マグルにおける魔法使いの考察 5






漏れ鍋の主人が魔法で服を乾かしてくれたため、着替える必要がなくなった。
は教授に頼まれていた薬草を大切にしまってから、セブルスと話をするために再びダイアゴン横丁に出た。

「そろそろ昼食の時間だが、昼食ついででも構わないか?ミスター・スネイプ」
「ああ、構わない」
「どこかお勧めの場所はあるか?」
「それなら、あそこがお勧めだ」

セブルスはかつかつっと歩き出す。
ついてこいということなのだろう。
マイペースだな…と思いながらも、初対面の時のような険悪なムードがない。
が魔法を使ったことで、何か考えが変わったのか。

しばらく歩いてついた場所は上品なセンスの軽食店だった。
中に入ると分かるがとても静かな場所で、はこの場所がとても気に入った。
ゆっくり出来る場所は大好きだ。

「母上のお気に入りの場所で、僕もここにはよく来る」
「へぇ〜、趣味がいいね。気分が安らぐよ」

軽くサンドイッチとコーヒーを頼む。
注文してすぐに品が来るところも気に入った。
食べやすい大きさの、味も悪くないサンドイッチ。
暖かいコーヒーに、適切温度に保たれた店内。
魔法を使用してエアコンのような効果を出しているのだろうか。

「それで、ミスター・スネイプ。私に何か話があるのだろう?」

サンドイッチを半分ほど減らしてからは話しかけた。
コーヒーを口に運び、サンドイッチの残りをちまちまと口にする。


「貴様は…本当にマグルか?」


そう言って視線を向けてくるセブルスには蔑むような感情は見られない。
初対面では『穢れた血』だと散々見下した言い様と視線を感じたがそれがない。
何を思って見方が変わったのかは分からないが悪いことではないだろう。

「私はホグワーツに通っていない。勿論他の魔法学校に行っているわけでもない。分類するなら間違いなくマグルだよ」
「…ならば、あれはなんだ?魔法だろう?」

やはりそれか…と思う。
親や友人に話をせずに…全く話をしなかったのかどうかは分からないが…直接聞いてくるとは彼は直情型なのだろうか。
だがそれは、にとって都合は悪くないことだ。

「その前に質問しても構わないか?」
「なんだ?」
「そのことを誰かに話したりしたか?」
「いや…、誰も信じるはずがないだろう?マグルが魔法を使ったなどと…」

成る程、とは思う。
思った以上にマグル出身を『穢れた血』と蔑む『純血』一族は、自身を過大評価しているようである。
リリーへの接し方でセブルスが魔法界で言う『純血』一族であることは分かった。
だが、純血一族はおごりがあるようだ。
自分たちだけが正しい魔法使いだと思い込み、マグル出身は決して認めない。
だからこそ、マグルであるが魔法を使ったなどとは認めたくなかったのだろうし、それを口にすることも絶対にない。

「説明しても構わないが、ミスター・スネイプ。まずは自己紹介をしないか?まだ互い名乗りあっていないだろう?それとも自己紹介は不要か?」
「いや…不要ではないな。そうだな、名乗っていなかった。僕はホグワーツ、スリザリンの今年6年になる、セブルス・スネイプだ」
「学校名と寮まで丁寧に、随分と律儀だな、ミスター…」
「そのミスターというのはやめてもらえないか。貴様が言うと嫌味に聞こえてくる」
「それならば、スネイプ?それともセブルス?」
「……どちらでも構わない」
「セブルスと呼ばせてもらうよ」

なんだ、案外素直じゃないか。
純血一族でも人によるだろうが、ようは接し方次第なんだろうね。

「私は。S大学工学部、博士課程(ドクター)の1年生だ」

大学院生としては3年目だが、博士課程では1年目だ。
の自己紹介に驚いた表情を浮かべるセブルス。

「大学…?マグルの大学は貴様のような年齢でも通えるものなのか?」
「大学を知っているのか、セブルス、純血一族にしては博学だな。私はいわゆる飛び級制度を利用している。年齢どおりの学年ならばハイスクール…高等学校だろうな」

説明してもいまいちピンと来ないだろうとは思っている。
セブルスは良く分からなかったかのように眉間にシワを増やしただけだった。
純血一族にとって”大学”を知っているだけでもすごいものなのかもしれない。

「大学云々は構わないだろう。魔法のことだったな」
「ああ、そうだ。あの時も先ほども、確かに貴様は…」
、だ。ファミリーネームの方でもいいから名前で呼んでくれ」
「………は、魔法を使っただろう」

本当に随分と素直だ。
初対面が嘘のように。
これはやはり、初対面で脅しすぎたか…?

