黄金の監視者 19



はアッシュフォード学園にいる時間が減ってきた。
しかし、ナナリーに会う為にアッシュフォード学園に行くことがなくなったわけではない。
それでも黒の騎士団へと出入りすることのほうが多くなったのは事実だ。

「どうしたの?君」

成田連山の事件に参加して以来というべきか、は一気にここになじめた気がする。
特に一緒に行動していた隊のリーダー的存在だった井上という女性は、を気にかけてくれるようになっていた。

「気に入っていた日本刀、折れちゃったんでどうしようかなって」
「あの時のものね」

の目の前には綺麗にぱっきり折れた日本刀。
これまで愛用してきたものだけに、使えなくなったのはちょっと寂しい。

「井上さん、どうしたの?」
「カレン」

立ち止まっている井上にカレンが気づいてこちらに向かってくる。

「何?がどうかしたの?」
「成田連山で今まで使ってた日本刀が折れちゃったみたいなのよ」
「日本刀ぅ?!あんた、そんなもの使ってたの?」
「だって使いやすいんだもん」

片刃の剣というのはブリタニアにはなかった。
片刃だと、斬らずに倒さなければならない時などとても便利で、としてはとても気に入っていたのだ。

「別に普通に銃でいいじゃない」
「銃はちょっと苦手なの」
「苦手って…命中力がないとか?」
君、銃の扱いも上手だったわよ」

一通りの武器は使うことができる。

「銃は弾がなくなったら終わりだから、あんまり好きじゃない」
「刀だって似たようなものじゃない」
「そうだけど…、いい刀はそんなことないみたいだし」

呆れているようなカレンに、は譲らない。
確かに銃の方が持ち運びも便利だし、殺傷能力で言えば刀より優れているかもしれない。
なにより銃は遠方よりの攻撃が可能だ。

「刀がどうかしたのか?」

その声にはばっと顔を上げる。

「ゼロ」

その名を呼んだのはカレンだ。
ゼロはの目の前にある真っ二つに折れている刀を見る。
ここまで綺麗に折れているとなると修復は専門の者でもできるかどうか。

「見事に割れているな。何をした?」
「別に硬いものを斬ったわけじゃないんだけど…、この間の成田連山で駄目になっちゃった」

はぁと大きなため息をつく

「武器が欲しいのならば…」
「くれるの?!」

ぱっと顔を輝かせてゼロを見る。
自分で買うにしても出費がかなり厳しい。
生活費を稼ぐことも大変なは、ブリタニア軍から色々かっぱらっている身だ。
それなのに質の良い日本刀など自分で買うこともできない。

「ゼロ、カレンと同じとまではいかなくても君にもナイトメアを与えてもいんじゃないかしら?」

井上の言葉に驚いたのは自身だ。

「随分と買っているんだな」
「あれだけの腕をみちゃうと、勿体無いってゼロも思うわよ」
「ほぉ」

ゼロの視線がのほうを向いた気がした。
戦場でのは確かにすごいものがあるだろう。

「ナイトメアの操縦経験はあるか?」

はちょっと考えてから首を横に振る。
全くない、わけではないのだが、戦闘で乗ったことは一度もない。
だから、この場合操縦経験がないと答えるのが正しいだろう。

「シュミレーションは昔ちょこっとだけ。しかも、旧式のものだったから今のについていけるかどうかは分からない」
「旧式か…」

今使われているブリタニアのナイトメアは、日本に攻め入った頃のものとは開発され大分変わってきている。
が知っているのは恐らく初期のナイトメアだけだ。
それも実践に投入される前のテスト機。

「旧式ものって、、あんたそれいつの話?」

カレンが疑問に思ったのが口を挟む。

「8年くらい前。兄のね、知り合いがそういうの好きでシュミレーションやらせてもらったことがあったんだ」
「8年前って…」
「僕が8歳の頃だよ、カレンさん」
「8歳でナイトメアのシュミレーションって、どんな家庭よ?」
「だから兄の知り合いがそういうの好きだったんだってば。あの時は遊びの延長みたいな感じだったけど、今はどうだろうね」

の兄、シュナイゼルと親しくしていたロイド・アスプルンド伯爵。
が覚えているロイドは、あの兄と対等に接していた姿。
そしてとても変わっている考え方と態度。
次に”視た”のは先日の白いナイトメア、ランスロットのすぐそばで。
まさか、このエリア11でその姿を見るとは思ってもいなかった。

「兄ってルルーシュ?」
「違うよ、ルルーシュ義兄上じゃなくて、僕の実兄。血のつながりがある兄の方」
「お兄さんいるの?!」
「うん、いるよ。もうずっと会ってないけどね」

