― 朧月 25




を撃った人は80番のプレートを持っていた。
クロロが投げて刺した葉は、すでにへにゃんっとなっていたが、致命傷にはなっていなかった。
殺しを好まないは、その人に止血を施してその場に放置する。
ここで生き残ればよし、そのままこの島で誰かに殺されてしまってもそこまで関与するつもりはない。
殺しは嫌いだが、全ての人間を救おうとまでは思わないである。

自分が大切だって思う人が傷つかないならば、自分の見ていないところでならば、殺しは容認できるかもしれないって考え方、冷たいかな?

クロロがかつてクルタ族を惨殺したのを知っていても、は殺されたクルタ族を”知らない”のだ。
惨殺したという事実、結果だけを言葉でのみでは恐怖や悲しみはあまり感じられない。

「クロロのターゲットを先に探す?」
「そうだな。だが、闇雲に動いても見つかるわけがないしな」

島をくまなく探せば見つかるだろう。
だがそれでは効率が悪い。

「えっと、ゴン君、キルア君、レオリオ君、クラピカ君とあとあの人と301番の人、それから私とクロロさん、それからこの80番の人で9人、この試験の参加者26人だから番号が分からない人は17人?気配辿っていけば見つかるかな?」

人の気配があるところに向かっていけば、見つかるのではないのだろうか。
17人ならば少なくはないが、1週間もあればどうにかなりそうだ。
その間、の残りの2点分もなんとかすればいい。

「それが一番確実か」
「結構気配がバラけているけど、どっちから行った方がいいかな?」

とクロロが歩いている場所は丁度島の真ん中あたり。
受験者は皆バラバラに動いているようで、人の気配は綺麗に分かれている。
中には協力体制をとっているのか、まとまって動く気配もある。

「こっちから行ってみるか、
「うん」

クロロが歩き出した方へとついていく
そう広くない島とはいえ、島中に生えている背の高い草や木々の為、見通しはとても悪い。
さくさくと歩くというより、草を踏みしめていく感じだ。
そのまま2人はゆっくりと島を歩きながら、受験者達を探す。


受験者達は武器は持っているが食料はない。
食べるものはこの島になっている果実や動物を捕らるしかない。
布団や毛布などがあるはずもなく、やはり野宿でそのまま寝るしかない。
野宿をしつつ、島の中をゆっくり歩きつつ、他の受験者と遭遇せずに2日目に入る。

「意外と誰とも遭遇しないね」
「狭いといえば狭いが、人が隠れるには十分過ぎるほどの広さの島だからな」

ふっとクロロが何か気づいたかのように足を止める。

「クロロ?」
「この先に他の受験者がいるようだが、どうする?」
「どうするって勿論行こうよ。だって、点数…」
「いるのはヒソカだがな」
「避けましょう!」

瞬時に意見を変える
ぐるりんっと方向を転換しようとするが、クロロがそれを止める。

のターゲットもいるようだぞ」
「本当?…で、でも、301番の人も念使えるから、私には絶対に無理だよ!」
「試してみるだけ試してみたらどうだ?」
「試すも何も、絶対に無理だって!」
「勝負するわけじゃないだろ。勝つわけじゃなくてプレートを盗れればいいんだから、やりようはあるさ」
「やりよう…あるかな?」

相手はクロロは知らないだろうが…もしかしたら知っているかもしれないが…プロの暗殺者だ。
念がそれなりに使えるとはいえ、経験では果てしなく劣るだろうに何ができるだろうか。
だが、逃げるだけならばできる自信はある。

「ゴンの意欲を見習って、も1度くらいはチャレンジしてみたらどうだ?」
「う…」

そうなんだよね、ジン君の息子のゴン君があの人相手に頑張ろうとしているのに、私が何もしないのは何か逃げてるみたいだし。
1度だけちょっと試してみて無理なら逃げればいいかな。

「ちょっとだけやってみる」

はすっと気配を自然にとけ込ませる。
あくまで念は使わない。
クロロに目配せだけして、ざっと走り出す。
前方の方に確かに気配を感じる。
感じる気配は大きなものではないが、3つ。
1つの気配はかなり弱い、恐らくもうすぐ消えるだろう。
弱かった気配がふっと消える。
の目にヒソカと301番のギタラクルの姿が見えた時には、ギタラクルは自分の顔から針を抜いていた所だった。

うわ、生で見ると物凄く痛そう…。
って、見てる場合じゃないよね。
でも、ゴン君の釣竿みたいな遠隔操作式のものがあったほうが…。

こっそり様子を伺っていると、ギタラクル…イルミがひゅっと針を2本こちらに投げてきた。
は思わずぱしぱしっと受け止めてしまう。
受け止めたはいいが、どうしよう…と思う。
攻撃されたという事は、ここにいるのが分かってしまったということだろう。
はばっと地面を蹴ってジャンプする。
持っていたイルミの針を、イルミに向かって投げつける。
ちなみに念を込めてみたのだが、あっけなく受け止められてしまう。

