星の扉 23
背中合わせでクラウドとセフィロスはキマイラに対峙する。
2対2ならばかなり戦いが楽になるだろう。
(別に俺が手を貸さなくても、セフィロスなら平気なはずだ)
クラウドは”昔”セフィロスと一緒に仕事をしたことは殆どないと言っていいほど少なかった。
あったとしてもいち神羅兵としての同行だったため、セフィロスがクラウドのことを認識していたかどうかは怪しいところだ。
その時からよく分からない人だとは思ってはいたが、今はますますセフィロスのことがさっぱりだ。
軽く倒せる魔物相手に何をてこずっているのだろうか。
「サー。俺がこっちを引き受けます。サーはそちらのキマイラを…」
クラウドは目の前のキマイラから目を離さずにセフィロスに声をかけるが、セフィロスに何も反応がないのに言葉を途中で止める。
返答がないのは構わないのだ。
だが、セフィロスの気配がぼうっとしているように感じる。
呆然としていたところで、セフィロスがキマイラにやられるとは思わないが…。
「サー・セフィロス?」
セフィロスの方にちらりっと視線を向けてみれば、セフィロスは何故かクラウドの方を見ていた。
何故こっちをみている、前を見ろ!と反射的に言いたくなったがなんとかそれを抑えこむ。
「クラウドはマテリアを持っていたか?」
先ほどの魔法のことを言っているのだろう。
基本的にマテリアなしに魔法を使うことは出来ない。
それはセフィロスとて例外ではない。
「…一応」
と答えておくべきだろう。
マテリアは結構高価な部類に入るもので、レアなものほど値段が跳ね上がる。
一般の神羅兵にマテリアなど供給されるはずもなく、たまに供給されるとしても上手く使いこなせないことが多いだろう。
ましてや、普通はブリザラなど使えるはずはないのだ。
ちなみに、クラウドは、ナイツ・オブ・ラウンドのマテリアは別として、他のマテリアなど持ってはいない。
「随分と使い方に慣れているんだな」
キマイラ2体などまったく気にせずに、のんびりと話を続けるセフィロス。
(なにやってんだ。前を見ろ、前を!)
内心叫ぶクラウド。
マテリアに関しての話題も別に構わない。
だが、時と場所と状況をちゃんと考えてから話題にして欲しいものである。
「サー・セフィロス」
「なんだ?」
「世間話をしている場合じゃありません。とっとと前みて、魔物を倒してください!」
強さゆえの余裕なのか、分からないが慌てないところがなんとなくむかっと来る。
こっちはそれなりにギリギリだというのに。
クラウドはびしりっと1体のキマイラの方を示した後、自分はもう1体のキマイラに向かって駆けていく。
バスターソードを背に回すように大きく振りかぶり、ざんっと勢いよく振りぬく。
振りぬいた刃から衝撃波が放たれ、キマイラに向かう。
衝撃波はざくりっとキマイラに傷をつけるが、倒すまではいかない。
(このソードじゃ、上級の技までは使えない。精々クライムハザードくらいまでだな)
”以前”覚えた技は使おうと思えば使えるだろう。
だが、究極技となると今の身体と剣がついてこない。
感覚でのみ覚えている。
クラウドは傷ついたキマイラから少し距離を置き、先ほどと同じくソードを水平に構えた。
ソードを突き刺し、大きく振り上げる。
技は全てライフストリームの力を借りたものだ。
普通の人間がなにもなしでこんな芸当ができるはずがない。
衝撃波を出すことくらいならばできなくもないのだが、持っている力以上のことは火事場の馬鹿力程度で補えるものではないのだ。
ずんっとキマイラが倒れる。
と同時に、クラウドの持っているバスタソードがぴしりっと音を立てて刃が半分砕ける。
やはり限界だったようだ。
1体倒したことにふっと息を吐いてほっとしたのもつかの間、残り1体のキマイラの気配がすぐ後ろでした。
ばっと振り向けばキマイラがクラウドに向かって前足を振り上げていた。
「ファイア!」
とっさにファイアを唱えるクラウド。
ぼっと炎が出現し、キマイラに炎がぶつかる。
目くらまし程度にしかならないかもしれないが、その隙に距離を取る。
砕けたソードのみでどうするか、とクラウドが考えていると、キンっという音と共にキマイラの身体がまっぷたつに綺麗に割れる。
そう、まさに割れるという表現が的確だろうというほどに、綺麗に左右真っ二つに斬られたのだ。
「は?」
斬られたキマイラは当然倒れる。
クラウドがソードを犠牲にしてまで倒したというのに、キマイラを斬った人物はあっさりと刀を振り鞘におさめていた。
まるで何事もなかったかのように。
「大丈夫か、クラウド」
「……………はい」
声をかけてきたセフィロスに、返答が遅くなってしまっても誰もクラウドを責めないだろう。
クラウドは無言でセフィロスをじっと見る。
(あんなにあっさり倒せるなら、最初からやれよな)
