マグルにおけるホグワーツの考察 5
はリーマスとは面識がないので、とりあえず自己紹介をする。
にこりっと笑った雰囲気が兄に似ているとは思った。
「君が噂の””なんだね」
「噂?」
「ジェームズの想い人の文通相手なんだよね?」
「想い人…というとリリーのことか。それならそうだが、何故?」
それを知っているんだ?とは問う。
リリーとジェームズの仲はつい最近想いが通じ合うまでは良くなかったはずだ。
ジェームズが知っているならば分からないでもないが、その友人が何故知っているのだろう?
「休み明けにジェームズが君の事を話していたんだ。とても面白い発想をする子がいるってね」
「面白い発想か?私にしてみれば至極同然のことを述べているだけだが」
「僕らにとってはそれが新鮮に思えるんだよ」
「そんなものか?魔法使いの考え方が変わっているだけではないのか?」
「そうかもしれないけど…」
リーマスは再び笑いを堪えるかのように口元に手を当てる。
「で、でも…まさか、ジェームズとシリウスがセブルスを愛しているなんて発想、絶対に出てこないよ、普通はね」
「ああ、あれは冗談だ。だが、あれだけしつこくスッポンのように構っているところを見れば、そう考える者がいてもおかしくないと思うぞ?」
リリーから少しだけ話を聞いてはいる。
生徒でターゲットになる場合は、大半がセブルスらしい。
セブルスの反応は確かにとてもわかりやすく、仕掛けるほうとしてはこれ以上の標的はいないだろう。
だが、それを差し引いても構いすぎだとは思うのだ。
「シリウスとジェームズがセブルスに構うのは昔からだから、今じゃそれが当たり前になってきているよ」
「昔からというと1年の頃からか?」
「う〜ん、そうだね、その頃からかな」
リーマスは思い出すように少し考えるが、小さく頷く。
「そうか、ポッターとシリウスはそんな前からセブルスに執着していたんだな」
「執着とか言うな!」
「鳥肌がたっちゃったじゃないか!」
なるほどと納得しているの言葉に、シリウスとジェームズが突っ込んでくる。
2人共顔色を変えて、腕をさするようにしているところを見ると、本当に鳥肌がたってしまったのだろう。
その反応には少しだけ眉を上げて、口元に笑みを浮かべる。
「1年からということは4年以上ということだろう?これを執着と言わずして何と言うんだ?」
「その表現が嫌なんだよ!」
「まるで僕らがセブルスを好きみたいじゃないか!…う、自分で言って気持ち悪くなってきた」
ジェームズは顔色を青くして口元を手で押さえる。
その反応はセブルスに対して、かなり失礼だ。
「でも、確かに執着してるって言えるよね」
リーマスがぽつりっと呟く。
「何か悪戯試す時、ジェームズとシリウスはセブルスをターゲットにすることを前提にしてるし」
「それではまるで、好きな子を苛める子供のような感じだな」
は呆れたようにため息をつく。
小さな子供の頃などは、好きな子をいじめたいと言う性格の子はいるものだ。
構ってもらいたいからこそ、好きな子をいじめて自分の存在を主張する。
幼い感情表現の仕方だが、シリウスとジェームズのセブルスへのいたずらはそれに似ていなくもないとも考えられる。
「ちげぇよ!」
「冗談じゃないよ!」
ムキになって反論してくるシリウスとジェームズ。
「それならば、悪戯のターゲットをセブルスにしなくてもいいだろう?2人共頭は悪くないようだから、もっとその頭脳を有効に使うことをお勧めするよ」
の彼らの情報はリリーからのものなのだが、2人とも成績はトップクラスだと聞いている。
ジェームズに至っては首席らしいと言う事も。
それでもホグワーツの寮の監督生…その学年のリーダーのようなものらしい…になれないのは普段のその悪戯が原因らしい。
「そう!それなんだよ!」
ジェームズがばっと顔を上げて明るい表情になる。
「休みの時にが隠し通路を作るって話をしてくれたよね!」
「全く覚えのないことだが?」
「ううん、した!絶対にした!」
は頭に手をやり、大きなため息をつく。
否定はしてみたものなのだが、ジェームズとそれらしい話をした事は覚えている。
だが、そう面倒そうなことにはあまり関わりたくないのだ。
「本当に作る気かよ?ジェームズ」
「当たり前だよ!」
「でも、ジェームズ。ホグワーツの隠し通路を全て見つけたわけでもないのに?」
「それと平行してやるに決まってるよ!」
平行してやるのは無謀ではないのだろうか。
「ポッター、助言するつもりはないが…、作成と発見を同時に行う場合、作成途中で新しい発見があり、既存の通路と開通途中の通路がぶつかった場合はやり直す必要性が出てこないか?魔法に空間を捻じ曲げる類のものがあれば別だがな」
「空間の魔法?」
新しい通路を作る場合、その通路の整備をし続けて進めていくうちに見つけていなかった道路にぶつかってしまった、どうしよう?では困るのだ。
地下にもぐって回避するなり、橋として上へ行き回避するなり方法はあるが、当初の予定と狂ってしまうことは確かだろう。
”隠し”通路なら、通常の通路と違って隠さなければならないのだから、方法が難しくなるのは確実だ。
「あるぜ。闇の魔法に分類される上に、かなり高度な魔法になるけどな」
答えたのはシリウスだ。
「あったとしても、魔法界でもマグル界でも質量保存の法則は成り立つはずだ。既存の通路に隙間が全くないのならば作ろうと思っても作ることは難しいだろう。ホグワーツの敷地を広げない限りはな」
ホグワーツ城の隙間という隙間が全て隠し通路や各部屋となってしまっているのならば、新しく何か通路なり部屋なりを作るのは難しいという事だ。
