黄金の監視者 18



今日の黒の騎士団はピクニックだ。
何故ピクニックかといえば、ゼロがそう言ったからだ。
実際は武装して成田連山に向かっているだけなのだが、は何故か扇と一緒にいた。
いつのものように黒髪のウィッグをつけて、サングラスをつけて、黒の騎士団の服を着て副指令のような立場にいる扇に見張られるような形での参加である。
どうも、ブリタニア人ということでまだ疑われているらしい。
ナオトは騎士団本部で待機となっている。
本部を空にすることもできないということもあり、かつてテロ組織のリーダーもやっていたこともあって、留守を任せてあるとかなんとか。
右腕がない者に賭けるほど、ゼロは切羽詰っていないのが本音かもしれないが…。

「成田連山に日本解放戦線の本部があるって本当?」
「そういう情報だな」
「でも、コーネリア皇女殿下の軍がここを攻めるみたいだけど…」
「それを狙っているんだろ、ゼロは」

はサングラスを少しだけずらして、周囲を”視る”。
この力で思い出すのはゼロが何かの”力”を持っているということ。
仮面をかぶっている状態では、全く分からない。
その仮面の奥を”視る”こともできるだろうが、至近距離のものを”視”ようとしたことはないので、視えるかどうかも分からない。

「ブリタニア軍は結構軍をそろえているみたいだけど…」

(あれ?ユーフェミア殿下もいる。あ、そっか、副総督だっけ?)

ユーフェミアがこのエリア11に来たのは、コーネリアについてきたわけではなく、このエリア11の副総督に就任したかららしい。
そのことをは最近知った。

(あとは普通に軍人と…あれ?あれはなんだろ?)

孤立するようにあったものには目を留める。
そこにいるのは少し軍人と違う感じで、しかし、その中に見覚えのある人物を見つける。

(ロイド・アスプルンド?!)

の実兄であるシュナイゼルと親しかった伯爵がいた。
それがロイド・アスプルンド。
何度か顔を合わせることもあったし、独特の雰囲気と考え方だったので記憶に残っている。

「白い…ナイトメア?」

嬉しそうな表情で白いナイトメアを見ているロイドが”視え”る。

「そうだな、今回はあの白いナイトメアがいないといいな」

すぐ横で聞こえた扇の声にははっと視界を切り替える。
今回は、ということは先ほど見えた白いナイトメアは何度か黒の騎士団と交戦しているということか。

「カナメさんは白いナイトメアのことを知ってるの?」
「ああ。シンジュクではあいつに痛い目をみさせられたよ。たった一機なのにかなりの機動力を持つ」
「じゃあ、新型機とかなのかな?」
「そこまでは知らないが、出てくると厄介だな」

コーネリア直属の部隊に入っているのならば、こんな離れたところにいるはずがない。
ならばあれは別系というの部隊になるのか。
それにしてもロイドがいるということは、厄介かもしれない。
夢見がちな科学者だが、その手の発想や開発にかけては天才的だとシュナイゼルが言っていたのを覚えている。

(乗る人間がたいしたことさえなければ、いくら性能が良くてもなんとか……)

そのまま白のナイトメアがある方を”視て”いたは、思わずそのままぴたりっと動きを止める。
動作確認でもしているのか分からないが、パイロットがいるはずの所にいたのはとても見覚えがある姿だったからだ。
確かに軍に所属しているとは言っていた。
だが、スザクは名誉ブリタニア人であり軍ではナンバーズとして区別され、ナイトメアに乗ることなどないと思っていた。
ブリタニア軍内では、ナンバーズと生粋のブリタニア人との隔たりは大きい。
名誉ブリタニア人になってもナンバーズである彼らが出世することは出来ないようになってしまっているのだ。

(なんというか、また意外なところで意外な人を見たなぁ…。スザク、か)

「君はブリタニア人なのに、どうしてブリタニアと敵対することに平気なんだ?」
「へ?」

急に向けられた話題にはきょとんっとなる。

「だって、僕にとって大切なのはブリタニアじゃなくて、守りたい人個人だから」
「その守りたい人はブリタニアにいるんじゃないのか?」
「いたらブリタニアに敵対なんてしてないよ」