セフィロスの実力をクラウドは知っているつもりだ。
キマイラはかなり強い魔物には分類されるが、セフィロスからすればてこずることもない相手。
「サー・セフィロス、余計な心配をかけさせないでください」
「心配…か」
セフィロスは何を考えているのか分からない目でふっと神羅兵のいる方向を見る。
彼らはキマイラが倒されたことを確認してほっとしている様子だった。
「化け物のような強さを持つオレを、クラウドは心配するのか?」
静かに聞いてきたセフィロスの言葉にクラウドは思わずセフィロスをぎっと睨む。
「心配しちゃ悪いですか?!誰にだって命に限りはあって不老不死って訳じゃないでしょう?あんたにだって、命の限りは…あるっ!」
まるで自分の命などどうでもいいかのような言い方がクラウドには気に入らなかった。
セフィロスも助けたいと思ったからこそ、今自分はここにいるというのに本人はまるで命を大切にしないかのような言い方をされれば、クラウドだって怒る。
彼を救いたいという思いが例え自己満足だと分かっていても。
「オレが”何”から生まれたのか知らないのに、クラウドはオレを特別視しないんだな」
「サー…?」
どくりっと心臓の音が大きく響く。
セフィロスは知っているのか、いや、ニブルの神羅屋敷の資料は見ていないはずだ。
だが、資料があそこだけとは限らない。
しかし、見たとしたならば何故今もここにいる?
「オレは多分”人”ではない」
ふっと浮かべたセフィロスの笑みは、自嘲気味のものだった。
決して世界全てを憎んでいるようなものではない。
ならば、まだ自分が他とは違うと感づいただけなのか。
「”人”でないって、…どういう意味ですか?」
「オレも馬鹿じゃない。自分が他のソルジャーと明らかに違うことは随分前から自覚している」
クラウドは自分の考えが甘かったと思った。
セフィロスが行動を起こしたのは今よりもう少し”後”の時間軸になる。
だからそれまでのセフィロスは、英雄としてのセフィロスなのだと思い込んでいた。
自分の出生にセフィロスが疑問を持っていたのは、きっともっと随分前からなのだろう。
ただ、それを知ったのがたまたまニブルに行った時なだけであり、何がきっかけでそれが変わるか分からない。
「普通じゃないから…、なんだって言うんだ?」
(あんたは、この星に子供だと認めていられるのに!それが”人”である、他ならない証拠だ。それを最初から否定しないで感じようとして欲しい!)
「普通じゃないと駄目なのか?普通じゃないと、あんたは生きていけないのか?」
セフィロスが少し驚いたようにクラウドを見る。
クラウドは丁寧語など吹き飛んでいた。
セフィロスを”セフィロス”のようにしてはいけないと強くそう思う。
だから、知って欲しいのだ。
「あんたが誰でも何でも、幸せになって欲しいって思うのは駄目なのか?」
今度こそ、今度こそ悲しい最期になって欲しくない。
世界全てを憎まないで、滅ぼそうとしないで、星はセフィロスを受け入れてくれていることに気付いて欲しい。
「幸せ…」
「そうだ。あんたが誰でも何でも、幸せだと思えるようになって欲しい」
クラウドのその想いが”セフィロス”を殺してしまったという罪悪感からくるものだとしても、ニブルで1人で真実を知るのではなく別の方法で知っていれば何か変わってこないだろうか。
セフィロスが真実を知ることなく、クラウドがジェノバを葬ることはきっと難しい。
だからこそ、自分がどんな存在であっても、どんな理由で生み出されたのだとしても、世界を憎まないでいて欲しいとクラウドは思う。
「あんたが誰だって何だって、あんた自身を受け入れてくれるヤツは絶対にいる」
そんな相手を探して欲しい。
諦めずに見つけようとして欲しい。
「クラウドは…」
ふわりっと風がふき、セフィロスの銀髪がさらりっと風に揺れる。
星の風はとても優しい。
優しい風は、星がこの地に生きる人たちを愛しいと思ってくれているから。
「オレが何者であるか知っても、変わらないでいてくれるのか?」
クラウドはその問いに顔を僅かに顰める。
「当たり前だろ。親が誰でもどういう経緯で生まれたと知っても、人の本質なんてすぐ変わるもんじゃない。あんたの本質が変わらない限り、俺の態度は変わらない」
”セフィロス”は真実を知って変わってしまったが…。
だが、前兆はきっとあったのだ。
周囲の人間が気付けなかっただけで。
「そう…か」
ふっとセフィロスが小さな笑みを浮かべたことにクラウドは気付かなかった。
クラウドには救いたい人達がいる。
その人たちには今度こそ、幸せだと思える人生を歩んで欲しい。
平和が訪れても、かつての未来で得たものは悲しいものが多すぎたのだから。
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