マグルにおけるホグワーツの考察 1





12月に入れば、雪がちらつく時も多くなる。
真っ白になった大学内の道をざくざく歩く
魔法を使って周囲の温度を一定化させていたりするは、寒さも暑さもあまり関係なかったりする。
今日は恩師である教授に呼び出されているのだ。
大学院生であっても、いつも講義や研修で追われているわけではない。
比較的のんびりな風習のこの大学では、休みもそれなりに取れる。
しかし、修羅場の時は徹夜&泊り込みが当たり前なのだが…。


こんこん


教授の部屋の扉をノックする。
基本的に返事が返ってくることはない。
その為、は遠慮なく扉をがちゃりっと開けた。

「教授、お呼びと聞きました……あ、すみません」

扉を開いてすぐに目に入ったのは、恩師ともう1人、見慣れない男。
教授の客人かと思い、は出直そうと思ったが、それを当の教授が止める。

「構わない、ミス・。丁度彼を紹介しようと思っていたところだったんだ」
「教授…?」

教授が言う彼というのは客人だろう見慣れない男の事だろう。
明らかに顔色がよろしくなく不健康そうに見える。
茶色い髪は癖があって無理やり後ろでひとつにまとめてあり、青い瞳は何かを睨むような鋭い目になっている。
何よりも着ている服装が服装だ。
まるでローブのような服を……。
思わずまじまじと見てしまう

「そう不躾に見るんじゃないよ、ミス・
「すみません」

教授にたしなめられて謝罪の言葉を口にする。

「彼は私の親友でね」
「誰が親友だ」
「いつも私に有効な薬品や薬草を提供してくれるんだよ」
「お前が強引に奪っていくだけだろうが」

教授の言葉と男の言葉が全く食い違っている。
なんとなく彼らの関係が分かった気がする。

「名前は…」
「ふんっ、自己紹介くらい自分でできる!私の名はケルト・バンズだ」
「そう、ミスター・バンズと言うんだ」
「その呼び方はやめろと言っているだろう?!お前が言うと嫌味にしか聞こえん!」

ふんっと男、ケルトは教授に憤慨している。
似たような言葉をも少し前に言われた覚えがある。
ミスターやミスをつけて呼ばれると嫌味に聞こえる人物が多いのだろうか。

「それはともかくだけど…、ミスター・バンズに…」
「その呼び方はやめろ」
「…我侭だなぁ〜。とにかくケルトにある薬草と薬品を頼んでいたんだけどね、ミス・に一緒に取りに行ってもらいたいんだ」
「私に…ですか?」

何故わざわざ取りに行く必要があるのだろうか。
郵送でも構わないだろうに。

「なるべく早く欲しくてね。それなのにケルトが出来るのが1ヶ月後か2週間後か分からないから1ヶ月後に送るって言うんだよ」
「デリケートなものだから仕方ないだろう?1ヶ月くらい待っていろ」
「って、冷たいこと言うから、ミス・に一緒に行ってもらって、出来次第にはこちらにすぐに戻ってきてもらえばいいと思うんだけどどうかな?」

なるべく早く欲しい薬品が出来上がるの時期が曖昧だという事なのだろう。
だから、出来上がり次第欲しいから一緒に行ってその薬品が完成したらが持ってくる。
つまり運搬の役割をしろということだ。

「私は構いませんが、教授。それならば宅配便を使用すれば…」
「残念ながら宅配便を使用できる場所にあるものじゃなくてね。ケルトが仕事先で仕事の合間にやってくれるものだから。それにきちんと人の手で丁寧に扱って欲しいものなんだよ」

宅配便が使用できない仕事場ってどんな仕事場だ?

「お前が1ヶ月我慢すればそれで済む事だろう?大体、あそこに彼女のような一般マグルを連れて行って彼女が騒がないという保障がどこにある?」
「ん〜、確かに何かしらのトラブルはあるかもしれないけど、受け入れないってことはないよ。ね?ミス・?」
「は、はぁ…」

には何のことを言っているのか分からない。
だが、マグルという言葉が出てきたという事は、この格好から見てもケルトは魔法使い関連の人間なのだろうか。

「大丈夫、大丈夫。ほら、何しろこの間、魔法界にしか存在しないはずのカプレアの実を持ってきたんだから、少なからず魔法界とどこかで関わりあってるはずだよ」
「何だと?」
「え…?」

驚いたのはとケルト両方だ。
はまさか自分の恩師から”魔法界”などという言葉を聞くとは思わなかった。
普段魔法関係の事は全く口にしていない。
口止めをされているわけではないが、話す必要も感じなかったからだろう。
それに、世の中魔法の存在をそう簡単に信じる人ばかりではない。

「カプレアの実が欲しかったんだけど、ケルトがくれないって意地張るもんで適当に教え子達に見かけたら買ってきてね、って言っておいたんだ。そうしたら、ミス・が持ってきてくれたからね」
「あれは…確かに魔法界では普通に売っているが、マグル界にいる者ではそう簡単に手に入れる事が出来ないはずものものだ。…お前、どこで手に入れた」

