星の扉 04





肩のかすり傷に関してクラウドは実験をしてみた。
従来マテリアがなければ魔法は使えない。
だが、マテリアはライフストリーム…魔晄エネルギーを使うための補助道具のようなものだ。
実際必要とするのは自分の魔力と、星に語りかけること。
マテリアなしで魔法が使えるかの実験。
結果はと言えば、成功だったといえるだろう。

ケアルをかけてクラウドは怪我を治した。
ケアルは回復魔法の中でも初歩の魔法だ。
それでも、セトラの民でもなければソルジャーでもないクラウドが使う魔法は弱い。
使えるのは、ケアル、ファイア、ブリザド、サンダーくらいだろう。
やはりマテリアがなければ高度魔法は難しいようである。



少し時間をつぶしてから兵舎の部屋に戻ってみれば、ザックスが帰ってきていた。
自分のベッドの上で胡坐をかきながら、パンにかじりついている。
その姿に思わずため息が出てしまったクラウドである。

「お、早いじゃん。…って、なんだよ、そのため息は」

神羅のソルジャーは誰もが憧れるといってもいい職業である。
強くてかっこいい。
そんなイメージを持つ人は多いだろう。
そんなソルジャーの中でも最高クラスの1stにもうすぐなろうというのがこれだ。
ザックスがソルジャーだとは未だに信じられない気分になる。
金がないからといって、兵舎に住むソルジャー。
いったいどういう金の使い方をしているのやら…ザックスに関しては突込みどころ満載である。

「いや、別に…」

正直に自分の思ったことを言おうものなら、ザックスが煩いだけである。
年上のソルジャーである親友は、とにかく騒がしい。

「別にってなんだよ、別にって…。言いたいことがあるなら言えっていつも言ってるだろ?」

ニコニコ…ニヤニヤの方が正しいか…クラウドに笑みを向けるザックス。
”お兄さんに言ってみな〜”という感じの気持ちなのだろう。

「……あんたがソルジャーなのかを疑問に思っていただけだ」
「お前なぁ」

ガックリと落ち込むザックス。
言えというから言ってやったのだ。
こういう反応が返って来るだろうから言わなかっただけなのに…。
ソルジャーの給料は決して悪くはない。
寧ろ独り者ならば、それなりに贅沢な暮らしが出来るくらいの給金はもらっているはずである。
それなのにザックスはその給金がいったいどこにばらまかれているのやら。

「で?結局あの後、仕事は間に合ったのか?」
「ああ、ゆっくり戻ったからギリギリだったけどな」

下から上まで上るのには距離がある。
しかも見つからないようにゆっくり行く必要もあるからだ。
クラウドは会話をしながら兵士の服装から、ラフな普段着へと着替える。

「お前、どうやってあそこに行けたんだ?」

軍服をハンガーにかけいるクラウドにザックスが問いかける。
一般兵士がスラムへとそうひょいひょいと降りられるはずがない。

「別に…、下に下りる方法なんていくらでもある」
「いくらでもって…!…まさかっ、お前、その綺麗な顔で誰かを誑か…」


ごすっ


ザックスの顔に分厚い本がめり込む。
見えないほどの速さでクラウドが投げつけたのだ。
しかしソルジャーであるザックスにはたいしたダメージはないようだが…鼻の頭はちょっと赤い。

「冗談に決まってるだろ〜?!んなことで怒るなよ!」
「…随分とタチの悪い冗談だな」

すうっと目を細めてクラウドはザックスを睨む。
クラウドは自分の容姿が中性的なもので、それなりに目立つものであることは自覚している。
今は少女に間違えられることはないが、5〜6年前は本当に性別を間違えられることはしょっちゅうだった。

「けどな〜、下に降りるのには許可が必要だろうし、オレだってそんな頻繁に降りれるわけじゃないんだぜ?」

ソルジャーだからといって、毎日のように許可が出るわけではない。
つまり、ザックスは正規のルートで下に降りているということになる。

「正規のルートが唯一の道じゃない。他に下に行く方法ならいくらでもある」
「それって抜け道か?!」
「……あんたならそれくらい知ってそうだと思ったけど」
「知るわけないだろ?ミッションばっかりで、散策の暇なんてねぇんだよ」
「……ナンパしてて忙しいからじゃないか?」

