黄金の監視者 17
黒の騎士団が普段何をするかと言えば、基本的に人助けになるようなことだ。
かといって、常に戦闘ばかりではない。
は黒の騎士団内では黒髪のウィッグをつけたまま行動していることが多い。
向けられる視線がそれで変わるわけではないが、やっぱりシュナイゼル似の髪の色、顔立ちが、どうしても自分で気になってしまうからだ。
髪が違えば少しはましだ。
「ナオトさん?時間平気?」
ナオトは右腕がごっそりない為、基本的に技術協力になる。
ナイトメアのメンテナンスや、小さな改造などへの協力をしている。
ナイトメア格納庫の方へと行けば、ナオトが休憩しているのか木箱に腰掛けて他の団員と一緒に休んでいるのが見えた。
「どうした?」
「うん、時間があるなら足の相手してくれないかな、って思って」
「ああ、構わないぞ」
黒髪のウィッグを付けたがブリタニア人だと知っている者は少数のようだ。
サングラスもかけていてなおかつ黒髪では、相当近くで見ないとブリタニア人であるとは分からないだろう。
「直人?何するつもりなんだ?」
ナオトのすぐ側に座っていたのは、先日ゼロに対面したときに一緒にいた…そう、確かナオトは”要”と呼んでいた男だった。
黒の騎士団でも幹部の1人になるようで、ゼロへの発言力も彼が一番大きいようだ。
どうも、ナオトの友人のようで、よく一緒にいるのを見かける。
ゼロは扇と呼んでいる所を見ると、フルネームでは扇・要ということなのだろう。
「まぁ、見てろって。なんでも、勘を鈍らせないために相手をして欲しいんだと。よくやってることだからさ」
ナオトは持っていたカップをことりっと置く。
ナイトメアの格納庫なので広さは十分だろう。
周囲に人がいないことを確認して、はにこっと笑みを浮かべる。
「少しは手加減してくれよ、」
「それは無理。だって、今のナオトさん相手に手加減したら僕が負けちゃうもん」
「お前が全力出したら、俺が負けるだろう?」
「それはそれでいいと思うんだ」
「あのな…」
「とにかく、お願いします」
すっとの雰囲気が変わる、と同時にナオトも構える。
足の相手というのは、足のみを使っての手合わせという所だろうか。
がっと音を立てて互いの蹴りが交わる。
手は攻撃に使わず、身体のバランスをとるためと身体を支えるためだけの為に。
周囲の団員達が驚いたようにその光景に見入る。
蹴りだけが交わるわけじゃない。
が蹴り上げれば、その脚を引っ掛けるようにしての身体を倒そうとするナオト、それを防ぐようには右手を地につけ自分の身体を回転させる。
脚払い、膝蹴り、踵落とし、攻撃は多種にわたる。
「じゃあ、次で勝たせてもらおうかな」
「そういつまでも勝ちを譲ってたまるか」
2人共体勢を整えて構えなおす。
同時に足を踏み出す。
がっと音がして、飛ばされたのはナオトの方だった。
だが、綺麗に着地をしている。
互いに向き直り、小さく頭を下げる。
それが終了の合図だ。
「やっぱり、まだには敵わないな」
「何言ってるの?僕とナオトさんが手合わせはじめてまだ2年だよ?正直、2年でここまで追いつかれるとは思ってなかったからびっくりだよ」
足だけとはいえ、ここまでできれば十分だとは思う。
ブリタニア軍人が襲って来た時はが殆ど相手をしていたが、ナオトに向かっていくブリタニア軍人もいたのだ。
それをナオトがなんとかしてくることができたのも、とのこの手合わせのお陰であったりする。
「直人、お前、普通に戦えるんじゃないのか?」
扇が驚いたように話しかけてくる。
「いや、さすがに主戦力にはならないよ」
「けど今のを見る限りじゃ十分だ」
「片手じゃナイトメアにも乗れないし、無理だ。一応自分の身を守ることくらいは出来るだろうけどな」
ナイトメアなしの戦場でならば戦力にはなり得るだろう。
しかし、今はナイトメアが戦場での主戦力なのだ。
「僕もカナメさんの意見にちょっと賛成。ナイトメアばっかりが戦力ってわけでもないしさ」
「」
は自分がそれなりの経験も強さもあることは自覚している。
その自分と足だけとはいえ、手合わせが出来きるナオトは戦力として十分なのではないだろうか。
右腕がない分、それを補おうと他の能力を上げることにかなり努力をしたのが分かる。
「必要なら戦場に出るのは構わないが、それを決めるのはオレじゃないだろう?」
「ゼロ?」
「そうだ。ここの指揮官はゼロだろう?」
ナオトはゼロの指示に従うだけなのだろう。
ゼロがナオトは不参加と言えばそれまで。
黒の騎士団は遊びではない。
だから、私情を挟んで役職を変えるわけにもいかないのだろう。
「でも、勿体無いな…」
「オレはの相手だけ十分だよ。成長期のお前にちゃんとしたモンを食べさせなきゃならないしな」
「それって、僕の世話が大変だから肉体労働は無理って事?」
「それもあるな」
「あ、酷い、ナオトさん」
ナオトはくすくすっと笑うが、も声ほど本気で怒っているわけではない。
「随分と仲がいいんだな」
扇が笑みを浮かべて、ナオトとを見る。
これだけ親しげに会話をしていれば、確かに仲が良い部類に入るだろう。
