黄金の監視者 15



黒の騎士団のニュースは日本中に駆け巡った。
テレビ放映もされている。
はテレビで放映されている黒の騎士団のニュースをぼけっと見ているナオトをじっと見る。
ナオトはどうも黒の騎士団のことを知ってから様子が変だ。

「ナオトさんって黒の騎士団に入りたいの?」

がそう思っても仕方ないだろう。
まるで興味があるかのようにナオトは見入っている。

「え?あ……、そう、だな」
「入団希望なら、入団できるように申し出ればいいんじゃない?」

租界ではあまり黒の騎士団への入団方法は明らかにされていないが、ゲットーでは噂程度にはなっている。
最も日本人のみに伝わるような噂で、バレないようにはなっているようだが、入団希望をすれば時間は多少かかるが入ることは出来るだろう。

「だが、オレは…」
「右腕がないこと?でも、黒の騎士団って言っても入団希望者多くなれば、大きな組織になっていくよね、となれば戦闘要員以外だって必要になってくるよ」

テロ組織は動けない人間は足手まといになるだけだ。
しかしもっと大きな組織になればどうだろう。
戦闘に赴くばかりのものばかりではないだろう。
戦術を立てるもの、技術協力をするもの、物資支援をするもの、さまざまのはずだ。
ナオトのテロ組織のころに経験してきた事や、作戦立案能力は役に立たないのだろうか。

「少し、考えてみるよ」

黒の騎士団のトップは仮面の男ゼロ、ルルーシュだ。
はナオトが入団する気ならば、自分もついていこうと思う。
この同居人がいなくなるのはちょっと寂しいし、ルルーシュがすることならば、絶対にナナリーを危険にさらすようなことはしないはずだから。

「決めたら僕にも言ってね。黙って出て行くとかしないでよね」
「分かってるさ」

苦笑しながら答えるナオト。
律儀な所もあるナオトはそんなことはしないだろうが、何も言わずにいなくなられると、寂しいと思うのは本当だ。
ゲットーでの穏やかとは言い切れないかもしれない生活だったが、それがこれから変わっていくのかもしれない。



考え込むナオトを置いて、河口湖畔ホテルの事件の次の日である今日、は普通にアッシュフォード学園に登校していた。
サングラスが無くなってしまったので、急遽間に合わせの色眼鏡をかけての登校である。
眼鏡程度でごまかせるのも日数の問題なので、今日の帰りにちゃんとしたものを買って帰ろうと思っている。

「あ、義兄上、おはよう〜」

校門を入って見かけたルルーシュの姿に挨拶する
ルルーシュは少し驚いたようだったが、ため息をひとつ。

「やっぱり、お前は無事だったんだな」
「やっぱりって何?もしかして、義兄上もニュース見てた?」
「ああ」

ルルーシュがゼロであることは知っているが、あの時何をしていたのかは知らないが、が突き落とされた事は知っているだろう。

「会長達が随分と心配していたぞ?何でも自分から突き落とされる役を志願したんだって?」
「だって、あの状況で無事にいられそうなの僕くらいだったからさ」
「普通は無理だ。あんな高さから飛び降りるなんて」
「一応木と土と人のクッションがあったら大丈夫だったんだよ?それでも掠り傷はあるし、お気に入りのサングラスはどっかにいっちゃったし」

色眼鏡とはいえ、緑色なので視界が微妙に緑色だ。
ちょっと見難い。
ルルーシュはの人のクッションという言葉に何の反応も示さなかった。
そんなことにはは気づかない。
もそれはあまり気にしていないことだからだ。

「ナナリーが随分と心配していた」
「じゃあ、帰りに寄ってもいい?」
「ああ、安心させていってやってくれ」
「うん、わかった」

やった、とばかりには満面笑顔になる。
ナナリーに会えるのはすごく嬉しい事だ。
校舎の方に向かえば、ルルーシュの友人リヴァルがいたので声をかける。
案の定、が生きていることに驚かれたのは言うまでもないだろう。



学園の授業が終わった帰りはクラブハウスに寄る事が多い。
本当ならば毎日ナナリーの顔を見たいところだが、そこはぐっと我慢だ。
今日はルルーシュから了承を得たので、遠慮なくクラブハウスに向かう。

「ミレイさん、こんにちは〜」

にっこり笑顔でクラブハウスに顔を出せば、やっぱり驚愕された。

君、何で生きてるのー?!」
「何でって…、酷いなシャーリーさん」
「いや、普通はあんな状況で生きてるほうが不思議よ?」
「あ、ミレイさんまでそんなこと言う…」

ニーナは気にせず自分の世界に浸っているように見えた。
どこか幸せそうな雰囲気で雑誌なのか本なのかを見ている。

「今日は義兄上にナナリーに会っていいって許可もらったんだ」
「それで、そんな笑顔なのね」
「うん、嬉しいから!」

ルルーシュがナナリーに会ってやってくれと言うことは殆どない。
会っていいかな?との方から伺いを立ててから行く事の方が多いのだ。
はひょこひょこっと歩いてニーナが見ている雑誌を覗き込む。
そこには皇族の記事なのか、皇族の写真が載っていた。

「ユーフェミア皇女殿下?」

の言葉にばっとニーナが顔を上げる。
にこっと笑みを浮かべる

「それ、ユーフェミア皇女殿下だよね?」
「…うん。き、昨日…」
「昨日?」

ニーナが広げている雑誌はユーフェミアの記事のようだ。
ミレイがひょっこりとの横から顔を出してくる。

「昨日がいなくなった後、ちょっとあってね、ニーナが絡まれた所をユーフェミア皇女殿下が助けてくれたのよ」
「コーネリア皇女殿下じゃなくて?」
「ユーフェミア皇女殿下の方よ」
「ナイトメアで?」

