黄金の監視者 12



イレブンがアッシュフォード学園に転入してきた。
それをが聞いたのは、そろそろ授業が終わろうとする時間だった。
アッシュフォード学園内でもはサングラスを外さない。
年々似てくるシュナイゼル似の顔を隠すために。

(シュナイゼル兄上がロールパンに顔が似てないのはなによりだけど、僕も似てないという事は同時にシュナイゼル兄上と僕は似ているってことになるんだよね…)

とんとんっと教科書を揃え黒板を見る。
授業の内容はなんとなくしか分からない。
はそんなに優秀ではないのだ。
サボったりしている中、出ている分の授業でなんとかついていけるという程度である。

(日本人の編入生ね)

どうでもいいけど、といつものように考える
その日本人がナナリーとルルーシュに危害を加えない存在であることを祈るのみである。
今日もゲットーで適当にブリタニア軍人を相手にストレスを発散するかと考えているところに校内放送が流れる。

(あれ?ミレイさんの声だ)

ミレイ・アッシュフォードはよりも2つ上のこのアッシュフォード学園の生徒会長であり、ナナリーとルルーシュを匿ってくれているアッシュフォード家の人間だ。
だから、彼女だけはナナリーとルルーシュ、そしての素性を知っている。
いつも賑やかな企画を立ててくれる彼女のお陰で、ナナリーにも笑顔が多く、ルルーシュも楽しんでいるのが分かる。

(いい人だよねぇ〜)

今度の突発企画はどうやら猫を捕まえろとのことだが、何か理由でもあるのだろうか。

(一応その編入生の顔だけは確認しておこうかな。えっと、確か義兄上と同じ学年だったみたいだから…と)

カバンを持っては上の学年の階へと向かう。
興味本位で見に行くくらいの人はいるだろう。
わざわざ”視る”までもない。
つでにルルーシュに会って、さらについでにナナリーにでも会えればよし、と考えているである。
しかし、現実は甘くないというかなんと言うか、教室は殆どもぬけの空。
どうしようかな、と悩んでいるところにピピピっと携帯がなる。

「もしもーし」
か?』
「あれ?ナオトさん?」

意外な相手にちょっと驚く。
何かあっては困るだろうから双方共に携帯を持っているが、連絡を取ることは滅多にない。
は気になったことがあれば”視れ”ばいいし、ナオトはナオトで遠慮して電話をかけてこない。

『悪いが、食料がもう残り少ないんだ』
「あ、そうだったね。帰りその辺から調達してくるから」
『あ、いや、そうじゃなくてだな…』
「え?違うの?」

いつも通りブリタニア軍からかっぱらってこようと思っていたのだが、違うのだろうか。

『ニュースは見たか?』
「ううん、そういうのあんまり好きじゃないからさっぱり」
『……次の総督が誰になったかくらいはチェックしておけ』
「もしかして次の人って、変に手を出すと後々怖い人?」
『警戒はしておくべきだろ。だから、食料は少ないがくれぐれもいつものように調達はしてくるなよってことを言いたかったんだ』
「うーん、分かった。一応気をつけるね」
『一応か…』
「だって、食料は生きる為に必要だよ!」
『いや、それはそうだけどな』
「大丈夫、大丈夫、安全かつ狡猾に行くから」
『…、お前オレの言う事ちゃんと聞いていたか?』
「うん、バッチリ」

電話口から大きなため息が聞こえてくる。
たとえどんな人間が総督となっても、所詮は軍隊。
戦闘でない時に隙のひとつやふたつくらいあるものだ。
軍隊も所詮は人間の集まりなのだから。

(シュナイゼル兄上が来たって食料調達くらいは平気なのに…、ナオトさんって心配性だなぁ)

『とにかく気をつけて帰って来るんだぞ』
「うん、分かった分かった」

心配されるのはちょっと嬉しかったりする。
守られる立場というものが経験ないので、くすぐったい気持ちだ。

(ナオトさんには色々お世話になっているから、せめてナオトさんの妹さんには会わせてあげたいんだけど)

名前も知らない、顔も知らないでは探しようがない。
こっそり探して吃驚させてあげたいのだが、はナオトにその妹のことを聞こうにも上手い質問が思い浮かばないのだ。
うーんっと考え込んでいるとどうも外が騒がしい。
ミレイ発案の猫探しの件だろうか。
ひょっこり窓から覗いて見れば、生徒達が集まる中、ナナリーとルルーシュ、そしてなぜか茶色の見覚えのある顔が1つ。

(あ…れ?)

ナナリーは普段は車椅子が多いが、全く歩けないわけではない。
長く歩行することは視力の問題で無理だが、足の筋力が衰えない為に散歩は日課としている。
その散歩の途中なのかは分からないが外にいるナナリーは立っていた。
ナナリーがルルーシュと茶色の頭の頬に軽く唇を落とすのが”視え”た。
こんなことに能力を使うべきではないのだろうが、気になるものは見たいと思い無意識に力を使ってしまうのはしかたないだろう。

「っああーーーーー!」

思わず大きな声で叫ぶ
ルルーシュは全然構わない。
ナナリーの実兄であり、ルルーシュなら許せることが数多くある。
しかしもう片方の茶色頭だけは許せない。
はここが2階であるにも関わらずそのまま窓からひょいっと飛び降りる。
叫び声でに気づいた生徒達が飛び降りてくるをぎょっとした表情で見ていた。

