古の魔法 〜天然タラシ〜





「う〜〜ん」

は課題を広げて唸っていた。
3年生も無事に…果たして無事と言い切るのはどうかと思うが…終わり、イースター休暇がやってきた。
ポッター親子は家の隣のお家に家族水入らずで住んでいる。
よく楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
もたまにそれに混ざって楽しい時間を過ごすこともある。

それはさておき、イースター休暇と言えば宿題が出ているのである。
はその宿題と向き合っていた。

?」

唸っているの元に、母親のカレンが紅茶とお菓子を持ってくる。
数行しか書かれていない羊皮紙を睨んだままの
ふぅ…と息をついて、カレンの持ってきた紅茶を飲むことにする。

「魔法薬学の宿題なんだけど、全然わからなくて」
「それならリリーに聞けばいいわよ。リリーは魔法薬学得意だったはずよ」
「でも、確か今日からハリー達は家族でそろって出かけるって言ってたよ?」
「…そういえばそうだったわね」

宿題でわからないことがあれば親に聞けばいいのだが、母は魔法薬学は苦手だったということを聞いている。
父親の方は仕事に出かけているから今はいない。
お隣のポッター親子がいれば、すぐにでも聞きに行ったのだろうが。

「それに、あんまり親子水入らずを邪魔したくないし…」

ぽつりっと呟く
そう、ようやく親子で暮らせるようになったポッター家。
十年以上ぶりの親子水入らずの楽しい生活をあまり邪魔したくないのだ。
けれど、リリーに誘われればは遊びに行くし、一緒にお茶もする。
誘われてもいないのに行くのは邪魔をしてしまうような気分になる。

しかし、この宿題を片付けなければ、新学期早々グリフィンドールの減点が待っていることになる。
セブルスの事だからかなり素晴らしい減点をしてくれるだろう。
むむ、と考えているだったが、ふと思いつく。

「あ、そうだ!!お母さん!」
「なあに?」
「ルーピン先生の家って暖炉から行ける?」
「リーマスの?」

カレンは少し考える。
の父親とリーマスは友人同士だった。
それならばカレンがリーマスの家を知っていてもおかしくはないはずだ。

「確か行けた筈よ、そうね、場所は…」

はぱぁっと顔を輝かせる。
教鞭をとっていたリーマスに聞くのが一番いいだろうとは考えたのだ。
母にお礼を言って、課題道具を一式まとめて暖炉へと向かう。
はフルー・パウダーを持って暖炉へと投げつける。

「あ、待って、確かリーマスは!」

カレンが何かを思いついたように振り向くが、暖炉にはすでにの姿はなかった。

「あら、遅かったようね。リーマスは私と同様、魔法薬学は苦手だったって言おうと思ったのに」

そういうことは早く言って欲しいものだ。
しかしカレンは肩を少し竦めただけで結局家事を再開したのだった。



さて、知らずリーマスの家にあがりこんだだったが、がらんっとした家の中には人の気配が感じられなかった。

「ルーピン先生、いますか?」

暖炉から出ては家の中を見回すが、やはり誰もいない。
どうやら留守のようだ。
留守のお宅に勝手に入り込んでしまっていいものだろうか?とは不安になる。
これならば、ちゃんと確認して来ればよかった。


「何やってんだ?」
うひょぁ?!


背後からの声に奇妙な叫び声を上げてしまう
自分の声に思わず恥ずかしくなって口元を押さえてしまう。
口元を押さえてほんのり顔を赤くしたまま振り向く
立っていたのはシリウスだった。

「シリウス、さん?」

たまにポッター家では見かけるシリウスの姿。
しかしポッター家に住んでいるようには見えなかった。
一体どこに住んでいるのだろう?とは思っていたがここに居候しているとは思ってもいなかった。

、どうした?リーマスに用か?」
「え?あ、はい。宿題を教えてもらおうと思いまして」

はばっと魔法薬学の宿題を見せる。

「それくらいなら俺が見てやるよ、とりあえず居間にでも座ってろ」

ぽんぽんっとシリウスはの頭を撫でる。
にこりっと笑みを浮かべながら。
そういえば、とは思い出す。
シリウスは学生時代成績はいいほうだったと。
シリウスに言われたまま、は勉強道具を持って居間の方に移動するのだった。


