第二の土地06



リーズとサナが調べた方向には特に変わりもなく、森に近づくに連れて草の成長が良かったという事だった。
レイとガイの報告を聞いて、リーズは驚いたようだ。
墓もそうだが、レイが魔法を使おうとしたところを止められたという事。

「ガイとレイが墓を見つけた場所に、村があったという可能性は高いね」

村があった場所ならば、墓があってもおかしくはない。
問題はそれを誰が作ったのかだ。
村があったことは、噂で聞いていただけなので、世間ではそこには村が存在しないことになっている。

「ここの領主が村の存在を知らなかっただけかもしれないが、村があったのは確実だろ」
「犠牲を出した事を知られたくないために、領主がもみ消したか、最初から村がなかったことにされたかって可能性もあるね」
「ここの領主の評判は良くも悪くもなかったはずよ」
「それなら出世欲は人並みにあるけれども、保身が大事って所かな。そういう領主の方がもみ消しをしそうだから困るね」

リーズは大きなため息をつく。
村1つが犠牲になったと、国に知られたら自分が責任を取らされるかもしれない。
責任を取っての失職を恐れたのだろう。
それとも、本当にその村があると誰も知らなかったのか。

「誰も知らなかったという事はありえないわ」
「口をつぐんだ人間が必ずいるね」

それがただの村人であれ、領主であれ、誰も知らなかったという事はないはずである。
世界の中には認識されていない村というのも多数存在する。
その村の存在が認識されていなかったとしても、絶対におかしいとは決め付けることが出来ない。
その村人自体が、外と隔離されることを望んでいることもあるからだ。
それでも、村の存在自体を誰も知らないということは殆どない。

「明日、俺がここの辺りで聞き込みをしてみるよ」

地元のことは地元の人間に聞くのが一番だ。

「サナとガイとレイはもう一度その墓に行ってみてよ。サナとガイがいれば、レイが探査の魔法を使おうとしてもなんとかなるだろう?」
「すみません、私がもう少し周囲の気配を捉えられる感覚があれば…」

先ほどもガイに庇ってもらわなければ、自分は怪我をしていただろう事を思い出し、しゅんっとなる。
短剣を持っていても使えないし、気配も完全に綺麗に消されると全く分からない。
反省したところで、気配を捉えられるようになるわけでもないし、こればっかりは時間が必要なことだ。

「気にしなくていいのよ、レイ。こういう時は剣士の出番。大体、リーズみたいに剣士要らずの魔道士なんてそうそういないわ。リーズと組むと、あたしがやることなくてつまらないくらいよ」

サナは苦笑する。
リーズはレイとは違って、魔道士ながら剣を扱うことが出来る。
それがどの程度の腕なのかは分からないが、サナの言い方だとその辺りに転がっている剣士並の腕はあるのだろう。

「レイの魔法の腕を頼りにして頼んでいるんだよ。恐らく簡単な探査じゃ何もつかめないだろう」
「はい、それは分かっています。ざっと魔力を調べたところ、特に引っかかる所はありませんでしたし」
「魔力を調べたって、レイ、魔法を使おうとしたら攻撃されたんじゃなかったの?」

魔法を使わずにどうやって魔力を調べたのか、とサナは思ったのだろう。

「どうも呪文を唱えようとしたので妨害されたようで、呪文を唱えなければいいと思ったんですね。なので純粋に自分の魔力を広げて探査を…、サナ?」

レイの言葉の途中でサナは額に手を当てて大きなため息をつく。
一般的に魔道士というのは、魔法を使うのに呪文を必要とする。
大魔道士という地位にあるリーズほどの魔道士になれば、簡単な魔法を呪文なしで使うことも可能だろう。
だが、探査の魔法というのは魔力の消費は少ないが繊細な魔法で、呪文なしでは難しいだろうことを、魔法を少し使えるサナは知っている。

「レイって魔道士の中じゃ、剣士の中のガイと同じようなものなんじゃないかしら?」
「確かにそうだね。自分の魔力を広げて探査なんて、そんな器用な真似はそうそうできないよ」

レイは首を傾げる。
魔力のコントロールの一環として、魔力を広げるという方法は随分前から使っていた。
レイにとっては基本的なことではあるが、世間一般での基本は違うようである。
この辺りは魔法の学び方にあるのだろう。

「つまり、規格外って事よ」

サナに規格外認定をされてしまう。
確かに自分は、魔法関係は世間一般の基準より高い基準を普通だと思っているとは分かっているつもりだ。
だが、規格外認定までされてしまうほどではないと思っていた。

「私、規格外でしょうか?」

同じ規格外認定をされていると思われるガイに目を向ける。

「それができない相手から見れば、規格外なんじゃないか?」
「う〜〜ん…」

レイは思わず唸る。
師匠にあたる両親は当たり前のようにやっていたし、もっと綺麗に魔力をコントロールしていたので、自分が規格外である自覚は全くない。
今の自分で規格外なら、両親は規格外どころではなくなってしまうのではないか。
考え込みそうになるがこの際両親のことは置いておくことにする。
あの2人は例外なのだと思っておけばいい。