どうも話がかみ合ってないようで、ニーナとミレイは顔を見合わせる。
にしてみれば、コーネリアが突入してきたわけではなく、代わりにユーフェミアが軍を率いてタイミングよく突入でもしてきたのかと思ったのだ。
別れた頃は何も知らないようなお姫様だったが、姉が姉だったので同じように武人の道に進んでいてもおかしくないと思ったのだが、どうやら違うようである。

「ユーフェミア様がおしのびでその場にいたみたいでね、見かねて名乗り出てニーナをかばってくれたのよ」
「あ、そういうこと。なんだ、びっくりした〜。コーネリア皇女殿下みたいにナイトメアに乗って来たのかと思っちゃったよ」
「相変わらず発想が極端ねぇ」

くすくすっと笑うミレイ。

「そっか、じゃあ、ニーナさんはユーフェミア皇女殿下にすごく感謝しているんだね」
「うん…嬉しかったから」
「その気持ち、いつか直接伝えられるといいね」
「うん!」

嬉しそうに笑顔になるニーナ。
よっぽど怖かったのか、助けられたのが嬉しかったのか。
でも、その気持ちはにもちょっとだけ分かる。
だってナナリーにもらった幸せな気持ちをナナリーに伝えたいと思うのだ。
君がいるから、自分はこんなに笑顔でいられる、楽しい気持ちになれるということを。

?!」
「ほらな」

名前を呼ばれてが顔を上げれば、クラブハウスの入り口にスザクとルルーシュの姿がある。
驚いての名を叫んだのはスザクのようで、その後の言葉はルルーシュが言った言葉らしい。

「君、無事で…」
「どうして、皆そう驚くのかな?驚かなかったのって義兄上だけだったよ」
「いや、だって、普通は驚くよ。あんな高さから飛び降りたんだから」
「別に空気抵抗とか、木々でスピードを落とすとか、草をクッションにするとか取れる手段をとればなんとかなる……あ、ナナリー!」

すぐ後ろからナナリーが車椅子に乗ってくるのが見えて、ぱっと顔を輝かせる
すぐにナナリーのところに駆けつけて、ナナリーの手をとる。

?」
「うん、僕だよ、ナナリー」
「無事、だったのですね」
「勿論だよ!あ、でもね…、たくさん木の枝とか折っちゃったし、草も思いっきり踏みつけちゃったし、土もえぐっちゃったし…」
が助かるためだったのですから、自然も許してくれると思いますよ」

ナナリーは自然も大切にするとても優しい少女だ。
だから、自分が助かるために木を平気で傷つけてしまったことを一応報告する
クッションになった軍人のことは省く。
マリアンヌ皇妃殺害の場にいたナナリーに、あまり血なまぐさいことを聞かせたくはない。
あの時のことを思い出させてしまうだろうから。

、お前同居人には連絡したのか?」
「同居人?うん、僕が飛び降りてすぐに電話がかかってきたよ。なんかテレビ見てたみたいでさ」

ルルーシュの問いには頷く。

に同居人がいるんですか?」
「うん、そうなんだ、ナナリー」
「どんな方なのですか?」
「えっと…、色々器用な人だよ。ちょっとした家電製品とかも修理できるみたいだし」

多分と違って鶴も綺麗に折れるのだろう。
そういえば、箸の使い方も随分と上手だった。
いや、日本人ならば普通に使えるのだろうが。

「まだ一緒に暮らし始めて2年なんだけどね、あれ?今年で3年目かな?ま、いっか。とにかく、結構気があって、色々心配もしてくれるし、一緒にいて楽しいし」
「とても仲が良いのですね」
「うん」

黒の騎士団の映像を見て何か悩んでいただろうが、結論は出ただろうか。
それとももう少し時間が必要だろうか。

「いつか会ってみたいです」
「僕も、いつかナナリーに会ってもらいたい。でもね、ナナリーや義兄上の話はたまにするんだ。というよりも、僕が話すことってやっぱりナナリーとか義兄上とかのことばっかりになっちゃうんだけど…」

彼らの正体に繋がるような話は一切していないし、日常で起こったことしか話をしていない。
だって正体がバレる危険性を理解している。
自分が一番危険な存在であることも。

「器用な人だからね、きっと折り紙もできると思うんだ。だから、教わろうと思って」
はまだ頑張っているんですね」
「うん、勿論だよ!そのうちナナリーに千羽鶴をプレゼントするね!」
「千羽?千羽も折るんですか?」
「がんばる!」

ナナリーの笑顔が見れるためならばは何でも頑張るつもりなのだ。
鶴は折れば形が分かる。
だからナナリーも楽しいと感じてくれる。
形あるものをナナリーに贈るのが一番だ、それもお金がなるべくかからないものを。

(にしても、ユーフェミア皇女殿下がこっちに来ているんだろ。観光?それとも勉学?ただ、姉のコーネリアについてきただけ?)

何が目的で、どんな理由があってここに来たのだろうか。
ニーナを助けたということは、あの性格は相変わらずなのか。
ユーフェミアに大して興味がないは、最後に会って以来ユーフェミアを”視て”はいないので、どうしているのか知らない。
ナナリーの害にならなければいい、ただそれだけをは願う。