開き直りは大切07




開き直りは大切 07




とにかく落ち着く為に紅茶を用意する。
の部屋には色々揃っているので、紅茶も入れることが出来たりする。
カップは2つ揃っているものはないが、別に構わないだろう。

「はぁ〜、も〜、ミスターってどこであんなこと覚えてくるの…?」
「僕の顔を気に入ってくれる上級生が色々教えてくれるからね。勿論、見ず知らずの他人にくっつかれるのは気持ち悪いだけだし、実践したのはミサキにしたのが初めてだけど」

しれっとした表情で紅茶を口に運ぶリドル。
初めてであれだけ手際がいいとは末恐ろしい子供である。
は思わず深いため息をつく。

「ミスターって本当に12歳?」
「それはミサキが一番良く分かっていると思うけど?大体、このホグワーツで年齢詐称は無理でしょ?」
「………そーだね」

なんとなく即答できないである。
これでも精神年齢は30近い。

「えっと、それで、どこから話せばいいかな…」

は考え込む。
考えるのはどこから話すかではなく、どこまで話すかだ。
話せることと話せないことがある。

「誤魔化されるのは嫌だから、僕の質問に答えてよ」
「え…?」
「何、そのあからさまに嫌そうな顔」
「嫌っていうか、ミスター鋭いから…」
「いいじゃないか、だって全部話してくれるんだろ?」
「う…」

にっこり笑みを向けられ、何も言えなくなってしまう。
ここで全部話すわけない、とでも言おうものなら再び襲われそうだ。
リドルならそのくらいやる、絶対にやる。

「とりあえず確認の意味で聞くけど、ミサキのその蛇」
「黒曜のこと?」
「そう、そのコクヨウ。それはサラザール・スリザリンの秘密の部屋にいたモノだね」
「うん」
「ミサキはスリザリンの秘密の部屋を知っていた?」

はその言葉に少し考える。

「うん、知ってた」
「どこにあるかって事を知っていた?それともナニがあるかって事を知っていた?」
「え…と、両方かな。知っていたのは入り口と入り方と、バジリスクがいるってこと」
「バシリスクだって?!」
「あれ?ミスター知らなかった?黒曜はバジリスクだよ」

しゅるしゅるっとの側によってくる黒曜は、小さな蛇サイズ。
その瞳の色は黒だ。

『目は魔法で押さえているから今は普通の蛇と変わらん、大きさもな』
「黒曜は本来もっとでかくて、ついでに目は金色だよ」
「バジリスクの特徴を知っていたのかい?」
「そりゃ、バジリスクがいるの知っていたから、簡単な特徴くらいは…」

原作で知ったんだけどね。
目を見たら死んでしまうけど、直接見ず鏡を通してみると石化するだけで済むとか。
石化はマンドレイクで治るとかね。

「ミサキは僕のことをどれくらい知ってる?」
「ミスターのこと?」
「僕より詳しいみたいだよね」

う〜んとは自分の記憶を掘り起こす。
暗記するほど覚えたといっても今からかなり前のことだ。

「トムって平凡な名前が嫌いなこと、母親がサラザールの末裔で父親がリトルハングなんとかって地方の金持ちの息子でマグル、結構前から魔法を使えることを自覚していたこと、えっと…」

ホークラックスはまだ後のことだし、ヴォルデモート卿のこともどうなるか分からないし、となるとハリーに倒されるとかって預言もどうなるか分からないし。
5年だか6年だかに起こる秘密の部屋の事件は、黒曜が私の側にいる時点で起こらないだろうし。
この時点で言えることって、これくらいかな?

「それくらいだよ」
「ふ〜ん。もしかして、名前を呼ばれるのが嫌いって事は、結構前から知ってた?」
「うん」
「だからミサキは僕のことを名前で呼ばないんだね」
「それもあるけど、ミスターって”トム”ってイメージじゃないし。呼ぶとしたらリドルかな?」

的”トム”のイメージは、金髪くせっ毛のソバカスのある、少し丸い鼻で青い目の白人さんだ。
リドルははっとするような綺麗な顔立ちに黒いサラサラの髪、深紅の瞳。
全然トムのイメージではない。
リドルはやっぱり”リドル”なのだ。

「ミサキにトムって呼ばれたら、結構複雑かもしれない」
「そう?」
「でも、リドルとは呼ばれてみたいな」

リドルがふっと妖しげな笑みを浮かべる。
はその笑みを真正面から見ないように、紅茶を口につける。

「ミサキにリドルって囁くように呼ばれたら、きっと理性切れて襲うだろうから」
「…ごふっ!」

ごほごほっと思わずむせる
紅茶が気管支に入りそうになった。
何を言うのか、この12歳の少年は…。

「ぜ、絶対に呼ばない!一生呼ばないから!」
「そっか、残念だな。ベッドの上で啼きながらそう呼ばれたら最高なのに」
「っっ!!」

ミスター、本当に12歳?!
そりゃ、日本人はそういうの遅れていて西洋人は進んでるっぽいイメージあるけど、ミスターの場合は絶対に進みすぎっ!

