星の扉 12





ナイツ・オブ・ラウンドを耳に、クラウドは洞窟の外に出た。
一通り洞窟を探索したものの、やはり以前と変わらずそう長くない道と突き当たりにそう広くない空間のみ。
島の中心にある洞窟は、島よりも大きくはないということになる。
洞窟の外では、ザックスとセフィロスが待っていた。
何度か魔物が襲ってきたのだろう。
何匹かの魔物が倒れふしているのが見えた。
クラウドが洞窟内にいた時間はそう長くはなかったはずだというのに…。

セフィロスがクラウドに視線を向けてきた。
恐らくどうだったかと聞きたいのだろう。

「洞窟内はそう広くありませんでした。数分ほど歩くと少し広い空間に出て、そこが丁度行き止まりですね」
「何もなかったのか?」
「はい、俺が見る限り特には見当たりませんでした」

まさか、ナイツオブラウンドのことを口にするわけにはいかない。
話せばなし崩しに自分が過去に来てしまったことまで話さなくてはならなくなってしまいそうな気がするから。

「何もないんじゃ、旦那がここに来る意味なかったってワケだな」

ザックスは肩をすくめる。

(ここに来る意味がなかった…?)

それはどういう意味なのだろうか。
クラウドが言葉の意味を問うようにザックスへと視線を向ける。

「旦那が同行したのは、科学部門が感知した膨大なエネルギーの探査のためだったって訳。もしかしたらその膨大なエネルギー源が強力な魔物だった場合は、旦那でないと太刀打ちできないだろうってってことで、旦那が来たらしいぜ?」

確かに、ナイツオブラウンドはかなり強力な召喚マテリアだ。
セフィロスくらいのソルジャーでなければ、太刀打ちできないだろう。

「だが、この洞窟だけとは限らないからな。オレはもう少し周囲を探索してみるが、どうする?」
「そうだな〜。オレ達もここだけってワケにもいかねぇだろうし。けど、この洞窟の件は一度報告した方がいいだろうしな」

クラウドだけが入れて、ザックスとセフィロスが拒まれた洞窟。
中をクラウドが確認したからといって、この特殊な洞窟の存在を報告しないわけにはいかないだろう。

「この洞窟のこれが…」

セフィロスが洞窟の入り口へと手を伸ばす。
ぱちっと変わらずにはじかれる手。
はじかれる瞬間の光がライフストリームの光と同じ色。
これが星の拒むシールドだと言われれば、それが分かる。

「その膨大なエネルギーかもしれないからな」

このシールドが膨大なエネルギーであることは正解かもしれない。
でも、恐らく神羅の探査に反応したのはナイツ・オブ・ラウンドの方だろう。
これが星のシールドであると、宝条博士は気づくだろうか。
現神羅科学部門の最高責任者の宝条博士は。

「んじゃ、オレがヘリのトコの兵士に言って無線飛ばしてもらうわ。旦那とクラウドはその辺調べててくれ」
「ああ、そうしよう」
「んじゃ、クラウド。報告書にきちんと書けるように頼むぜ〜」

ザックスは片手を上げて、ヘリの待機している方向へと走っていった。
報告だけならばクラウドが行ってもいいだろう。
だが、この辺りの魔物は相当強い魔物も多い。
クラウド一人で報告には行かせられないということなのだろう。

しかし、セフィロスと2人だけになるとどうも会話がない。
接点がないのだから仕方ないのだが…。
クラウドは一人で行動するわけにも行かず、どうするべきかセフィロスを見る。

「クラウド」
「はい」

名前を呼ばれて少し驚く。
良く考えれば、名前を呼ばれたのは初めてなのではないのだろうか…。

「少し下がっていろ」

セフィロスは洞窟を見据えたまま、左足を一歩後ろへ、右手を正宗の柄へとかける。

「サー・セフィロス?」

一体何をするつもりなのだろうか。
そう思いつつも、セフィロスの言葉に従ってクラウドはセフィロスがいる位置よりも2〜3メートル程下がる。
洞窟に向かって構えるセフィロス。
となればやることは限られるだろう。

(まさか、シールドを斬るつもりか?そんな事をすれば洞窟自体も崩れるんじゃないのか。…いや、セフィロスならシールドだけ斬る事も可能かもしれない)

そこにいる存在感だけが違う。
包まれた気配が圧倒されるものだ。
クラウドはそれを驚くことなく見ていた。


きぃんっ


セフィロスが刀を振りぬくと同時に、金属がはじかれるような音。
そして、剣圧からか、ざぁっと風が吹き抜ける。
吹き抜けた風がおさまった後には、何も変わってない洞窟の姿。
傷ひとつついていない。

