出会い03



レイと出会った3人だが、彼らはまだそこにいた。
がさがさっとレイが急ぐように走り去っていき、その先を見ていたのはサナともう1人の剣士だ。

「消えた…わね」
「ああ、消えた」

サナの言葉に同意するように答えたのは剣士の青年だ。
黒い髪に黒い瞳。
その瞳には何の感情も移していないかのように冷たい。

「なにが消えたんだい?」

分からなかったのは魔道士の青年。

「気配よ、リーズ。あの子の気配、途中でぷつりっと消えたのよ。…ありえないわ」

人の気配が消える時は死ぬ時か、何らかの要因でそこから消えてしまった時である。
だが人が死ぬ時は、気配の乱れがあるはずだ。
これはそれではない。

「途中で消えた…となると、もしかしたら…」
「分かるの?」
「いや、可能性としてあるだけで、ありえないはずなんだけど…。もし、そうなら放っておけないな」

魔道士の青年、リーズはレイが走っていった方向に歩き出す。
サナもそれに続くように歩く。
剣士の青年はそこから動かないが、2人は気にしていないようだ。

「サナ、このあたりかな?」

少し歩いた何もない場所をリーズは示す。

「ええ、その辺りよ」

サナは頷く。
リーズが聞いたのはレイが消えた場所のことだ。

「ほんの少しだけ残り香がある…かな?辿れるかもしれない」

リーズは虚空より杖を取り出して軽く振る。
すると何もなかったはずの場所からゆらっと歪みが出来る。
時空間の移動を使うと、その場に歪みが出来る。
だが、レイが移動した後の歪みはほんの僅かなものだ。
これほど綺麗な空間移動の後をみる事はめったにないため、リーズは気になっていた。

「あの子を追うことは出来そうだけど…」
「出来そうなら追えばいいんじゃないの?」
「いや、この先がちょっと問題ありそうな場所っぽくてね」

苦笑するリーズ。
僅かに繋がるこの空間の先はレイが転移した場所だ。

「魔力が引っ張られる感覚がするんだ。あんまり転移先に選びたくないような場所かもしれない」

リーズのその感覚は間違っていない。
この先には魔力を吸い取る禁呪があるのだから。
魔道士などがいったら魔力を吸い取られることは間違いないだろう。

「ならば、放っておけばいいだろう」

冷めたような声が響く。
がさりっと草を踏みしめて歩いてくるのは剣士の青年だ。

「そうはいかないよ。俺がファストの”大魔道士”である以上はね」
「下らん地位を維持するためか?」
「俺だってこんな称号いらないよ。でも、一応王家の血筋だから切るに切れない上の爺婆連中が煩いんだよ」
「ならば旅に出る前に、それを返上でも放棄でもなんでもすればよかっただろ」
「そんなにあの国は甘くない。ただでさえ前大魔道士が役目放棄なんてしたからね」

大きなため息をつくリーズ。
大魔道士という称号には義務が付きまとう。
それは、魔法を悪用させないという義務だ。
魔法を悪用している者がいれば、その場で裁く。
そして、許可が必要な魔法を許可なく使用しているものがいれば、必要に応じて処置をする。

「あの子の使ったのは恐らく空間転移魔法。ファストでも俺を含め5人しか使用を許可されていない高位魔法だ」
「だから、どうした」
「俺が知る他の4人の魔道士の中に、あの子はいない。高位魔法をそうひょいひょい使われるわけにはいかないんだよ、ガイ」

使用を制限される魔法があるのは、危険性がある為だ。
実力が伴わない魔道士が、高位の魔法を使えば暴走する。
奇跡的に、偶然にうまくいったとしても次がどうなるか分からない。
だから制限があるのだ。

「悪いけど、ガイがこの先に行ってくれる?」
「なんでオレが…」
「この先は魔力を吸い取るようなものがあるっぽいから、俺は却下。回復魔法を使えるサナも却下。となれば、君しかいないでしょ?」

サナは剣士だが、簡単な回復魔法を使うことが出来る。
それは魔力があるという事。
剣士の青年ガイに魔力がないわけではないが、魔法を使わない為、魔力を吸い取られても特に支障はないだろう。

「じゃ、よろしくね、ガイ」
「おい…!」

リーズはにこりっと笑みを見せて杖を振ると同時に呪文を唱える。
揺らいでいた空間がぐんっと広がり、ぽっかりと穴が開いたようになる。
リーズはそこにガイを無理やり放り込む。