隙間がないのだから、作る場所がないことになる。
はそう言ったつもりだったのだが、ジェームズとシリウスはよく意味が分からなかったのか、顔を顰めている。
はぁと再び大きなため息をつく。
「つまり、だ。先に隠し通路なり隠し部屋なりを全部見つけたほうがいいということだ。でなければ、今新しいものを作ろうと計画を立ててもそれが無駄になりかねん」
「じゃあ、はどうすればいいって思う?」
「隠し通路と隠し部屋を全て見つければいいだろう?」
「それが出来たら苦労しないよ」
それはそうだ。
隠してあるから隠し通路、隠し部屋と言われるわけであって、そう簡単に見つけることは出来ないだろう。
「シリウスが言った空間の魔法というのが使われていないという前提ならば、見つけることはそう難しくはないはずだ。ホグワーツの広さを考えれば、時間はかかるだろうがな」
はさらりっと言う。
空間をねじったり、空間をぶっちぎられて通路がとんでもないところに繋がっていたりということを考えなければ、何かがあるかもしれない場所というのは意外と見つけやすいだろう。
これは少し考えれば分かることである。
「え?本当にかい?!」
「んなこと、できんのか?!」
驚いたようにを見るジェームズとシリウス。
その反応がにとっては意外だった。
「ホグワーツ内の部屋と通路、壁と床の長さを全て図って全体の広さから引けば、空いている空間があるのが分かるはずだ」
見た目では分からなくても、実際計ってみれば長さが違っていたり、空間がでてきているのがわかったりするものだ。
慣れてくれば、ぱっと見ただけでもあれ?と思うようになるだろう。
ジェームズはぽんっと納得したとでも言うように手を打つ。
「そっか。面倒そうだけどそういう地道な事を全然してなかったよね」
「行き当たりばったりだったからなぁ」
「猪突猛進のシリウスと、賑やか大好きなジェームズにはそういう地味なことは思いつかないよね」
くすくす笑っているのはリーマスだ。
彼らの様子を見ていると、とても仲がいいことが分かる。
根本的に悪い人間ではないのだろう、ということは分かる。
分かるが、セブルスに対する態度はどうしてもいただけない。
「隠し通路発見にでも熱意を注ぎ込んで、当分はセブルスにちょっかい出すのはやめておくことだな。少なくとも私がいるうちは、静かにしていて欲しいものだ」
としては面倒ごとは避けたい。
セブルスとは色々話をしたいと思っていたので、静かにしてもらえると話が進みやすいから助かるというのが本音だ。
「それは約束できないね」
にやりっとジェームズは笑みを浮かべる。
「ああ、でも、スネイプの変わりに君がターゲットになってくれるのなら君がホグワーツにいる間はスネイプに何もしないであげるよ」
挑むような目を向けてくるジェームズ。
挑発か、それともリリーの幼馴染であるの存在への嫉妬か。
はそれに呆れたようなため息を返す。
「ポッター、貴様…!」
がたんっとセブルスが席を立ってジェームズを睨みつける。
「セブルス」
は右手を軽く上げてセブルスを制す。
不満そうな表情をしながらも、セブルスはの制止にジェームズを睨み続けるだけでそれ以上の事はしようとしない。
「そうだな。そのほうが静かかもしれないな」
諦めたかのようなため息をつく。
ジェームズはしつこい性格に思える。
隠し通路作成も、隠し通路を見つけるのも、そして悪戯も、全部やる気なのだろう。
こういう相手は言うだけ無駄だ。
「ただし」
はすっと右手を挙げ、ぱちんっと指を鳴らす。
がんっごんっ!
と同時に巨大なタライがジェームズとシリウスの頭上に現れ、頭に綺麗に直撃する。
がらんがらんっとタライは床に落ちる。
いい音を出したので思いっきり直撃したのだろう、ジェームズとシリウスは痛そうに頭を抱えてしゃがみこむ。
「私を陥れることができるのならば、だがな」
ふっとは挑発するような笑みを浮かべて、しゃがみこんでいる2人を見下ろす。
面倒そうな事はあまり好きではないだが、ジェームズのしつこさに開き直ってしまったのかもしれない。
「何で俺まで…」
「何を今更。休暇中、ポッターと一緒に私を陥れようとしていたのはどこの誰だ?」
「根に持ってたのかよ…」
「いや、借りはちゃんと返す主義なだけだよ」
にっこりと笑みを浮かべる。
「痛っ…、やってくれるね、。けれど、こんなタライなんて、君は…」
「マグル界には魔術と言われる手品があってね。タネと仕掛けがあればこの程度のこと、誰にだって出来るんだよ、ポッター」
嘘付けと内心突っ込んでいるのはセブルスである。
セブルスだけはが魔法を使えることを知っている。
勿論仕掛けなどしているはずもなく、が今使ったのは魔法だ。
にとって物を呼び寄せる魔法や、浮遊させる魔法は結構使っているので簡単に使えるのだ。
「さて、セブルス、騒がしいようだからここを移動しよう。寮内を案内してくれるか?」
「…あ、ああ」
さっさとこの場を退散しようとする。
「本気でやってもいいのかい?」
そのにジェームズが声をかける。
ジェームズに背を向けていたは顔だけを動かし、ジェームズを見てにこりっと笑みを浮かべる。
「できるものならば、と言っただろう?」
静かに出来ればいいとは思うが、やるとなったらは徹底的にやる。
たとえホグワーツ首席であるジェームズでも、それは同学年の魔法魔術学校内での事だ。
本来の学年でなく飛び級制度を利用して大学に在学しているの頭の回転に、果たしてジェームズはついていけるだろうか。