いくら怒りで周りが見えなくなったとはいえ。

「そうじゃないわ、!」
「え?え?!リリー?!」

リリーはがしっとの肩をつかむ。

「やるならもっと徹底的にやらないと駄目よ!」
「り、リリー?」
「こういう輩は、これでもか!ってくらいやらないと懲りないのよ!経験者は語るわ!」
「そ、そうかな?」
「そうよ!だから、思う存分やりなさい!」
「で、でも…」

さぁっと促すリリーだが、の怒りはリリーたちが来たことによって冷めてしまっている。
もう、彼女らをどうこうする気はない。
迷うの前にすっとリーマスが出る。

「リーマス?」

に背を向けているリーマスだが、どうも雰囲気的に怒っているようだ。

「ねぇ、君達?」
「あ、あたし達違うの!リーマスのためを思って…」
「だって、リーマス、本当はそんな子につきまとわれて迷惑なんでしょう?」

言い訳を口にする彼女たちだが、リーマスは表情を変えない。
すっと無表情に彼女らを見回す。

「僕はね、僕の大切な人たちを傷つけるのは許せないんだ。僕の為とか言っているけど、こういうことはむしろ迷惑だよ。いいかい?今度こんなことがあったら…」

リーマスはそこで間を空ける。

「許さないからね」

口だけの笑みを浮かべる。
目は笑っていない分かなり怖いものがある。
絶対零度の微笑みとはこのことだろう。
彼女達は半分泣くようにして、慌てて出て行った。
気絶した一人を持ってかせることをリーマスに指摘され、慌てて連れて行く。

(…リーマス、なんかすごい怖いって)

被害をこうむっただが、ちょっと彼女らに同情をしてしまう。
あの笑みを向けられたらさぞかし怖いだろう。
ふぅっと息をつき、リーマスはの方を振り返る。
の頬にはセフィアが冷却魔法をかけていた。
かなり効果の低いものだが、腫れた頬を冷やすのには丁度いいだろう。

「彼女達、これで大丈夫だと思うけど」
「ありがとう、リーマス。リリーもセフィアも来てくれてありがと」
「これくらい当たり前よ」
「そうよ」

その言葉に嬉しくなる。
友達とはいっても、このゴタゴタに巻き込まれるのが嫌で見て見ぬふりをすることもできるだろうに。
リリーもセフィアもそれをしなかった。

「それにしても、僕の脅しもあまり必要なかったかな?の脅しで十分だったみたいだしね」
「わ、私、別に脅したわけじゃ」
「にしてはすごい怯えようだったど?彼女達」
「う…、だって、せっかく作ったケーキ踏み潰されちゃったんだもん」
「ケーキ?」
「うん、いろんな種類のケーキをね。一口サイズの食べやすい形で沢山作ってみたの。お茶請けに丁度いいと思って」

は踏み潰された袋をそっと開けてみる。
一口サイズの小さなケーキ。
無事なものも2〜3個あるが、殆どがぐちゃぐちゃで他の種類のものと混ざってしまっているものもある。
頑張って作っただけに、かなりショックだった。
残念そうにそれをみているだったが、リーマスはその中からひとつひょいっと取りだし、口に放り込む。
リーマスが選んだのはつぶれたケーキの方だ。

「リーマス?」

はきょとんっとリーマスを見る。
口の中にいれてモクモクと味わうリーマス。

「うん、大丈夫。美味しいよ、ちゃんと食べられるし」

リーマスはにこっと笑みを見せる。

「え?無理しなくていいよ。つぶれちゃってるし」
「無理なんてしてないよ、つぶされても味は変わらないよ、ほら、も…」

リーマスはもう1つをとって、の口に押し込む。
拒否することもなくぱくりっと、リーマスの指ごとくわえる。
もくもく、と味わってみる。

「うん、味は変わらないね」

潰されてしまって味が多少混ざってしまっても、甘いものという共通点で可笑しな味ではない。
見た目はかなり酷いが食べられないほどでもない。

「でしょ?」

リーマスはぺろりっと指をなめる。
しかしその指はにケーキを食べさせた時のもので、がなめたというかなんと言うか。

「り、リーマス!」
「うん?何?」

リーマスは気にすることなく、指に残った味を楽しんでいるようだ。
だが、の頬は叩かれて腫れたのとは別にほんのり赤くなる。

(だって、リーマス、それって、それって…間接キスだってば!)

分かっていてやっているのか、わかってないでやっているのかそれは分からない。
その様子をリリーとセフィアがくすくす笑いながら見ていた。