星の扉 13
さくさくと歩くセフィロスとクラウド。
その歩調は随分とゆっくりである。
「年はいくつだ?」
「は?…いえ、15です」
何の前触れもない質問に戸惑いながらも答えるクラウド。
どこをどうしたら年齢の話題が出てくるのか分からないが。
「ソルジャーを目指しているのか?」
「はぁ、そうですね」
今のクラウドはソルジャーになりたいわけではないので、素直に肯定は返せない。
だが、ソルジャーになりたいわけでもないのにどうしてこの年で兵士などやっているかと聞かれてしまうと困ってしまう。
クラウドと同じような年代で神羅の一般兵などやっているのは、殆どがソルジャーに憧れている者ばかりだ。
「故郷は?」
「ニブルヘルムです」
「随分と遠い所から来たんだな」
「おかげで、ミッドガルに来てから故郷にはまだ一度も帰れませんよ。帰る費用と日数を考えると、そう簡単には帰れませんから」
費用と日数もそうだが、この頃のクラウドはソルジャーになるまで故郷には決して帰らないと決めていたのだ。
強くなるまで帰らないと。
幼馴染と一方的だが約束をしたのだから…。
「帰りたいと思ったことはないのか?」
「ありますよ」
今、まさにニブルヘイムに行きたいという状況だ。
”帰りたい”でなく”行きたい”というのが微妙な所なのだが。
「ちょっと、やりたい事、というかやり残した事がありまして、時間が取れれば故郷に一度戻りたいと思っているんです」
どうあっても神羅屋敷には一度行かなければならないだろう。
ここでセフィロスに対しても故郷は?と話を向ければ話が弾むだろう、と普通は思う。
だが、セフィロスには故郷も、おそらく両親の記憶もないはずだ。
「故郷というのは、どういうものだ?いいものなのか?」
どういうものかと聞かれてクラウドは考えてみる。
そう言えば、以前も似たような質問をセフィロスにされたことがあったような覚えがある。
それはずっと”昔”のことだが…。
クラウドにとって、故郷にはあまりいい思い出がない。
同年代の子供達とは殆ど話もせず、村人からも歓迎はされていなかった。
それでも、生まれてから暮らしてきた土地である。
「その人によって違うかもしれないですが、俺にとっては”帰ってもいい所”なんだと思います」
人によっては故郷は、帰るべき場所だったり、大切な者が待っている場所だったりと様々だろう。
故郷に帰りたいと強く望むわけではないが、あそこには大切な幼馴染と、母親がいる。
その2人は大切だと思えるには十分な存在で、その2人がいるかぎり、ニブルヘルムに帰ってもいいんじゃないかと思えた。
「帰ってもいい場所、か」
今いる場所以外に居場所があるというのはとても心強い事。
いざと言うときの逃げ場があるとも言える。
人の心理としてひとつの居場所しかないときは窮屈なものだ。
つらい居場所でも、帰ってもいい場所が他にあるのならば頑張れる。
「サーにもきっとありますよ」
「故郷がか?」
セフィロスは自嘲気味な笑みを浮かべる。
自分に故郷などない。
誰からどこでどんな風に生まれたのかすら知らない。
「故郷じゃなくて、帰ってもいい場所ですよ。意外と自分が気がつかない場所で、身近にあったりするもんなんです。離れてみなければ、分からないこともありますしね」
故郷が大切だとクラウドは今まで思わなかった。
けれども、約束を残した故郷は確かに支えになっていて、離れてみて分かる大切さというものがある。
「ミッドガルがそうかもしれない、ということか」
ミッションに行ってセフィロスが変える場所はミッドガルの自分の家だろう。
他に別荘があるのかどうかは分からないが、クラウドが知る限りはそこだけだ。
セフィロスの家がどんなものかは分からないが、そこに帰るということは、そこに帰ってもいいからではないだろうか。
「俺にははっきりとそうとは言えませんけど、誰にだってあると思いますよ」
帰ってもいい場所が。
「そうだな…」
ふっと笑みを浮かべるセフィロス。
そのままの表情で、何かに気がついたのか正宗の柄に手をかける。
クラウドも気がつく。
僅かに草を掻き分ける音と魔物の気配。
この島にはそれなりの数の魔物がいる。
ゆったり話してばかりいられるわけではない。
「クラウド」
「はい、分かっています」
あまりに強力な魔物相手ではクラウドはセフィロスの足手まといになってしまう。
自分の力のなさが悔しい。
だが、今はそうも言っていられない。
クラウドは周囲を警戒しながら、歩いてきた方向へと少し下がる。
がさがさがさっ
ギィギャ!
