星の扉 16




念のためクラウドはいつも携帯食料を少しだけ持っている。
ルーファウスも最低限の準備だけはしているらしく、持っているのは武器と携帯食料。
目指すはジュノン。
ジュノンから海を越えてコスタ・デル・ソルに向かう。
そこから2つほど山を越えれば、ニブルヘルムだ。
ルーファウスはあくまで最短距離を行き、安全ルートを選ぶつもりはないようだ。
ジュノンを目指すにも山越えである。


「クラウド君、結構体力があるね。よかったよ」

息も乱さず山を登るルーファウス。
クラウドも華奢な方だがルーファウスもそう体力がある体つきには見えない。
しかも服装がどう見ても山登りに向かない服装なのだ。
だというのに、服には汚れひとつなく今の所綺麗なまま。
途中、魔物との遭遇も何度かあったが、ルーファウスもクラウドもそう苦戦することなく倒してきた。

「一応神羅兵ですから」
「言い直し」
「……は?」

きょとんっとするクラウド。

「丁寧語はなしって言ったよねぇ?」

(別にこんな場所でまで要求する必要はないだろ?そこまで徹底する気か)

「まぁ、いいけど」

クラウドが言い直す前にルーファウスはどうでもいいかのように、肩をすくめる。
いいなら言うなと言いたい気分である。

「とにかく急ごう。あまり長期間行方不明になっていると後が煩いからね」
「…十分早い速度だと思うけど」
「そうは言ってもね、ニブルは遠いんだよ。途中で何か乗り物を盗った方がいいかもね」

(盗るって、盗む気か?いや、あんた副社長だろ。そんなことしていいのか)

「チョコボでもいれば楽なんだけどね」
「それなら一度戻ってチョコボファームに行けば…」
「そんな無駄な時間を使うのは嫌だね」

やはりルーファウスはルーファウスだ。
我侭な所がルーファウスらしい。
クラウドはルーファウスに分からないように小さくため息をつく。

「とにかく……」


クェッ!!


話していても仕方ないから急ごうと言おうとしたクラウドの言葉を遮るように、声が聞こえた。
きょとんっとするクラウド。
こつんっと頭に硬い何かが軽く当たる。
何かと思って見上げてみれば、そこにはクラウドの髪型と似た毛の形をした生き物。
ルーファウスがくくくっと笑っているが聞こえた。

「仲間だと思ったのかな?」

笑いながらルーファウスが言う。
クラウドが見上げた先には、先ほど話題にのぼったチョコボがいた。
黄色の毛に人懐っこそうな青い目。

「クェ!」

嬉しそうに鳴くチョコボ。
思わずため息がでてしまっても仕方ないだろう。
クラウドは自分の髪型がチョコボに似ているのは分かっている。
分かってはいるが、同類とされるのはあまり嬉しくない。

「野生のチョコボか」
「丁度いいじゃないか、クラウド君。乗せていってもらえばね」
「クェ!」

ルーファウスの言葉を理解したかのように了解の返事をするチョコボ。
輝くような黄色の毛並みは綺麗で、この大きさならば2人くらい乗れるだろう。
今のクラウドの身体は小さい方だし、ルーファウスもそう大きな体格の方ではない。

「乗せてくれるか?」
「クェ!」

クラウドの言葉を了承したとばかりに、チョコボはしゃがみこんで乗るように促す。
遠慮しないでひょいっとルーファウスは乗る。
クラウドは小さくため息をついて、その後ろに乗った。
チョコボはクェっとひと鳴きしてざっと走り出した。
人が走るよりもやはりチョコボが走る移動速度のほうが断然速い。
チョコボは、クラウド達の行き先が分かっているかのように山を越えて海がある方へと向かっていく。
ざざっと草の音が聞こえてくる。

「この分なら思ったよりも早く着きそうだね」
「そうか?海をどうやって渡るつもりなんだ?コスタ・デル・ソルからニブルまでの道は結構長いぞ」
「あれ?お仲間なのにクラウド君は気付いていないのかい?」

くすくすっと何が可笑しいのか笑うルーファウス。
チョコボとクラウドが仲間扱いされるのは仕方ないにしても、相手を馬鹿にしたようなその物言いがどうしてもむっとくる。
幼い頃から上に立つ者として教育されてきたからなのか、仕方ないのかもしれない。

「このチョコボの毛は黄色でなくて、金色だよ。よく見れば違うだろう?」
「金色…?」

よく見れば普通の黄色いチョコボと色合いが違うように見える。

「海チョコボか?」

一般的なチョコボは黄色のチョコボであり、草原や砂漠を越える乗り物として使用される。
山の中で出会った時点で普通のチョコボでないと考えるべきだっただろう。
山を越えられるのは山チョコボであり、毛の色は薄い緑色である。
山チョコボでさえ貴重だというのに、海チョコボなどかなり貴重だ。

