星の扉 06





次の日、正式な辞令が下され、制服も一般兵のものとは少し違うものを支給された。
ザックスと同じ執務室を使用しているソルジャー達との面会はしばらく先になるとのこと。
ここは殆どが1stのソルジャーばかりで、現在セフィロスを初めとした彼らは魔物討伐のミッションに出ているらしい。
かなり手強いモンスターが出たらしく、1stソルジャー2人が出向いたようだ。

「旦那以外は、全員愛想いいぜ〜。だから安心しろよな」

くるくるっとバスターソードをまわしているザックス。
ザックスの言う”旦那”とはセフィロスのこと。
世界広しとはいえ、英雄セフィロスをそんな気軽に呼べるのはザックスくらいだろう。

ちなみにここはソルジャーの訓練場である。
急ぎの書類は昨日の3つの簡単な報告書類だけだったようで、今日はザックスが手合わせに付き合ってくれると言っていたのでここに来た。
他にも大量に詰まれた書類が目に入ったのだが、「急がねぇ〜から、いつでもいいって」
というザックスの言葉と共に訓練場まで引きずられた。

ソルジャー専用の訓練場に入るのは初めてである。
クラウドの得意とするのもザックスと同じくバスターソード系統である。
今の自分がどれだけの実力があるのか知りたい意味もあり、この手合わせはもってこいかも知れない。
だが、頭の中で思っている動きにどれだけ体がついてくるかが問題である。

「ちゃんと構えろよ、クラウド。手加減はしてやるかなら」

にっと笑みを浮かべるザックス。
その表情が楽しそうなものに見えるのは気のせいではないだろう。
ザックスは好戦的なタイプに見える。
別に無闇やたらに戦いを挑むのではなく、強い相手と戦うことに喜びを感じるタイプ。
ガチっと音を立てて、クラウドはバスターソードを構える。
いつもより重く感じるのは、この時の自分の力がまだ足りないことを意味する。

「手加減したこと…、後悔させてやる」
「へぇ〜、やれるものならやってみろよ」

ソルジャーの証である魔晄の瞳にまっすぐ見られる。
魔晄の瞳はそれだけで恐ろしく感じる。
だが、今のクラウドにとっては恐ろしくも何もない。

だんっと地面を蹴りザックスに向かう。
ざんっとソードを振り下ろす。

ぎぃぃんっ

大きな音を立てて刃が交じり合う。
クラウドは両手でバスターソードを持つ。
対するザックスは片手で受け止めている。
余裕がありそうな相手に少々むっとするが、そのまま斬り付ける。
何度も刃を振り上げ、振り下ろしながらも全てそれは防がれる。
クラウドはその中で、自分の今の実力を冷静に分析していた。
体力的にはめいっぱいだが、精神的にはかなり余裕があった。

ソードを持つ腕は弱い。
体力も全て肉体的な力に関しては、全然ソルジャーに及ばないだろう。
ただ、感覚は当時のままかと思っていたがそうでもないらしい。
集中すれば、あの時ほどではないにしろ気配を捉えることができそうだ。
一般兵とはいえ、訓練をつんだ兵士になっていたクラウドである。
それなりに優秀だったのだから気配を掴むことも可能だろう。
そして、意外だったのが動体視力。
これは全く変わりなく視える。
体がついてこれば、防御は完璧かもしれない。

「どうした、クラウド。この程度か?」

余裕ありげなザックスに、クラウドはざっと下がる。
そして構えを変えた。

(試してみるか…)

右足を後ろへ、ソードを持った右腕を後方へと構える。
だんっと勢いよく大地を蹴り、その勢いで右腕を前へと…そして下から上へと斬り付ける。

ギンッ

嫌な音を立てて刃が交じり合う。
ザックスが少し驚いたような表情をしたのが見えた。
しかし、その表情は次の瞬間不適な笑みへと変わる。
クラウドは気にせずに冷静に刃を繰り出す。
交わる刃と刃。

たんっと一瞬大地に足を休ませたクラウドは、刃にほんの少し星の力をのせる。
そして、勢いよくザックスへと斬り付けた。
僅かに淡い緑色の光が剣の軌跡を追う。

ザックスの表情から笑みが一瞬消え、その瞳に殺気が宿るのが分かった。
クラウドの刃が空を切り、ザックスの姿が目の前から消えたように見えた瞬間、背後に気配が生まれたのが分かった。
気配を捉えても、動きを捉えても、体がついてこなければ意味がない。
とっさに左腕で自分の身体を庇ったが…


どんっ!!


