星の扉 15





この間の大変だったのか楽だったのか…ザックスにしてみれば楽だっただろう…ミッションでザックスはソルジャー1stに昇格した。
そんな簡単に昇格していいものなのかとクラウドは思ったのだが、ザックスは実力的にはすでに1stの実力ではあったらしい。

(ザックスってあの適当大雑把な性格で損しているとこあるよな)

そう思いながらクラウドはのんびりと周りの風景を見ていた。


ここはミッドガルから少し離れた草原。
本日は休暇をもらった為、クラウドはここで魔物相手に感覚を完全に取り戻そうとしていた。
なんであれ、これからは強さが必要になってくる。

『マスター、やはりマテリアがあったほうがいいのでは…?』

頭の中にアーサーが話しかけてくる。
魔物相手のバスターソードを振るっての戦い方もあるが、クラウドは魔法をなんとか使えるようになれないものかと思っていたのだ。

(そうだな、やっぱり魔法は何かあった時のために必要だよな。多数の敵を相手にするなら魔法があったほうが効率いいだろうし、長期の旅をする場合も同じだしな)

『マテリアがある場所に取りに行くのが一番いいかと思いますよ』

(ああ、そうだな)

一息ついて休憩していたクラウドは立ち上がり、バスターソードを手に取る。
記憶にあるマテリアのある洞窟などは、ここからは遠い。
流石に長期間ミッドガルから離れるわけには行かない為、近場でそのような場所がないか情報を集めればいい。

「せっかくだから、カームにまで行ってみるか」

ミッドガルのスラムで噂話を集めれば、ある程度の情報が集まるだろう。
しかし、せっかく外にまで来たのだから、別の街で情報を集めるのもいい。
ミッドガルから一番近い小さな町カーム。
クラウドはそこに向かう事にした。




ミッドガルから見て北東にある町カーム。
ミッドガルから供給される魔晄エネルギーで生活が豊かになりつつ町である。
モンスター対策の為、現在町の周囲に高い壁を建設中のようである。
その間傭兵達が雇われ警護している為か、クラウドは何も疑われずに町の中に入れた。
別にこの町で何をしようというわけではないのだが…。

(まずは酒場、だな)

クラウドはそう思い、酒場まで迷いなく歩きながら向かう。
この町に来るのは”初めて”のはずのクラウドだが、この町は昔来た時とあまり様子が変わっていないため迷う事はない。
何事もなく酒場で情報を集められると思っていたクラウドだったが…

どんっ

突然前に出てきた相手にぶつかってしまう。
転ぶような事はなかったが、相手も走ってきていて前を見てなかったらしく、クラウドも相手もよろける。

「ちっ…!」

ぶつかった相手は、少年とも見え青年とも見える黒いロングコートにサングラスをかけた姿だ。
舌打ちが聞こえたところを見ると誰かに追われているのだろうか、焦った様子も見えるがその格好では怪しいだけである。
彼がクラウドの方を見て、後ろの方をちらっと見る。

(…どこかで見たことある顔のような気がするな)

彼の顔を見てクラウドはそう思うが思い出せない。

「君さ、腕に自信はある?」
「は?」
「あるの?ないの?急いでいるんだけどな」
「…ある程度なら」

クラウドはそう返事を返す。
そこらのごろつきが束になって襲ってきても対処できる程度の実力はあるつもりである。
ドラゴンレベルの化け物を相手にする場合は、アーサー達の力でも借りなければ勝てないだろうが…。

「それなら報酬ははずむから、暫く僕に付き合ってくれない?ちょっと行きたいところがあるんだけど、煩い監視があるし、1人だけで行って怪我なしでいける自信はないんだ」
「いや、でも俺、仕事あるから長期は無理だ」
「仕事?仕事って何?報酬はそれ以上出すよ?」
「そういう問題じゃなくて休むと迷惑かけるし、色々不都合が出る」
「だからその仕事以上の報酬払う………って、まずい!」

