マグルにおける魔法使いの考察 1






は、16歳ながら大学院生である。
イギリスの某大学の工学部所属。
幼い頃から機械いじりが好きで、その手の知識は大人に勝るほど。
好きなことを学ぶ為に普通の子供より長い時間をかけて勉強をし、がむしゃらに覚えるべき事を覚えて、大学まで一気に駆け上がった。
11歳にして大学入学である。
そして現在、修士課程は修了し博士課程の開始、つまりは大学院3年目である。
は大学生活を十分に楽しんで現状はとても満足だった。
囲まれるのは年上が多いが、皆似たような趣味の集まりである。
話は大いに盛り上がる。
そう、現状は大満足だったのだ…。


話は変わるが、この世の中には魔法というものが存在することをは知っている。
11歳になる頃、の元に『ホグワーツ魔法魔術学校』の入学許可証の手紙が届いたからだ。
隣に住む幼馴染の元にも同じものが届いたらしい。
幼馴染はそのホグワーツに行ったのだが、は入学を拒否した。
本人曰く、「好きでもないものを学びに行って何になる?」とのこと。
その頃は丁度大学に入学できるかどうかの一番忙しい時期で、魔法学校などどうでもよかったのだ。
だが、魔力がある子を野放しに出来ないと『魔法省』も乗り出してきた。
の家は非魔法族…つまりマグルである。
しかし、叔父は魔法使いだったらしく、叔父が直接魔力の制御を教えるということで話は落ち着いた。
現在その魔力をが何に利用しているかといえば……大学の実験用具の取り寄せ、手がもう一本欲しいときなどに物浮かせたり…と、物の移動、転移に使用していた。
本人は気がつかないが、物の転移魔法は随分高度なものである。
こうして、は魔法とはあまり縁のない生活をずっと続けていくのだと思っていた。



!お願いがあるの!!」

久しぶりに帰省し、のんびり機械工学の専門書熟読に浸っていたに叫びながら訪問してきたのは幼馴染だった。
赤茶色のストレートヘア、エメラルドグリーンの瞳が印象的なとても可愛らしい少女。
が入学を断ったホグワーツに入学し、魔法を学んでいる少女である。
現在はイースター休暇中らしい。
魔法使いの卵である彼女とは、昔と変わらず帰省するたびに仲良く話をしている。
魔法使いが使うというフクロウ便で文通をしているくらいだ。

「リリー?どうした?」

ぶっきらぼうな答え方だが、これがの話し方だ。
男の子みたいだからやめたほうがいいと言われることもあるが、この話し方が普通になってしまっているとしては直すほうが大変だ。


「私の彼氏になって!!」


綺麗な髪をサラリっと揺らしながら幼馴染のリリー・エヴァンスはとんでもないことを言ってきた。
は女である。
そして勿論幼馴染のリリーも少女である。

「リリー…私はこれでも生物学上XXの染色体…」
「そんな難しい表現使わなくても分かってるわ!は女の子なのは分かっているの!そうじゃなくて、彼氏のフリをして欲しいの」
「フリ…?」

の言葉にリリーはこくりっと首を縦に振る。
リリーは至極真面目な顔つきだ。
冗談ではないのだろう。

「何でまた…」

そんなことを突然言い出すのか、この幼馴染は。
確かにリリーは綺麗で可愛い。
ホグワーツという学校でもモテてはいるだろう。
だが、リリーの性格からいってそこらの男どもなど軽くあしらえるだろうに…。

「しつこいのが一人いるのよ。どれだけ邪険にしても諦めないし…それに……!」

がしっとリリーがの肩を掴む。
結構力が強くて痛い。


「私、あいつが大嫌いなのよ!!」


大声で叫ぶリリー。
はそのリリーの様子を冷静に見つめて思う。
リリーは本当に大嫌いな相手に対してはこのような態度は取らない。
冷静に対処するくらいは出来るはずだ。
ならばこの態度から推測されるのは2つ。
その相手が相当腹が立つほどにリリーにしつこくしつこくそれはスッポンのようにしつこく迫っているからか、もしくはリリーが怒っているのはその相手の態度であってさほど相手のことを嫌っていないか…。
というよりも、もしかしたら嫌よ嫌よも好きのうち…?

「その大嫌いなそいつを追い払う為に?」
「そうなの!私には好きな人がいるって言っても信じてくれないのよ!」
「ふぅ〜ん、リリーって好きな人いるんだ…」
「いるわけないでしょ?そんなのあいつを遠ざける為の嘘よ」

だろうね…とは思う。

「でも、リリー。私はこれでも女だよ?」
「大丈夫よ、なら十分カッコいいものv」
「………アリガトウ」

も自覚はしている。
16歳とはいえそろそろでるところが出てきてもいい年頃。
だがは、ぱっと見は綺麗な男の子に見えてしまう。
体のラインがハッキリ出るものを着たりすれば女の子だとは分かるだろうが、生憎が着るのは動きやすい服装で男物が多い。
黒く長い髪はいつも後ろで無造作にひとつに縛られており、細い眼鏡をかけて知的にも見える。
眼鏡から覗く蒼い瞳は切れ長で、やはりカッコいいのだ。