現れたのはモルボル。
形は大きなひまわりとでも言うのか、ただ色は緑一色で、真ん中には大きな口と、ひまわりでは花びらの部分にあたる場所は花びらでなく棘と短い触手だ。
様々なステータス異常を起こす攻撃をしてくるので随分と嫌われている魔物。
(…このあたりでモルボルなんて出てたか?)
この島のモンスターのレベルは本当にピンからキリまでのようである。
モルボルは寒い地方に現れる魔物。
ここは確かに北方にあたるが寒いわけではない。
「この島の魔物はなんでもあり、だな」
セフィロスがそう口にするのが聞こえた。
(まったくだ)
クラウドは心の中で同意する。
なんでもありでどんな魔物が出てきても、星数ほどが一気に襲ってきたり、星の兵器とも言えるウェポンでもない限りはセフィロスならば大丈夫だろう。
すらりっと抜き放つ正宗の輝きは怖いほど。
余裕すら見せるセフィロスの刀捌き。
それを見ているのもいいのだが、敵はモルボルだけではないようだ。
クラウドは魔物の気配を探って、セフィロスに背を向ける。
(今の俺に倒せる魔物もいる。それくらいはしないとな)
クラウドは自分でも気づいていないのだろうが、相手にしている魔物のレベルが違うにしろ、セフィロス同様余裕すらあるように見える。
今までの経験があるからなのかもしれないが、神羅の一般兵にはとても見えない程の度胸だ。
バスターソードで魔物を切り裂く。
冷静に魔物の動きを見極めて、今の自分にできる動きをする。
『汝が望めば我らが出るが…マスター』
頭の中にアーサーの声が響く。
確かに彼らの力を借りれば、この島の魔物全てを一掃するのも楽だろう。
(まだ、あんた達の力を使う気はないんだ。いつか絶対に必要になる時が来るだろうから、その時は頼む)
『了解した』
この星にジェノバがいる限り、いつかは対峙しなければならないだろう。
その時動くのはセフィロスか、また、別のソルジャーか…それは分からない。
(でも、俺はセフィロスには、以前と同じ道を歩んで欲しくない!)
ざっと力いっぱいソードを振りぬくクラウド。
魔物の赤くはない血がソードに飛び散る。
刃を振ってその血を振り落とし、おさめる。
セフィロスの方を見れば、セフィロスはすでに刀をおさめて、倒されたモルボルを見ていた。
「サー・セフィロス?」
クラウドはセフィロスの背中に呼びかける。
だが、セフィロスは反応せずにそのまま動かない。
聞こえていないわけではないだろう。
クラウドはセフィロスの隣まで歩み寄る。
「異質な島…か」
様々な魔物が出没する島。
確かに異質と言ってもいいだろう。
「この世には絶対なんてありませんよ。だから、こんな変わった場所があってもおかしくないです。自分の知る常識に当てはまらないからといって、異質と決め付けてしまう事はありません、サー」
「クラウド…」
クラウドは小さくため息をつく。
セフィロスが色々悩んでいるだろうことは分かる。
この島は異質だ。
だからこそ、異質である自分を自覚してしまうだろう事も。
「ここはただの変わった島ですよ」
行きましょう、とクラウドは先を促す。
セフィロスはクラウドのその言葉に小さく笑みを浮かべた。
(そう、ここはただの変わっている島だ。そして、あんたはただの変わった英雄なんだよ。この世界で一番異質なのは………俺だ)
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