古の魔法 〜悪戯会議〜





校長室に向かうジェームズ。
そこではシリウスと魔法省の話し合いが行われているはずだ。
グリフィンドールの談話室で、達は待ちきれずに眠りについてしまった。
子供達に毛布をかけて、ジェームズは校長室に向かった。
勿論普通ならば校長室に入るには合言葉が必要だ。

「確か、こっちだったね」

ジェームズは側の壁をコンコンと叩いて、ある場所を押すと、がこんっと一部がへこんで穴が現れる。
その穴にひょいっと飛び込む。
校長室への隠し通路らしい。
ジェームズにとって正規の入り口が閉まっていようが関係ないのだろう。



ジェームズがひょっこり校長室に現れればもう、話し合いはついたようで静かだった。
魔法省の人間ももう帰ったのか、校長室にはぐったりとしたシリウスとダンブルドア。

「おや?終わっていたのかい?」

ジェームズが声をかければ、ダンブルドアは相変わらずにこにこと笑みを返してくる。
シリウスは疲れたように右手を上げただけだった。

「相変わらずじゃのう?ジェームズ。この部屋への隠し通路を通ってきたのかね?」
「勿論ですよ、ダンブルドア」
「その隠し通路を教えてはくれんのかの?」
「それはできませんよ。こればっかりは僕らの特権ですから」
「残念じゃのう」

しょんぼりするダンブルドア。
いつまでも幼い子供心の分かるこの教師がジェームズは好きだった。
誰よりも頼りになり、それでも頼り切ってはいけないと思う大切な恩師。
何度もダンブルドアには救われた。

「お疲れ、シリウス」
「おー!かなり疲れたぞー。ジェームズ、お前これだけ疲れること知ってて逃げただろ?」
「逃げただなんて人聞きが悪いな〜。これはシリウスの問題だろう?ちゃんと自分で片付けないとね」
「それは分っているけどな。あの話の通じなさは一体なんだ?!最初は一度アズカバンに戻れとか無茶苦茶なこと言ってたんだぞ?!」
「魔法省の頑固さと君の短気が原因で話が上手く進まなかっただけじゃないのかい?」
「…うっ」

シリウスはあからさまに目を逸らす。
どうやら図星のようである。
そこまで話が長引くはずがないとジェームズは思っていたのだが、そうでもなかったようだ。
そのために今まで根回しをして、魔法省が無実を覆すことをできないようにしたのだ。
その話が長くなったのはシリウス自身の話し方が悪かっただけだと思われる。

「何はともあれ、これで無実証明だ。これからどうするんだい?シリウス」

ジェームズはシリウスの隣の椅子に腰掛ける。
シリウスは真剣な表情になり考え込むように腕を組む。

「それなんだよな。俺は今までアズカバンにいたし、家に戻る気なんぞさらさらないし、そもそも家には誰もいないしな」
「職のアテはあるのかい?」
「お前こそどうだよ?お前、12年間寝てたんだろ?」
「僕はちゃんとあるよ、人手の少ない魔法省勤めさ。幸い、ホグワーツでの成績も悪くなかったしね」
「リリーはどうするんだ?」
「リリーは当分は家で大人しくしててもらうしかないな。何しろ二人目ができたことだし」
「二人目って…、おまっ!」

にこっとジェームズは笑みを浮かべる。
シリウスははぁ〜と頭に手を当ててため息をつく。
つまりは二人目の子供ができたということ。

「生まれるのはまだ来年の秋頃だよ」
「お前ら、いつの間に…」
「仕方ないじゃないか。生きているってことを実感したくてね」
「だからってなぁ、ハリーは知ってるのか?」
「いや、夏に迎えに行った時に報告するよ」

くすくすっと笑うジェームズ。
ヴォルデモートのあの呪文から生き残れて、目が覚めたら12年も経っていた。
混乱と同時にやはり恐れのようなものがあった。
これはまだ夢なのではないかという。
だから、手っ取り早く体で確かめ合ったのだろう。

「無性に寂しくなって、リリーが愛しくなってね…、ついね」
「はいはい、ノロケはいいぜ。散々学生時代にも聞かされてたからな」

シリウスは呆れた表情になる。
親友はこういうやつなのだ。
恥ずかしげもなく惚気る。

「シリウスの方はどうだい?結局誰もいい相手はいないのかい?」
「お前…今までの俺の状況を知っていて尚それを聞くか?」
「勿論」
「即答かよ。…つーか知ってるだろうが、俺は12年間アズカバンだったんだよ。それなのにそんな相手がいるわけないだろう?」
「学生時代はいろいろ噂はあったのにね。ああ、そういえば…」

ジェームズはふと思いついたような表情になる。

「学生時代こんな噂もあってね」
「どんなだ?」
「君は何人もの女性をとっかえひっかえで本気の女性が誰か分らない、リーマスは告白されても全て断っている。だから、君とリーマスが妖しい関係なんじゃないかって」
…げほっごほっ!!

