― 朧月 13




も仕事はしている。
ペット探しは得意中の得意だ。
たとえどんな危険なペットでも、捕まえてみせましょう!とでも言うかのように、ペット探しの成功率は100%だ。
情報通のミスティが場所を捜索、あとはの念能力ですぽっと捕まえるだけである。
今日もそんな仕事をして、は『朧月』に帰る。

「ただいま〜」

ふぅっと一息ついて『朧月』の店の奥に入る。
いつもならばそこには、にこりっと笑みを浮かべたミスティがいるはずだった。

「お帰り、
「へ?」

ミスティの変わりにいたのは、何故かクロロだった。

「な、なんでクロロさんが…?」
「ちょっと彼女に報告があったから、が仕事を終わらせる少し前に来たんだ」
「ミスティに?」

あれ以来、ちょこちょこ『朧月』に来るクロロだが、ミスティに用があることなど今までなかった。
ものすごく珍しい。

「クロロさんって暇なんですか?それに、幻影旅団の仕事?はいいんですか?」
「今欲しいものも特にないしな。予定は半年ほど先のヨークシンくらいだな」
「ヨークシン?」
「世界最大規模のオークションがあるんで、それを全部もらう予定だ」
「………そうですか」

て、あれ?
ヨークシンのオークションって確かあの本の中にそんなような話があったような…。

首をひねって考えていると、ミスティが部屋に入ってくる。
の姿を目に留めると嬉しそうな笑みを浮かべる。

「マスター、お疲れ様です」
「あ、うん。ただいま、ミスティ」

ミスティは笑顔のまま、クロロに紙を一枚渡す。
クロロはそれを受け取り満足そうな笑みを浮かべた。

「ギリギリだな」
「そうですね。ですが、事前に会場は調べてあるのでしょう?」
「ああ、ザバン市だ」
「それでしたらなるべく早く出発した方がよろしいかと思いますよ」
「明日には出発したい所だ」

首を傾げる
2人が何を話しているのか分からないが、クロロがどこかに行くという事だけは分かる。
しかもその行き先をミスティは知っているように思える。

「書店でしたらわたくしだけでも十分ですし、マスターが呼んでくださればわたくしはどこへでも行く事は可能ですので、構いませんよ」
「私?」

自分のことが出てきて思わず口を挟む。

「何のこと?」
「はい、マスターとルシルフル氏のハンター試験のことですよ」
「は…?」

ハンター試験…?
何、それ?
いや、ハンター試験がなんなのかは分かるけどね。

「持っていると便利だろう?」
「は、はぁ…、それはそうですけどね。なんか物騒そうな試験らしいじゃないですか」
「オレが何なのか知ってて普通に話している時点で、からすればハンター試験なんて全然物騒じゃないだろ」
「………」

否定できないのが悲しい。
クロロは普段は好青年風だが、実際はA級首の盗賊、幻影旅団の団長。
それをは知っているし、だからと言って何が変わるわけでもない。

「だから、彼女に頼んで今期のハンター試験に申し込んでおいたよ」
「は?!」
「第287期ハンター試験にな」
「え?え?ちょ…、ちょっと待って下さい!!」

この世界に来たには勿論身分を証明するものがない。
当たり前だ、異世界から来たのだから。
この世界で存在証明するものがなくても、流星街出身だと言ってしまえばいいだけなのだが、やはり身分証明というものはあって困るものではない。

「マスター。やはり何かしらの仕事をする以上、ハンターの資格というのはあって困るものでもありません。それに何か交渉するにもとても交渉しやすくなりますよ」

にこりっと笑みを浮かべるミスティ。
ミスティにそう言われるとそうかもしれない。
だが、この世界に永住するかどうか現時点では迷っているとしては、別にどちらでもいい。

「どちらにしろ、もう申し込みは済んだしな。行く気がなくてもオレが連れて行く」
「私の意志は無視なんですか?」
「資格はあって困るものじゃないだろ」
「それはそうですけどね…、クロロさんは、ハンター資格持っていなかったんですか?」
「特に必要と感じていなかったしな」

意外だ。
もうすでに持っているものだと思っていた。
ハンター資格というのは持っていてとても便利なもののはずなのだが、クロロはとろうと思ったことはなかったのだろうか。

「今日はよろしければこちらに泊まっていってはいかがですか?」
「そうさせてもらう」
「ちょっと待って、ミスティ!」
「何か問題でもあるでしょうか?部屋は余っていますよ」
「そ、そういう問題じゃなくて…」
「大丈夫ですよ、マスター。わたくしが見張っていますから夜這いなんかかけさませんから」
「夜這…っ?!」
「あら、違いましたか?マスターが構わないのでしたら、ルシルフル氏が何をしてもわたくしは動きませんが…」
「いや、違わないから!」

