ヴァールの翼 11





古い練成陣の発動。
それは町にそれなりの被害をもたらした。
ロイをはじめとする軍はその調査と復興を行わねばならず、まだこの『ディアクヴァン』へと滞在するらしい。
結局、ここでもの記憶の手がかりは見つからず…といっても元々そんなものはないのだが…はどうしたかといえば。


「いいの…?」

驚いたようにエドを見る
エドは照れたようにそっぽを向いてる。
アルはくすくすと笑っている。

「元はオレのせいだからな。元の場所に戻るまで、もしくはどこかが落ち着いて暮らす場所が見つかるまで面倒はみる」

旅についていかないか?と言われたのだ。
まさか誘われるとは思わなかった。
何も持たない、しかも無一文の自分は何の役にも立たない。
エドはが錬金術を使えることを知らないわけだし。

「でも、エド達旅の途中でしょう?私が一緒じゃ足手まといにならないかな?」
「大丈夫だよ、。僕達はそんな弱くない、を守って旅することくらい平気だよ。ね、兄さん」
「仕方ないだろ?こんなところに置いていくわけにもいかねぇし」

不満はあるが、という姿勢を見せるが、実のところエドはそんな不満はない。
少しの間だったが、と一緒にいたのが苦痛ではなかったのだろう。
むしろ、一緒にいてよかったと思えたのか。

「ずっと、じゃねぇぞ!が帰る時か、ちゃんと住む場所が決まるまでだからな!」

念を押すように言うエド。
照れているのか少し顔が赤い。
は思わずくすくすっと笑みをこぼす。

「うん、ありがとう、エド。アルもありがとう」

正直どうしようかと思っていたのだ。
エド達においていかれたら、ロイにでも頼って軍で仕事を紹介してもらうなりなんなりするつもりでもあった。
それでも、やっぱり不安がある。
エド達と一緒にいられるほうが、嬉しいしほっとする。

「ねぇ、それじゃあ、錬金術を教えてよ!あと護身術も少し!」
「は?何でだ?」
「だっていざという時、何もできないのは嫌だもの」
「別にそんな時はこねぇよ」
「そうそう、兄さんと僕がを守るからね」

守ってくれるのは嬉しい。
でも何もできないのは、は嫌だ。

「それでも、エドとアルの実力を疑ってるわけじゃないけど、やっぱりできそうなことはやっておきたいの」

真理を見て得たこの練成方法はあまり使いたくない。
これを得た代償は大きすぎるものだから。
エド達とは違って、決して自分の何かを失って得たものではないから。
彼らの前では使いたくない。

「分ったよ。アルに教われ」
「ええ?僕?!」
「誰かに教えるってのはオレは苦手だ。アルの方が教えるのは上手い」
「兄さんがそう言うなら…」

確かに性格的にアルの方が教師役に向いているだろう。
なにしろエドは短気だ。
辛抱強く教えるタイプではない。

「それじゃあ、アル、よろしくね」
「うん、こちらこそよろしく、

にこっと微笑むに対して、アルも笑みを向けてくれたような気がした。

この先、彼らに待っているのは辛いこともある。
もしその場にいてあげることができるならば、少しでも…ほんの少しでも彼らの心の安らぎになれる存在になりたい。





昔々、女神レインと神ヴァンがいました。

彼らに一人の娘が誕生します。

その名をヴァール。

その女神ヴァールには神々にあるはずの翼がなく、それゆえ下界に落とされてしまいます。

下界へと落とされたヴァールは、全てを憎み…そして全てを壊してしまおうと暴れました。

そんな時、一人の錬金術師がヴァールに翼を与えました。

翼を与えられたヴァールは今までの行いを恥じて、下界を守っていこうと決めます。

与えられた翼と共に自らを翼へと変え…下界の大地へとけ込みました。

それ以降、ヴァールは大地と共に下界を見守り、そして助けます。

下界の人々はそのヴァールが降らせた翼を…『ヴァールの翼』と呼びました。

『ヴァールの翼』…それは大地を守るヴァールの女神そのもの。

人々は女神ヴァールの守りに感謝をささげ、ヴァールをあがめるようになりました。





白い空間の中、人のカタチをしたソレは笑みを浮かべた。
果たしてそれが笑みなのか…カタチはあっても表情がないので断定はできない。

「等価は果たされた。さぁ…、次はどうする?」

全てを知る真理。

「せいぜい面白く引っかきまわしてくれよな」

くくくっと楽しそうに笑うソレは、何かに期待しているのかそれとも興味半分なのか。
世界の全て何かを対価として成り立っている。
の等価は果たされた。
次に何かを望むならば、その対価となるものを差し出さねばならない。
世界にとってはイレギュラーな存在である
彼女がこの先どういう影響を及ぼすのか…、それは誰も知らない。