「あれが魔法かと言われると、肯定を返すしかないな。だが、私はマグルだ」
「魔法を使えるマグルとでも言うのか?」
「正確に言えば、魔法使いの適正を持っていたマグル、だがな」
なっ…!

セブルスが驚愕の表情を浮かべる。
まさか、そんな、有り得ない…とでも言うかのように。
魔法使いの適正を持つ子供は、例外なく魔法学校への入学を半分強制化されていた。

「11の時だったか…?私の元には確かにホグワーツ入学許可証が届いたよ」
「ならば何故?!」
「私には必要ないものだった断った。その当時…否今でもそうだが…私にはやりたいことがあるし、その現状に大満足している」
「だが、断ることなど…っ!」

純血一族がいくら何を言おうがマグル出身の魔法使いは出てくる。
それは学校側がマグル出身の入学を認めているから。
魔力を持つ子供を野放しにしておく危険性を分かっているからこそ、魔法界はマグル出身の子供達を受け入れる。
純血一族の者も、多くは分かっているのだ。
魔力をただ持つだけでコントロールできないことが、とても危険なことだと。
万が一魔力を暴走させた子供がいたとして、全世界に魔法使いの存在が知られたら何百年も前の”魔女狩り”のような暴動が起きかねない。
魔法使いは数多くいるとはいえ、マグルの絶対数に比べれば少ないものだ。
魔力を持つものの放置はそのような危険性がある為に、魔法学校への入学は半強制的になっているのだ。

「ただ突っぱねた訳ではないさ。交換条件は、魔力のコントロールを身につけること。条件通り現在は魔力のコントロールができるからこそ、セブルスの口を塞ぐような真似ができたと言うわけだ」

杖なしでの魔法はかなりの高等魔法に入る。
だが、魔法を使うのに杖が必要であるとか、呪文が必要であるとか、その先入観のないには自分が使っている魔法がすごいものなのかは全く分からないのである。
魔法学校に通わずに杖なしで魔法を使える

「本当にマグルなのか…?」
「しつこいぞ、セブルス。両親も兄弟も皆魔法など一切使えん。……いや、待てよ…確か母方の祖父母は魔法使いだったとかなんとかというのは聞いた覚えがある気もするが…」

の叔父は魔法使いである。
その叔父は母の弟にあたる。
叔父から母方の祖父母は魔法使いであったと聞いた覚えがある。

「ならば、の母は恐らくスクイブだったのだろうな…」
「スクイブ…?」
「魔法使いの家系に生まれながらも魔力を持たずに魔法が使えない者のことだ」
「成る程」

やはり純血一族は自分達のみが魔法使いに相応しいと思い込んでいるフシがあるようだ。
魔力がない者達を”スクイブ”などと差別した呼び方をつけているのがいい例だ。
はカップを口に運ぶ。

「母は家を勘当されたようだが、祖父母はまだ健在と聞く。ああ、セブルスなら知っているか?ブラックというファミリーネームなのだが…」
「…ごふっ!!

が母の旧姓を口にしたとたん、セブルスが丁度タイミングよくカップを口につけていたからなのか、コーヒーを噴出しそうになる。
運悪く気管支に入ってしまったのか、ごほごほっと咳き込むセブルス。

「大丈夫か?セブルス?」
「…けほっ…だ…いじょうぶ…だ…」
「そうは思えないが…」

数回ほど咳き込み、何度か深呼吸してからセブルスはじっとを見る。
としては、どうして母の旧姓にそこまで驚くのか分からない。
おそらく聞いたことのある家名なのだろうことは分かるが…。

「もしや”ブラック家”というのは有名なのか?」
「ああ、かなりな…。純血一族の中では一番古い家系だ。ただ、本家の次期当主がグリフィンドールで……先ほどポッターと一緒にいたのがそれだ」
「ミスター・ポッターと一緒にいた…?」

黒いサラサラの髪の美少年が確かにいた。
あれが、次期ブラック家当主。

「…先が思いやられそうだ」
「全く同感だ」

本家の次期当主があれだということは、の祖父母は分家筋の者に当たるのか何かだろうか。
詳しいことはも興味がなかったので聞いていない。
純血一族は血を重んじ、魔力を持たぬ母はいらないもの扱いされていたと、叔父に聞いたことがある。
母はとても優しく、が無理を言って大学進学を決めたときも応援してくれた。
ホグワーツの入学を断った時も母が一番に味方をしてくれた。

母がスクイブでよかったとは思う。
母に魔力があって、魔法使いであったならば、父と会うこともなかっただろう。
今の両親と、そして今の環境には自分なりに満足をしているのだから…。