星の扉 17
ニブルヘルムは山奥の田舎の村である。
その村に隣接するようにある大きな屋敷が、通称神羅屋敷と呼ばれる神羅所有の屋敷である。
表向きは魔物討伐の為の兵士やソルジャーたちが滞在する場所である。
「あの屋敷には、地下があるはずなんだよね」
ルーファウスは神羅屋敷を見ながらそう呟く。
辺りは暗い。
ニブルに着いたのは夜中だった。
ここまで走ってきたチョコボはくぅくぅっとすぐ側で寝息を立てている。
その辺りに転がる枯れ木を集めてに火をともし、神羅屋敷を見るクラウドとルーファウス。
「ルーファウスの目当てはどこだ?」
「とりあえずは書斎かな。地下も気になるけど、欲しい情報は書斎にありそうだからね」
「書斎か」
”あの時”はともかく、今はあの書斎にも人はいるのではないだろうか。
ここから見える神羅屋敷には明かりがともっている部屋がいくつか見える。
「書斎は宝条くらいしか入らないだろうから、今は平気だよ。宝条はミッドガルの研究所にずっと詰めているからね」
クラウドの考えを読んだかのようにルーファウスが答える。
「だが、見張りはどうする?」
「それは僕とクラウド君でどうにかすればいいよ。魔物だったら抹殺、兵士だったら気絶に留めておこうか?」
とんでもないことをさらっと言うが、ルーファウスにはその実力がある。
ニブルに向かう途中、チョコボに乗っていたので戦闘の機会はあまりなかったのだが、少ない戦闘機会の中、ルーファウスは決して動じていなかった。
”以前”ルーファウスと対峙したことはあったが弱くはなかった。
クラウドはもっと強い人を知っているので、ルーファウスの強さを”強い”と感じはしなかったのだが、一般兵士を軽くあしらえる強さだろうと思っている。
「さて、行こうか?」
「ああ」
がちゃんっとリボルバーを手にするルーファウス。
戦闘する気満々のように見える。
クラウドは小さくため息をつき、寝息をたてているチョコボの頭を撫でる。
「行ってくるから、大人しくしていろよ」
「…クェ」
クラウドの声が聞こえたのか、意味が通じたのかは分からないが、チョコボは小さな声で返事を返してきた。
ニブルヘルムまで一気に駆けてきたので相当疲れているだろう。
後でギザールの野菜でも買ってやろうと思った。
「同類には随分と優しいんだね」
くすくすっとルーファウスが笑う。
「…ここまで頑張ってもらった相手を労わるのは当然だろう」
クラウドはぼそっと答える。
目は神羅邸に向かう。
「行くんだろう?」
「勿論だよ」
クラウドとルーファウスは気配を絶ってその場から動く。
夜とはいえ、今のニブルヘルムはまだ普通の”村”だ。
セフィロスに殺される前の村人達がいる。
そして、クラウドの母も幼馴染もそこにいる。
(今度は守れるように、その為にここの資料は全て消してやる)
かたりっと小さな音をたてて、窓から侵入する2人。
明かりのない部屋からなんとか侵入し、足音を立てずに書斎へと向かう。
意外と人が少ないし、人の気配もあまりない。
明かりがついている部屋があっても、人がいない部屋もあるようだ。
クラウドがそれを不思議に思っていると、ルーファウスが意味ありげな笑みを浮かべながら、ある一点を示す。
そこには大きな植木鉢があった。
植木鉢にしてはかなり不自然な大きさだ。
「魔物?」
「正解だよ、クラウド君」
その植木鉢の気配は少しおかしい。
ルーファウスがそれに近づき、リボルバーでそれを殴りつける。
するとそれの一番大きな葉がぱくりっと割れ、口が出てくる。
クラウドはそれに近づき、すぐさま一閃。
さくんっと綺麗な音をたてて、それは真っ二つに割れさらりっと崩れる。
「植物系の魔物が多いみたいだから、その為の明かりのようだね」
植物は夜は眠る。
眠るといっても、人間のように眠るわけではない。
しかし、休眠状態に入って侵入者に気づかない見張りでは意味がないのだろう。
だから明かりを灯し、周囲を警戒するようにさせている。
ルーファウスに殴られるまで動きがなかったのは、2人の気配の消し方が上手かったからだけだ。
そのまま2人は気配を絶ったまま書斎に忍び込む。
ルーファウスの言う通り、書斎に人の気配はなかった。
ずらりっと天井まで並ぶたくさんの本。
ぱたんっと静かに扉を閉める。
「ここは防音が聞いているから、多少大きな音をたてても大丈夫だと思うよ」
