星の扉 02





のほほんとした空気をかもし出していたクラウドとエアリスだったが、突然の乱入者が現れる。
こんな古びた教会に来る人など珍しいとも言えるが、お目当ての相手がいれば来るのは当たり前と言えば当たり前なのか…。


「エアリス、やっぱここにいたのか…って、クラウド?!


大地がむき出しになっている土の上で胡坐をかいているクラウドとしゃがみこんでにこにこしているエアリス。
乱入者は黒いハリネズミのような髪形をした、魔晄の瞳の青年。
クラウドはその青年、ザックスの姿に驚きで目を開いた。
そして、ああ、ここは過去なんだな…と改めて自覚する。

「お前、なんでこんなところにいるんだよ?!」

驚くザックスに苦笑が漏れる。

「散歩」

クラウドは苦笑しながらもそっけなく答える。
この当時の自分はクールと言えば聞こえはいいかもしれないが、他人と好んで関わろうとしない臆病な自分だった。
おせっかいな性格の相手にはよく構われたが…、その筆頭がこのザックスだ。
ソルジャーだというのに、一般兵で田舎が遠くこの近辺には保証人もいないクラウドに、おせっかいを良く焼いていた。
クラウドもザックスには遠慮なくわがままも言っていた。

「相変わらずそっけないな〜、お前。もう少し愛想を身につけろよ、愛想を。このオレを見習ってさ」

にかっと笑みを浮かべるザックス。
そんなザックスにクラウドは呆れたような視線を返す。

「あんたを見習う…?どこを?」
「あ、ひでぇ…!その言い方はちょっとひでぇぞ、クラウド!」

子供みたいな青年である。
確かこの時、ザックスは18、クラウドは15である。
たまに子供のように年下のクラウド相手に本気ですねることがあるのだ、このソルジャーは。

「知り合い?」

エアリスが口を挟んでくる。
二人で会話していたクラウドとザックスに気を悪くした様子は全く見られない。

「エアリスには確か話したことあったよな?年下のオレの親友でルームメイトなんだよ、こいつ」

ザックスはクラウドの方に腕を回して、もう片方の開いている手でクラウドを指差す。
クラウドは人を指差すな、と思っていたりする。
だが、ザックスのこういう態度は昔から不快とは思わなかった。
人を避けたように暮らしてきたクラウドだったが、寂しいのは嫌だからだったかもしれない。

「ザックスの親友?すごいね〜」
「エアリス、それってどういう意味だよ…」
「え?だって、無茶な性格してるザックスによく忍耐強くついていけるな…て」

確かに忍耐は必要だ。
心の中で頷くクラウド。
それを決して表情に出したりしないのがクラウドらしい。

「にしても、本当にこんなところで何してたんだ?散歩にしては遠すぎないか、ここ」
「…別にいいだろ」
「まぁ〜た、お前はそんなそっけない答えを…」

クラウドの視線は教会に咲いている花へと向く。
コンクリートと鉄が悪いわけではないが、自然にの息吹を感じさせる花はとても温かい。
大地があれば心が休まる。

「ザックス、その子はね、きっとこの花に惹かれて来たんだよ。ね?」

にこっとエアリスに同意を求められ、クラウドは小さくだが頷く。
惹かれて来た、とは少し違うかもしれないが、言われてみればそうかもしれないとも思う。

「それより、ザックス。自己紹介くらいはさせて欲しいな」
「え?何?まだ名乗りあってもいなかったわけ?」

名乗りあう前にザックスが乱入してきただけである。
ザックスが入ってこなければ、恐らく今頃は名乗りくらいはお互いにしていただろう。
だが、クラウドにしてみれば名乗らなくても知っている。

栗色に近い茶色の髪を後ろでみつあみでまとめてある優しげな少女。
古代種、セトラの民の最後の生き残り。
クラウドにとってはとても大切な人で、守りたかった人。

「私は、エアリスよ。君は?」

笑顔のエアリス。
まだ、生きている。

「俺は、クラウド」

クラウドも僅かにだが笑みを見せる。

「よろしくね、クラウド」
「ああ…うん」

これがクラウドにとって、エアリスとの2度目の初対面。
クラウドを知らないエアリスでも、エアリスはエアリスに変わりがないことが少し嬉しい。
それと同時に、自分が彼女を見殺しにしてしまったことが事実だったと思わせて少し悲しい。

