黄金の監視者 30



は果物を抱えて海岸へと戻ろうとしていた。
本当ならば魚とか肉が欲しい所だが、火を熾すのは少し危険だろう。
スザクが気づきかねない。

(シュナイゼル兄上が来てる)

ロイドがあの浮遊艦に合流していたならば、の事はもうシュナイゼルの耳に入ってしまっているだろう。
ここから脱出する方法も大切だが、脱出できたらできたでその後のことも問題だ。

(ミレイさんに事情を話して、アッシュフォード学園とはお別れしないとな)

はぁと大きなため息をつく
ルルーシュとナナリーの事情を知っていてなお、2人を守ろうとしてくれるミレイにならばも事情を話すことができる。
何か対策もしてくれるだろう。
そろそろ日も暮れてくる。

(ナナリーにあまり会うことができなくなるのは寂しいな)

そんなことを思いながら、は海岸へと戻る。
海岸にはユーフェミアとルルーシュが向かい合って座っていた。

「義兄上、ユーフェミア殿下」

の声に気づき顔を上げる2人。
ユーフェミアは嬉しそうだったが、ルルーシュはどこか複雑そうな表情だ。
ふと目をやれば、2人間には果物がいくつか置かれている。
自分達でも採りに行ったのだろうか。

「果物採ってきたの?」
「ユフィがな」
「ユーフェミア殿下が?ま、いいけど。果物だけなのは寂しいけど、僕も採ってきたから」

は色々な種類の果物を置く。
食べられそうなものを片っ端からとってきたのだが、種類はかなり豊富である。
わっとユーフェミアが嬉しそうに笑顔になる。

「義兄上?何かあったの?」
「何もない」

不機嫌そうにも見えるルルーシュの様子には首を傾げる。
ユーフェミアがそれをみてくすくすっと笑う。

「今の季節、夜はあまり冷えないのがなによりだね」

日が落ちてきても、そんなに気温は下がらない。
これが冬だったらこの場で寝ることすら難しいだろう。
この島は比較的南に位置するからか、暖かい。

「あの、
「はい、何ですか?」

果物を口の中に放り込みながら、ユーフェミアに答える

「もっと砕けた話し方をしましょう」
「は…?」
ともっと話がしたいの」
「は、はあ…。でも、別にそれに言葉遣いはあまり関係ないんじゃ…」
「あります!他人行儀な言葉では、話していても嬉しくないでしょう?」
「そう、でしょうか?」

は困ったようにルルーシュを見るが、ルルーシュはふっと笑みを浮かべるだけで特に助けてくれる様子はない。
がユーフェミアに対してこういう言葉遣いをするのは、あまり親しくないということもあるのだが、理由もあるにはあるのだ。

「あの、ユーフェミア殿下…」
「ユフィです」
「…ユーフェミア殿下?」
「ユフィって呼んで、
「あ、え…えっと…」

ルルーシュはくくっと笑っている。
笑っていないでちょっと助けて欲しいとは思う。

「あ、あのね、ユフィ」
「はい!」

嬉しそうに返事をするユーフェミアにものすごく複雑になる

「………僕が君に丁寧語使ってたのは一応理由があってね」
「理由?」
「まぁ、ブリタニアに戻る気がないから別にもうその理由もどうでもよくなったからいいんだけどさ」

今の言葉遣いは癖のようなものだろう。
昔の知り合いに会えば、はきっと昔と同じように話す。

「僕は義兄上みたいに切り替えが出来ない性格だから」
「切り替え?」
「そう。だから、誰の前でも文句言われないように話し方はいつも統一していただけなの」
「それは誰かがの話し方に文句を言うってことだったの?」
「えっと、まぁ…」

誰がそんなことをっとユーフェミアは怒る。
そう怒られると事情をますます話しにくくなってしまう。
文句というよりも、嫌味を言われるくらいで済むくらいだっただろうから、大したことではなかったのだが、面倒ごとは嫌いだったは一番簡単な方法を選んだだけだ。

「すごく言いにくいんだけどね、ユフィ。コーネリア殿下はユフィに近づく相手は例え皇族でもチェックが厳しいんだよ」
「お姉様?どうしてここでお姉様が出てくるの?」
「そのコーネリア殿下に何か言われないために、ユフィに対する言葉遣いに気をつけていたんだろう?