リーマスの住む家は広かった。
勿論居間も広い。
シリウスがここに住んでいるとしても余る位の広さだ。
きょろきょろしているの横に、シリウスが来る。

「で?どこが分からないって?」

居間のテーブルに広げてある宿題を覗き込んでくるシリウス。
の視点に合わせるようにして覗き込んでくるので顔が近い。
最初はも気にしなかったが、何度もそんな事があると気になってきてしまう。

「ここなんです」
「ああ、ここか。これはな…」

シリウスの声がやけに近くで聞こえるので緊張してしまう。
息遣いが感じられるまで近づいているが、シリウスはそういう認識がないのかへ説明を続けている。

(うあ、うあ〜〜、近いよ、近すぎ!)

顔が赤くなるのを自覚する

?聞いてんのか?」

シリウスの声にはっとなる
実際、全然聞いていなかった。
というよりシリウスが近すぎて説明が耳を素通りしてしまっていたのだ。

「き、聞いてます!大丈夫です!」
「そうか?」
「大丈夫ですって!」
「けど、お前…」

慌てながら返事をする
シリウスは顔を顰めて説明していたペンを止める。
そのまま顔を近づけてくる。

「し、シリウス、さん?」


こつん


小さな音をたてて額と額が合わさる。
顔がさっきよりも近い。

「熱はないよな」

考えるそぶりを見せるシリウス。
そのまま額をあわせたままでを見る。

「あ、あの!シリウスさん?」
「顔が赤いぜ?気分でも悪いのか?」

(顔が赤いのは貴方のせいです〜!!)

「あんま無理すんな、今日はやめとくか?別に俺はいつでも時間があるし、当分はリーマスんトコにいる予定だからな」

シリウスはから顔を遠ざけて、の頭をぽんぽんっと撫でる。
こういう仕草は子ども扱いされているように感じる。
けれども、先ほど少し意識してしまったからすれば、反対にほっとするものだ。
しかし、ここで引き下がる性格でないのがシリウスだったりする。
の隣でニヤリと笑みを浮かべる。

「もしかして、俺を意識してるとか?」
「っ?!!」

すっと顔を近づけてきたシリウスには顔を赤くして反射的に後ろに引く。
普通はそんなに顔を近づけられれば驚くだろう。

「別にそんな警戒しなくても無理やりどうこうするつもりはないぜ?」
「無理やりって!なんでそんな話になるんですか!」
「なんだ?そういうことを考えてたワケじゃねぇの?」
「そういうことってどういうことですか!」

じりじりと後ずさる、というかソファーに座っている状態なので本当に少ししか移動できないのだが…と、に近づくシリウス。
シリウスの表情はどう見てもからかってるようにしか見えない。
それでも顔がいいから、かっこいい。

「…な、なんで近づいてくるんですか?」
「さぁ?」
「さぁって?!さぁって?!」

(分からないなら近づいて来ないで下さいよー!!確信してやってるでしょう?!私の心臓が持ちませんー!)

「俺さぁ、ジェームズに言われたんだよな」
「な、なにを、ですか?」

先ほどのからかうような表情を消すシリウス。
どこか優しげな笑みを浮かべている。
その笑みの威力がどれほどあるのか本人は分かっているのだろうか?
は自分の頬が更に赤くなるのが分かった。

「最近ちょっと気になる子がいて、ジェームズは俺がその子のことを好きなんじゃないかってな」
「は、はぁ」

(じゃあ、シリウスさんって好きな人いるんだ。まぁ、そうだよね、いくら元犯罪者で単純馬鹿で女たらしでも、これだけかっこいいんだからモテるだろうし。あ、違った。元犯罪者じゃなくて、無実だったんだ)

「まぁ、俺自身でもよくよく考えてみてそうかもしれねぇな、と思ったりもしたわけだ」
「そ、それでこの状態と何の関係が?」
「関係大有りなんだよな、それが」
「ど、どのように?」

心臓がバクバクして何が起こっているのか理解できなくなってきている
目の前にシリウスがいて、微妙に距離が近すぎるのだけがなんとなく分かる。

「責任…、とってくれよな?」

(な、何の責任ですか?!ワケ分からないんですけど!)