ミスティは意外とちょっとずれている。
考え方は理性的で、どんな時も第三者としての意見を述べる事が可能だが、ぽろっと爆弾発言をしてくれるのだ。

「ハンター試験、頑張ってくださいね、マスター」

にこりっと笑みを向けられて、はトドメを刺された気分になった。
結局なんだかんだと、ミスティには弱いだ。
最近は朧月の記憶も出てくるので、尚更逆らえない。

朧月って、なんでこんなに立場弱かったんだろう…。

それは性格がと同じだからに決まっているだろう。
大切だと思っている存在には弱いものだ。



次の日、はクロロと一緒にザバン市に向かった。
口説くだの言ってから、クロロの態度は別に変わりがなかった。
あの言葉が冗談だったと思えるほどに。
だが、用もなく会う回数が増えたのは変わったといえるだろうか?

「定食屋、ですか」
「ハンター試験だからな。入り口もそうと分かるものばかりじゃないんだろ」

読書大好きなはこの世界の文字もすでに普通に読めるようになっていた。
ザバン市に構える大きいとはいえない定食屋に、あれ?と首を傾げる。
なんとなく嫌な予感がする。
クロロの後をついてそのまま定食屋に入っていく。
いらっしゃい、と声をかけられたが、はきょろきょろしていた。
何の変哲もない定食屋にしか見えない。

「”ステーキ定食”を2人前」
「焼き方は?」
「”弱火でじっくり”」

店員の1人が奥へと促す。
こじんまりとした定食屋だが、奥に部屋があるようだ。
案内されるまま、奥の方へと進むとクロロ。

「それではどうぞ、ごゆっくり」

案内してくれた店員さんは奥の別室の扉をがちゃんっと閉じる。
やけに丈夫そうな扉である。
部屋の中にはステーキ定食がちゃんと2人前準備されている。
がたんっと部屋が揺れると、ぐぃ〜んと下がる浮遊感が体をおそう。

あれ?
ステーキ定食?
弱火でじっくり?
どこかで、聞き覚えがある気がするんだけど…。

「少し時間がかかるか」
「どこまで降りるんでしょう?」
「シャルの話だと地下100階が会場らしいな」
「……シャル?」

一瞬誰のことだか思い浮かばなかったが、すぐに思い当たる。
団員にシャルナークという青年がいた。
あの時以来会ってもいないが、知ってはいる。

「あの金髪の一見人の良さそうな人ですか?」
「多分それだ」
「できれば、もうクロロさんの仲間とか係わり合いになりたくないです」

あの時のことを思い出して、は盛大に顔を顰める。
他の団員は別に構わないかもしれない。
問題はヒソカだ。
あれだけはどうも生理的に受け付ける事ができない。

「皆、気のいい連中ばかりだぞ」
「どこがですか!どこが!あの変態ピエロのどこが気のいい人なんですか?!」
「そんなにヒソカが苦手か?」
「苦手とかそういう問題じゃないです!とにかくあの人は嫌なんです!」

は思わず自分の肌をさする。
思い出すだけで寒気がしそうだ。
クロロはのその反応にくすくす笑う。

チン

がくんっと小さく振動して降下が止まる。
そして扉ががぁっと自動で開いた。
開けた向こうにあったのは広い空間。

「着いたな」
「みたいですね」

そこにいた人数はそれなりにいた。
中に入っていくと番号札を係りの人らしき人に渡された。
が受け取った丸いプレートに書かれた番号は76。

「まだ始まるまで時間がありそうですね」

プレートをつけながらは周囲を見渡す。
どこもかしこもゴツそうな男ばかりだ。
とても強そうには見えないと、同じく凶悪盗賊団団長にはとても見えないクロロはちょっと浮いている。
きょろきょろ見回していただが、ある人物と目がばっちり合う。
その人物が笑みを浮かべながらこちらに向かってくる。

「やっぱり先に来ていたのか」
「遅かったんだね♥」

ぞわりっと嫌な感覚がの体を襲う。
周囲がざわっとしたがそんな事は全然気にならなかった。
とクロロの目の前には独特な格好をした、44番のプレートをつけたヒソカ。

「久しぶりだね♣♦」
「っ?!!」

はばっとクロロの後ろに隠れて、クロロの服の袖をぎゅっと掴む。
正面向いて話すのも嫌らしい。
ヒソカもかなり嫌われたものだ。

いやーー!
なんで、なんでヒソカなんかがここにいるのー?!