ルルーシュがどこか楽しそうに口を挟む。
は頷いて肯定する。

「コーネリア殿下とは色々…なんというか接する機会が結構多くて」

正確にはブリタニア軍人と手合わせをしていたということもあって、コーネリアと会う機会が多かったのだ。
師匠が元軍人ということで、正規の軍人とも何度か手合わせをした。
皇族の中で、ナナリーとルルーシュの次に接する機会が多かったのはコーネリアではないだろうか。

「今はコーネリア殿下と会う機会もないから、いいって言えばいいんだけどね」

黒の騎士団に属してしまっているは、コーネリアとは敵同士だ。
戦場で合間見えることは会っても、話をする機会など殆どないだろう。
ユーフェミアもそれに気づいたのか、の黒の騎士団の服に目をやる。

「ユフィ」

ブリタニアの第三皇女殿下であり、このエリア11の副総督であるユーフェミア。
今のには敵となる存在。

「僕は別にブリタニアも皇子皇女殿下達もどうでもいいんだ」
?」

は手にしている刀をかちんっと鳴らす。

「でも、僕の邪魔になるなら殺す覚悟はある。それは君にだって言えることなんだよ」

ユーフェミアが悲しそうな感情を浮かべる。
今のブリタニアの体制そのものがにとっては邪魔なのだ。
そのブリタニアの体制を維持し続ける者は、いずれにって邪魔な存在となる。

「ユフィは優しいから、ナナリーと義兄上の事を考えてくれている人だから、僕は君を敵だとあまり思いたくないよ」

きっとルルーシュも同じ気持ちだろう。
ナナリーとルルーシュ、2人が楽しそうにユーフェミアと遊んでいた光景をはよく”視て”いた。

「義兄上の邪魔をするようなことはしないで。皇族の特権を使って義兄上とナナリーを振り回すようなことはしないで」

言外にゼロの邪魔をするなと言っている事に、ユーフェミアは気づいているだろうか。
のその言葉に嘘はない。
ユーフェミアがルルーシュとナナリーにとって危険なことをしでかそうとするのならば、どんな手を使ってもは彼女を消す。
実兄もユーフェミアも、にとってはその程度の存在に過ぎないのだから。

「もし、私がルルーシュの邪魔をしたらどうするのですか?」

ユーフェミアは動揺せずに静かにへと問う。

「勿論」

は小さく笑みを浮かべる。
その雰囲気はどこまでも鋭く冷たい。

「義兄上がどんなに止めても…、斬るよ」

自分の手で、その命を刈り取ったと実感できるように刀で斬る。
それが精一杯の譲歩だ。
昨日まで笑い合っていた相手を斬る。
にはそういう残酷なことも出来るのだ。
そういう所は、不本意だがシュナイゼルに似ているとは自分でそう思う。
目的の為にどこまでも冷酷なれるところ。



ルルーシュがの名を呼ぶと、の雰囲気はふっと柔らかいものへと変わる。

「うん、ごめん、義兄上。でも、言える時に言っておきたかったから」

ユーフェミアが無謀な行動に出ないための牽制でもある。
権力はあるが今まで政治に関わることがなかったユーフェミア。
これからどうするかは分からない。

、お前はそういうところがシュナイゼルに似ているな」
「えー、それすごく嫌なんだけど」

実兄に似ていると言われても全然嬉しくない。

「ただでさえ顔が似てきてるのに…、性格まで似てるなんて最悪だよ」
「性格は全然似てないよ。シュナイゼルはお前ほど単純じゃない」
「義兄上、それって僕が単純って事?」
「そう聞こえなかったか?」
「ひ、酷い…!」

ルルーシュはいつもに対してすばらしいほどにきっぱりものを言う。
それはそれでは構わないのだが、たまには優しい言葉も欲しいものだ。
ユーフェミアがくすくすっと笑い出す。

とルルーシュはとても仲がいいのね」
「不本意だけどね」
「え?義兄上、不本意なの?!」

がーんっとショックを受けたようなリアクションをする

、私とも仲良くしてくれる?」

にこりっとユーフェミアが笑みを浮かべる。
はそれに笑みで返す。

「うん」

(君が僕の障害とならないかぎりは)

内心そう付け加える。
にとってユーフェミアは一番になり得ない。
だから、一番の存在の害にならない限りはという条件がどうしてもつく。

「でも、コーネリア殿下にはナイショでね」
「お姉様には内緒なの?」
「だって、怖いもん」

ユーフェミアに対しては過保護ともいえるほどのコーネリア。
どういう友人を選ぼうがユーフェミア自身が決めたことならば何も言わないだろうが、がコーネリアをちょっと苦手としているだけだ。
ユーフェミアとは顔を見合わせて互いに笑う。

今この時だけは、まるで昔に戻ったかのように、ルルーシュとユーフェミアは笑い合う。
そして昔は一緒に遊ぶことがなかったがそこに加わる。
優しく暖かな、それでいて脆い時間。
はこの限りある時間を、純粋に楽しいと思っていた。
今はこの時間を楽しんでいて、きっといいのだと思えたから。