むせるシリウス。
それはそうだろう。
親友とそんな関係の噂が流れていれば…。

「大丈夫かい?シリウス?」
「ちょ、ちょっとまて!何だよ!その噂は!!」
「事情を知らない子から見たら随分信憑性があると思えるけどね」
「げ…、やめろよ。そんな噂リーマスの耳にでも入ったら」
「リーマスは知ってるよ」
「…まじ?」

顔を引きつらせるシリウス。
リーマスは人狼の為に必要以上の人との接触を絶っていた。
シリウスは家庭環境のせいで人を信じきることができない為か、遊びでしか付き合いができなかった。
だからジェームズは二人が決まった相手を定めないことを知っていた。

「本当にいないのかい?気になっている人とか」
「気になってる人ね、そんなもん…」

シリウスは何か思いついたのか言葉を止める。

「もしかして、その顔はいるんだね」
「あ、いや、そうじゃなくてな」
「言い訳無用。さぁ、とっとと白状しろ、犬!」
「命令かよ!!しかも、犬って何だよ!」

ジェームズは楽しそうな表情でシリウスを見る。
シリウスは迷ったように視線を逸らし、言うか言うまいか迷っているようである。
ちらっとジェームズを見て、諦めたようにため息をつく。

「ただ、脱獄して森に隠れていた時にな」
「時に?」
「セイスの娘がいるだろ?」
の事かい?」
「ああ、そのだ」

ジェームズが顔を顰める。

「もしかして、シリウス。の事が、とか言わないよね?」
「いや、だからなぁ!これはそういう意味じゃなくて!」
「多少、年が離れているのは良くても、いくらなんでも君とじゃあ、親子ほどの年の差だよ?…シリウス、せっかく無実だと証明されたのに犯罪者に逆戻りする気かい?」
「どういう意味だよ!それは!」

そのままの意味である。
親子ほどの年の離れた子に手を出せば立派な犯罪と言えるだろう。
恋愛感情ありの関係になるには、いささか年が離れすぎている。

「ただ…」

シリウスは思い出す。
最初は恐々と食事を差し出した少女のことを。

―苦しまないで、悲しまないで、後悔なんてしないで、自分を責めないで。貴方は何も悪くないです。
―お願いだから無茶はしないで、貴方のあんな声はもう聞きたくないよ。自分を責めないで、貴方は悪くないよ。

そう言って自分を抱きしめてきた小さな少女。
泣きそうな表情で、全てを知っていると言いながらも自分を責めずにいた。
誰かにそう言ってもらいたかったのかもしれない。

「俺は悪くないと、あの時、ピーターに復讐することだけが全てだと荒んでいた俺に言ってくれた言葉が、何よりも嬉しかったんだよ」
「ふぅ〜ん」
「な、なんだよ!」
「それで、君はどう思ったのさ?」
「どうって…」
の事、その時どう思ったのさ?」

シリウスはその時の事を思い出す。
の言葉が温かく心に響いた。

「可愛い、と思ったな。ぎゅっと抱きしめ返してやりたいと」
「シリウス」
「なんだよ?」
「君、ロリコン決定」
「んなっ!」

ジェームズは呆れたようにシリウスを見ていた。
惚れるだのという気持ちではないとシリウスは言いたいのだろうが、自分の表情が分っているのだろうか…?
アズカバンの監獄から抜け出てきて、何も言わなくても信じてくれる少女がいれば確かに嬉しいだろう。
シリウスは単純だ。
それだけでに心を奪われてしまっている。
なにしろ表情緩みっぱなし。

「リリーもの事は随分気に入っていたみたいだからね。軽い制裁で済めばいいけど…、僕はフォローする気はないよ」
「ジェームズ〜」

ジェームズとしては呆れるしかない。
この単純馬鹿なシリウスは隠すことがあまり得意ではない。
おそらくリリー達には、シリウスの想いなどすぐばれてしまうだろう。


ばたんっ


話がひと段落つきそうなところで校長室の扉が突然開いた。
入ってきたのはリーマスの腕を肩にかけて入ってくるセブルス。
リーマスには意識があるようで顔色が悪そうな上に辛そうだが、なんとか顔を上げる。

「やあ!セブルスにリーマス。ご機嫌いかがかな?」
「貴様を見て更に最悪になったな」
「酷いな〜〜。久しぶりだね、リーマス、どうしたんだい?」

ジェームズはにこっとリーマスに笑顔を向ける。
リーマスは驚いたように目を開いている。
リーマスがここにいるということは、おそらく日が昇ったのだろう。
昨日の夜は満月だったのだから。

