シリウス・ブラックのバイト生活






シリウスはの紹介でバイトするようになってからは、ジェームズの家から通うのは遠い為、の家に居候をしていた。
の家族、家はマグルばかりである。
ただ、魔法使いの存在は知っているし、否定もしない。

さて、ここで家の紹介を簡単にしよう。
の母はスクイブだ。
どうして現在マグル界で暮らしているかは分からないが、シリウスにとっては叔母にあたる。
父はごくごく一般的な会社員であるが、忙しい為、夜にならないと家に帰ってこれない。
それからには兄がいる。
シリウスにとってはもう1人の従兄になるだろうが、兄は魔力も何もないマグルだ。
と同じ大学生ではあるが、別の大学に通っているが、のように飛び級制度を利用しているわけではない。


「だあ〜〜、疲れた〜〜」

家の居間のソファーでくつろぐシリウス。
数日滞在すれば、すでにもう完全にこの家にとけ込んでいた。
性格が単純でマグル界の常識がなくまるでワンコのようなシリウスなのだが、育ちが育ちな為か、結構社交的である。

「シリウス君、まだ夕食まで時間があるからよかったらお菓子でも食べる?」
「食べる!」

母のにこりっとした笑みにシリウスは即答。
苦笑しながらキッチンの方に戻っていく母。
はその様子を呆れたように見ていた。

「本当に、ワンコだねぇ〜」
「ああ、犬だ犬。単純明快ワンコだ、あれは」

シリウスの様子にコメントするのがの兄と
今の時期は一般的に学生さんはお休みである。
その為、兄ももこうやって殆ど毎日のように居間で団欒する時間がある。

「誰が犬だよ…、クロウももひでぇ…」
どう見ても犬、ワンコ
ああ、全くだ

シリウスが抗議するが、そんなものはさらっと流す兄クロウと
犬発言にしゅんっとしているところが犬らしい。

「にしても、シリウス。君って魔法界でやたらめったらプライドだけがお高い家の元時期当主だったって本当?全然見えないんだけど」

クロウがくすくすっと笑いながら言う。
の兄クロウ・とは反対に柔らかい雰囲気を持っている。
こげ茶色のやわらかそうな短めの髪、ダークグレーの瞳。
但し、雰囲気とは反対に言うことは結構キツい。

「一応そうだったけどな」
「シリウスみたいなのが当主になれば、さぞかし面白くなっただろうに勿体無いな〜」
「げ、何言うんだよ。俺、戻るのは絶対嫌だぜ?」
「それは分かるよ、今の君はすごく楽しそうだからね。窮屈そうな生活は合わないだろう?」

この家でこれだけのんびり寛いでいる様子を見れば分かる。
規則と規律に縛られたような家で生活できるような性格ではないのだろう事が。

「もし、強引に連れ戻されそうになったらうちに来るといいよ」
「何でだ?」
「決まっているだろう、シリウス。私とクロウがありとあらゆる手段を使って叩きのめすつもりだからな」
「そうそう。”魔法”に頼り切っている魔法使いに科学のすばらしさを伝えてやるんだよ」

にっこりと同時に笑みを浮かべるとクロウ。
この2人の共通点といえば、この笑みと、それから整った顔立ちということだろう。
綺麗な人が笑うとそれだけで空気は和やかになる。
だが、この笑みは違う。

「お…お前ら兄妹って……」

シリウスの顔が若干引きつる。
シリウスにはやクロウと似たタイプの友人がいる為、この類の笑みには耐性があるにはあるのだが、やっぱり顔が引きつってしまうのは仕方がないだろう。

「シリウス君、どうしたの?」

キッチンからお菓子とお茶を持ってきた母が顔を引きつらせているシリウスを不思議そうに見ていた。
居間のテーブルに3人分の紅茶とお菓子を置く。

「ありがとうございます」

お菓子のお礼を述べるシリウス。
こういう礼儀正しいところが母の好感を買っているひとつなのかもしれない。
そのまま母はのんびりした笑顔を浮かべてキッチンの方に戻っていった。

「ところで、シリウスっていつまでうちにいるんだい?」
「んあ?」

早速お菓子を口に運んでいたシリウスは、きょとんっとなる。
現在家に居候中だが、ホグワーツが始まってしまったらここには当然いないだろう。

「ギリギリまでお世話になる予定。お金がねぇし、欲しいものもあるし」
「欲しいもの?」
「もしかして、バイクか?」

の言葉にシリウスが頷く。
バイト先の駐輪場でバイクに随分と興味を抱いていたようなのでもしかしたら、と思ったのだ。
自動車の値段も高いがバイクも大型だとかなりの値段になる。
バイトのお金をためたところで買えるのは随分先になるだろう。