ナナリーもルルーシュもブリタニアから隠れるように住んでいる。
ブリタニアに見つかることで今の小さな優しい生活が壊れてしまうからだ。

「大切な人ってのは家族か何かか?」
「ううん。一応血のつながりはあって家族じゃないけど、とっても大切な人たち」

はナナリーが大好きなのだが、やはり異母兄妹であることには変わりない。
父が同じで母が違う義妹。

「じゃあ、家族はブリタニアにいるのか?」
「そうだね、多分父も母も、兄もブリタニア本国のほうにいると思うよ」
「兄?兄がいるのか?」
「うん」

最後に会ったのは8年くらい前になるだろうか。
たまに噂は聞くし、何かあればニュースに出てくることもある実の兄、シュナイゼル・エル・ブリタニア皇子殿下。
そして、自分の顔はそのシュナイゼルにとてもよく似てしまっている。

「家族よりもその大切な人たちってのは大切なんだな」
「うん、すごく大切」

に心をくれたのはナナリー。
その心を育ててくれたのは、ナナリーと一緒にいたルルーシュでもある。
だからはナナリーが一番大切でその次がルルーシュなのだ。

「幸せな世界ができるといいな」
「…うん」

その為に黒の騎士団にいるのだ。
ルルーシュが作るだろう世界でならば、きっとナナリーは幸せでいられるだろうから。
綱渡りのような危ないことをしようとしているルルーシュを、知っていながら遠くで眺めているだけなどできないから。



成田連山の山頂に近い場所に黒の騎士団は集まっていた。
しかし、そこで問題が起こっている。
コーネリアのブリタニア軍は動いた。
もう戻る道はない。
だが、あのブリタニア軍勢を見て、ゼロ以外の者達の殆どは萎縮してしまう。
無理だと叫ぶ団員達、は静かにそれを眺める。

(ま、確かにこの今の黒の騎士団の戦力で、真正面から対決すれば無理だろうけど…)

やり方によっては、なんとかなるかもしれない。
数だけが戦力ではないのだ。
萎縮する彼らにゼロの声が響く。

「この私抜きで勝てると思うのならば、誰でもいい。私を撃て」

持っている銃口を自分へと向け、撃つものがあるならばその銃を取れということなのだろう。
一斉に驚き固まる者たち。

「黒の騎士団に参加したからには選択肢は2つしかない」

静かに響くゼロの声。

「私と生きるか、私と死ぬかだ」

命をかけろと言われて、そう簡単に命をかけられる人間が果たしてどれだけいるだろうか。
元はただのテロ組織だった人間だ。
静かに時が過ぎる。
だが、そう悠長に待っている時間もそうない。
ゼロの覚悟を感じたのか、折れたのは団員のほうだった。
リーダーになったのはゼロだ、だから皆ゼロに従うのみ。

「感謝する」

その声を、はどこか遠くで聞いていた。
に迷いなどない。
ただ、ゼロに言われるまま動くだけだ。
目線はどうしても気になる白のナイトメアフレーム”ランスロット”がいる所にある。
にはナイトメアを与えられていない。
迷いがないようなゼロの言葉。

(義兄上、義兄上は知っていてここにいる…んだよね)

自身は別にスザクのことはどうでもいい。
むしろルルーシュが分かっていてスザクに敵対しているのならば都合がいい。
スザクはにとって気に入らない存在だからだ。

「黒の騎士団、総員出撃準備!」

その声にはっとなる
が持つのは刀とライフルだ。
作戦内容が大雑把にだが、ゼロから伝えられる。
ナイトメアに乗るもの、ライフルを持って低位置につくもの。
ナイトメアの中にも特別とも思われる1体、赤いナイトメアがある。
それにはカレンが乗っている。
カレンの乗るナイトメアによって、山頂より水蒸気爆発が意図的に起こされる。
ずずっと大地が震え、土砂が流れ出ていく。
それを眺めながら、は自分に与えられた役目をこなすのみだ。
自分の役目はゼロの背後を守ること。