低い声でに問うケルト。
特に隠すことでもないは正直に言う。

「どこって…普通にダイアゴン横丁で購入しただけですよ」

大学で魔法界の”ダイアゴン横丁”の事を口にするのは妙な気分だ。
この大学にはマグルしかいない…とは思っている。
勿論、恩師である教授も、今まで魔法に関することの欠片も見た事がないのでマグルであるだろうが…。

「ミス・。君はダイアゴン横丁に行ったことがあるのかい?」
「はい、何度か…。幼馴染が魔法魔術学校に通っているので付き添いで」

の言葉に何か納得したように頷く教授。

「それなら問題ないと思うよ、ケルト。どうかな?」
「…………構わん、勝手にしろ」
「うん、ありがとう。それじゃあ、ミス・、頼むよ」

教授は一枚の紙をに渡す。
それには薬品や薬草の一覧が書かれていた。
かなりの数である。

「分かりました。でも教授、そうすると私は当分の間大学に来れないという事なのでしょうか?」
「その辺りは手をまわしてあるから大丈夫だよ。早めのクリスマス休暇だと思ってくれればいい。ゆっくりしておいで」
「ありがとうございます」

にこりっと笑みを浮かべる
教授の方も笑みを浮かべているが、彼の場合は腹の底で何を考えているのか不明だ。
彼に魔法使いの知り合いがいるなどは今まで全く聞いた事がなかった。
交友関係がどこまで広い人なのだろうか…。




教授の友人であるケルトとは、キングクロス駅で早朝に待ち合わせをしたままあの場は別れた。
にも支度はあるのだから。
持っていくのは着替えと……

そう言えばセブルスに渡す予定の本があったな。フクロウ便を使えるかもしれないから持っていくか。

はそう思い、荷物の中に古めかしい本を一冊入れる。
行き先は聞いていないが、宅急便が使えない仕事場といえば魔法使い関係の職場だろう。
それならばフクロウ便を普通に使える。
マグルの住宅街に住むはこれでも、フクロウ便をあまり頻繁に使わないようには気をつけているのだ。

短くて2週間、長くて1ヶ月。
今は12月の半ばである。
長ければ年明けまで掛かってしまうという事になる。

研究道具と参考書も多少持っていくとして…。
全部は無理か?
この間作ったアレにいれていくか。

は一枚の丈夫そうな袋を取り出して、その中に参考書や研究道具をひょいひょい詰め込んでいく。
詰め込んだ量は多いというのに袋は一向に膨らまない。
この袋は特別製だからだ。
空間を少しいじくって、中の広さは見た目以上のものになっている。
ダイアゴン横丁で以前似たような性能の荷物入れを見て、役に立ちそうなので作ってみたのである。
作ってみようと思って作れるところがすごいものだ。
そして、キングクロス駅へと向かう。




ちらほらと雪が降るキングクロス駅。
が持つ荷物は、例の魔法の掛かった袋を使用しているからか、それほど大きなものにはならなかった。
重さは従来のものになってしまうのはどうしようもないのかもしれない。
その点は改良が必要だな…などと思っていたりする。

「ミスター・バンズ!」

待ち合わせの場所にケルトは先に来ていたようだ。
今回はローブを着ていない。
普通のマグルの服装だ。

「さっさと行くぞ」
「はい、遅れてすみませんでした」
「…いや、時間通りだから気にするな」

ざくざくっとケルトは歩き出す。
はその後ろを大人しくついていく。
教授の所で感じたギスギスさがない気がする。
あれはやはりあの人が相手だったからなのだろうか…?

「ところで、ミスター・バンズ。お仕事先とはどちらですか?」

ケルトの仕事先が行き先のようなのだが、そこはが泊りがけで押しかけても大丈夫な所なのだろうか。
勿論、教授のごり押しのようなもので同行する事になったため、横になれるところさえあればとしては構わないのだが…。

「…ホグワーツだ」

ケルトがぼそっと呟いた言葉には驚く。
その場所の名前を知っている。
行った事はないがよく話を聞く場所だ。

「ホグワーツというと、魔法魔術学校のホグワーツですか?」
「ああ、そうだが…。なんだ、知っているのか」
「幼馴染がグリフィンドール生なんですよ」

は苦笑する。
まさかホグワーツとは思わなかった。
仕事場がホグワーツということは、ケルトはホグワーツで教員をしているのだろう。

教授とは教員繋がり…。
そんなわけないな。
恐らく腐れ縁か何かだろうな。

そんな事を思っているだが、案外それが正解だったりする。
ケルト・バンズはホグワーツの魔法薬学の教師であり、の恩師である教授とは悪友とも言える腐れ縁で結ばれた関係だったりする。
それをホグワーツに向かう列車の中で、はケルトに教えてもらうのだった。