ヴァールの翼 03




エドとアルはこの家の資料を見せてもらう為に来たということで、今書庫を漁っている。
は待っててくれといわれて、この家の中を散策中。
錬金術関係の本なんてが読んでも分からないだろう。

「でも、理解できる、かな?」

真理を見た身としては理解ができなくもない。
だがこの世界の錬金の基本がどんなものなのか分からない。
実際真理を見て思ったことは、言葉では説明できないものだということ。
頭に流れ込んだ情報と映像をつなぎ合わせて、感覚で理解する曖昧なもの。
はぱちんっと手を合わせてみる。

「できるかな?」

初練成。
そのあたりにある不要な紙と思われるものの上に手をつく。
勿論、エドとアルには見られないように二人のいない場所にいるということを確認済みの上である。
いざその合成獣の子と対面して錬金術が使えないようでは、何の為に真理を見たのか分からなくなる。

ぱちっ

小さな練成反応が起きて、紙が別のものへと変化する。
小さな人形がころりっと転がる。
コケシのような人形。
デザインは練成者のセンス次第だ。

「う〜ん、微妙」

ころころしているその人形を見ての感想。
練成はできるが、果たして自分にできるだろうか。
その合成獣の子を止める事が。

ふと、近くの棚を見てみれば写真立てが1つ。
その写真を見てみれば、映っているのは3人の親子。
優しそうな雰囲気の黒髪の女性、眼鏡をかけてひ弱そうな白衣を着た男性。
その二人にはさまれるように笑いかけている小さな黒髪の少女。

「この子」

はその写真立てを手に取り、裏を見てみる。
小さな文字で日付のようなものが刻まれていた。
にはこの世界の年号は分からない為、いつの世界のものか分からないが…、少なくとも幸せそうに見える親子。
それでも、この写真に写る小さな少女は、が真理の扉の前で見せられた合成獣の少女の顔立ちに重なる。

「この二人が私をこの場所に召喚した、錬金術師…だろうね」

は複雑な気分になる。
だが、やはりどうして娘を合成獣にしたのか、という疑問が浮かぶ。
幸せそうに見える親子だと言うのに。

カタン…、と写真立てを元の位置に戻す。
もう一度だけ、その写真を見る。

「あなた方の考えていたことは分からない。けれど、等価は果たします。…結果がどうなるかは分かりませんけどね」

やるだけはやってみる。
それがこの場にいる存在理由なのだから。
はそう言ってその場を後にする。
果たして自分にできるかどうかわからないが、それが等価交換なのだから。



エドとアルのいる書庫をひょこっと覗いてみる。
まずはエドが集中して本を呼んでいる様子が目に入り、次にアルの姿。
アルはすぐに顔をあげて、に気付く。

さん、もうすぐ終わるから待っててもらいますか?」
「もう?もしかして全部読み終わった?」
「いえ、ざっと目を通したところ、僕達の探しているものはないような気がするので」

アルはパタンっと本を閉じる。
これだけの量をざっと目を通したとはいえ、大した時間も経ってないというのに、それでも3時間以上は経っているが…。
やはり彼らは、一種の天才と言うべきか。

「すごいね。これだけの量なのに」
「そんなことないですよ。ただタイトルざっと見て、それらしいものは中身を見る、という感じですから」

それでも十分凄い。
普通はできないことだ。

「あの、アルフォンス君?ちょっと聞いていいかな?」
「何ですか?」

念のため聞いておきたい。
一体今がいつなのか。
はそう思っていた。

「アルフォンス君って、年いくつ?」
「13です。兄さんが14歳ですよ」

エドワードが14歳と言うことは、漫画の本編の1年前くらいになるのだろう。
ということは、彼らはまだ何も知らないということになる。
賢者の石がどういうものなのか、これからどんなことが起こるのか。
それでもはそれを口に出すことはできない。
自分はあくまで第三者の存在にしか過ぎないのだから、余計なことを言うべきではない。

さんは?」
「私?私は17だよ」
ええ?!

