星の扉 14




島の探索はすぐに終わった。
ザックスが本社へと無線で報告を済ましているうちに、島をまわりきってしまった。
クラウドとセフィロスが、ヘリがある場所へと着いた頃にちょうど通信が終わったようだった。
それだけこの島が広くはなかったというわけだ。

「他は特に何も無かったようだ。戻るぞ、ザックス」
は?マジで…?」

この仕事でソルジャーの1stになれるかどうかが掛かっているザックスにとって、こんなにもあっけないのは意外だったようだ。
ぽけっとした表情をしている。

「旦那が来るっつーから、とんでもないモンスター相手にしなきゃならねぇかと思ってたのになぁ…」
「そういう可能性があったというだけだ。運が良かったな」
「まぁ、楽なミッションなのはいんだけどよ」

なんか、物足りないんだよな〜と空を仰ぐザックス。
何事もなく、大事もなく終わったミッションである。
あっけなさすぎて物足りない。
そんなザックスをクラウドは苦笑しながら見ていた。
クラウドにとっては物足りない所ではなく、得るものが大きかった。

「大変なのはこれからだろうがな」
「は?何の事だよ?旦那」

セフィロスの言葉にきょとっとなるザックス。

「何かあるはずだった場所に何もなかったのだからな。科学部門が納得いくような書類を提出する必要があるだろう?」
げげ…!

感知されたはずのエネルギー源は一体どこからだったのか。
それらしいはっきりとしたものが分からなかったのだから…。
ザックスは報告書類関係がとてつもなく苦手なのである。
そう言われると、大変なのはこれからだ。

「クラウド〜〜」

情けない声を出すソルジャー2ndである。
クラウドははぁ〜と大きなため息をひとつ。

「分かってるよ。俺にやれって言うんだろ?」
「お前だけが頼りだ!!」

(そうやって爽やかに頼まれると、素直にやりたくなくなるんだけどな。今回はアーサー達のことを誤魔化す為に俺がやるつもりだからいいけどさ)

「洞窟の中に入って中見れたの俺だけだから、ちゃんと俺が報告書類の作成手伝うよ、ザックス」
「マジ?!」
「こんな事で嘘ついてどうする?」
「すっげぇ感謝するぜ!クラウド!」

ばしばしっとクラウドの背中を叩くザックス。
ザックスはそんなに力を込めていないのだろうが、ソルジャーでもなんでもない普通の人間の体のクラウドにとっては結構痛い。
加減というものを知らないのだろうか、この男は。
そう思ってしまっても仕方ないかもしれない。

「感謝はいいけど痛い」
「あ、わりぃ!」

一瞬すまなそうな顔をしたが、やはり書類と格闘しなくてすむ嬉しさからか、表情から嬉しさが完全には消えない。
そこまで書類作成が苦手らしい。

「あまり、甘やかさない方がいいじゃないか?」
「サー・セフィロス?」
「ああいうタイプは一度甘やかすと、次も同じことになるかもしれないぞ?」

そうかもしれない。
長い間とは言わないが、それなりの期間、寮で同室なのだからザックスの性格くらいは分かっている。
今回は本当に仕方がないのだ。
そう、色々な意味で…。

「今回は仕方がないですよ。それに、俺が書類の手伝いができるのも短期間だけですし」
「短期間で済めばいいがな」
「……そう嫌なこと言わないでくださいよ」

呆れたようなセフィロスの言葉に、クラウドは少し顔を顰める。
ザックスとて、いつもクラウドばかり頼る事はしないだろうと思う。
彼は苦手なことを人に押し付けて楽をしようという性格ではないからだ。
クラウドが本当に大変ならば、本当に嫌がって断れば、押し付けてくるような事はしない。

「ルーファウスの気まぐれは長く続くわけではないからな、あれの秘書が無理だと思ったらきちんと断ればいい」
「断ってもいいんですか?」
「ただの気まぐれ程度の気持ちなら相手が心底嫌がっているなら諦めるだろうさ。………多分な」

(その”……多分”ってのはなんだよ、すごく怪しいぞ。けど、俺が思うに、ルーファウスって相手が嫌がればそれを面白がってさらに嫌がらせするような気がするんだけどな。相手が嫌がって諦めるような素直な性格じゃない気がするんだが…)

「だといいんですけどね」

クラウドは思わず小さくため息をついてしまう。
別にルーファウスの秘書でもなんでも構わないのだ。
一度だけ少し長い休暇をもらえれば。
いっそのこと神羅カンパニーの兵士を辞めてしまえば早いかもしれない。
だがそれだと、これから起こるジェノバを中心とした事件…と呼べるのだろうか…がどうなるかが分からなくなってしまうかもしれない。
良くも悪くも、ジェノバに神羅は関わり続けている。

「どうしようもない時はオレの下士官にでもなればいい」
「は…?」

なんであんたの下士官になるんだ?

