ゴドリックの谷 11





「時の代行者」云々のことは誤魔化して事情を話した。
今、ホグワーツに行っている事。
何故か18歳の自分に入学許可証が来たこと。
の年齢を聞いて(現在は19歳)驚いたリーマスだが、気にするのはやめた。
どうせ日本人は幼く見られがちなのだ。
ヴォルが黒猫の姿と人の姿になれること。
ちょっとした事情があって、家には戻れないのでここでお世話になること。
そして、去年1年間で起きた賢者の石の件のこと。

「ということです、ルーピンさん。説明下手だったかもしれませんから、質問があったら言ってください」
「そうだね、いくつか聞きたい事はあるけど、それより。私の事はリーマスでいいよ」
「え、でも年長者を名前で呼ぶのは…」
「リーマスって呼んでね」
「あ、でも…」

「あ、えっと、…リーマスさん?」
リーマス、だよ」

(え?さん付けも駄目?!)

「…リ、リーマス?」
「何?

にっこりと素敵な笑顔で答えが返ってくる。
しかし、は思う。
似たようなやり取りを最近したような気がする、と。

「それで、あの、質問があれば答えます」
「そうだね。まず、は今度ホグワーツの2年生ってことだよね?」
「あ、はい。一応ホグワーツでは年相応の別の姿で過ごしてます」
「年相応?別に今のままの姿でも十分…」
分かってます!言わないで下さい!去年ヴォルさんにも同じこと言われてますから!」

若く見られるのは嬉しい。
嬉しいが、中学生並に見られるのは悲しい。
本来は大学生であって、大人と言ってもいい年齢になる年頃だというのに。

「それじゃあ、質問だね。ダンブルドアが心配するって事は君にその要因があるはずだよね。さっきの説明からじゃあその要因は分からなかったけど?」

確かにそうだ。
ただ、実際の年齢より遅れてホグワーツに行っているだけでは別に狙われる危険性などない。
は賢者の石の事件の説明で自分が関わったことは一切省いて説明したのだから、ヴォルデモートとの接点もない。

「もう少し詳しく話したらどうだ?。せめてセブルス・スネイプが知ってる程度の話をな」
「セブルス?セブルスはのことを知っているのかい?」
「あ、はい。教授は私の担当医というか専門医というか、怪我した時に散々お世話になっていたんですよ」
「怪我?怪我をしたのかい?」
「えっと、ちょっとだけ、闇の魔法かけられたり、肩の骨を折ったりしただけです」
「それが、ちょっと?」

リーマスの顔が顰められ、はぁ〜と深いため息をつく。
ダンブルドアが心配知る気持ちも分かる気がするリーマス。

は魔法が効かない体質だというのに去年はヤツに唯一効く闇の魔法を掛けられたり、ヤツが呼び込んだトロールに殴られて肩の骨を折ったりしたというわけだ。魔法が効かないのだから魔法薬で怪我を治すことも出来ない」
「それで、セブルス?」
「はぁ、教授がマグル式の治療法を多少知っているので、ちょっと事情を話していろいろお世話になってます」

そのことを言われるのはとしてはかなり困る。
とりあえず命に関わることではなかったのだし、過ぎたことだし、とは思っている。
闇の人形の件は十分命の関わるものだったし、トロールの件も一歩間違えれば命に関わっていただろう。

「魔法が効かない体質ね、それは随分厄介だね。それで、そのことを知っているのは?」
「えっと、ヴォルさんとダンブルドアと、教授ですね」
「3人だけかい?」
「本当は教授にも迷惑はかけたくないんですけど…」

しかし、教師の方にダンブルドア以外の事情を知るものが1人くらいいないともいろいろ困るだろう。
マクゴナガル先生でもよかったのだが、彼女は生憎、医療・薬草関係に詳しくない。

「…がこれじゃあ、君も苦労するね」
「ああ、全くだ」

ヴォルを見るリーマス。
思いっきりため息をつくヴォル。
どうも、これと同じようなシーンも以前見たことあるような。

「苦労って、私そんな危ないことしてないよ?」
「自覚なしなんだね、
「自覚がないから更にタチが悪い」

むっとする
確かに、未来を少し知っていることと力があることで多少自分の力を過信しているところはあるかもしれない。
けれど、動かずにはいられないのだ。

「でも、私はきっと、本当に自分が危ないって分かっていたら、怖かったら動かないよ」

過去のあの時代では、動かなかった。
何もしようとしなかった自分。

、お前まだあのこと気にしているのか?ヤツらも気にするなって言っただろう?」
「でも、ヴォルさん。それでも、あの時私が…」
「あの時って何の事だい?」

とヴォルが過去に行ったことを知らないリーマスが首をかしげる。
はっと表情を変える
ぎゅっと、持ってきた本を握り締める。
ジェームズから渡されたあの本をは持ってきていた。
渡すべきだと思ったから。

「リーマス、これ…」

すっとはその本を差し出す。
リーマスは首をかしげながらもその本を手に取る。

「私、リーマスに謝らなきゃならないことがある」
「謝る?」

こくりっと息を呑む
言わなくてはいけないこと。
これは、言わなくてはいけないことだ。

「私は過去に行った。そして、ジェームズさん達に会った」
「ジェームズに?!、それは一体?」
「本人に聞いた方が早いだろ?その本を開いてみれば分かる」
「本?でも鍵が…」
「簡単な鍵開けの呪文で十分だ」

