黄金の監視者 13



何故かはスザクと並んで歩いている。
クラブハウスでお茶をして、いつの間にか生徒会の人間が1人増えていたことに驚いていたが、そんなのは別に気にならなかった。
ちなみには生徒会に入っていない。
バイトで忙しいことを理由に部活も何もやっていないのだ。

「楽しかったな、久しぶりに」
「僕は全然楽しくなかった…」

むすっとしながらスザクの言葉に答える。
どうして並んで歩かなければならないのだろう。

「なんか、って愛想悪くなったね」
「スザクは雰囲気優しげになって気味悪いよ」
「気味悪いって…」
「僕は昔も今も君に愛想よくしたつもりはないし」

くすくすっと笑い出すスザク。

「何がおかしいの?」

本当にこれは昔一緒に遊んだこともあるスザクと同一人物なのだろうか。
疑いたくなるほどに雰囲気が変わっている気がする。

「相変わらずだなって」
「何が?」
「ナナリーを大切にしていること」
「だって、それだけは絶対に変わらないことだもん」

ナナリーが一番大切、そしてその次にルルーシュが大切。
その順位は揺らぐことはない。
それ以下が変わることはあっても、その第一と第二が変わることはないのだ。

はどうしてアッシュフォード学園のクラブハウスに住んでないの?」
「どうしてって」

理由は色々あるが、はマリアンヌの子供ではない。
だからマリアンヌの後ろ盾であったアッシュフォード家の力を借りるのは筋違いだろうというのが1つ。
最も戸籍を作ることに協力はしてもらったので、力を借りていないわけではないのだが。

「スザクってシュナイゼル殿下の絵姿なり、映像なりなんなり見た事ある?」
「第二皇子殿下の?」
「そう」
「写真とかなら」

はすっとサングラスを外す。

「その写真と今の僕を見比べてみて、思うことは?」
「あ…」

年の差があるから今のシュナイゼルと並んでも双子には見えないだろうが、確実に血縁関係であることが分かるほどによく似ている。
はサングラスをかけなおす。

「あの人、僕の実兄なんだよね」
「え?!」
「言ってなかったっけ?」
「知らなかったよ」

現ブリタニア皇帝には子が多い。
妻ほどの数はいないが、1人の父親にあの数の子供はかなりの数だと言えるだろう。
ナナリーとルルーシュはブリタニアから隠れている。
隠れているというのに、その側にがいたら?
せめてが別のところで暮らしていれば、だけが見つかってもなんとか逃げることはできるかもしれない。
だから、は同じところで暮らさないのだ。

「この顔だから、僕は比較的見つかりやすいと思うんだ」
「けど、今まで…」
「兄上はどうか知らないけど、ロールパンは僕が生きていることを知っていると思うよ」
「どうしてそう思うの?」
「僕の名前がまだ残っているから」

・エル・ブリタニアの名は、まだ皇帝の子として残っている。
皇位継承権も健在だ。
何のためにそんなものを残しているのか父の目的は分からないが、それは確実にの枷になるだろう。

「残っているの?」
「うん…。僕だけ何故か行方不明扱い。まぁ、経歴考えればあれくらいで死ぬことないだろうって思われたんだろうけど…」
「経歴?」
「どうせ僕のこと調べようと思えば分かることだろうから言っておくけど、僕、エリア8の制圧戦争に参加してたんだよ」
「エリア8…、僕と会う前?!」
「そう」

スザクは目を開いて驚いている。

「だから、人の死に慣れていたんだね」

多くの日本人が横たわる中、は平気だったのをスザクは覚えているのだろう。
自らが築いた死体の山を見た事があるにとって、他の人が殺めた死体の山に動揺すはずもないのだ。

「僕は大切な人を守る為なら、犠牲は問わない」

「それがどんなに大きな犠牲であっても迷わない。そう、昔に決めてしまっているんだ」

人の死も、自分が殺すこともなんとも思わないわけではないが、迷いは抱かないようにしている。

「でも、間違ったやり方で得た結果は何も生まないよ」
「それは経験から?」

びくっとなるスザク。
そしてはっと何かに気付いたように軽く息をつく。

「そうか、は知っていたんだよね」
「何を?」
「僕が昔やったこと」

それはスザクが自分の父親を殺したことだろうか。
後悔しているように見えたが、スザクがクルルギ首相を殺したことでナナリーとルルーシュが救われることになったのは確かだ。
だから、はその件では感謝している。

「だって、スザクが言ったことだよ?」
「うん、僕が言ったことだったね」

スザクが自分の父を殺めたことによって、日本は敗戦以外の選択を余儀なくされた。
しかし、それがスザクにとってはトラウマのようなものになってしまっているのだろう。

「間違ったやり方とか正しいやり方とか、僕は良く分からないけど…、でも、ナナリーを傷つけるやり方は僕にとって間違っているやり方になるよ、スザク。それが、君にとって正しいやり方であっても」

すぅっとはスザクを睨みつける。
名誉ブリタニア人となったスザク。
それはすなわち、ブリタニアの考え方になったと考えていいのだろうか。
それなら、ナナリーとルルーシュに近づけるわけにはいかない。