多分この先も、会う機会というのは殆どないだろう。
そう思って8年前に別れてきた。
そしていつかシュナイゼルを撃つ側に自分がまわるかもしれないだろうとも思っていた。

「あんまり好きじゃなさそうね」
「そんなことないけど…、年が離れて過ぎてるからかな?」

あまり兄弟らしい会話というものをした覚えがない。

「その旧式のナイトメアのシュミレーションは、兄上が面白がってやらせてくれただけだったから、実際はちゃんとしたシュミレーションもやってないんだけどね」

あの当時のロイドが作ったシュミレーションをやっただけだ。
しかし、それが正式な軍用でなくてもあの時のロイドはそれなりの腕を持っていたはずだ。
正式なシュミレーションをやったのと同等くらいのものではあったはずだ。

「ナイトメアの操縦はそう難しくない。一度やってみろ」
「へ?」

は思わずゼロを見る。

「刀は少し待っていろ」
「え?あ、うん。ゼロ?」
「珍しいものなんだろう?」

素直に頷く
日本刀など、ここがまだ日本と呼ばれていた頃ですら珍しいものではあったはずだ。
量産されていたものは手に入るだろうが、が欲しいのは一級品である。
そんなものが今でも残っているか分からない。

「探してくれるの?」
「見つかるとは断言できないがな」

ゼロはそう言い放ち、その場を立ち去る。
刀もどうにかしてくれるのだろうか。
自分でどうにかするのが難しい以上、探してくれるのはとても嬉しい。
しかし、ナイトメアに乗ってみろと言われるのはかなり意外だった。

君、ゼロにも気に入られたのかしら?」
「ブリタニア人なのに?!」
「だって、ゼロって人種関係なく実力主義者っぽいもの」
「確かにそうだけど…」

カレンはじろっとを睨むように見る。
はゼロが去っていった方を見ていた。

(ゼロとして、僕を認めてくれたって思っていいのかな?)

ブリタニア人であるを受け入れてくれる黒の騎士団の団員は今は増えてきているものの、全てではない。

「期待されてるなら、期待に応えなきゃね」

ゼロの考えていることがになど分かるはずもない。
期待をしてナイトメアをに預けてくれるのならば、それに応えなければならない。
そうすることで、ここでの自分の存在を確立する。

「黒の騎士団もいいけど、成績の方も期待に応えてあげたら?」
「何?君って成績悪いの?」
「う…」

カレンがにやりとしたような笑みを浮かべてくる。
同じ学校に通っているというのはこういう時が困る。
学年が違うとはいえ、の成績は別の意味で目立つ。

「進級ギリギリよね??」
「うう……」
「もうちょっと要領よくやったら?そんな難しいものでもないわよ」
「カレンさんがそう言えるのは、カレンさんが優秀だからだよ!」
「そんなことないわ」

自分が馬鹿だとは思いたくないが、授業をぼろぼろ休んでいるのにトップクラスの成績を維持できているカレンとルルーシュの方がおかしいとは思う。

「ルルーシュがかなり呆れていたわよ、あんたの成績」
「義兄上酷い…」
「軍に属しているスザクだって、授業あまりまともに受けてないのに成績はそれなりよ?」
「え?!うそっ!」
「こんな所で嘘ついてどうするの?」

むむっと唸る
学年が違うので比べても仕方ないが、スザクには負けたと思われたくない。
なによりナナリーに馬鹿だと思われるのは絶対に嫌だ。

「が、がんばる…」

勉強がは嫌いだ。
やろうと思えば、血は優秀なはずなのでできるはずだ。
何しろ兄があれ、義兄であるルルーシュもかなり優秀だ。

「カレン、”スザク”ってまさか…」
「あの枢木スザクよ」
「何でまた」
の好きな子が、スザクのことを気になっているらしいけど」

詳しいことはカレンもよくは知らないだろう。
が一方的にスザクを敵対視しているようにも見えるからだ。
なぜなら、スザクはに比較的友好的だからだろう。
を送っていくという名目で、一緒に帰る所も目撃されているくらいだ。
だってスザクが大嫌いなわけじゃないのだ。
昔少しの間だけ一緒にすごした友人でもあり、手合わせをして自分についてくることができた相手。
でも、やはりナナリーが絡むとなるとそれとこれとは別となってしまうだけである。

(にしても、ロイド・アスプルンドか…)

平和な生活を送っていた。
自分がブリタニアの皇族であったことなど、鏡を見なければ思い出さないほどに。
だが、兄に繋がる人物がこのエリア11にいる。
それが果たして何に繋がるのか、今はまだ分からない。