星の扉 00





大きな草原の中、クラウドは寝そべって空を見上げていた。
風がさぁ…と吹き抜ける。
青々とした草は星が生きている証。
そして優しく吹く風も又、星が生きているという証。
クラウドはこうして、星の息づかいを感じているのは好きだと思った。
だが、それは二度と戻らない大切だった少女を思い出し辛いとも思えるものでもあった。

1年前、星は絶対の危機に襲われた。
それは空からの厄災、ジェノバによるもの。
星はメテオで滅びそうになった…だが、ホーリーの発動で星は救われた。
真実を知るものは少ない。

ジェノバの”息子”として、星を憎み、自分の生み出した人間を憎み、メテオを喚んだ英雄セフィロス。
古代種の最後の一人として、星を救うためにホーリーを発動させようと命をかけた少女、エアリス。
そして、その二人と親しい関係でありながら、事件に巻き込まれ、クラウドをかばって殺されたザックス。

迷って、後悔して、引きずって……今でもまだ、思い出す。
どうしてあの時、何故。


「……エアリス…」


大切な少女の名前。
親友とも呼べる相手の恋人だった少女。
クラウドにとってエアリスは、母であり、姉であり、とても大切な人だった。
幼馴染のティファとは違う感情。


―ま〜た、うじうじしてる〜。いつまでもそうしてるのは駄目だよ。


聞こえるはずのない少女の声が聞こえてくる。
クラウドは苦笑した。
こうやって自然に身を任せていると、星の声が聞こえる。
それはエアリスの声。
初めて聞こえたときは少し驚いたものだ。

―クラウドは真面目すぎ!もう、自分の幸せを考えてもいいんだよ?

声はとても優しい。
幻でないことも分かっている。

「俺には、まだその資格がない…」

赦せる筈がないと思っている。
失った大切なものは、いくら想っても還ってこない。
それが寂しくて、とても悲しい。

―あるよ!クラウドは幸せにならなきゃいけないの!

犠牲にしたものが多すぎるのに…か。

―あ〜!もう!どうして、そう後ろ向きなの?

口調からどこかイライラしている様子が伝わってくる。
そんなエアリスの声が少し嬉しく思う。

―それじゃあ、犠牲が少なかったらクラウドは幸せになってくれるの?

(そうだな…)

口に出さずにクラウドは心の中で答える。
犠牲が少なければ…そんな今更考えても仕方がないことだ。
時間を巻き戻すことなどできない。

(エアリスが生きていて、ザックスが生きていて、幸せであれば)

自分が巻き込んで死なせてしまった大切な人たち。
自分がもっと強ければ、気づいていれば、しっかりしていれば…!
悔いることは多い。


(それから…)


エアリスだけじゃない。
ザックスだけじゃない。


(俺は、本当は殺したくなんかなかった……!)


「…セフィロス」


皆が憧れるソルジャー。
英雄セフィロス。
クラウドもセフィロスに憧れてソルジャーになろうと思っていた。
その強さに、その気迫に…息を呑む。


―ねぇ、クラウド。


さわさわっと優しい風が吹く。
風はクラウドを優しく撫でてくれる。

―この星で生まれた子供達は、皆この星の子供なんだよ?

突然話題が変わって、クラウドは少し驚いた表情を見せる。

―星は全ての子供が愛しいの。それが自分自身を傷つける子でもね。

全ての生あるものに平等の愛情を注ぐ母たる星。
星はとても優しい。
そしてとても暖かい。
クラウドはそれをエアリスに教えてもらった気がする。

―お母さんは、子供達には幸せになって欲しいの。

エアリスの言葉に僅かに笑いをこぼすクラウド。
その言い方ではまるでエアリスが母親のようだ。

―だから、本当は幸せにしたかった…あの子も。


さぁぁぁぁ…


ひんやりとした風が吹き抜ける。
クラウドは違和感を感じて上半身だけ起こす。
先ほどと違う感覚のひんやりとした風は緑色。
僅かにライフストリームの流れを含む。

「エアリス…?」


―幸せにしてあげて、幸せになって…


聞こえる声は切ない声。
願う声。
ライフストリームの流れが濃くなり、クラウドを優しく包み込む。
とても暖かな流れ。

―クラウド、後悔しているならば、星の願いを聞いてあげて。本当は救いたかった星の願い。


ざぁぁぁぁっ


草が舞う。
ライフストリームの風に吹かれて草が舞い、緑が舞う。
クラウドはそれを見ているだけで何も出来なかった。
これに悪意はない。
何よりも…エアリスの声が泣きそうなほどの切なさを帯びていたから…。


―救ってあげて、彼を…。そして幸せになって、クラウド。


「エアリス…?!何を……?」


ざぁっ!!


一層強い風がクラウドを包む。
クラウドの意識はその強さに巻き込まれる。
無理やり巻き込まれる感じでなく、それはあくまで優しいものだった。


過去は変えることは出来ない。
時を戻すことは出来ない。
でも、未来というのはいくつも分岐されている。
過去のあの時から分岐され進まずにいる時で…彼を救って欲しい。
訪れる未来は違うものになるけれども、それは彼であって、そしてそこにある存在は全て本物であるから…。


―ねぇ、クラウド。星にとっては貴方も、セフィロスもザックスも、大切な子供なんだよ?だから、とっても愛しいの。


救いたかった子供達。
全ての子供達を救えとは言わない。
手の届く範囲の子供達の幸せを……

救ってください。




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