星の扉 11




魔物はあっという間に片付いた。
セフィロスやザックスがあっという間に片付くなら分かるが、自分が対峙した魔物もそう苦戦しなかった。
当時の体力のままなら冷静さがあったとしても多少なりとも苦戦しそうなものだと思っていたが…。
動きのイメージが頭の中にあるからか。
イメージ通りの動きはできないものの、知識として経験がある。
それがあの時とは大きな違いだろう。

島の中心にある洞窟にたどり着く。
島の大きさから言ってそう大きくない洞窟だろう。
海底に洞窟が続いていなければ、の話だが。

「不気味な感じだよな〜。旦那、どうする?」
「勿論中を探査しなければならないだろう?」
「だよな〜。この中が広くない事を祈るのみだ」

洞窟が広ければ広いほど探査には時間が掛かる。
この島にはこの洞窟ひとつきり。
この洞窟を調べ終えればミッションが完了になるのだが…。
ザックスが洞窟へと足を踏み入れようとする。


ばちっ


うおぁっ?!!


何かにはじかれたように、飛びずさるザックス。
ザックスは首を傾げて自分の足を見る。
特に何の変化もないようだ。
セフィロスがそれを見て、右手を洞窟へと伸ばす。


ぱちっ


小さな光がはじけ、セフィロスの手を拒む。
セフィロスは自分の手を見てみるが特に変わりはない。
しかし、この洞窟は入る事を拒んでいるかのようだ。

(別にこの洞窟はシールドのようなものはなかったはずだ)

クラウドは不思議に思う。
ザックスとセフィロスがはじかれた光。
それがライフストリームの光と似ているようにも感じた。
一見すれば普通の洞窟だ。
クラウドが過去…と言っていいのか、この時代からすれば未来にあたるような時になるのだが…ここに来た時には何の抵抗もなく入れた。

「何かシールドでも…?」

不思議に思ってセフィロス同様クラウドも手を伸ばす。
しかし伸ばした右手は何の抵抗もなく前に突き出された。
僅かに驚くクラウドだったが拒まれないのならばと思い、足を踏み出して洞窟の中に入る。
光にはじかれもせず、普通に洞窟の中に入れた。

「何でクラウドは平気なんだよ?」

ザックスが僅かに顔を顰めてクラウドの方に手を伸ばす。
クラウドの体は洞窟内に入っているので、そのクラウドに触れようとすれば勿論。

ばちっ

ザックスの手が光ではじかれる。

「オレと旦那は入るなってことか?何なんだよ、この洞窟」

クラウドはざっと洞窟内を見回す。
洞窟というものはどこであれ、大抵が中は涼しいものだ。
だが、この中は暖かい。
何かに包まれているかのような感じをうける。


―星の声を聞くことが出来る子供よ。アーサーが待っています、奥へいらっしゃい。


声が頭の中に響く。
それは星の声。
”アーサー”は、この洞窟にあるだろう召喚のマテリア「ナイツオブラウンド」の騎士達を率いる者の名。
ナイツオブラウンドは召喚マテリアの中では最高峰のマテリアとも言えるだろう。
アーサー率いる円卓の騎士たち12人による攻撃。

(待っているならば…)

クラウドはザックスへと向き直る。

「俺しかこの中には入れないみたいだから見てくるよ。別に危険はなさそうだし」
「危険はなさそうって…お前なぁ。この辺りのエリアはそれなりに強い魔物も出るって言われているんだぜ」
「んでも、大丈夫だよ。勘だけどさ」

害をなす気はないのだとクラウドは思う。
寧ろ歓迎している感じがする。

「洞窟の外はともかく中には、魔物はいないようだから大丈夫だろう」
「旦那?」
「念のため無線だけは持っていけ。何かあればすぐに外に逃げて来い」

セフィロスがひょいっと小型無線機を投げてる。
手で握れるくらいの小さな無線機だ。
神羅の技術を集めて作り出したものなのだろう。

「科学部門の方からこの島で膨大なエネルギー、恐らくマテリアか魔晄エネルギーだろうとは推測されているが、それが観測されたらしい。何があるか分からないから無理はするな」
「分かりました、サー」

何もないだろうとは思うが。
クラウドはセフィロスに敬礼をして、洞窟の奥へと向かった。
この島から観測された膨大なエネルギーは恐らく「ナイツオブラウンド」のマテリアだろうとクラウドは思った。



洞窟内はそれほど広くはない。
数分ほど歩けば一番奥にまでたどり着く事ができる。
突き当たりはそれなりの空間が出来ていて、淡い緑色の光が洞窟内を照らしている。
それは洞窟の岩から放たれているものもあり、マテリアの光に照らされているようでもある。

「ライフストリームの中みたいだな」

ライフストリームの中に落ちてしまった事が一度だけある。
その時の記憶ははっきりとはしていないが、淡い緑色の光だけは覚えている。
この空間の中心ともいえる場所に輝くマテリアがひとつ。
光に満たされ、膨大なエネルギーを感じる。

「ナイツ・オブ・ラウンド…」

クラウドは呟く。
これをこの手にとってもいいのだろうか…。


―ようこそ、星の声をきく子供よ。


声が頭の中に響く。
洞窟の入り口の方で聞こえた声と同じものだ。
暖かい母のような声。

『星に溶け込んだ騎士の魂、それが我ら。星の声を聞く星の子供よ…何を望む』

低い声と共にマテリアからすぅっと一人の騎士の姿が浮かび上がる。
それは実体ではなく、透けている姿。
13人の騎士のうちの一人、アーサーの姿。

「俺の望み?」

クラウドが望む事は何?
何のためにここに居る?