「ザックスとはどういう関係なんだ?」

昔、エアリスからザックスのことを聞いたことはあった。
交流があったことは知っている。
でも、恋人同士だったとか、友人同士だったとか、はっきりとしたことは聞いてない。

「オレはナイトなの。お姫様を黒服の悪いヤツラから守る騎士ってワケさ」
「報酬はデート1回ね」

ザックスがエアリスに笑みを向けるとエアリスは苦笑しながら付け加える。
黒服の悪いヤツラ。
それにクラウドは思い当たる。
クラウドとエアリスが昔会った時も、エアリスは狙われていた。
”タークス”に。
だが、タークスは神羅カンパニー総務部調査課だったはずだ。
神羅のソルジャーのザックスがそんなことをしてもいいのだろうか…。
クラウドはそう思ったが、そう言ったところでザックスはエアリスを守ることはやめないだろう。
それはらば言うだけ無駄だ。

「でも、クラウド。お前昨日夜勤で、しかも今日も夕方から本社ビルの入り口の警護の仕事があるんじゃなかったのか?別に散歩は構わないだろうけど、ゆっくりもしてられないだろ?」

ザックスの言葉に”そんなことは知らない”と返したい気分だが、今の自分は神羅の一般兵である。
やはりきちんと仕事をこなさなければならないだろう。
各地を渡り歩く傭兵のように行動できれば楽かもしれないが、クラウドはこの当時の自分が体力的にも技術的にも未熟であると自覚している。
この辺りの魔物ならばともかく、神羅屋敷やニブルヘイムまで行くならば、もっと腕を磨かなければいかない。

「そうだな…。それじゃ、俺は行くよ」

兵舎に戻って今後の仕事の状況や休みを確認しなければならない。
きっとやらなければならないことは沢山あるだろうから…。

「クラウド、また来てね」

エアリスが笑顔で言う。

「ああ…」

クラウドも笑みを返した。
セトラの民だからといって、ホーリーを発動させるためだからと言って、あの運命を受け入れるなんておかしい。
幸せになる権利は誰にでもあるのだから…。

クラウドは立ち上がって教会を後にした。
スラムにあるこの教会から神羅の兵舎までは随分と距離がある。
ゆっくり歩いていけば丁度仕事の時間に丁度いいかもしれない。
考えたいこともあることあり、クラウドはゆっくりと歩みを進めた。



教会の中、残っていたエアリスとザックス。
ザックスはクラウドが出て行った方向を見たまま呟く。

「あいつ…どうやってここまで来たわけ?」

”上”から”下”へ降りるのには許可が必要だ。
その逆も然り。
ザックスはソルジャー2ndという地位があるからこそ、結構気軽に降りてくることが出来る。
クラウドは一般兵だ。
許可など取れるはずもない。

「可愛い子だよね」

ザックスの呟きなど気にしないかのようにエアリスは微笑む。

「可愛い…って、そりゃ否定はしないけどな〜。その手のほめ言葉ってあいつ嫌がるからやめた方がいいぜ?」
「うん、あんまり嬉しくないみたいだったね」
「…嬉しくないみたいだった、か。……って、エアリス?!!まさか本人に言ったのか?!」

ばっとザックスが驚きでエアリスの凝視する。
ザックスが知る限り、クラウドは”可愛い”と言われるたびにむすっとする反応を返す。
それだけならばいいが、機嫌が悪いときは手も出てくるし、凍るような睨みもおまけつきだ。
クラウドにとっては禁句とも言っていい言葉になっている。

「うん」
「うん…って」

ザックスは、もしかしてクラウドはエアリスに惚れたか…?などと思っている。
方向性としては間違っていないだろうが、それは違う。
クラウドにとってエアリスはとても大切な少女だが、恋愛感情とは少し違う。

それでも大切な大切な少女。
ザックスは知らないだろうが…クラウドにとっては、ザックスも同じくらい大切な親友なのである。

クラウドの守りたい大切な者達との再会。
それは何かが変わる第一歩なのかもしれないのだった。





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