「別に彼氏のフリは構わないが、リリー?そいつってホグワーツの生徒なんだろう?」
「ええ、そうよ。同じ学年、しかも同じ寮!」
「どうやってマグルの私を紹介するんだ?」

本来、マグルと魔法使いが出会うことは珍しい。
魔法使いはマグル界に関して知らないことが多い為、魔法族でまとまって暮らしているところから離れない。
は何度かリリーに連れられて『ダイアゴン横丁』という所に行ったことがあるが、やはりこちらのマグルの世界とは違うものだとはっきり感じた。

「ダイアゴン横丁で何度かデートしましょ、v」

にこっとリリーが微笑む。
はその言葉にため息をつく。

「そうくると思った…」
「いいでしょう?ダイアゴン横丁なら、も何度か行った事あるし…」
「構わないけどね。ダイアゴン横丁でソレに会える可能性はあるのか?」
「あるわ」

きっぱり言い切るリリー。
よほど自信があるのか…。
それだけ相手の性格を熟知していると言うことなのだろう。
本当に大嫌いなのか…?

「それで…いつ?」
「明日からよ」
「あ、明日?!

急すぎる。
は現在帰省中で課題も研究もあるわけではないが…。
読みたい本がまだ沢山あるのだ。

「本持っていっても構わないわよ。漏れ鍋に泊り込みするつもりだからv」
「泊り込みぃ?!!ちょっと、待て、リリー!」
「待てはなしよ。だってOKしてくれたでしょ?」
「うく…」

にこりっと笑みを向けるこの幼馴染にはどうも弱い。
昔から彼女のお願いは断れないことが多い。
に重要な用が入っているときは彼女は頼みごとなどしてこない。
実にタイミングよく、時間の空いているときに断れなさそうに頼みごとをしてくるのだ。

「君は年々頼みごとの手口が狡猾になってくるな、リリー」
「あら?に勇気をだして頼みごとをしていると言って欲しいわ。いつもに頼みごとをする時はとても緊張しているのよ?」
「緊張…?スリルの間違いじゃないのか?」

呆れた様なの言葉にくすくすっと笑うリリー。
ははぁ…と軽くため息をつく。

「ダイアゴン横丁では確か魔法界のお金へと換金もできたはずだね?」
「ええ、グリンゴッツで出来るわよ。何か買うの?」
「本を少しね…。また別の全く違う本を読めば新しい発想ができるかもしれないし…」
はマグルにしては珍しいわよね。魔法使いを否定しないもの」

リリーはにもホグワーツ入学許可証が来た事を知っている。
その入学を拒否したことも。
てっきり魔法自体を拒否したのだと思っていた。
でも、の言葉や態度からして違うと言うことも今は分かっている。

「魔法界に興味あるなら、ホグワーツに通えばよかったのに…」
「仕方ないだろう。あの時は丁度大学入学と重なっていたんだ。猛勉強して受かった大学を蹴ってまで行こうとは思えなかったからね」

見たことも聞いたこともない魔法学校よりも、大好きで知りたいことが沢山ある大学への進学を優先した
現状は満足なのである。

「ダンブルドア先生はとても残念がっていたわ。の魔力はとても高いから勿体無いって…」
「ダンブル…?ああ、いつか言っていたホグワーツの校長先生だな。とは言ってもね…魔法省の言いつけ通り魔力が暴走しないようにコントロールする方法は覚えたわけだし構わないだろう?」
「それでも、魔力があるのにそれをずっと使わないでいるのは少し勿体無い気がするわ、…」
「私は今のままでいいよ。以前は魔力を暴走させて町を破壊させる心配があったかもしれないけど、魔力をコントロールできる今は普通のマグルとして生きていけるからそれで十分」

リリーには杖なしで物を浮かせたり、物を移動させたり出来ることは言っていない。
なんでも未成年が魔法を使うのは法律で禁じられているとかなんとか、と聞いた覚えがあるからだ。
魔法を使っては駄目なのだろう。
では何故の魔法は大丈夫なのか。
それは簡単である。
が魔力のコントロールを覚えた場所は魔法省公認の場所。
マグル界で魔法を…物を浮かせたり移動させたりする…使うようになる頃には未成年の魔法禁止の法律を知っていたので、叔父やたまにくる魔法省の役人からこっそりどうやって見つけているのかを聞いただけだ。
魔法感知を無効にしながら魔法を使用する。
大きな力と細かな魔法の組み立てが必要なのだが、はそれをやってのけている。
慣れというのは怖いもので、今ではそれに慣れてしまったは魔法感知を無効にしながら杖なしで便利な魔法を使いこなしていたりする。
でも、魔法使いになる気は全くない。


「ところでリリー。そのしつこい相手の名前は?」

特徴も聞いておかなければ。
相手が単体でいるならばいいが、複数でいた場合、全く違う人を相手にしていては意味がない。

「ジェームズ・ポッターよ…、黒い髪でダークブルーの目に丸眼鏡。会えば私への態度ですぐにどれか分かると思うわ」

嫌々ながらも口にするリリー。
表情はむっとしているものの、やはり大嫌いの相手のことを言っているようには見えない。
なるほど、ジェームズ・ポッターね。
とりあえずはその名前を頭の中に刻み付けた。