彼はクラウドの腕をぐいっと引っ張って走り出す。
意外と強い力でつかまれた腕は離れる事なく、クラウドはそのまま引きずられるように彼についていく事になる。
やはり何かに追われているらしい。

「おい……!」

クラウドが抗議の声を上げるが相手はそんな声など気にせず走り続ける。
相手は町の外に向かっているようである。
腕を振りほどけない以上このまま付き合うしかない。
引きずられながらも、クラウドは小さくため息をついたのだった。




勢いのまま引っ張ってこられ、カームの外まで来てしまった。
町の外の草原ならともかく、彼は小さな森の方までずんずん進んでいく。

「おい!これ以上行くと魔物に襲われるぞ!」

戦闘とは縁のなさそうな格好と体つきからクラウドは忠告する。
最も、クラウドとて人の事はいえない体つきだ。
服装はともかく、バスターソードを持っていることから戦う事は出来るだろうとは思えるが、小柄な体から、多数の魔物に襲われたらあっというまにやられてしまうのではないのだろうか、という雰囲気だ。

「この辺りの魔物くらい大した事ない」
「大したことないって…」

確かにこの辺りの魔物は、さほど強くない。
だが、たまに桁違いの強さの魔物が出てくる事もあるのだ。

「まぁ、でも、この辺りまで来れば大丈夫かな?」

彼は歩みをぴたりっと止める。
もう森の中には入ってしまっている。
木々の間から草原が見えるので、すぐに見晴らしのいい草原に戻る事は出来るだろう。

「とりあえずは…」

彼が懐から1丁のリボルバーを取り出す。
体に似合わずかなり物騒な武器だ。
クラウドも何かに気づいたようにバスターソードを構える。

「この辺りの雑魚を一掃してから話をしようか」

クラウドは思わず小さくため息をついてしまう。
どうしてこんな事になってしまっているのやら。
がさがさっと音を立てて、レブリコンが十数匹出てくる。
確かに雑魚と言ってもいい敵だ。

「面倒だな…」
「そう思うなら早く片付けよう」

(誰が巻き込んだんだよ!)

クラウドは内心怒鳴りながらも、剣を振るう。
数が多い敵は面倒な事、この上ない。
彼もリボルバーを的確に打つ。
命中率は中々のものだ。

ざんっ!

バスターソードを一閃。

ガンガンッ!

リボルバーが火をふき、魔物に穴を開けて消滅させていく。
クラウドにも彼にも傷ひとつない。
攻撃を身軽に避けながら、攻撃をしていく。
そう時間もかからず、魔物の殲滅が終了する。


「雑魚は雑魚。この程度なら問題ないんだけどね〜」

手馴れた様子でリボルバーを元の位置におさめる彼。
綺麗な金髪は前髪が少し長めで、サングラスにかかっているほど。
黒いロングコートが少しだけ違和感を感じる。
サングラスから僅かに覗く瞳の色は蒼。

「あ、あんた…」

瞳が見え、クラウドは目の前の男が誰なのか分かった。
道理で見覚えがあるはずだ。
男というよりも、年齢からして少年と言ってもいいかもしれない。
彼は17歳のはずだから。
彼はクラウドが驚きの表情を見せたのに気づく。
ふっと笑みを浮かべて、サングラスを外す。

「そう言えば、僕から名前を名乗った事はなかったね」

彼の口調に違和感を感じてしまうクラウド。
昔はこんな口調だったのだろうか。
クラウドの知っている”彼”は、もっと偉そうな口調だった。

「ルーファウス・神羅だよ。クラウド・ストライフ君」

(何だ、俺が誰だか気づいてあんな事言っていたって事か?それなら仕事があることくらい分かるだろうに)