「俺は…」

世界をジェノバから解き放つとか、世界を救うとかそんな大それた願いなどない。
星を救っても、満たされないものがあった。
後悔があった。

「大切な人たちがいた。でも、守れなかった。だから、今度こそ守りたい」

自分が幸せになりたいのかもしれない。
でも、それは一人では駄目だ。


「俺は大切だと思う人たちの心を、想いを、存在を守りたいんだ」


自分勝手な願いかもしれない。
でも、それでも二度と同じ事は繰り返したくない。
大切な存在を守りたい。
だから今クラウドはここにいる。
この世界にいる。

『承知した。我らは汝をマスターと認めよう』
「え?」
『母なる星と共に我らも待っていた。星の声を聞くことの出来る子供を…』
「待っていた?」
『汝の願いは母なる願い。我らは汝をマスターと認め従おう』

ふわりっとマテリアが勝手に浮く。
そのままクラウドの元へ導かれるように来る。

「ちょっと待ってくれ。こんな強力なマテリアは!」
『力はいずれ必要になる事もある。その願いがある汝ならば正しい方向に力を導く事を信じている』
「いや、そういう問題じゃなくて…」

ふわふわっとクラウドの目の前に浮いているマテリア。
神羅の科学部門が感知したという強力なマテリアのエネルギー。
そんなマテリアを自分が持っていれば怪しすぎる。
というよりも、確実に神羅の科学部門の方に取り上げられるだろう。


―大丈夫、今の貴方はセトラと同じ。


「セトラと、同じ?」
『星の声を聞くことが出来る星の子供。我らは汝が望みし時のみその力を引き出そう』

ナイツオブラウンドのマテリアはくるくるっと回転してその大きさが小さくなる。
同時に照らし出す光も弱くなり、小さな粒となる。
小さな粒となったマテリアは、すっとクラウドの右耳へとおさまった。

「…ピアス?」

丁度耳にピアスをつけているような感じとなる。
右耳だけが少しだけ暖かい。

「セトラと同じって何だ?同じだと大丈夫なのか?」

セトラの民。
別名古代種とも言われる。
昔この星に住む人々は皆星の声を聞くことが出来た。
しかし、ある日空からの厄災である”ジェノバ”が星に舞い降り、セトラの民の多くはジェノバを封じるために力尽きた。
ジェノバとの戦いの中で、”ウィルス”を植えつけられたセトラの民は、星の声を聞くことが出来なくなっていた。
星の声を聞くことを忘れてしまっていたのだ。
それが現在の普通の人間とされる始まりである。
クラウドは先祖を辿れば確かにセトラの民には行き着くだろう。
この星に住む人々は皆そうだ。
何かが違うわけではない。
確かに星の声を聞くことは出来る。
それでも、僅かに声を聞くことが出来るだけであるだけ。

『汝の体に厄災の種はもうない。汝はセトラと同じだ』
「種?ジェノバの”ウィルス”の事か?」

アーサーの声が頭の中に響く。

『そうとも言われる。星の声に耳を傾ける事が出来れば種はすぐに消え去る程度のものでしかない。だが、人々はその声にすら気がつかない。セトラが星の存在を呼びかけても否定をしてそして種の存在にすら気づかない』

星の声に耳を傾ける事はエアリスから教えてもらった。
最初は「何を言っているんだろう」くらいにしか思っていなかったが、エアリスの言葉は何故か何時の間にか信じられるようになっていた。

『今はまだ星の力が安定している。だがあと数年もすれば人々の星の力の吸い上げによって、星は守る事すらままならなくなる』
「神羅の作った魔晄炉のせいか」
『我らがいるこの場所も、厄災の欠片を持つものには近づけないよう守りがある。そして、種を持つものには、今の我らは扱いきれないだろう』

ジェノバの”ウィルス”を持っていない、そしてジェノバ細胞を埋め込まれていないソルジャーではない人間。
それはセトラの民のみ。
今、この世界ではセトラの民はエアリス一人きり。

「だから、この洞窟には俺だけは入れたのか?」
『汝はセトラと同じ、強き想いを持つもの』
「俺は、強くなんかない」
『自らの弱さを認めること、それも強さだ』

神羅が軍まで持ち巨大企業となったのは十数年ほど前からだ。
少し前にはウータイとの戦争もあった。
忍が住む、ソルジャーとはまた違った魔晄の使い方をする国。
ここ十数年ほど魔晄エネルギーを使われてきた星だったがそれもそろそろ限界のようだ。
悪用されないために強力なマテリアには星のエネルギーでのシールドがあるようだ。
その効力もあと数年ほどしか持たないだろうということ。
今はまだ効力がある為、ソルジャーであるザックスとセフィロスはここに入る事ができなかった。

クラウドは今はセトラと同じような存在になっている。
星の声を聞き、星の力を借りる事が出来るのだろう。
大地はとても暖かい。
星の声はとても優しい。
人々がそれを知る事が出来れば、この星はよい方向に進んでいくのではないのだろうか。
クラウドが経験した未来のようにならず、ウェポンすら生まれない世界に…。
だが、人は強欲でもあることも忘れてはいけない。
思わぬ切欠が、全てを狂わす事もあることを忘れてはいけない。




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