「ルーファウスでもオレの下士官に手をだそうとは思わないだろうからな」

セフィロスの強さとカリスマ性で神羅があると言ってもいいくらい、セフィロスの存在は重要だ。
その強さとカリスマ性が上層部に疎まれていようとも。
そのセフィロスの下士官を無理やり異動などさせれば、いい噂にはならないことは確実だ。

「そうですね。どうしようもなくなったその時は、お願いします」

冗談まじりにだが、クラウドは笑みを返した。
内心ではやっぱりセフィロスは変な人だと改めて感じていたりする。
一介の兵士…とクラウドは自分でそう思っている…に対してこんな風に言葉をかける英雄など変わっていると。

(書類よりもなによりも、問題は乗り物酔いなんだよな…)

頭の片隅で、クラウドは帰りのヘリにうんざりしていた。
乗り物酔いがよくなるのは、果たしていつの事になるのだろうか。




ソルジャーの執務室にいるのはクラウドとセフィロス、それからザックスの3人だ。
あの後忘れないうちに書類の作成をしようと思い、クラウドはそれをザックスに提案した。
「真面目だな〜」とザックスに言われつつも、こういうことは早めにやってしまうのが一番だと思っている。
ザックスのように後回し後回しにしていたら、たまってしまって後が大変になるだけだ。
ザックスが書類を山のようにためる原因は結局の所。

「性格に問題ありか…」

ぽそっと呟くクラウド。

「クラウド?何か言ったか?」
「いや、別に」

クラウドの正面に座り、のんびりとコーヒータイム状態のザックス。
クラウドはパソコンに向かいつつ書類の作成である。
頭の中で情報を整理して、矛盾のないように報告書類を作成しなければならない。
余計な事は書けないが、何もなかったと報告するわけにはいかない。

「クラウドがオレの下士官ずっとやってくれてたら楽なんだけどな〜」

コーヒーを飲みながらだらだらしているザックス。

「下士官が欲しいなら希望すればいいだろ。この程度の書類作成をザックスより早く正確に出来るやつなんてごろごろいると思うけど?」
「能力が問題じゃないっつーの。そりゃオレより事務処理能力あるやつはそれこそ山のようにいるだろうけどさ」

これではザックスは自分の事務処理能力が低いと断言しているようなものである。
それでいいのか?と思ってしまうが、それが彼らしい所なのかもしれない。

「やっぱ、気兼ねしない相手が一番じゃねぇ?だから旦那も下士官なんていないだろ?」

セフィロスもザックスも、ソルジャー1st付の下士官は少ない。
ザックスは1stではないのだが。
3rdのソルジャー付の下士官はそれなりにいる。
ソルジャーはクラスが上になればなるほど、ひと癖もふた癖もある人格の人が多い。
その為にソルジャー本人が承知しない、又は下士官が耐え切れなくなって辞めていってしまうという事が多いらしい。

「そういうものなのか?」
「そーゆーもんなの。な?旦那もそうだろ?」
「そうだな。特にソルジャーは精神面の強さが問われるから、精神を不安定にさせるような下士官ならばいない方がいい」

そう言えば、とクラウドは思い出す。
自分の意志の強さがなければソルジャーにはなれないことを。
過去、自分は魔晄を浴びてソルジャーと同様の処置をされたが、精神面で弱かった為に失敗作とされた。
ソルジャーになるにはジェノバ細胞の侵食に負けない意志の強さが必要になる。
まだ、あの頃はそんなことは知らなかった。
ただ強くなれば、力が強くなればソルジャーになれるのだと思っていた。

「けど、結局の所はザックスが書類作成上達すればいいわけなんじゃないのか?」
「う……」

苦手な事をカバーしてもらう為に下士官が欲しいのだろうが、他のソルジャー達は下士官がいなくても自分のことは自分でできている人もいるのだ。
気を使わず、なおかつ能力的にも申し分ない相手を探すくらいなら自分の能力を上げればいい。
それが出来れば苦労しないだろうがザックスには無理かもしれない。

(相変わらず、すごいのかすごくないのかよく分からないよな、ザックスって。昔から変だったけど…………。もしかして、ソルジャーって変わった奴の集まりなのか?セフィロスも変わっているし)

ザックスにびしっと一言言ったクラウドはパソコンに集中する事にした。
会話をしていては進まない。
こういうものは早く終わらせるのに限る。
セフィロスとザックスをちらっと見るクラウド。
対照的な2人だが、共通点は変わっている人。

(やっぱ、ソルジャーって変わってる人の集まりなのか……?)

少し間違った認識に傾いてきているクラウドであった。




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