アズカバンの囚人後日談




ハリー達は無事にホグワーツの3年生を終え、休暇中の当たり前の出来事となってしまっというかなんというか、とヴォルデモートの屋敷に来ていた。
休暇中は修行というのが当然のように義務付けられてしまっている。
ハリー”達”と複数系なのは、ロンとハーマイオニーも含まれているからだ。

「今年も散々だったんだよ、さん」
「そうなの?」
「今年こそは師匠のゴミがないからって安心していたらさ…吸魂鬼を配置するとか魔法省が馬鹿な提案してくれたお陰で、クィディッチの試合は邪魔されるし、禁じられた森でストレス発散はできないしっ!」

ハリー達は、ホグワーツにいる間は禁じられた森でそれなりに修行をしているらしい。
何故かと言えば、1年間何も変わりなくダラダラしていると師匠であるヴォルデモートから休暇中の修行を厳しくさせられるからだ。
そのくらいなら、多少自分で修行して何か新しい魔法を身につけられるようにしていたほうがいいという所だろう。
実際、死喰い人の動きが活発になってきているこの時期、強くなることは悪いことではない。
ただでさえハリーは、ヴォルデモートとジェームズ達の話し合いの結果で、魔法界では英雄となってしまっているのだ。
死喰い人がハリーを狙わないはずがないのである。

「でも、ハリー。君、普通に吸魂鬼追い払って禁じられた森にいたじゃないか」
「師匠の修行が厳しくなることを思えば、吸魂鬼の10や20追い払うよ!」

のんびりソファーに座りながら口を挟んできたのはロン。
ロンの言葉にハリーはぐっと拳を握り締める。

「そう言えば、リーマスさんの授業はどうだったの?」

リーマス・ルーピン。
ハリーの父、ジェームズの親友であり、人狼である。
彼が人狼であることは、ハリーもロンもハーマイオニーも知っていることである。
ヴォルデモートに比べれば、人狼くらい怖いものでもなんでもないというのはハリー談である。

「それよ!さん聞いて!」
「え?何かあったの?ハーマイオニー?」

口に運んでいた紅茶の入ったカップをがちゃんっと音を立ててテーブルに戻しながら、ハーマイオニーが不機嫌そうな顔になる。

「スネイプ先生がルーピン先生が人狼だってことバラしちゃったのよ!」
「だから、ルーピン先生はこれ以上ホグワーツにいられなくなっちゃったんだ」
「別に僕達の前で狼に変身したからって、害なんてなかったのにね」
「…いや、ハリー。あの姿見てそう言えるのは君だけだよ。僕はちょっと怖かったし」
「え?そう?」

今の時代、かなり良い脱狼薬があるのだが、やはり人狼への偏見は無くならない。
何かの手違いがあったのか、何か事件があったのか、リーマスは狼の姿になってしまったらしい。
しかもハリー達の目の前で。

「タイミング悪く、吸魂鬼の大群がいたのも悪かったのね、きっと」
「けどさ!結局ルーピン先生を抑えたのはハリーじゃないか!だったら、何も問題ないと思うんだよね!」

憤慨するロン。
が知っている本の内容だと、叫びの屋敷から戻る途中にリーマスが脱狼薬を飲むのを忘れていたことに気付き、隠し通路から外に出たとたんに狼へと変わってしまうということだった。
しかし、シリウスはアズカバンにいずに死亡した事になっている上、ピーターはロンのペットにはなっていない。
何がどうなって、リーマスが脱狼薬を飲み忘れ、さらにハリー達の前で狼の姿になってしまったのか、それは分からない。

「セブルスさんって、グリフィンドール生が昔から嫌いみたいだから」
「あんなのにさん付けする必要なんてないよ、さん!」

ロンがきっぱりと言い切る。
セブルスはホグワーツの魔法薬学教師なのは変わらずであり、スリザリン贔屓も変わらずである。
はセブルスに魔法薬学を少しだけ教わったことがあったが、がヴォルデモートにとって大切な人という位置にいるからか、結構親切だったことを覚えている。
スリザリンだけ贔屓するような陰険嫌味教師には見えなかった。

「あ、そう言えばね。ヴォルデモートさんがそろそろ2人にも実戦を経験させるからって言ってたよ」
「実戦?」
「ドラゴンとかトロールを相手にしていたのは実戦じゃないの?」
「師匠なら、人を相手にして初めて実戦だとか言いそう…」
「うん、多分そうだと思う」

ヴォルデモートの修行というのは基準となるレベルがかなり高いため、高度なことが要求されることが多い。
本人、あまり苦労せずに知識を詰め込んだりあっさりと応用できる才能があるからか、相手にもそれを要求することがたまにある。
そんな時はが助言したりするのだが、やはり目指すレベルが高いのは変わらない。