ソルジャーにだって休日はある。
暇がないのではなくて、暇なときにナンパをしたりしているから、散策する時間ができないだけじゃないのだろうか…。
行き当たりばったり、壁に当たることを考えず、壁に当たったときにその場で考えろ、なザックスの性格では散策など一見無意味そうなことなどしないのだろう。

「なぁ、今度教えてくれよ」
「断る」

ザックスの言葉にクラウドははっきり拒絶を返す。
別にあの抜け道を教えること自体は構わないのだ。
クラウドはちらっとザックスを見る。
そして軽くため息。

「なんでだよ〜。お前、その秘密の抜け道を独り占めするつもりだな!」
「そうじゃない、あんたに教えると後がどうなるか分からないからだ」
「はぁ?」

あの抜け道…と言っていいのか…は道ならぬ道だ。
配管を辿って足場にして上ったり降りたりする。
ソルジャーであるザックスならば降りるときは配管を伝わなくてもひょいっと降りれそうだが…上るときはどうだろう。

「あんたに教えると道を壊されそうだから」

ソルジャーの力は強い。
普通の人間の力という力を、何十倍にも魔晄のエネルギーによって増幅されている。

「壊すわけねぇだろ?」
「………この部屋にあった棚を2日ほど前に粉々にしたのは誰だ?」
「う……オレ…です」

ザックスは物の使い方が荒い。
大切なものは大切に扱うようだが、それ以外のもの、特に替えがきくものに関してはよく壊す。
修理費用はザックスが持ってくれているため、別に壊れたものの片付けの依頼と、新しいものを注文する手間がかかるだけなのだが…。
ザックスがお金に困っている要因のひとつがこれかもしれない。

「…俺、仕事で疲れているから、先休む」

軽くため息をついて、クラウドは就寝の準備をする。
夜勤の仕事はとにかく疲れるのだ。
まだ、15歳のクラウドが兵士として仕事をしているのはソルジャーになる為。
ソルジャーの試験の受験資格は年齢制限がある。
あと1年弱。

「あんたも、いくらソルジャーが身体丈夫だからって言って、もう夜中なんだ。いい加減寝ろよ」
「分かってるって〜。……書類もたまっているしな」

ははは…と空笑いをするザックス。
ザックスが報告書類の作成にいつも唸っているのをクラウドは知っている。
何度か兵舎までその仕事を持って帰ってきたこともある。
気が向けば手伝うこともしていた。
ザックスは機械の扱いが苦手である。
コンピュータ…パソコンにデータを打ち込む作業はすごく時間がかかるようなのだ。


「あれ?クラウド、お前、何か怪我でもしたのか?」


クラウドがベッドに入って寝ようとした時、ザックスが何か気づいたように声をかけてきた。
銃弾をかすめた肩の怪我は治してある。
血の匂いでも残っていたのだろうか…。

「お前の制服、肩のへん、破れている?みたいだからさ」

ザックスは指でクラウドの軍服を指す。
体の怪我は治せても、服までは修復できない。
肩の辺りが小さく破れている軍服。

「少し転んだだけだ」

そっけなくクラウドはそう答えてベッドにもぐる。
軍服の方を忘れていた…と、心の中で舌打ちする。
明日あたりに直しておかなければ、今度の仕事に支障をきたす。
同室の親友は、自分が怪我をした時などは結構煩い。
ザックスの方が危険なミッションをしていて…ソルジャーだから当たり前だが…怪我も多いのに…。
最も、ソルジャーはマテリア装備なので怪我を魔法で治すことが出来るのだが…。
クラウドは体を休めるために目を閉じる。
ザックスがなにやら部屋の中を歩き出す気配がした。

気配を辿る感覚も、恐らく攻撃するちからも、魔力も…この当時のままだ。
一般兵の中でも実力はあったほうだとは思っているが、ソルジャーには遠く及ばない。
星の命運をかけた戦いで培ってきた強さが今ここにはない。
不安に思うこともある。
だが、昔持っていなかったものが今はある。

知識とこころの強さ。

ちからだけが全てでないことを、自分は知っているはずなのだ。
何かを変えられるかもしれない。


「…転んで破けた?そうは見えねぇぜ、クラウド」


意識が深く沈む寸前、ザックスのそんな声が聞こえた気がする。
幾多の戦場を駆けてきたザックスにならバレてしまうかもしれないな、とそんなことを思った。




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