「ああ、君がクラウド君だって気づいたのはさっきの戦闘でだよ。今の今までクラウド君の事を忘れていたからね」

ルーファウスの言葉に内心クラウドが文句を言っても仕方ないだろう。
ただのいち兵士のはずだったクラウドが、ソルジャーの…といってもルームメイトのザックスなのだが…下士官などをやる羽目になった原因が彼なのだから。
忘れていたというのは結構酷いだろう。

「だってね〜、僕の気まぐれで選んだ人って、大抵僕が名前を覚える前にいなくなっちゃうからね。頭の隅っこにデータとしてはあるんだけど、思い出すのに時間がかかるんだ」

まるでクラウドの心の中の思いを読み取ったかのように、ルーファウスは話す。
そんなに自分は感情が表情に出てしまっているのだろうか。

「あ、でも丁度いいね。クラウド君、悪いけど暫く僕に付き合ってよ。というか、僕に付き合え。命令だよ」

思わずバスターソードの握る手に力が入ってしまっても、誰もクラウドを責めないだろう。
どうしてこう高圧的に命令するのだろうか。
こんな命令の仕方では、反発したくなる。

「行き先は、ニブルヘルムだよ。君にも利はあると思うけどな」

ぴくりっと反応するクラウド。
ニブルヘルムはクラウドの故郷であり、神羅屋敷もすぐ側にある。
神羅屋敷はクラウドにとってはいろんな意味での分岐点だった。

「故郷を出てきたんだよね。たまには帰りたいと思わない?」

ルーファウスはクラウドの反応を故郷に帰りたいからだと誤解している。
クラウドとて故郷が恋しくないわけではない。
唯一の家族である母に会いたくないわけではない。
だが、クラウドは大切な少女と親友、そして憧れた英雄の未来を変えたいがためにここにいるのだ。

「クラウド君の強さは、さっき平原でしっかり見させてもらったし。丁度いい護衛になる思うんだよね」

クラウドは僅かに顔を顰める。

「平原から見ていたんですか…?」

そんな前から見ていたならクラウドだと言う事に気づいて欲しかったと思うのは間違いだろうか。
彼の基準が人と少し違うだろう事はわかっていたが…。

「見かけたのはたまたま。ぶつかったのは故意。神羅兵と分かっていて、クラウド君だと分かっていて声を掛けたわけじゃないけどね」
「……そうですか」

平原で間違ってもナイツ・オブ・ラウンドを使わなくてよかったと思った。
あんなものを使っているのを見られたら、どんな反応が返ってくるのか分からない。
問い詰められる事は確実だっただろうが。

「拒否は認めない。ニブルまでの同行、よろしくね。…ああ、それから」
「なんですか?」
「その丁寧語禁止ね」
「何故でしょう?」
「お忍びで出かけるから、僕に君が敬語使ってると変に思われるかもしれないからね。後、僕の事を呼ぶときは”ルー”で。間違ってもフルネームで呼ばないように」

お忍びって、あんたニブルに何しに行くつもりなんだ?
別に何もない田舎町だし。
何かあるとすれば神羅屋敷にセフィロスの出生の秘密があるくらいで…。
ああ、ソルジャーを作り出す工場みたいなのもあったか。

「…わかった」
「ん、よし。君の仕事に関しては、帰ったら僕が口ぞえしてあげるから安心してくれていいよ。じゃ、行こうか」

ルーファウスが歩き出したのはカームとは反対の方角。

「カームで準備はしなくていいのか?」

ニブルヘルムまではかなりある。
2〜3日でつけるような距離ではないのだ。
大陸も別な為、海を越える事にもなる。
それなりに準備をしていく必要はないのだろうか。

「カームにはツォンが追ってきてたからね。まぁ、なんとかなるよ。…変装も意味なかったし」

ルーファウスは前髪をかきあげる仕草をする。
もしかして、前髪を下ろしていたのと、黒いコートは変装のつもりだったのだろうか。
見る人が見ればすぐ分かるだろうに。

(本当に、大丈夫か?)

不安に思ってしまうクラウドだった。




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