吹き飛ばされる。
当てられたのは剣の柄の部分である。
狙われたのは腹の部分だが、左腕一本で庇ったために、ダメージは左腕一本だけだ。
クラウドは吹き飛ばされた体勢のまま、くるんっと一回転して、ざっと音を立てて綺麗に着地する。

「わりぃ、クラウド!大丈夫か?!」

慌てたようにザックスが駆け寄ってきた。
クラウドは怪我をした左腕の袖をまくる。
見事に真っ赤に腫れている。

「げげ!やば、骨いったか…?」
「大丈夫……だと思う」

とっさにだが受身は取った。
全ての衝撃を受けたわけではない。
受身を取って多少の力は流した。

「大丈夫なワケねぇだろ!お前の腕の骨が折れでもしたら……」
「折れでもしたら?」
「報告書類をオレがやらなきゃならねぇだろうがっ!!」
「…報告書類くらい自分でやればいいだろ」

呆れたようにザックスを見るクラウド。
本気でそんなことを言っていないのは分かるが、呆れてしまうのは仕方ないだろう。
ザックスはマテリアを取り出して、急いでクラウドに魔法をかけていた。
この光はケアル…なのだろう。

「大体な、クラウドお前も悪いんだぜ?」
「何が?」
「最後の一撃。あれで思わず本気だしちまったんだよな〜」
「それなら、それまでは本気じゃなかったってことなんだ」
「あったりまえだろ?ソルジャーが一般兵に本気出せるかっつの!本気出すってことはな、本気を出せなきゃ勝てない相手だってことだ。オレはソルジャーになってからは、魔物と同類のソルジャー相手以外には本気出したことねぇぜ?」

ソルジャーの強さが規格外のようなものであることをクラウドも知っている。
ザックスの強さは分かる。
今の自分がその強さから遠い場所にいることも分かる。
それでも、自分の今の実力がなんとなく分かっただけでよしとすればいい。

「にしても、クラウド、お前、いつの間にあんなこと出来るようになったんだよ?」
「あんなこと?」
「そ、お前、一瞬だけど魔晄を剣にのせてただろ?普通ソルジャーでもなきゃできねぇぜ?」

魔晄を剣にのせる。
確かにソルジャーでもなければ、”魔晄”というものが何なのか分からないだろう。
クラウドは”魔晄”がライフストリームであることを知っている。
星の流れ。
それを僅かながらも感じ取ることが出来るからこそ、剣に力をのせることが出来る。
剣の達人が”気”を使うのと同じようなものだ。

「別に…」

説明など出来るはずもない。
今の知識と感覚があるからこそ出来た事。
この当時の自分は知らなかったことだ。

「ま、なんにしても、だ。ソルジャーになるために結構頑張ってるんだな、お前。あと、1年だもんな」
「そうだな」

ソルジャーになる…か。
クラウドは心の中で呟く。
この当時はソルジャーに絶対になると心に決めていたのに、今はその執着心が全くない。
ソルジャーが何であるかを知ってしまったからか。
ソルジャーの試験を受けられるのは16歳から。
15歳になったばかりのクラウドは、あと1年待てば試験を受けられる。

「何?もしかして志望変わったか?あんなにソルジャーになるって言ってたじゃないか」

クラウドの覇気のない返事にザックスはからかうかのような口調で尋ねる。
小さく首を横に振るクラウド。
ソルジャーになりたいか。
そう聞かれれば、興味ない、と答えるだろう。

「そうそう、話は変わってさ。オレ、今度のミッションが成功すれば1stへの昇格がほぼ確実なワケよ。頑張ろうぜ〜、クラウド」

がしっとザックスは肩を組む。
ソルジャーのミッションは基本的に危険なものが多い。
一般兵が太刀打ちできない魔物の調査や戦闘、そして大規模なテロ組織など。

「今度のミッションっていつだ?」

クラウドは自分も同行することになることは分かる。
だが、ミッションのことなど全然聞いてない。
仮にもザックスの下士官。
スケジュールくらいは把握しておきたいものだが、ザックスはそっち関係の管理がずさんすぎる。
今までの書類の整頓からはじめなければやってられないのである。
当分それに追われそうだ。

「1週間後か?」
「どこに行くんだ?」
「あ〜…、どこだったか…?確か随分遠くて聞いたことないような場所だったのは覚えているんだけどなぁ〜」

なんともいい加減である。
これでは、手合わせなどやっている場合でなく書類の整理をとっとと終わらせたほうが賢明かもしれない。
クラウドは軽くため息をついて歩き出す。

「お、おい、クラウド!」
「身体を動かすのは後だ。自分のスケジュールも把握してないんじゃ困るだろ?書類整理を早くしたほうがよさそうだ」
「お前…真面目だな〜」
「あんたが不真面目すぎるだけだ!」

ザックスはクラウドの言葉に笑うだけである。
これでよくもまぁ今までソルジャーをやってこれたものである。
大きなため息をついて、クラウドは執務室にある書類と格闘するために気合を入れたのだった。




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