「最初からそう危険なことはさせないつもりだ」

いつの間に現れたのか、ヴォルデモートがのすぐ後ろにいた。
は驚かずにゆっくり振り返る。

「ヴォルデモートさん。地下での実験は終わったの?」
「ああ、大体終わった」
「お茶飲む?」
「頼む」

ふっと柔らかい笑みをに向けるヴォルデモート。
彼が柔らかな表情を向けるのはだけ。
最初はその表情に驚いていたロンとハーマオニーだが、今ではそれも見慣れてきてしまっている。

「ロナルド」
「え?あ、はい!!」

思わずびしりっと姿勢を正すロン。
恐怖感はないものの、やはり緊張してしまうのは仕方ないだろう。

「お前への課題は、死喰い人の証の解読だ」
「……へ?」
「幸い今年は3校対抗試合があるらしいな。ダームストラングの校長イゴール、それから身近ならセブルス、ああ、クラウチJrもそうか。そいつらに証が腕にあるはずだから、見せてもらえ」
「み、見せてもらえって…」
「私が今まで教えた知識の応用で解読は可能のはずだ。証が欲しいならお前の腕にもつけてやるが…?」
「ひ、必要ないです!他の人に見せてもらいますから!」
「そうか…」

修行のためとはいえ、死喰い人の証をつけてもらわれてはたまったものではない。
人に見せてもらうなど大変なことだろうが、自分が証をつけられるよりましだろう。
この目の前のヴォルデモートを敵に回すことを考えれば、そのくらいは楽勝だ。

「それからハーマイオニー」
「はい」
「君への課題は闇の印の解読だ」
「闇の印…ですか?」
「博識な君なら話くらいは知っているだろう?私の全盛期時代の時に、何かをしては私達がしたことだという証を見せるために、空に闇の印を浮かばせた」
「はい、聞いたことがあります」
「近々それの証が出る予定がある、その解読が課題だ」

さらりっととんでもないことを言っているヴォルデモートである。

「ヴォルデモートさん?闇の印が出る予定があるってどういうことなの?」
「ああ、面倒だからいっそのことしもべに動いてもらって、あれを蘇らせた方が早いと思ってな」
「え、闇の帝王よみがえらせちゃっていいの?」
「ダンブルドアは了承済みだ」

その言葉を聞いていてぎょっとしたのはハリー達3人だ。
平気で闇の帝王をよみがえらせると言っているヴォルデモート。
魔法界では、その存在が恐れられているというのにそれをよみがえらせるのか。

「師匠、何考えているのさ?!あれを蘇らせるって事は…!」
「面倒ごとが一気に片付けられて楽だろう?」
「そういう問題じゃないよ!」
「あちらの動向は全て教えるからなんとかしてみろ、ハリー」
「へ…?」

ヴォルデモートは笑みを浮かべる。
それはに向ける優しげな笑みとは全く違う種類の笑み。

「し、師匠…?」
「それがお前の課題だ、ハリー」

蘇ったヴォルデモートをなんとかしてみろ、とヴォルデモート本人は言う。

「ちょ、ちょっと待った師匠!僕が?!」
「ダンブルドアは”年寄りをこき使うな”と言っていてな、やはりここは若い者が動くのがいいだろう?」
「何で?!」
「いい加減あのゴミが鬱陶しくてな。しもべ共を適当に操作して蘇らせる様にしてみたんだが…あとは面倒になった」
「師匠、それって酷いよ!僕に全部押し付けてるだけじゃないか!」
「いい経験になるぞ」
「そんな経験いらないよ!」

ハリーは叫ぶがこれは変えられないだろう。
は少し驚いていた。
次の年、が知っている本の中ではヴォルデモート卿が蘇ることになっていた。
それがどうなるかと思えば、このヴォルデモート本人がそうするように仕向けているとは。
10年ほどヴォルデモートのホークラックスを探してはいたものの、今うようよしているヴォルデモート卿が何か指示を出したのか、今のヴォルデモートが知る場所にそれらはなかったらしい。
すでに繋がりを断ち切ってしまったヴォルデモートがその存在を感知する為には、表に出てきてもらわなければ出来ない。

「予定ではクラウチJr.がクィディッチワールドカップで、他の死喰い人と共に騒ぎを起こす。その時に闇の印を空に浮かべるだろうから、クィディッチワールドカップに行く予定があるならば、よく見ておくことだ、ハーマイオニー」
「え、はい!」