も、学園では親しい友人というのがいないのでナオトのように仲が良い相手はあまりいない。
「弟が増えたような気分だな」
「ナオトさんみたいな兄だったら、僕、大歓迎だな」
実の兄はいるが、こんなに気さくな人ではなかった。
優しいと言えば優しい人だったのかもしれない。
が疑問を投げかければ答えてくれたし、頼みごとをすればきいてくれた。
最も、から疑問を投げかけることは数少なかったし、頼みごとをしたことも2−3回くらしかなかった気がする。
「君は学校に行っているんだろう」
「アッシュフォード学園のこと?」
扇に質問されては答える。
「カレンも同じ学園だが、今は学園で授業を受けている時間じゃないのか?」
「うん、そうだよ」
「ここにいて構わないのか?」
カレンとゼロの姿はここにはない。
黒の騎士団の活動で休みがち授業を、受けれる時は受けておこうということなのだろう。
しかし、はあまり積極的に学園には行かない。
「僕は生活費を稼ぐっていう名目でバイトが許されているから、基本的にバイトを理由に学校の半分はサボってるの」
「サボってばっかりだと授業についていけなくなるぞ、」
「やだな〜、ナオトさん。その注意は1年ほど遅いよ。もう、ついていけなくなってきてるし」
大きなため息をつくナオト。
「僕は義兄上みたいに頭のデキがいいわけじゃないから、授業を真面目にうけてても理解できたかどうか分からないし」
「そんなに成績駄目なのか?」
「僕の場合、基礎教育ができていないからね。学校にちゃんと通い始めたのもアッシュフォード学園に入ってからだから」
生まれてからが学んだのは戦い方。
”敵”をどれだけ効率的に倒していくか、戦場での戦い方などばかりだった。
身分が身分だったので、一応の礼儀作法も身につけられるように教師がついていたし、勉強の教師もついてはいた。
しかし、はそんなものをまともには受けていなかっただけだ。
「にしては、礼儀作法は結構しっかりしてるよな」
「そうかな?」
「ああ、随分綺麗だぞ」
にはこれが当たり前だったので、自分の礼儀作法が綺麗かどうかは分からない。
ルルーシュもナナリーも、やはり基本的な言動が皇族らしく綺麗なところがある。
「ねぇねぇ、カナメさんってナオトさんのお友達なんだよね?」
「え?あ、……友達?」
「何でそこで疑問系になるんだ、要」
「いや、否定したいわけじゃなくてだな、友人というよりも、仲間って方がしっくりくるというか…」
はナオトの交友関係を知らない。
扇とは随分と親しそうに会話をしているのをよく見る。
彼も、ナオトほど親しそうに会話をしている人はいないかもしれない。
はぽんっと手を合わせる。
「ナオトさんがいたテロ組織にいた人?」
「直人…、お前そんなことまで話しているのか?」
「いや、だってな。と会った時が時だったしな。大体、も似たようなことをやってるぞ」
「似たようなこと?」
扇が不思議そうにを見る。
「別に僕がやってるのはテロじゃなくて、必要な生活用品をブリタニア軍からちょこぉっと拝借しているだけだよ」
「ブリタニア軍からって…」
「バイトするよりずっと効率がいいよ?ブリタニア軍ってほら、やっぱり裕福だから」
扇はナオトの方を見る。
ナオトはため息をつきながら、扇が考えているだろう事に対して肯定するように頷く。
「新宿の侍の噂は知ってるか?」
「実際姿を見たことはないが、噂なら。確か黒髪にサングラスを……まさか?!」
扇はの姿をまじまじと見る。
黒髪のウィッグをつけてサングラスをして、日本刀を持った姿。
それは噂の”シンジュクのサムライ”の姿に酷似している。
「ブリタニア軍人を斬ってる侍ってのは、のことだよ」
「ブリタニア人なのにブリタニア軍人を斬るのか」
「僕には人種なんて関係ないよ。邪魔をするなら斬るし、殺すだけ」
それはすなわち、日本人が邪魔だと思えば殺すことをいとわないことを意味している。
同族意識というのがはとても薄い。
「新宿の侍って、確か生身でナイトメアの相手を出来るって聞いたことがあるけど、本当なのか?」
「現状の武器じゃ一機相手くらいしかできないよ」
「武器があれば一機じゃなくても相手が可能ってことか?」
「うーん、まぁ、ナイトメアの装甲を軽々破れる武器があればね」
はなんでもない事の様に言うが、とんでもないことである。
扇が疑わしそうにナオトを見るが、ナオトは頷いて肯定するだけである。
ナオトは実際が、ナイトメアを倒すところを見ているのではっきりと頷けるのだ。
「でも、僕くらいのこと出来る人、ブリタニア軍にいるんじゃないかな?」
「生身でナイトメアの相手をできる人間がいるって言うのか?!」
「断言はできないけど、いるんじゃないかな〜と」
苦々しそうに顔を歪めるナオトと扇。
そう数は多くはないが、それなりの実力を持った軍人はいるだろう。
ただ、その軍人が果たしてこのエリア11に出てくるかどうかは別になるだろうが。
の師匠は元軍人のブリタニア人。
今も元軍人でいるのか、それとも前線へと戻ったかは分からないが、とても強かった。
ブリタニアへ反旗を翻す巨大組織になるのならば、そんな相手がいることも想定していなくてはならないだろう。