思いっきり驚いた声を上げるアル。

「アルフォンス君、その驚きは何?」
「あ、いや、その…」

(どうせ17歳には見えないと言いたいんでしょう。そりゃ、確かに日本人は幼く見られがちでしょうよ。実際小さい…と本人の前で言うと怒るだろうけど、エドと大して身長が変わらないしさ)

「いいけどね。どうせ17歳には見えなかったんでしょう」
「ご、ごめんなさい。てっきり、兄さんとそう年が変わらないと。僕達の幼馴染に同じくらいの年の子がいるんだけど、その子と変わらないように見えたから…」

(幼馴染の同じくらいの年の子ってのは、ウィンリィのことかな?リゼンブールにいるエドの機械鎧の整備士…だっけ?)


きゅるるるぅぅ…

考え込もうとしたの耳にある音が聞こえてくる。
アルがをじっと見るのが分かった。
は思わず顔を赤くする。
そう言えば、ここに来てから何も食べてない。
つまりはさっきの音はのお腹の音である。

「そういえば、もうすぐ食事の時間だよね。さん、お腹すいたよね」
「ご、ごめん…」

なんとなく反射的に謝ってしまった。
しかしお腹が空いたからと言って、は勝手にご飯を食べることはできない。
なにしろ文無し。

「じゃあ、メシにするか!」

いつの間にか本を閉じてエドがこっちを見ていた。
もしかして、先ほどの腹の音を聞かれたのだろうか?

「よし!食事に行こうぜ!」
「あ、でも、私お金なにもないよ?」
「いいよ、さん。僕達のせいでさんがこんなところに連れてこられたようなものだから」
「一人くらい食いぶちが増えてもオレ達の懐は痛まねぇから安心しろよな」

アルだけでなく、エドも苦笑しながら気にするなと言う。
こう言われては流石のも良心が痛む。
この二人を騙しているようなものなのだ。
いつか、なんらかの形でお返しをしないと、そう思うでだった。

さん、何か食べたいものとかありますか?せっかくですから食べたい物の方がいいでしょう」
「え?いいの?」

ぱっと顔を輝かせる
ちらっとエドの方を見れば、好きにしろとでも言うような表情。
は少し考え、にこっと笑みを浮かべる。

「それじゃあ、料理」
「…?!」
「おの料理好きなんだ〜。豆腐とかオカラとかもだけど枝豆とか」

にこにこしながらは答える。
実は確信犯で言っている。
『豆』と言う言葉に過剰に反応する人がいるのだから…。
だから、アルは必要以上に驚きを見せたのだろう。

誰が豆粒ドチビかーーー!!!

案の定、予想通りに暴れる豆…もといエド。
過剰に反応しすぎである。

(やっぱり、エドと言えばこの反応がないとね。誰でも1度はこうやってからかいたいと思うでしょう。なかなか楽しい)

はにこにこしながら暴れそうなエドを押さえるアルを見ていた。
それだけ気にしているならば、嫌いな牛乳をちゃんと飲めばいいのに…と思う。

さん〜」
オレは豆じゃねぇー!!
「誰もエドワード君が豆粒のように小さいだなんて言ってないよ」
「言ってるじゃねぇーかよ!」
「それはエドワード君が過剰に反応しすぎ。でもチビでもマイクロチビでもミニマムでもないんだし!」
誰がマイクロミニマムドチビかーー!!
さん、これ以上兄さんを煽らないで…」

アルが困ったような声を出す。
なんとか暴れだそうとするエドを押さえている。
はといえば、くすくすっと笑っていたりする。
素直すぎるエドの反応が可愛すぎ。

「まぁまぁ、落ち着いて」
「誰のせいだよ!!」
「エドワード君が自分で勝手に騒いでるだけだと思うけど?」
お前のせいだろ!

即座に突っ込んでくるところがさすがエドということろか。
は笑顔のまま、エドはどこかむすっとしながら、アルはおろおろしながら食事に向かったのだった。
勿論、はきっちり豆料理を注文し、さらにその場でエドが再び暴れそうになったことを追記しておこう。
エドをからかうのはなかなか面白く、やめられなくなりそうだ…とは談である。