マグルにおける魔法使いの考察 3






ダイアゴン横丁で軽い昼食をとっていた。
天気もいいのでテラスの方に出て人の流れを眺めている。
は先ほどの古書店で購入した本にざっと目を通している。
リリーはそんなを見ながら昼食を口に運んでいる。


「リリー!!偶然だね!!」


突然ばっとリリーの後ろから少年が出てきた。
少年の突然の出現にリリーはぎょっとする。

「新学期の教科書を揃えに来たのかい?実は僕もそうなんだv一緒に買いに行かないかい?」
「ジェームズ……」
「勿論荷物は僕が持ってあげるよ。リリーのその細腕に重い教科書を持たせるなんてことはしないさ!」

にこにこ笑顔でリリーに話しかけている少年をちらっと見て、は読んでいた本をパタンっと閉じる。
そして自分の存在を無視している少年をじっくりと観察してみる。
顔をしかめているリリーと、嬉しそうな笑顔でリリーに話しかける少年。

癖のある黒い髪、丸い眼鏡。
眼鏡から覗くその瞳には知的なものが見える。
一見軽そうに見えるが、計算ずくで動きそうなイメージがする。

これは確かにリリーには手強いかもしれないと思う。
世の中には同じ年とはいえ、とんでもない子もいるものなのだ。

「食後の運動も必要だよ、リリー。さぁ、行こうじゃないか!」
「ちょっと待ってよ。私は……!!」

少年、ジェームズはリリーの腕を掴んで立ち上がらせようとする。
それをが制する。
ジェームズの腕を掴んだのだ。

「悪いが……、私のリリーを勝手に連れて行かないでもらえるか?」

ジェームズの表情がすっと変わる。
笑顔から警戒するものへと…。
それでもリリーの手を離さない。


「君、誰?」


ジェームズは視線をに移して低い声で問う。

「さっきの言葉で気がつかなかったか?私のリリーからその手を離してもらえないか?」

こちらもまっすぐとジェームズの目を見返す。
この年の少年にしては珍しいほどの強い眼差しだ。
向かう先がはっきりしている将来有望な少年なのだろう。
ジェームズがリリーの腕を離す前にリリーがばっとジェームズの腕を振りほどいた。
それを見て、はジェームズの腕を掴んでいた手を離す。

「私、彼と一緒に買い物に来ているの。貴方と一緒には行動できないわ、ジェームズ」

リリーはのそばにより、の腕に自分の腕を絡める。
ジェームズはそんなリリーの姿をぼっと見て………そして、を睨み据える。
結構怖い睨みだ。

「悪いが…ジェームズ?と言ったか。リリーは私とデート中なんだ。邪魔しないでもらえるか?」

ふっと笑みを浮かべる
かたんっと立ち上がり、リリーの腕を取って伝票を持って会計に向かう。
ジェームズは勿論置き去りだ。
背後にびしびし当たる視線からまだ睨まれているのが分かった。



そのまま腕を絡めながらとリリーは店を出た。
リリーはの腕をぎゅっと掴んだまま離さない。

「逆効果だった気がするんだけど…リリー」

ほんの僅かの邂逅。
けれどジェームズがリリーに寄せる想いは本物であるとは判断した。
リリーに対して接している時はあんなにもにこやかなのに、を見る目は冷たい。
これではリリーがいないときに対峙でもしたらすごいことになりそうである。

「ジェームズ・ポッターだっけ?彼はリリーのことが本当に好きなんだと思うよ」
「………わかってる…わよ」

小さな声でリリーは呟く。
どれだけ長い間先ほどのような状態が続いていたのかは分からないが、リリーもそんなに鈍くないだろうから分かってはいるのだろう。

「でも…、だって…、あんな態度…!普段も馬鹿ばっかりやっているし…!」
「馬鹿ばっかりって?」
「そう、聞いて頂戴!!!」

の腕にぎゅっとしがみつくリリー。
その力は結構強い。

「リリー…漏れ鍋の部屋についてからゆっくり聞くよ…」

リリーのホグワーツでの生活を話半分でしか知らないにとってはそう言うことしか出来なかった。
一度引き受けてしまったこと。
何らかの決着がつくまで付き合うつもりではあった。
最もその決着が休暇中につけば…の話だが…。




リリーが語るジェームズ・ポッターはホグワーツでの問題児らしい。
親友達と悪戯しながら毎日学校生活を楽しんでいるとか。
別にそれなら構わないじゃないか…と思ったのだが、その悪戯の内容がとんでもないらしい。
別の寮の同級生に水をかけたりするのはまだいい方、逆さにして宙吊りにして…果ては空き部屋に閉じ込めたりと…。
物騒な魔法生物を気に入らない先生に仕掛けてみたりなどなど。
悪戯にしては規模がでかく、洒落にならない。
実際、何度も標的相手に怪我を負わせたことがあるようだ。
最も魔法などでそれはすぐに治ってしまうらしい。
怪我がすぐに治ってしまう様では、怪我をさせた相手の罪悪感も薄れてしまうのだろう。
それが続けば慣れというのは怖いもので、それが当たり前のように感じてしまうようになる。