は俯いたまま、リーマスを見ない。
リーマスはため息をつき、杖を取り出し本の鍵の部分にこつりっと杖をあてる。

『アロハモラ』

かちりっ

鍵がひらき、ぱらぱらと本がめくられる。
そして、でてきたのはやはり…

「一日に2回もなんて、人使いが荒いなぁ。全く誰だい?って、リーマスじゃないか、久しぶりだね!相変わらずの甘党かい?きちんと食事もしないと駄目だよ?僕はリリーの愛情でいつも満腹さ!…って、あれ?リーマス?反応してくれないとつまらないじゃないか」

ゴーストのように透けてはいるが確かにジェームズなのである。
ジェームズはリーマスの前でひらひらと手を振る。
リーマスは呆然としていた。
それはそうだろう、亡くなった筈の友人が目の前にいるのだ。

「ジェー…ムズ?」
「ああ、そうだよ。どうしたんだい?君は亡くなった親友のことなどすぐに忘れてしまうような薄情者だったのかい?」
「そんな訳ないだろう?!でも、どうして君が!」
「ああ、それは、に頼んだんだよ」
に?」

リーマスはを見る。
その視線にはびくっとなる。

「リーマス、実は、僕はあの時死ぬことが分かっていたんだ」
「ジェームズ?」
「最後まで足掻くつもりだったんだけど、無理だったようだね。それで、もしもを考えて僕達の記憶を保存したんだよ。この本にね」

ジェームズはそう言って、自分がでてきた本を指す。
リーマスは驚いてジェームズを見ているだけ。

「記憶を保存した本をどこかに隠すわけにもいかないから未来から人を呼んだんだ」
「未来からって、ジェームズそれって違法…」
「細かいことを気にするな、親友!あの時の僕らには確実にこの本の友人の手に渡すにはそれしか方法がなかったんだよ」

けろっと明るい表情で言うジェームズ。

「それで、、ということなんだね」
「そう、こんなに早く君に会えるとは思わなかったけどね、リーマス」
「私も、まさか君にまた会えるなんて思わなかったよ」

ふっと泣きそうだが嬉しそうに笑うリーマス。
辛いことがありすぎたこの11年。
仲の良かったあの親友達。
1人は死に、1人は裏切り、1人は裏切り者に殺された。

「ジェームズ、シリウスは、今アズカバンにいるよ」

君を裏切ったシリウスは…。
リーマスは心の中でそう思う。

「あのバカ犬が?!なにやらかしたんだ?」
「何って君のことを…」
「まぁ、シリウスだからな。どうせ、なにかバカやらかしたんだろうね」
「恨んでないのかい?」
「何故?」
「だって、彼は君を裏切ったんだよ?」
「シリウスが、裏切った?リーマス、君は本当にそう思っているのかい?」

ジェームズは真剣な表情でリーマスを見る。
リーマスはジェームズから視線を逸らす。

「信じていたいさ、私だって。でも、彼は何も言わなかったんだ!彼は、君を裏切ってピーターを殺したことを否定もしなかったんだよ!」

ジェームズは黙ってリーマスの言葉を聞く。
は不思議に思った。
ジェームズは裏切ったのがピーターだと知っているはずだ。
なのに、何故リーマスの言葉を否定しないのだろう…。

「リーマス、僕からは何も言えない。でも、僕は、リーマスもシリウスもピーターのことも親友だと思っているよ。信じたいなら、信じよう。馬鹿で単純で短気で、ヘタレだけど、シリウスは僕らの親友だろう?」
「そう、だね。確かに、シリウスは頭いいはずなのに単純馬鹿で、何も考えていない猪突猛進で…、どうしようもない犬だけど、親友だよ」

酷い言いようである。
でも、リーマスはすっきりしたように微笑んでいた。
信じたい。
それでも、周りはシリウスが裏切ったと思っている。
1人で信じ続けるには11年は長かった。

「ああ、それとリーマス」
「なんだい?」
は何も悪くないってことを、ちゃんと分かっておいて欲しいんだ。まぁ、君なら大丈夫だとは思うけどね」
「どういうことだい?」

リーマスとジェームズはを見る。
は泣きそうに顔をゆがめた。

は未来を知っていた、そして過去に行った。これがどういうことか分かるかい?」
「…ああ、そういうことか。が謝りたいって言っていたのはそのこと?」

こくっと頷く
リーマスは苦笑する。

が謝る必要なんかないよ。もし、がそのまま過去に残っただなんて聞けば、私はジェームズに対して怒ってたよ、きっと」
「え?」
「だってそうだろう?関係のない、しかもジェームズが勝手に呼びつけた女の子を危険にさらすなんて。もし、が残ると言い張ってもきっとジェームズは無理やり帰したはずだよ」
「そうそう。過去の事は過去の人間で、未来の事は未来の人間が解決すべきことだ。違う時代の人間が手を出すことじゃなんだよ、

だから、僕は今の状況に対して何も言わない。
ジェームズは心の中でそう呟く。
真実を知っていても知らない振りをする。
何故なら、信じているから、親友達を信じているから…。

「だから、いい加減自分を責めるのはやめるんだよ、

ふわっと微笑むジェームズ。
はゆっくりと頷く。
自分を全く責めない事はできない。
それでも、心配してくれる、自分のことを考えてくれるジェームズ達の気持ちは嬉しかった。
けれど、はジェームズのさっきの言葉で思った。

過去の事は過去の人間が、未来の事は未来の人間が…。
それならば、この世界の事はこの世界の人間が解決すべきなのではないのだろうか?

先代の時の代行者とは違い、はこの世界の人間ではない。

(私は、いずれは元の世界に戻ることになるのかな。いや、多分全てが終われば戻る事になると思う。それだけは不思議な予感がある。それならば何故、違う世界の私がここにいなければならない…?)