やっぱり駄目か。

特に落胆もせずに、はイルミの少し離れたところにすとんっと着地。
そのまま攻撃しようとしたが、ぴたりっと動きを止めてしまう。

じゃないか♥」

思わずぞわりっと寒気が走る。
忘れそうになっていたが、この場にいるのはイルミだけでなくヒソカもいる。

「ヒソカの知り合い?」
「そうだよ♣」
「ふ〜ん。オレに用かな?」

はイルミの胸についているナンバープレートをちらっと見る。
堂々とナンバープレートをつけている受験者は少ない。
もクロロも普通につけたままだったりするのだが…。

「もしかして、オレがターゲット?」

無表情のままイルミは自分のプレートを示す。

「わ、渡してもらえたら嬉しいかもとか思ったり…」

の言葉途中でひゅっと針が再び飛んでくる。
ぱしぱしっと全て指で挟んで受け止めるが、続けて針…今度は念が込められている。
はそれを飛んで避ける。
着地した瞬間に横に気配を感じたと思えば、イルミがすぐ側まで着てに蹴りを入れようとしていた。

速い…!

とっさに念を使って腕でガードする。
がしっと音がしての腕とイルミの脚が交差する。

「やっぱり使えるんだ」
「一応」

念が使えることを言っているのだろう。
イルミの方も念を使って攻撃してきている。
が念を使えなければふっとんで、ついでに骨まで折れていたかもしれない。

「狙われるのは面倒だから諦めてくれない?」
「分かりました」

はすっと戦闘体勢の雰囲気を消した。
駄目元でかかっていった相手だ。

「随分あっさりだね。これ欲しくないの?」
「本音を言えば欲しいですけど、相手が相手なので敵うとは思っていないです」
「ふ〜ん、もしかしてオレの事知っている?」
「少しは…」

プロの暗殺者であること、キルアの兄であること、操作系の能力者であること、弟であるキルアを溺愛していること。
役に立つような立たないようなイルミの情報がの中にはあるにはある。
があっさり引いたのは、イルミのことを知っていたのも理由のひとつだが、何よりも…。

「残念♦がどう戦うのかもっと見たかったのに♣」

その声に思わず鳥肌がたってしまうのは反射的なものだ。

「これ、ヒソカの?」
「それを見極めようとしているんだけどね♥」

イルミとヒソカの視線がに集まる。
思わず後ずさってしまう。

「私は将来有望でもないですし、強くもないですよ」
「1度手合わせしてみれば分かるよ♠」

ヒソカが深い笑みを浮かべた。
その瞬間雰囲気が変わったのが分かった。
に対して放たれるのは怖いほどの殺気。
恐怖を覚えるほどの殺気だが、やはりは別の意味で怖いと思った。

「ヒソカ」

はぐいっと後方に引っ張られ、2本の腕に抱きすくめられる。

には手を出すな」

自分の体が温かいものに包まれるのが分かった。
その腕が誰のものなのか声で分かる。

「クロロ?」

はひょいっと顔を上げてみる。

「少し様子を見ていれば、…すぐに諦めるな、
「でも、相手が相手なんだよ?」
「相変わらず自分の実力に関しては過小評価だな」

苦笑するクロロ。
だが、は思う。
クロロもミスティも自分を過大評価しすぎなのではないのだろうかと。

「クロロが本気で相手をしてくれるなら、クロロでもいいよ♥」
「団員同士のマジギレは禁止だ、ヒソカ」
「ん〜♦確かにそんなのもあったね♣」

だが、そんなことはヒソカには関係ないのか、ヒソカの殺気は収まる事がない。
クロロはそれに表情ひとつ変えない。
をぎゅっと抱きこんだままの姿勢も変えようとしていない。

「えっと、その人がクロロと戦うつもりなら私を巻き込まないで欲しいかな?」
「随分と薄情な台詞だな、
「ぅ…、み、耳元で言わないで…」

クロロはわざわざの耳元に口を寄せて話した。
そうされると耳にクロロの息を感じるので物凄く恥ずかしいのだ。
にとって耳が感じやすい方だという理由もある。

「えっと、あの……ひ、ヒソカさん?」
「なんだい♥」
「できれば、その殺気をおさめて欲しいかな…とか思ったりしているのですが」
「それは難しい注文だね♣」

ぞぞっとする寒気が止まらない。
は思わず自分の目の前で交差しているクロロの腕にすがるように触れる。
さて、どうしたものか。