ルーファウスは手に持っていたリボルバーをホルスターにしまう。
クラウドも抜き身のバスターソードを鞘におさめる。
そしてぐるりっと書斎を見渡す。
(全て処分した方がいいか。そう言えば研究所の方の書類もなんとかするべきだな)
ルーファウスは書斎のテーブルにある書類を手に取り読み始めた。
クラウドは書斎の棚の本のタイトルだけをざっと見る。
どれがセフィロスに関する記録書なのか、集めるのに少し時間がかかるかもしれない。
一番手っ取り早いのは、屋敷ごと燃やしてしまう事だ。
(だが、それじゃあ、セフィロスがやったこととあまり変わらないな)
ふぅっと小さなため息をつくクラウド。
セフィロスがこのニブルに来る前に、ここに来れた事は良かった。
だが、この後どうするかを決めていなかった。
記録書類を燃やすか、燃やすにしてもどうやってここから持ち出すか。
(ルーファウスをどう誤魔化すかも問題だよな)
「ん?」
ざっと本を見ていると、ひとつだけ妙な違和感がある背表紙を見つけた。
まるでそれだけが”作られた”ものであるかのようにそこにおさまっている。
「なんだ?」
クラウドがそれをすっと取り出そうと傾けた瞬間。
がこんっ、ごごごごご…
それがおさまっていた本棚のすぐ隣の本棚が奥へと下がり、ごごっと音をたててずれる。
本棚ひとつ分の空間が開き、そこには階段が存在していた。
”以前”ここに来た時は、こんなものはなかった、いや見つけることが出来なかったため、クラウドは少し驚く。
「へぇ、隠し扉だ」
クラウドの横からひょこっと階段を覗き込むルーファウス。
「え、おい!」
ルーファウスは読んでいた書類を放り出して、階段をさくさくっと降りはじめてしまう。
薄暗いというのに、目がいいのだろうか、ためらいなど全くないかのように足を進めている。
クラウドもこの先に何があるか気になるので、ルーファウスについていく形になる。
階段は螺旋階段になっているようで、そう長い階段ではなかった。
しばらく下りていくとほんのりと明るい部屋に出る。
そこは明かりがともっているわけではないが、壁にヒカリゴケか何かが塗りこまれているのだろう、部屋全体が明るい。
「宝条の隠し研究室…みたいだねぇ」
転がる実験器具やら書類。
そして大きな、人一人入るビーカーがひとつ。
中は薄い緑色の液体が入っているだけで、中には何もない。
「これは、名前が書いてあるね。ここに入っていたものの名前かな?」
ルーファウスはビーカーの下の方についている板をなぞる。
刻まれているのは製造された年号らしきものと、それの名前らしきもの。
刻まれた名は”セフィロス”ではなかった。
「カダージュ?」
知らない名にクラウドは顔を顰める。
緑色の液体と大きな液体は、嫌な記憶が蘇ってきてあまり好きではない。
これに入っていた”カダージュ”も何かの実験体だったのだろうか。
「随分と好き勝手な研究やっていたみたいだね。これをあの狸は知っていたのか…」
ルーファウスの興味は別の所にうつったようで、ビーカーから視線をそらされ、部屋の中央にあったテーブルの上に散らばっている書類を見始めた。
クラウドはじっと巨大なビーカーを見る。
(生み出されたのは魔物か、それともセフィロスと同じものか。ここにいた俺の知らない”何か”)
ビーカーをじっと見ていたクラウドの後ろから、くくくっとルーファウスの笑いが聞こえてきた。
「どうした?ルーファウス」
「いや、面白い記録があったよ、クラウド君」
その笑みは、何か楽しそうなものを見つけたような笑み。
だが、決して心から楽しそうな笑みではなく、見てはいけないものを見つけてしまった楽しさ。
ルーファウスが一枚の書類をクラウドに差し出す。
クラウドはそれを受け取って、書類のないように目を走らせる。
そこにあった内容はこれだ。
―セフィロス製造過程記録
この文字に、流石のクラウドも少し表情を動かす。
”育成”ではなく”製造”記録なのだ。
世間では英雄と言われている存在が、まるでもののような扱い。
分かってはいたし知ってはいたがが、こういうものを実際再び目にすると、怒りがわいてくるのは仕方ないだろう。
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