「…変化なし、か」

ぱちんっと刀を鞘におさめるセフィロス。
どうやらシールドを斬る事は出来なかったようである。
洞窟が崩れる事がなかったのは、岩を斬らない様にセフィロスが力を加えたからだろう。

「すごいですね」

その強さが当然のものだと知っていても、見慣れたものであっても、目の前でそれを見ればすごいと思える。
”前”のクラウドになら同じような事ができただろうが、今のクラウドにはまだ無理だ。
セフィロスがゆっくりと振り返る。

「…怖いか?」
「へ?」

思いもしなかった言葉をかけられて、思わず間抜けな返事をしてしまうクラウド。

「何がですか?」

言われた言葉に対するものに心当たりがなくて尋ねるクラウド。

(怖いって何が怖いって言うんだ?)

セフィロスが僅かに驚きを見せた。
しかしその驚きの表情はすぐに消え、小さな笑みを浮かべる。

「いや、分からないならいい」

クラウドがその言葉に僅かに顔を顰める。

(いいって…。いいなら最初から聞いてくるなよな)

心の中で文句を言ってやるが、流石に口には出来ない。
セフィロスが聞きたかったのは、自分のこと。
戦いの気配をまとい、刀を振るうセフィロスを怖れた目で見るものが殆どだ。
その視線に慣れてもいるし、その感情も当たり前だと思っている。
だが、クラウドにとってセフィロスは”憧れていた”存在であって、遠い雲の上の追いつけない存在ではない。
でも、今のクラウドにとってセフィロスの持つ力は”すごい”のだ。

「俺がすごいって言ったのは、サーの技術ですよ。洞窟を傷つけずにシールドだけ斬ろうと思って斬れるものじゃない。その力の加減が難しいのに、それをやろうとしたからすごいって思ったんです」

最も、星の作り出したシールドを斬る事が出来る人間が居たらすごい所ではない。
星のシールドを斬るということは、星そのものを壊すほどの力を持つという事にも繋がる。
セフィロスならできそうだが…。

「すごい…か。いつ、どうやって、この力がついたか分からないのにな」

セフィロスのその呟きが少しだけ、ほんの少しだけ寂しそうに聞こえた。
生まれながらのソルジャーであるセフィロス。
今のセフィロスは自分の出生を知らない。
何のために、どうやってソルジャーとなったのか。
他のソルジャー達は全てソルジャーとしての処置を施されている。
セフィロスもザックス達ソルジャーも事実は知らないがクラウドは知っている。
ソルジャーは空からの厄災”ジェノバ”の細胞を植え付けられた強化人間のようなものである。
だが、ソルジャーだからとか、”ジェノバ”の息子であるとかは関係ないとクラウドは思う。

「いつ、どうやって、というのはあまり問題ではないと思いますよ。今自分が持っているものをどうやって未来に生かしていくか。それが大切だと、俺は思います」

経験と知識。
一般兵士の力のみしかないけれども、当時はなかった経験と知識が今のクラウドにはある。
だからこそ、それを生かしていきたい。
今度は後悔しないように…。

セフィロスは口元に笑みを浮かべて、クラウドの頭に一瞬軽く手をぽんっと置いた。
クラウドは一瞬きょとんっとする。

「ここに居ても仕方ない。洞窟に入れないならもう少し周囲を見るべきだな。行くぞ、クラウド」

歩き始めるセフィロス。
セフィロスの雰囲気が寂しそうなものから変わった。
少しだけ見えた寂しさがなくなっている。

(なんなんだ?昔からそうだけど、良くわかんない英雄だよな…あの人って)

クラウドは歩き始めたセフィロスの後を追う。
洞窟のある場所からザックスが向かった方向とは反対方向へと行く。
この周辺はとても静かだ。
そして…

星の声がとても響く。

星の声はこの星そのものの”言葉”。
風も、大地も、緑も…全てが星の一部。
ミッドガルには緑は殆どない。
だから星の意思を感じる事は難しい。
だが、ミッドガルを出れば星の意思をこんなにもはっきりと感じる事が出来る。

「クラウド、どうした?」
「いえ、何でもありません」

どこかぼぅっとしていたクラウドにセフィロスが声をかける。
クラウドは首を横に振る。
改めて星の意思を感じていただけ。
恐らくセフィロスには感じる事はできないだろうが…。




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