は心の中で叫ぶ。
頭はパニック状態である。
近づいてくるシリウスの表情がすごくかっこいいとしか思えず、逆らうことも思いつかない。
ゆっくりとその顔が近づいてきて…


ごめすっ


鈍い音とともにシリウスは沈没した。

「は…、へ?」

いつの間にかソファーの隅っこまで追い詰められていたらしいは、自分の前に倒れこんでいるシリウスを見る。
シリウスの頭には分厚い本がめり込んでいる。

「何、友人の娘を襲っているんだい?万年発情期犬?」

顔を上げてみれば、にっこりと微笑む暗黒大魔王、もといリーマス。
リーマスの言葉に反応したのかぴくりっとシリウスが動く。
痛む頭を抑えながらぎろっとリーマスを睨む、がリーマスの更なる笑顔にその睨みは無くなる。
やはりヘタレである。

「別に襲ってなんか…」
「僕には襲っているようにしか見えなかったけど?」
「だから襲ってねぇーって」

否定するシリウスだが、かなりそれは厳しい。
ハタから見たら襲っているようにしか見えなかっただろう。

「ロリコン」
「はぁ?」
「変態」
「ちょっと待て、リーマス!」
「ヘタレ」
「ヘタレじゃねぇ!」
「セイスに報告する前に僕がきちんとアズカバンに戻す手続きをしてあげようか?」
「だから待て!!」

ふふふと笑みを浮かべるリーマスはとっても恐い。
優しい「ルーピン先生」しかしらないはちょっと、いや、かなり恐かった。
笑顔なのに、背筋が凍るような気分になってしまう。

「あ、あの、ルーピン先生?」
「なんだい??」

の遠慮がちな言葉にリーマスは先ほどの真っ黒でない笑顔で答える。
それにほっとする
流石にあの笑顔を直接向けられては正気を保っていられるか。

「私は全然平気ですし、シリウスさん…、だからしょうがないし。別に」
、いいかい?確かにこれは馬鹿だから仕方ないけれどもね、自分のやったことをきちんと理解させないと駄目だよ。馬鹿だからね」
「で、でも!シリウスさんは私に勉強を教えてくれていただけで」
「勉強。ふぅ〜ん、…一体何の勉強をしていたんだろうねぇ、シリウス?」

ちらりっとリーマスはシリウスに視線を向ける。
びくりっとなるシリウスは首を横に振っているだけである。
はなんとなく自分の中の「ルーピン先生」のイメージが変わっていくような気がした。

(シリウスさんって立場弱いのかな?ジェームズさんやリリーさん、それにお父さんお母さん達にもいろいろ言われてたし。それにこの間はハリーにも…)

「とにかく、は今日は帰りなさい。もし今度この犬に勉強を教えてもらうようなことがあるならハリーと一緒に来るように」
「ハリーと、ですか?」
「約束できるかい?」
「え?あ、はい!!」

思わずぴしっと姿勢を正して返事をしてしまう
リーマスは笑顔だったが、なんとなく恐かった。
先ほどシリウスに向けていた笑顔ほどではないが。
シリウスのことを気にしながらもは今日は家に帰ることにしたのだった。





その後。

「シリウス〜〜?君は何をしようとしていたんだい?ジェームズから君の気持ちは聞いているけどね、僕は応援しないよ?」
「なんでだよ」
「なんで?そんなの決まっているだろう?あんな可愛い子を君の毒牙にかけるなんて可哀想じゃないか。ヘタレはヘタレらしく一生へタレていればいいよ」
「う…」

言い返せない自分が悲しいシリウスだった。
しかし一番の問題は…シリウスのことを多少意識しながらも、シリウスを親子ほどの年の差で恋愛の対象に全く入れていないの思い込みだろう。