「じゃあ、僕はこの辺で…。方向こっちだから」

ぱっと片手を上げてスザクから離れようとする

「え?…いや、送るよ」
「別にいらないよ」

あからさまに迷惑だと言う様に顔を顰める。
スザクが足手まといだとは考えられないが、名誉ブリタニア人にブリタニア軍人から強奪しているところを見られるわけにはいかない。

「けれど、そっちはゲットーの方向で、ブリタニア人にはあまり安全じゃなくなるよ」
「分かってるよ」
「だから…!」
「スザクは僕の強さ知ってるよね?」

日本人に襲われて簡単にやられるような中途半端な強さではない。
は本場の軍人としての経験がある。
それこそ、スザクよりも戦場を経験しているはずだ。

「一応対策はしてるし平気だよ。それより、そっちこそ帰れば?どこに帰るのかは知らないけどさ」
「僕は家がないから遅くなっても平気だよ」
「は?」

が言いたかったことはそういう事ではない。
スザクに迷惑がかかるからとかではなく、ついてこられるのが非常に迷惑なのだ。

「先日の容疑かけられた事件で軍の宿舎は追い出されちゃったし、一応仮眠できる所はあるけど…」
「軍…?」
知らなかった?僕、今ブリタニア軍に所属しているんだ」

そう言えば、クロヴィス暗殺容疑で捕まっていた時に軍の階級で放送されていたような気がしないでもない。
スザクが生きていたことに驚いていたので、そんな事は気にしていなかった。
名誉ブリタニア人ならともかく、よりによってブリタニア軍所属。

(それなら、ますますついて来られるわけにはいかないよ!ブリタニア軍人から食料強奪するところなんて見られたらどうなるかっ!)

スザクの人離れした武術の才能は、幼い頃からその片鱗を見せていた。
にとって、ある意味シュナイゼルよりも厄介だ。
自分の力で敵わないかもしれない相手。

「とにかく必要ないからね!」
「え??!」

はスザクに背を向けて走り出す。
全速力で走り去っていくのを見れば、スザクだって嫌がっているのが分かるだろう。
分かって欲しいと思う。



いつも通りブリタニア軍からちょっと食料を調達して、は今の住まいに戻る。
気配はなかったのでスザクにつけらているとは思いたくないが、相手が相手だ。
気配を消すことくらいはお手の物かもしれない。

(もー、厄介だな…)

ガチャリっと扉を開けて家の中へと入る。
今の住まいは狭いがちゃんとしたアパートだったりする。
先日のゲットー襲撃事件で、ゲットー内での仮住まいの提供があった。
とっても親切である。

「ナオトさん、ただいま」
「おかえり、大丈夫だったか?」
「うん、ばっちり食料調達してきたから」
「……

呆れたようにため息をつくナオトが見える。
確かにブリタニア軍の体制はちょっと厳しくなってきていたが、隙をみて食料を調達することくらい、にとってはたいしたことはない。

「大丈夫だよ。武器とかなら警備が厳重だけど食料だよ?」
「けどな…」
「あ、それより、テレビ買ったの?」

部屋の中にぽつんっと置いてあるちょっと型遅れのテレビが一台。
映像も綺麗に映っている。

「いや、落ちているものを拾って修理したらなんとかなったんだ」
「本当に?すごい!」
「テレビかラジオくらいは欲しいだろ?」

落ちていたものを修理するなど、にはできない芸当だ。
この日本に来て日本人と触れ合うことはそう多くはないが、の知っている日本人は器用な人が本当に多い気がする。

「現状くらいは耳にいれておかないと不便だしな」
「総督が誰になったとか?」
「それもあるが、ゼロが現れただろ?」

は頷く。
スザクを助け出したゼロのことは、各地で話題になった。
ここゲットーでは特に大きな話題となっている。
テレビ放映から日本人の口コミで尾びれ背びれをつけて色々な噂へと。

「ゼロって一体なんなんだろうな」
「さあ…」

ルルーシュが何のために、クロヴィスを殺害したのか、スザクを助けたのかは分からない。
いや、スザクを助けた理由なら分かる。
友人だからだ。

「ゲットーでは結構大きな噂になっている?」
「多少はな」

苦笑するナオト。
虐げられてきたゲットーに住む人々。
ブリタニアはどうあってもその地にいた、今はナンバーズと呼ばれる者達を優遇しない。
だからテロなどが勃発するのだ。

「ゲットーに住む人たち、自分たちの今状態を不安に思うなら、人に任せず自分で動けばいいのに」
「そう言うなよ」
「でも、テロ組織は各地に多数あるのに、それがまとまればかなりの戦力になるのにさ」
「まとめる人間がいないからな」

各地で起こるテロ。
それはすなわち各地にテロ組織があるということ。
テロを起こせるだけの余力があるのならば、それを蓄え、一気に反撃すればいいのに、とは思う。
だが、その大きな力をまとめきる者がいない。
テロ組織を統括できる者が現れれば、このエリア11は変わるかもしれないのに。