「なんか、ミサキって反応が面白いね。もしかしてこういう話題苦手?」
「苦手というかなんというかっ!その年齢で平気でそんなこと言えるミスターの方がおかしい!」
「別に年齢関係ないと思うんだよね。したいと思う相手ができれば、何歳になってもしたくなるだろうし」

にこっと無邪気な笑顔を見せるリドル。

「僕だって知識で知っているだけで、別にミサキ以外とはしたいと思わないよ」
「ちょい待って!その年齢でしたいとか思うこと事態がおかしいよ!」
「おかしいかな?ミサキはそういう感情全然ない?」
「ミスターと違ってエロい感情は持ち合わせていませんっ!」

びしっと自分の目の前で腕を交差させてバツマークを作る
は自分の顔が赤くなっていることを自覚している。
なんとか心を落ち着けようと深呼吸。
一応精神年齢では自分の方が上なのだ。
相手のペースに乗せられてはいけない。

「し、質問に戻ろう、ミスター!」
「そうだね。話題転換は勿体無いけど、全部聞きたいし」

勿体無いって何が?!何が勿体無いの?!

「う〜ん、そうだね…。実はこれが一番聞きたかった事なんだけど」
「何?」

どきどきしながら質問を待つ。
差しさわりのない答えを出せる質問であって欲しいと願う。

「ミサキってどこから来たの?」

の身体がぴくりっと反応し、表情が固まる。

「孤児院の前に捨てられていた日本の少女。孤児院の前に倒れていたから両親に捨てられたか、イギリスにいた保護者から捨てられたんだって、認識されていたけど…」

何故孤児院の前に倒れていたかなどには分からない。
前日はいつものように会社に行って、いつものように就寝しただけなのだ。
特に何の変哲もない日々を送っていた。

「捨てられたにしてはミサキは明るかったし、今思えば年不相応の気遣いがあった」

それはそうだろう。
孤児院に来た時期、はミセス・コールとそう年が変わらなかった。
孤児院の子供たちはにとって”子供”であり、年下の庇護すべき存在。

「話せない?」

リドルは固まったままのの顔を覗き込む。
その表情は真剣なものだ。

「話しても…」

は小さく息をつき、リドルを見る。

「話しても信じられるような内容じゃないと思うよ」

世界が違う。
この世界の物語がの世界にある。
ここはにとって本の中の世界。
現実ととても似ている世界だが、本の中の作り物の世界。

「信じる信じないは僕が判断する事だよ」

はリドルの目をじっと見る。
ダンブルドアはを”異界”の者と言っていた。
そしてがホグワーツのことを知っているようなふりをしても、少し驚いただけだった。
この12歳の少年に、偉大なる魔法使いであるダンブルドアと同じ許容を求めるのは酷かもしれない。
でも、信じて欲しいと、そう思う。
は小さく息をついて、話し始める。

「私、この世界の人間じゃないんだよね」

この世界のマグルの歴史はのいた世界の歴史そのままだろう。
だから別の世界と言ってしまうのは少し違うかもしれない。
だが、この世界のことが書かれた本があるかぎり、似ていても違う世界なのだと感じる。

「私がいた世界に魔法なんてものは存在しなくて、科学技術がこの世界よりも発展していた」

嘘ではない。
この世界の今の時代にくらべれば、21世紀であったの時代の科学技術は格段に進歩しているのだ。

「それで?ミサキが異世界から来たとしても、分からないことはまだあるよ」
「うん。異世界云々は別に大したことじゃないかもしれない。私がこの世界に来て驚いたのは、私はこの世界を”知って”いたこと」
「知っていた?」
「私の世界には、この世界のことを舞台にした本があるから」

”ハリー・ポッター”シリーズという本だ。
すでにリドルが変わってきているので、の知っている話の通りになる可能性はかなり低くなりつつあるのだが、でもこの世界を知っているのは確かだ。
リドルのことも本からの知識なのだ。