「お前が来る頃には死体がひとつ出来てるかもしれねぇぞ」
「できれば生け捕りでお願いしたいね」
「勝手に願ってろ」

ガイは冷たい笑みを浮かべて空間の中に消えていった。
無理やり押し込んだリーズは、ふぅっと小さく息を吐く。

「ねぇ、リーズ、大丈夫なのかしら?」
「大丈夫だとは思うけどね…」

確実にとは言えない。
サナとリーズの雰囲気は仲間としての雰囲気があるが、ガイだけは別だ。
ただ一緒にいるようにしか見えない。
仲間を仲間とも思わない。
空間転移魔法を使えるレイをそれなりの魔道士であると判断して、大丈夫だと思ったリーズだが、少しだけ不安を感じずにはいられなかった。




結界を張ってどうしようか悩んでいたレイは、禁呪が再び赤く光るのが目に入る。
そして少し離れた場所に空間のゆがみを感じた。

「何か来る…?」

レイは銀の杖を取り出して構える。
ぐにゃりっと歪んだ空間から現われたのは、先ほど見た剣士の青年だった。
青年が現われた瞬間に禁呪が発動する。
彼の魔力を吸い取ろうと風が巻き起こる。

「まずい…!」

レイは呪文を唱えて結界を自分に貼り付けるように縮める。
自分の魔力を与えるわけにはいかない為、結界を解くわけにはいかない。

「それは魔力を吸い取って魔獣を生み出す禁呪です!近づかないで下さい!」

青年はレイの忠告など聞こえなかったように赤く光る石の元に近づく。

(って、人の忠告は無視?!)

赤い石の輝きが増し、石の周りを護るように魔獣が3体現われる。
青年は歩むスピードを変えず、ゆっくりと腰の長剣を抜き放つ。
魔獣が一斉に襲い掛かる。
一体目の魔獣にそのまま斬り付け、二体目の魔獣の攻撃に掠りながらも表情を変えずに斬り付ける。

「ち…!」

舌打ちをする青年だが、それを見て舌打ちしたいのはレイの方である。

(闇雲に突っ込むってことは、魔法に関しては全然の素人だろうね。 全く…いくら剣に自信があったとしても、禁呪相手ってのはやり方があるんだよ!)

レイはだっと走って青年のすぐ側により、ぐいっと青年の腕をつかみ、魔獣の攻撃を止めるように結界を張る。
禁呪の魔力を吸い込む風がやむ。

「邪魔をするな」
「それはこっちの台詞です」

青年はレイに殺気を向けてくるが、レイが見るのは目の前の魔獣達である。

「剣士でも普通の人でも魔力ってのはあるんですよ。不用意に近づかれてはアレに餌を与えるようなもの」
「だったら、貴様にどうにかできると言うのか?魔道士」
「出来なきゃこんなところに来てませんよ」
「オレが来た時は、手も出せないようだったが?」
「方法を考えていただけですよ」

がんっとレイは自分の杖を床に立てる。
杖を中心に結界が広がる。

「大人しくしていてくださいね。魔獣が増えるのはごめんですからね」

びしっと青年の方を指差し釘を刺しておく。
そしてレイは青年の目の前からふっと消えた。
流石にそれには驚く青年。
しかし、次の瞬間、レイは魔獣たちの後ろに出現し、右手を突き出して呪文を唱えていた。
レイの唱えた呪文に集まる魔力に反応して石が輝きだす。

キィィィィン!!

石の光が眩しいほどの輝きになる。
レイは冷静にそれを見て、さらに魔力を込める。

(魔法で壊すのもいいけど、一番楽なのはやっぱりこれ)

ぴしりっ

石にヒビが入る。

ぴしぴしっ……パキンッ!

赤い石は唐突に輝きを止め、粉々に砕けていった。
それと同時に出現していた魔獣たちが砂ように消えていく。
ほっと息を吐くレイだが、がくんっと膝に力がはいらくてぺたりっと座り込んでしまう。

(流石に禁呪に魔力を注ぎ込みすぎたかな?)

魔力を吸い込み魔獣を作り出す禁呪。
レイはそれに魔獣を作り出す隙も与えないほどの魔力を大量に注ぎ込んだ。
いくら禁呪とはいえ、取り込む魔力には限りがあるだろう。
レイの注ぎ込む魔力量のほうが多かったということだ。


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