「クルルギ・スザクーー!」

そのまま勢いつけて駆けつけ、スザクめがけてとび蹴りをかます。
茶色頭は言うまでもなくスザクだ。
先日クロヴィス暗殺容疑で捕まって仮面の男…正体はルルーシュだったのだが…に助けられ、その後どうなったか分からなかったのだが、まさこんな所にいるとは思わなかった。
この場にスザクがいる事は驚いたが、そんなことはどうでもいい。
当然のようにスザクはの蹴りを受け止める。

「ちょっと待って、君、僕は…っ!」
「待つも待たないも関係ない!」

スザクの前にきりっと立つにおろおろする生徒達。
ルルーシュは呆れたようにため息をつき、ナナリーは何が起こったのか良くわからないようで困っている。

「ちょっと待てよ、。そいつは確かにイレブンだけど、今さっきルルーシュを…」
「そんなの関係ないっ!」

スザクを庇おうとするルルーシュの友人リヴァルの発言をさっぱり切り捨てる

「え??」

リヴァルの言葉で目の前のとび蹴りをしてきた相手がようやくだと気づいたのだろうか。
やはりサングラスをしていると顔が良く分からないという事なのか。
それとも成長したから分からなくなっていたのか、それは分からない。

「僕はっ!ナナリーに近づく男は全部嫌いだ!ナナリーが相手に好意を持ってるなら尚更っ!それはイレブンだろうが日本人だろうがブリタニア人だろうがロールパンだろうが関係ない!」
「は?ロールパン?あ…、じゃなくて、ロールパンってことはやっぱり…」
「クルルギ・スザク、覚悟!」
「ちょ、ちょっと待って!」

スザクに襲い掛かろうとしたの頭をぱこんっ叩くノートが一冊。



ルルーシュの声で名前を呼ばれてはぴたりっと動きを止める。
大きなため息をルルーシュはひとつつく。

「いい加減ナナリーが関わると暴走するのはなんとかならないのか」
「だ、だって義兄上…」
「スザクに蹴りを入れても構わないが、そうするとナナリーが悲しむぞ」
「え、え?!それは困る!」

しょぼんっとなる
が何故スザクに襲い掛かったのかその理由を察して、他の生徒達も安堵すると同時に苦笑していた。
ナナリー関連でが暴走することは結構あるのだ。

「ナ、ナナリー…?」

おそるおそるというようにナナリーへと呼びかける

?」
「えっと、えっと、ナナリー、ごめんね。僕、別にスザクが嫌いって訳じゃ、あ、いや、あんまり好きじゃないけど…、えっとそうじゃなくて個人としては嫌いじゃなくて、その…」

泣きそうな表情でナナリーを見る
ナナリーはの表情が見れないので声だけで判断する事になるのだろうが、どうしてもの表情が情けなくなってしまうのは仕方ないだろう。

、スザクさんに悪いことしたら謝らないと駄目ですよ」
「う……うん、分かった」

ナナリーにそう言われてしまったら、実行しないわけにはいかない。
はスザクの方をじっと見る。

「と、突然とび蹴りとかしてごめん…なさい。でもっ!多分またする…かも?」
「かも?」

首を傾げるスザク。

(だって、仕方ないじゃないか!ナナリーって昔からスザクに妙になついてたし、それはやっぱり気にいらないんだよ)

スザクはにこりっと笑う。
その笑顔には少し顔を顰める。
こんな笑顔を浮かべられる相手だっただろうか、どちらかと言えば乱暴で、優しさなんて良く見なければ分からなくて、行動が突拍子もなかった気がする。

「大丈夫だよ、怪我もなかったし」

笑顔のスザクにとてつもなく違和感を感じてしまう。
これが昔よく手合わせとかをしていたスザクなのだろうか。
ま、いっか、とは思う。
それよりせっかくルルーシュがいるので聞いておきたいことが1つある。

「あの、義兄上」
「何だ?」

スザクを助けた仮面の男はゼロと名乗っていて、そのゼロはこの目の前にいるルルーシュである。
それを誰が信じるのだろう。
だが、はそんなことが聞きたいわけじゃない。

「新しくここの総督になった人って誰か知っている?」
「総督?」
「うん、義兄上なら新聞とかよく読んでいるから知っているかなって」
「テレビを見ていれば分かることだろう?」
「あ、うん、でもテレビ壊れちゃってて」

(先日のゲットーの事件でナイトメアに襲撃された時に家電製品系、殆ど全滅だったんだよね)

「テレビもないのか?本当にどんな生活をしているんだ、
「あー、うん、えっと、色々複雑な事情で…」

ゲットーに住んでますとは言えない。
この間騒ぎがあったゲットーだ、ナナリーのいる前でそんなことを言えば心配するに決まっている。
ナナリーにだけは心配をかけたくない。

「まぁいい。今のエリア11の総督は第二皇女だ」
「第二…、あのひとか」
「何故そんな事を聞く?」
「え?いや、大した理由じゃないんだけど、同居人がそれくらい知っておけって言うから」
「同居人?同居人がいるのか?」
「うん、ちょっとした経緯で知り合って色々お世話になってるんだ。主に食事とかっ!」
「ああ、なるほどな」

ものすごく納得してくれるルルーシュ。
自分の料理はそんなに酷いものだと思われているのだろうか。
確かに大雑把にしか料理はできないが、ちょっと傷つく。

「あまり、その同居人に迷惑をかけるなよ」
「分かってるよ」

初対面で庇われたなんて大迷惑をかけたけれども、その後怪我の手当てをしたことでチャラにして欲しい。
は小さくため息をつく。
ちらりっとスザクを見れば、にこりっと笑みを浮かべてくる。
やっぱり、どうもスザクのその穏やかな笑顔には違和感を覚えてしまうであった。