(巻き込まれる街…か)

どんなものが”視”えても、ナナリーとルルーシュに関わりがなければの心は揺らがない。
はライフルで黙々とブリタニアの戦車を壊していく。
しかし、銃弾はこちらにも向かってくるわけで、負傷する団員もいる。

「負傷者は下がって」

は負傷した団員の傷を見て、止血できるものはする。
自分の怪我に多少パニック状態になっている人もいる。

「貴方勝手に…!」

のいる隊のリーダーにあたる井上という女性が勝手に団員に指示を出しているをたしなめる。

「負傷者は足手まとい。捨て駒にするならともかく、今後も必要なら下がらせるべきだよ。その分は僕がなんとかする」
「貴方1人で5人分の戦力にでもなるつもりなの?」

はにこっと笑みを浮かべる。
近くの団員を見ては指示を出す。

「狙うなら戦車の足を狙って!装甲狙っても意味がないよ!」
「は?え?!」
「いいから!」
「あ、ああ!」

どんっという音と共に戦車が少しだけ浮く。
はライフルを構え、上ってくる戦車へ土砂をかぶせるよう為に横の土壁へと打ち込む。
戦車の進むスピードと土壁の崩れるタイミングをざっと計算して撃つ。
直接狙うだけが攻撃ではない。
自然という武器があるのだから、それを利用しない手はない。
傾いていた戦車は土壁の崩れる勢いでひっくりかえって埋まっていく。

「伏せて!」

声と同時に近くにいた団員の頭を下げさせる。
頭上を通過していく弾丸。
どんっと木々をなぎ倒していく。

「ちっ!」

ブリタニア軍の戦力はナイトメアだけでも戦車だけでもない。
訓練している軍人と、素人の集まりだった元テロ集団ではやはり経験差がでてしまう。
は弾の切れたライフルを敵のブリタニア軍人めがけて投げつける。

「よし!ヒット!」
「坊主!銃は投げるもんじゃねぇぞ!」
「わかってるよ!」

かちんっと日本刀を手に、は駆け出す。

「待ちなさい、どこへ…?!」

井上がを静止するがそんな言葉には耳を貸さない。
連射してくるブリタニア軍人の銃弾をすべて避け、刀に手をかけ、きんっと斬っていく。

(まず1人)

刀はそう連続で人を斬る事はできない。
次は大地をばねに蹴りで相手の首の骨を砕く。

(2人目)

何人のブリタニア軍人がいたかを頭の中に思い浮かべる。
倒れたブリタニア軍人が持っていたライフルで3人目、そして次は斬る。
団員達は自分の身を守りながら、の様子を呆然と見ている。

(これで最後!)

ぱきんっ!

「へ?」

刀を振りぬいた瞬間、刀が折れる音が聞こえた。
斬ると動じに刀が綺麗に真っ二つに折れる。

「ええ?!折れちゃった?!」

そんなに力を入れすぎただろうかとは思ってしまう。
大丈夫だと思うギリギリまで使って、その後はちゃんと磨いで使うようにしていたのだ。
日本刀は手に入りにくいから。

君!」

井上の声で、ははっとなり刀を回収して彼女の元に戻る。

「ごめんなさい」
「構わないわ。それより撤退よ」
「へ?撤退?」
「ゼロの命令」

は思わずゼロが向かった方向を”視る”。
しかしそこには何もない。
あれ?と思いつつ、周囲に視線をめぐらせると見えたのは白のナイトメアが暴走しているかのような姿。

(ランスロット…、スザク出てたんだ)

だから撤退になったのか。
いや、あのランスロットの様子ではこちらが追い詰められての撤退には見えない。
どうなったのか状況がいまいち良く分からないまま、は井上の後をついていくのだった。
その後、コーネリア軍が撤退したことを知り、黒の騎士団は勝利をつかんだかのような騒ぎになったのだった。