「僕はその本の登場人物ってわけ?」
「うん。正確には未来のミスターだね」
「未来の僕?…もしかして、主人公の敵役とかそんな感じだったりする?」

はその言葉にぎょっとする。
の正直な反応にリドルはくすくすっと笑う。

「僕の性格を考えてみてよ、ミサキ。物語の主人公のような性格じゃないだろ?ミサキがあれだけ僕の出生に詳しいってことは、主人公と少なからず深い関係の人物、友人という可能性は僕の性格からしてやっぱり可能性は低い、となると敵役くらいが適当かなってね」

物語というものは主人公に近しい人物でなければ、出生の秘密やらなにやらが詳しく出てこない場合が多い。
主人公やその敵役にあたる相手の事情は結構詳しく出ていたりする。
リドルの性格からして、主人公になるような相手と命をかけてまで協力するような友人関係は築けないだろう。
消去法で考えての敵役だ。

「興味本位で聞くんだけど、その話の主人公って誰?今ホグワーツにいる?」

は首を横に振る。

「私が読んだその本は、この世界の未来にあたる話で…多分50年くらい先の話」
「50年?50年経っているのに、僕の過去を知っている人なんていたんだ」
「うん。ダンブルドア先生が…」
「ダンブルドア?…あの人、この先まだ50年も生きるんだ」

どこか呆れたような口調でリドルは紅茶を口に運ぶ。
今現在でも老人のように見えるダンブルドアだ。
あと50年も生きるとなると確かにかなり長生きかもしれない。

「ミサキは僕がその本の通りになると思っている?」

はリドルをじっと見る。
この世界の5歳の頃からの付き合いで、幼馴染と言っていい存在だろう。
性格は良いとは言えない性格で、優等生仮面をかぶっていて、人当たりは表向きはいい方だろう。

「なって欲しくないと思うけど…、でも、ミスターってスリザリンの純血主義の人達と仲いいし」
「あれは仲がいいとは言わないよ。同じ寮生なんだから差しさわりがない程度に程よい付き合いしていかないと面倒だし。僕はミサキみたいに他の寮の生徒と係わり合いになりたいとも思わないし」

確かに普段のリドルは優等生仮面を被っている。
いつでもどこでも、が見る限りは優等生仮面だ。
今こうしている時だけは昔と変わらない。

「ねぇ、ミサキ」

リドルは紅茶のカップをことんっと置き、の方にじりじりっと近づいてくる。

「その程度のことで避けられていただなんて、僕は悲しいな」
「へ…?」
「ミサキは、僕がミサキの知っている通りになると思われていたから、避けていたんだよね?」
「あ、え…、まぁ、そうなるかな?」

が入学当初からマグル出身発言したのがそもそもの原因だが、リドルに話しかけないようにしていたのは、リドルがいずれヴォルデモート卿になるからということがあったのは否定できない。

「僕は僕だよ、ミサキ。両親なんてどうでもいいし、サラザールなんてどうでもいいし、同じ寮のスリザリン生なんてどうでもいいっていうより、寧ろ邪魔なヤツいるし」
「…あの、ミスター?」

最後の方が物凄く低い声になっていたのは気のせいではないだろう。
スリザリン生で邪魔だと思う人でもいるのだろうか。

「もっと深い理由があるんだと思ってた。その程度の理由なら、僕は別に遠慮しなくていいよね」
「その程度って…」

この世界を知っていることで多少なりとも悩んでいた自分はなんだったのだろう、とが思うほどにリドルは素敵な笑みを浮かべていた。
先ほどのの説明など、別に些細なこととでも言うかのように。
普通自分が物語の主人公の敵役で、この世界が物語りの舞台になっていると聞いたら、もっと別の反応が返ってくるのではないのだろうか。
何よりも、は一応”未来”と言った。
リドルは未来が全然気にならないのだろうか。

「ミサキが何を考えているかはなんとなく分かるよ。でもね、ミサキが存在しないミサキが知る”未来”なんて僕には興味ないんだ。僕はミサキがいる未来に進みたい、ミサキがいなければ意味がない」

が知っている未来には勿論は存在しない。
だから、リドルにとってその未来はどうでもいいものなのだ。

「これから遠慮しないで口説くから。覚悟しててね」

リドルはゆっくりとに顔を近づけ、触れるだけのキスを唇に落とす。
は顔を赤くしてリドルを見る。
物凄く緊張して話した本のことと異世界のこと。
微妙にぼかして話していたが、それをリドルは気づいただろうか。
だが、気づいたとしても気づかないとしても、結果は同じだったかもしれない。