出会い02



この世界には2つの大国がある。
魔道大国ファスト、剣術大国レストア。

東に位置する魔道大国とも呼ばれるファスト公国。
この世界では王政が主流であり、このファストも例外ではない。
”ファスト”姓を名乗る王族がいて、その血筋は総じて魔力が高い。
魔道学園などという、魔道士専用の学び舎があるほどだ。
ファストの最高職は国王でなく「大魔道士」である。
3年に一度、大魔道士選定試験があり、現役と候補者があつまり様々な試練を乗り越えて決定する。
世界一の魔道士とも言われる称号が「大魔道士」なのである。

ファストより南に位置する剣術大国とも呼ばれるのはレストア帝国。
こちらも王政であるが、それはファストよりも王の力が強い。
この国は魔道よりも剣術が主流であり、多くの剣術大会はこの国で行われ、レストアの王位継承権の条件として、定められた3つの剣術大会で最低1度の優勝となっている。
王族も貴族も男女問わずに剣術に優れている。
しかし、好戦的な国として、敵対する国が多いのが現状である。
現帝王の子が多い為、王位継承権の騒動もかなり複雑なものらしい。


さくさくっと森の中を歩くレイ。
レイは少なからず気配を捉えることはできる。
だが、それは普通の人の気配だけだ。
気配を悟らせないように行動している人達の気配までは捉えられない。
所詮、剣を握ったこともない魔道士なのである。

がさがさっ

草を分け、木々の間を歩く中、少しだけ広いところにでる。
丁度休憩にいいかと思っていたが、先客がいたようだ。
先客は3人。
1人は女、あとの2人は男。
いずれも若い。

「あ、すみません。お邪魔でなければ、私もこちらで一休みさせていただいてもよろしいですか?」

レイの言葉に反応したのは片方の男。
白金のやわらかそうな長い髪に、蒼い瞳の穏やかそうな雰囲気の青年だ。
短剣を装備しているが、格好からすると魔道士なのだろう。

「構わないよ」

にこりっと笑顔で了承する青年。
レイも笑顔を返す。
3人組とは少し離れた場所に腰を下ろし、くるんっと指で円を描く。
その円が光となりふっと透けた地図を浮かび上がらせる。
これはレイが魔法で作り出した地図だ。
禁呪が封じられている候補の場所に光が点滅している。
これは村の噂であったり、魔力を感知したりして印をつけている。

(やっぱりこの近くにひとつあるみたいだ。誰も手をつけてなければいいんだけど…)

「すごいわね。これ、どうやってできてるの?」
「うわっ?!」

すぐ横から声がして思いっきり驚くレイ。
隣を見れば3人組の1人の女、女性剣士がレイの地図を見ていた。
にこりっと彼女はレイに笑みを見せる。

「えっと、これは魔法でして…」
「貴方、魔道士?」
「はい、旅の魔道士でレイと言います」
「レイね。あたしはサナよ、サナ・レストア」

レイは彼女、サナの名前に驚く。
姓を名乗れるのは王家に連なるもののみ。
レストアといえば剣術大国の国名だ。

「レストア国の王家の方、ですか?」
「そうよ、魔物退治に借り出されているの。レストアでは王位継承権持ちは殆どね」

父から魔物討伐隊があるというのは聞いていた。
この3人はその隊のひとつという事なのだろうか。
にしても人数が少なすぎないだろうか。

「大変ですね」
「そうでもないわよ。窮屈な王宮暮らしに比べればずっとまともだわ」

レイはすくっと立ってふっと右手を上げる。
右手にぴったりおさまるかのように大きな銀の杖が現われる。

「レイ?」
「少しだけ手伝いますよ」

にこりっとレイは笑みを浮かべる。
気配は感じなかったが魔力を感じた。
魔力の感知には自信がある。
レイの言葉に前から気づいていたのか、それとも今気づいたのか分からないが、サナと他の2人も戦闘体勢に入る。

「サナは剣士ですか?」
「ええ、そうよ」
「それなら、こちらから来る魔物の相手をお願いできますか?物理攻撃に弱い魔物のようですから」
「貴方は大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、これでも旅を始めてそれなりに年数たちますから」

しゃらんっとレイは杖を振る。
サナは自分の腰にある剣を抜き放つ。
構えるその様はレイが今まで見たどの剣士よりも迫力がある。

『大地と緑、風と光、全ての力の流れを阻むもの…』

ぐわぉぉぉぉぉっ!!

木々の間から魔物たちが一斉に現われる。
数にして十数匹。
ここにいる4人はそれを見て、誰も慌てることがなかった。

『光よ、貫け!!』

レイが杖を突き出すと、杖から閃光が放たれる。
閃光は3つに分かれ、3匹の魔物をどんっと貫く。
男2人がどういう戦い方をしているかは分からないが、感じる魔力が消えていくところを見ると余裕で応戦しているのだろう。
サナも抜き放った剣を繰り出し、レイにはかろうじて見えるスピードで魔物たちを切り倒していく。
全ての魔物を片付けるのにそう時間は掛からなかった。

(魔物がこれだけ多く出るって事は、禁呪の魔力に引き寄せられているってことかな。 人ならともかく魔物の魔力は人以上の場合が多いから、魔物に禁呪を渡すとかなり厄介なことになるし、被害も広がるんだよね。 休んでないで急ぐべき…かな)

「すみません、私は急ぐのでこれで失礼しますね」

挨拶なしで立ち去るのはまずいだろうと思い、レイは3人に軽く会釈する。
サナが何か言いたそうだった気がするが、急ぐレイはそれに気づかずにがさがさっとこの場から走り去る。
草木で彼らの姿が見えなくなったところで、呪文をとなえる。

『我を望む場所へ…転移!』

レイの気配が唐突に消える。
それに気づいたのは剣士であるサナと、もう1人の剣士である男だけだった。



空間転移でレイは目的の禁呪の場所まで一気に飛んだ。
この魔法は世間では制限されている魔法である。
きちんとコントロールができなければとんでもない所に飛ばされてしまうからという理由からだ。
レイは普段あまり使用はしないが、コントロールは出来るので急ぐ時には使用したりしていた。

レイが飛んだ場所は暗い空間。
おそらくどこかの遺跡の地下だと思われる。
奥の方で赤い光が見える。

「なんだろ?」

そちらの方に近づけば、ぐいっと何か引っ張られる感覚。
石の赤い光の輝きが増す。

「やばっ…!」

レイは右手を前にしてとっさに結界を張る。
青白い薄い膜が円になってレイを包み込む。
石の光がおさまるが、こちらをうかがっている様に見える。

(飛ぶんじゃなかった…。これ、魔力を吸い取る禁呪だ)

結界で一時的に自分の魔力を遮断しているが、ずっとこのままというわけにもいかないだろう。
どうしようかな…とレイは小さくため息をつく。
とれる方法がないわけではないので、どうするべきか慌てずに考えることにした。


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