「ジェームズの想いは分かってるの…。でも、私…あんな風に人を簡単に面白半分で傷つけるような相手は嫌だわ!」
「確かに、聞く限りはやりすぎだな」

は少し考える。
リリーはジェームズの悪戯内容を非難はしているもののジェームズ本人の事が嫌いではないように見える。
寧ろ…。

「リリーが彼を嫌いなのは、彼が悪戯をするから?」
「ええ、そうよ!だって、馬鹿げているもの!どうしていつもいつもフィルチさんやミスター・スネイプにばかり酷いことするのかしら!」
「ちなみに、リリー。その”フィルチさん”というのはどういう立場でどういう人?」
「フィルチさんはホグワーツの管理人さんかしら…?生徒たちが校則を破らないように見張ったり、夜見回りをしたり監視したりしているの」

なるほど、それじゃあ確かに自由気ままに学生生活を送りたい子たちにとっては邪魔以外の何者でもないだろうな…。
大体子供の頃から校則で縛り付けるのは悪いことではないが、その子なりの自由らしさを閉じ込めてしまっていることが教育に果たしていいことなのか分からないのだろうか。
大学は随分自由が利いて勉学に励むのには適切な環境なんだがな…。

「ミスター・スネイプというのは、古書店で会ったあの彼のこと?」
「ええ、そうよ」
「彼は古書店でもそうだったけれど、いつもあんな感じか?」
「…そうね。大抵グリフィンドール生にはあんな感じでしか接しているのしか見たことないわ」

あれじゃあ、嫌われるのも無理ないと思うんだが。
そもそもあのミスター・スネイプの態度が原因で、彼がターゲットになってしまっていると考えるのが妥当な気がする。
つまり、”フィルチさん”も”ミスター・スネイプ”も自業自得かもしれないということだ。
まぁ、少し行き過ぎた報復をしているようだが…?

「そうだね…、ジェームズ・ポッターがリリーのことが好きならば、その悪戯の行動に関しては気持ちは分からないでもないよ、私は」
?!」

の言葉にリリーは驚く。

「よく考えてごらん、リリー。彼らは遊び足りない年頃だ、それを校則などに縛り付けられたら嫌だろう?」
「年頃って…も同じ年でしょう?」
「過ごしている環境が違うからね、リリー。私が過ごす大学は厳しい校則もない、人の道として外れたことをしなければあとは成績次第というなんとも分かりやすいものだ。だが、ホグワーツは違うのだろう?アレは駄目、これは駄目と自由を奪われるのは面白くない」
「それは…でも!校則は守らなきゃ駄目よ!」
「何故?」
「何故って……!」

はっとしてリリーは考える。
校則は守らなければならないもの。
それは学校に入ってしまえば当たり前のこと。
でも、何故?

「校則というのは大人たちが考えた、生徒たちが皆過ごしやすくするための法則。でも、教師たちが生徒たちをまとめやすくする為でもあり、学校の評判を落とさない為のものでもある。いや、学校の評判というのが一番大きいかな?」

苦笑しながらは答える。
自分も校則に縛られた学校に通っていた時期があった。
だから分かる。

「人として考えてみれば、校則を破ること自体は大して悪くない。それが人の道を外れたものでなければね。ジェームズ・ポッターがやっていること。それは子供らしい反抗だと思うよ、私は」
「反抗なんて可愛いものじゃないわよ…」
「いや、十分反抗だよ、リリー。自分の持てる力で自分の意思を示している。とても勇気ある反抗だよ。その被害を受ける方はたまったものじゃないだろうけどね…」

ただ、ジェームズの場合は面白半分でやっている部分もあるだろう。
その辺りは流石にでも同意は出来ない。
だが、悪戯を行うことに関しては分からないでもないのだ。

「まず、リリーから少し理解を示して歩み寄ってみるのが大切だと思うよ」
「私が…?」
「このままの状態が嫌ならば自分から動かなければ駄目だ。リリーがまず一歩近づいて…そして相手の出方を見てみてはどうだ?リリーが歩み寄ったことに気がつかない程度の男ならそれまで、それに気づいて自分の行いを省みてみるなら”大嫌い”を撤回してもいいんじゃないか?」

ホグワーツは7年制と聞く。
今度6年生になるリリー。
あとホグワーツでは2年しかないのだ。
少しずつ歩み寄るには今からはじめなければ難しいのではないのだろうか。

「大嫌いなのはどんなことがあっても変わらないわよ」
「それはどうかな?”大嫌い”から”嫌い”くらいにするつもりはない?」

ジェームズにしてみれば”大嫌い”も”嫌い”も同じく嫌われているので大して違いはないかもしれないが…。

「…なる、かもしれないわ…」

本当に小さな声でぽつんっとリリーは呟いた。
その言葉には苦笑したのだった。

彼氏のフリをしてジェームズ・ポッターを追い払う予定だったが、その予定は変更になりそうである。
リリーが言うほど、彼は悪い子ではなさそうだから…。