「ジェー…ムズ?」
「そうだ、リーマス。僕だよ」
「本当に、君かい?」
「僕が、ジェームズ・ポッター以外に見えるかい?」

リーマスはセブルスの支えから抜け出して、ジェームズにゆっくり歩み寄る。
まだふらふらしているようだが、そのままジェームズに抱きつく。

「本当に、君なんだね、ジェームズっ!」
「お疲れ様、リーマス。昨夜は大変だったようだね」

ジェームズはリーマスの背中をぽんぽんっと撫でるように叩く。
ぼろぼろに傷ついたリーマス。
教え子を自らの意思と反して襲おうとしてしまって、惨めになって戻ってきた自分が見たのは亡くなった筈の親友。

「ふんっ。感動の再会もいいがな、ルーピン。貴様はもうこれ以上ここにはいらくなる。せいぜい今のうちにホグワーツを堪能しておけ」

吐き捨てるようなセブルスの声。

「おい、それはどういうことだよ、スネイプ!」
「ブラック。貴様の無実が証明されて我輩としては心の底から残念に思う。だが、おめでとうとは言っておくべきかね?」
「てめぇの言葉なんていらねぇよ!!それよりどいうことかって聞いてるんだ!」

セブルスとシリウスでは、シリウスの方が性格的に不利だろう。
なにしろ、シリウスの方が短気だ。

「リーマスが人狼ということをばらすんだね、セブルス。世間一般では人狼は危険な存在だと認識されている。そんなことがばれれば、リーマスはホグワーツの教員を辞めざるを得ない」
「その通りだ、ポッター。今夜のようなことがもう一度ないとも限らない。やはり人狼を雇うなど危険なことなのだよ」

セブルスは黙ったままのダンブルドアをちらっと見る。
先ほどからダンブルドアは黙ったままにこにこ笑顔で見守っているだけ。
だが、リーマスの解雇の件で少し悲しそうな表情を見せた。

「セブルスは生徒達を心配しているだけだよ。やっぱり、僕が教師になるなんて間違っていたんだよ」
「分ってるではないか、ルーピン。それでは、確かに貴様を我輩は送り届けたぞ。あとは医務室なりなんなり好きなところに行くがいい」

ばさっとローブをひるがえして出て行くセブルス。
シリウスはぎろっとセブルスの出て行った方を見ていた。
かなり相性が悪いらしい。

「心配しなくても、リーマス、僕が職ならいくつか斡旋できるから。マグルの職業だけどね」

ジェームズはにっこりとリーマスに笑顔を向ける。

「にしても、相変わらず嫌なヤローだな、スネイプのやつ!!気にいらねぇ!」
「それについては、1つ提案があるんだけどのるかい?」

憤慨しているシリウスにジェームズは悪戯でも思いついたような笑みを浮かべる。
リーマスそんなジェームズの様子に相変わらずだと苦笑する。
こうして昔の親友同士がそろうと、学生時代を思い出す。
あの時とは変わってしまって一人欠けている。
それでもあの時、ピーターが裏切り、シリウスがアズカバンへ、ジェームズは亡くなったという状況だった頃には、考えられなかった光景だ。

「パッドフット、ムーニー」

ジェームズがシリウスを見てリーマスを見る。
ジェームズの呼び名に一瞬驚く二人だが、同時にニッと笑みを浮かべる。

「なんだい?プロングス」
「何かやる気か?」

パッドフット、ムーニー、プロングスは彼らのコードネーム。
悪戯仕掛け人の名前だ。

「悪戯仕掛け人、再結成だ!久しぶりにセブルスに悪戯を仕掛けてみないかい?」
「お、賛成だな!」
「僕も賛成。やっぱり、何もしないでこのまま去るってのは僕のポリシーに反するしね」

ふふっと黒い笑みを浮かべるリーマス。
これでこそリーマスだ。
だが、その笑みにシリウスがちょっぴり引く。

「ちょうど『忍びの地図』にも書いてない隠し通路が大広間にある。それを使おう」
「で?どんな悪戯をするんだ?」
「セブルスはいつも真っ黒だから、たまには明るくしてあげるとかは?」
「それいいアイディアだね、ムーニー」
「じゃあ、真っ赤に染めるか?」
「それも面白いけど。どうせならもっと派手にレインボーカラーとかどうかな?」
「なかなか、いいアイディアだね。さすが参謀ムーニー」
「レインボー…!!それいい!!さすが、ムーニーだぜ!」

盛り上がる悪戯会議。
学生時代に戻ったかのようににぎやかに話し合う。
ダンブルドアは相変わらずニコニコと笑顔でみているだけ。
というか、止めてやれ、ダンブルドア。