「また、それは随分と高いものが欲しいんだね」
「魔法界にはそういう乗り物がないからなんだろうな」
「移動手段といえば姿現しか箒かポートキーくらいだからな〜。あとは一般的にはフルーパウダーか?」

魔法界の移動手段は、効率はいいだろう。
なにしろ時間をかけずに長距離の移動が可能なのだ。

「魔法界は色々あるんだね〜。ああ、そうだ、シリウス」
「何だ?」
「今度僕に”ダイアゴン横丁”を案内してよ。はリリーと一緒によく行ったりしているみたいだけど、僕は行ったことないんだよ」
「別に構わねぇけど…クロウは行ったことないのか?」
「マグルが行く場所じゃないからな。私もリリーの付き添いで行くくらいで…」
、嘘はいけないな」

クロウの言葉には困ったような笑みを浮かべた。
リリーがホグワーツに入学した頃はリリーと一緒にたまに行くだけだったダイアゴン横丁だが、ここ数年ほどは1人で出かけることもあったりするである。
と言ってもそう頻繁に行く訳ではないのだが…。

「確かに私はリリーがいない時も行くがな、そうそう頻繁というわけでもないぞ、クロウ。行きたければクロウも行けばいいだろう?」
「それが出来ないからシリウスに頼んでいるんじゃないか。聞けば、一般的なマグルじゃ驚くような光景が広がっているって言うからさ」
「ダイアゴン横丁って驚くような光景なのか?」

魔法界で育ったシリウスにとってはダイアゴン横丁の光景が当たり前で、マグル界の光景の方が驚くものだ。
写真は動くもの、箒専門店があるのも当たり前。

「育った環境が違うと感覚も違うものだからね。ま、時間が空いたときで構わないからさ、シリウス」
「ああ、別にいつでもいいぜ」

快く了解するシリウス。

「でも、シリウスって結構マグル界になじんでいるよね」
「うちにいても自然体だしな、他人の家って気を使わないのか?」
「俺は自分の家の方が気を使う。あそこはいつも気を張ってなきゃならねぇ所だからな」

ふっとシリウスの表情が変わる。
家でのシリウスやが知るシリウスは、明るく元気な単純馬鹿ワンコだ。
ブラック家の話題を出すとこんな表情をする。
年不相応の何かを悟ったような表情。

「うちが気に入ったのならいつでも来るといいよ、従兄弟殿」
「おう、歓迎されるならいつでも来るぜ、従兄弟殿?」

にやりっと笑みを浮かべるシリウス。

「ま、なんなら、の婿に来るって手もあるけどね」
ぶはっ!!

噴出したのはシリウスである。
の方は平然としていた…いや、僅かに顔を顰めている。

「クロウ、寒気がするような冗談は止めてくれ」
「何で?いいじゃないか。従兄同士なら結婚も出来るし、何よりこの環境はシリウスにはいいみたいだし、僕にも可愛い弟が出来るわけだし」
「単純ワンコは確かに見ている分にか可愛いが、伴侶としては私の好みじゃない」
おい……。

シリウスと友人として付き合うのならば異論はない。
考え方の違いはあるし、趣味の違いもあるが、わかりやすい性格のため付き合い方に苦労することはないだろう。
だが、恋愛関係が絡むとなると別だ。

「それにシリウスにも好みがあるだろう?」
「そうだけどね。シリウスはどうだい?はこう見えても顔立ちはいいし、頭もかなりいいし、お買い得だよ」
「人を売り物にするな、クロウ」

シリウスは悩むようなそぶりを見せる。

「俺、そういうのよく分からねぇんだよ。好きとか嫌いだとか、愛してるとか」
「もしかして女性との付き合い経験がないとか?」
「いや、付き合った経験とかはあるけどな。ブラック家の方針が恋愛結婚とかじゃなくて、純血の由緒正しい家の出の相手と婚約して結婚して…って方針だったから、そういう感情がいまいちよく分からねぇんだよ」
「それって、初恋もまだってことだね。この際を初恋相手に考えてみてみる気はないかい?」
「クロウ、そういう感情は人に勧められて感じるようなものじゃないだろう」

呆れる
恋愛感情というものは理屈でないことくらいは知っている。
好みだとか好みではないとか、という問題ではない。

「そういうのも含めてこれからゆっくり考えていくつもりだ。家を出たからにはあの家の方針なんて関係ねぇしな」

今のシリウスは自由だ。
しかし、自由ゆえに苦労することもあるだろう。
何も知らないマグル界のことを学んだり、バイトをしたりと前向きな行動をとっているうちは協力をしてやろうとは思うのだった。