闇の印の解読を課題として与えられたハーマイオニーはしっかりと返事をする。

「ああ、その騒ぎを起こした死喰い人を捕まえて証を見たいなら、そうしてもらっても構わないぞ、ロナルド」
「へ?」
「それから休暇中に証を見ておきたいならば、ピーター・ペティグリューを訪ねることだ。あれもかつてはしもべだったから証はある」
「は…?」

ロンはピーターと面識がある。
ハリーの友人としてポッター家に行った時に、ジェームズの友人3人とはもう会っているらしい。
死んでいるはずのシリウスがいたことにかなり驚いていたようだが、ピーターが死喰い人であったことは知らなかったようだ。

「それからホグワーツで行われる3校対抗試合を利用して、闇の帝王の復活をさせるそうだ、ハリー」
「僕に何をしろって言うの?」
「お前の血を闇の帝王は求めている」
「えぇー?!」

盛大に、とてつもなく嫌そうにハリーは顔を顰める。

「対抗試合の代表として選ばれるはずだ。あれの復活に立ち会わされるだろうから、せいぜいほかのゴミの居場所を炙り出す為にも大人しくしておけよ」
「代表ぉ?!嫌だよ、面倒ごと」
「課題は大したことないものだ。岩山で卵取りと湖での水泳、それから庭の散策くらいだ」

課題の内容をおぼろげだが覚えているとしては、そんな気軽な内容でないことを知っている。
確かにヴォルデモートの言っている内容は間違っているわけではないが、とてつもなく簡略な説明になっている。
最も、それ以上の修行をしてきたハリーにとっては大したことないのは本当かもしれないが。

「大体、師匠も見てるだけとかずるいよ。昔の自分がしでかしたことでしょ?」
「リドルをつける。せいぜいこき使ってやれ」
「リドルを?」

いまだに記憶のリドルとヴォルデモートは分かれたままである。
とてつもなく気が合わないようで、1人に戻る気は今のところさっぱり見られない。

「それから、次の年は私ともホグワーツへ行く」
「え?!師匠が?!…って、名前はどうするの?」
「モーフィン・ゴーントだろう?」
「…堂々と偽名で行くんだね、師匠。でも今空いている職は…ってまさか闇の魔術に対する防衛術?!」
「いや、アレのもう次の教師は決まっている。闇の魔術に対する高等防衛術という教科が高学年からはあるからな、それの教師だ」

闇の魔術に関して、ヴォルデモートほど適任な人物はいないだろう。
今生きている魔法使いの中では、間違いなく彼が闇の魔術に関しては詳しい。

さんは?」
のマグル学の教師だ」
「私に教師がつとまるかどうか不安だけど、マグルのことなら詳しいから」

にこりっとは笑みをうかべる。

「師匠、もしかしてホグワーツでも修行するとかそういうことはない…よね?」

どこか不安そうにハリーは聞いてくる。
ホグワーツにいれば、厳しい修行からは逃れられるのがなくなるかもしれないのだ。
ロンとハーマイオニーもじっとその答えを待つようにヴォルデモートを見る。

「ああ、それもいいかもしれないな」

今その可能性を思いついたとばかりに、ヴォルデモートは小さく頷く。
ハリーははっと自分の失言に後悔する。
言わなければ修行などという事もヴォルデモートの頭には思い浮かばなかったかもしれないのに。

「「ハリー!!」」

顔色を変えてロンとハーマイオニーがハリーを責めるように見たのは仕方ないだろう。
は笑みを浮かべながらその光景を見る。
そして、ヴォルデモートへと視線を送れば、にこりっと優しい笑みを浮かべてくれるヴォルデモート。
ハリーへの修行など、ヴォルデモートはしないだろう。
実戦へ移るということは、これ以上教えることはないということだ。
あとは経験のみである。
それになによりも、教師になることでとの時間が減るヴォルデモートが、ハリーの修行のために時間を割くはずもない。
との時間を多く作るために、ハリーへの修行はきっとなくなるはずだ。

「ホグワーツか…」
は学校へはあまり行ってなかったと言っていたな」
「うん、だからちょっと楽しみ。学校の雰囲気ってあまり知らないから」
「そうか」
「ありがとね、ヴォルデモートさん」

何もヴォルデモートがホグワーツに教員として行く必要はないのだ。
ダンブルドアに頼めば、必要なときにホグワーツを訪問する許可を与えてくれるだろうから、教員になる必要などどこにもない。
学校の雰囲気をあまり知らないに、少しでも知ってもらえればとのヴォルデモートの気遣いなのだろう。
それが、には嬉しかった。

そしてハリーのホグワーツ4年目が、また別の物語として始まる。
果たして死喰い人達の未来は、闇の帝王の復活は無事になされるのか。
それは誰にも分からない。