「そう、だから海も越えられる」
「こんな所に海チョコボなんているんだな」
「そうだね、絶滅種扱いされているけれども、いるところにはいるんだね。スカーレットあたりに見つかったら確実に実験室行きだろうね」
「…ルーファウス」
「冗談だよ。僕はチョコボの生態なんかに興味ないからね。ニブルまで行ければ十分だ」

ざざっとチョコボが駆けているうちに、すぐに海が見えてきた。
左側、クラウド達は西に向かって進んでいるので南側になるのだが、そちらにジュノンが見える。
軍港都市であるジュノンの港は大きい。

「ジュノンもここから見れば、ただの鉄の塊に見える」
「あそこまで大きな港が必要なものか?」
「さぁね、自分の力を知らしめたい、見せ付けたいだけだと思うよ。軍港都市と言っても実用性がなければ全く意味がないだろうしね」

ジュノンの港を見るルーファウスの目はとても冷めたものだった。

「僕は父とは違うやり方で神羅を治める。不安定な鉄の塊の力でなく、圧倒的な力を手に入れるんだ」

圧倒的な力というのは古代種のことか、それともジェノバのことか。
ルーファウスはセフィロスがジェノバの息子である事を知っているのだろうか。
ジェノバが古代種なのではなく、星の厄災である事を。
メテオとホーリーが発動し、ミッドガルの半分以上が廃墟となった後に会ったルーファウスは、どこで聞いたのかそれを知っていた。
今のルーファウスはどこまで知っているのだろうか。

ぱしゃんっ

チョコボの足が浅瀬から海に入る。
ぱしゃぱしゃっと海の表面を走るように難なく駆けるチョコボ。

「へぇ〜、本当に海の上を走るんだね」
「海チョコボなんだから当然だろう?」
「いや、知識で知っていても本当かどうか信じていなかったんだ」
「は…?ちょっとまて、チョコボで海を渡るような事を普通に言っていたじゃないか」

一般的なチョコボを見慣れている人からすれば海を走るチョコボなど珍しいことこの上ないだろう。
クラウドも初めて海チョコボに乗った時は驚いたものだ。
その時は仲間がいたので驚いた表情を見せることはしなかったが…。

「言っていたね、半分冗談だったんだけど」
「おい…」
「ま、いいじゃないか。結果よければ全てよしだよ。この分なら本当に数日もかからないでつけそうだしね」

さらりっとクラウドの言葉を聞き流すかのようなルーファウス。
半分冗談の割にはチョコボが海に向かって一直線に走っていたときには随分と落ち着いたものだった。
本当に半分冗談だったのか、信じていたのか分からない。

「クラウド君はニブルに帰ったら家にしばらくいる予定?」
「あ、いや、俺は…」

ニブルヘルムの家には戻るつもりはない。
母もいるし幼馴染もいる。
だが、ソルジャーになるまでは帰らないと大見得きって出てきた以上は帰りづらいし、なによりも他に確認したい事がある。

「なんだ、故郷に帰りたくて同行を了承したわけじゃなさそうだね。他に理由でもある?」

クラウドがニブルに行きたいのは神羅屋敷の資料を抹消する為。
それがなくなれば、セフィロスが真実を知ることはない。
それがセフィロスがメテオを発動させる為のきっかけのひとつでしかないとしてもだ。

「家に帰るつもりがないなら、そのまま僕に付き合ってよ。ニブルにある屋敷に用があるんだけど、その屋敷の行きたい場所は警備に”魔物”を使っているらしくてさ」
「警備に…魔物?」
「そう、魔物」
「魔物が人に従っているという事、か」
「そうだよ。神羅は結構薄汚い事をやっているんだ。僕はその全てを知るためにニブルに向かっている」

それは知っている。
クラウドが今知らない酷いこともやっているのかもしれない事も。
人を人とも思わない実験、それがセフィロスというメテオを呼ぶ存在を作り出してしまったのだから。

「強引に僕が連れ込んだようなものだけどね、クラウド君」
「なんだ?」
「逃げるなら君を殺すよ」

ルーファウスは少しだけ顔を動かしクラウドの方に目を向ける。
人の命を奪う事を躊躇わない目。
ルーファウスにとって、それが本気である事も、それを平気でできることも知っている。

「別に構わない」

ルーファウスが知りたいと思っていることをクラウドは知っている。
それを知ったからと言って逃げ出す事などしない。

「多分、目的は一緒だ」

小さく呟いたクラウドのその言葉が聞こえたかどうか分からない。
だが、ルーファウスはそれ以上何も言わなかった。

風や大地、海から感じる暖かな星の力。
星が願っていた事を叶えよう。
それはかつて味わった自分の大きな後悔を少しでも小さく出来る事だと思うから。




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