「とにかく、明日魔法の探査をやってみます」
「頼むよ、レイ」

もっと深く細かくやってみれば、何かがつかめるかもしれない。
今日の所は、魔物が発生した場所に村があったという事が分かっただけだ。
まだ、分からないことは多い。


日が暮れ辺りが真っ暗になった中、レイは外で短剣を振っていた。
一晩短剣を振り続けたところで、何が変わるわけでもないが、何かしていないと時間が無駄に過ぎていってしまう気がしてこうしている。
短剣を振り下ろす動きはぎこちない。

「っ…!」

短剣を振り下ろすのが何度目かという所で、手の平が痛み、レイは動きを止める。
痛みを感じたのは右手の方。
剣を左手のみで持ち右手を広げる。
呪文を唱えずともレイが意識すると、ふわりっと小さな明かりが頭の辺りにぽよぽよっと浮かぶ。
広げられた右手は少しだけ血がにじんでいた。

「これでも巻いてろ」

背後からの突然の声にびくりっとなるレイ。
レイが振り向くと同時に、レイの右手にぱさっとハンカチサイズの布がかぶせられる。

「ガイ?」
「外から気配がすると思って来てみれば……」

ガイのため息が聞こえる。
呆れられてしまったのだろうか。
レイは左手にあった短剣をぱちんっと鞘におさめ、右手にかぶせられた布を何とか右手に巻こうとするが左手だけでは上手くいかない。

「貸してみろ」

布をガイにひょいっと取り上げられてしまう。
ガイは器用にレイの右手に布を巻いていく。
きつくもなくゆるくもなく、右手が動かしやすいように巻いてくれた。

「上手ですね、ガイ」
「剣なんてものを扱ってると、怪我は絶えないからな」

レイは包帯代わりの布が巻かれた自分の右手を見る。
ゆっくり握ってみるても、違和感なく動く。
これならば、杖を握るのにも支障はないだろうと、ほっとする。

「剣は自分のペースにあった方法で上達していくのが一番だ。レイはゆっくりやっていく方がいい。やり方を間違えると腕を潰すことになるぞ」

どこか咎めるようなガイの口調にレイは俯く。
分かってはいるのだ、ここで何時間も剣を振るったとしても何が変わるわけではないことは。
今まで魔法で殆どをどうにかしてきたレイにとって、墓の所であった事が少しショックだった。

「私は…」

レイはぽつりっと話し出す。

「こういう事が初めてで、もしかしたらガイ達の足手まといになってしまうかもしれません」

何か自分の魔法が役に立てればと思って同行に同意した。
禁呪集めにも支障をきたすわけでもないという事が、同行に同意できた大きな理由だ。
でも、レイは簡単な魔物退治で謝礼を受け取ったりしたことはあっても、こうやって何かを調べながらの仕事というのをしたことがなかった。
禁呪を回収する時は、その場には警戒心を持って相応の準備をしているから不意打ちの攻撃があっても平気なようにしてある。
全てが終わった跡地に向かったから、平気なのだという思い込みから、レイは警戒をあまりしていなかった。

「誰にだって初めてというものがある」

確かに誰にだって初めてはあるだろう。
レイが旅を始めた頃は、色々なことが初めてだらけで、知らないことが多かった自分を恥じた。
村を出て数年、学んだことは多い。

「それが必要だと感じたのならば、今から少しずつ覚えていけばいいだろう?今からでも遅くはない」

レイはこくりっと頷く。
剣術は一朝一夕で身につくわけでもないし、気配を捉えられるようになるまではもっと時間がかかるだろう。
今は出来る事をしていけばいいのかもしれない。
自分が油断していたのが原因ならば、次はこんなことがないようにすればいい。

「明日からまた剣をみてやるから、今日は休め」
「はい」

レイは大人しく部屋に戻ろうとする。

「レイ」

だがガイに呼び止められて、ガイの方を見る。
もしかしてここに来たのは何か用でもあったのだろうか。
少し首を傾げてレイはガイを見る。

「足手まといなんかじゃない」
「ガイ?」

ガイはレイを静かに見ている。
嘘をついているような目ではなく、静かにそれを伝えようとしているように見える。

「あまり気を使う必要はない。仲間だと思うなら頼ることも覚えろ」

仲間。
ガイ達をそう言ったのはレイの方だった。
レイは今まで一時期手を組むだけの仲間ならばいたことがあるが、何かの部隊に加わったこともなければ、協力体制をとったことなども少ない。
頼ることに慣れていないといえばそうなのかもしれない。
魔法に関しては自信があったからか、周囲に頼ろうともしていなかったのかもしれない。

「はい、そうします」

信じて、想って、頼って、そして頼られ、信じられ、助ける。
それが仲間というものなのだろう。
お互いにまだ良く知らない間柄だが、レイはガイ達を信用に値する人達だと思っている。
頼るのは悪いことではない。
だが、頼りっぱなしにならないように努力することは大切だ。

(ガイ達に頼られるように、私もガイ達を頼りにしていこう)


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