夜のお茶会
過去に飛んでリドルと会って、セウィルと会って…。
また現在のときが始まる。
明日はクィディッチの試合だ。
物語の中でも大きな事件と呼べる事が起こる日。
日も暮れ、殆どの生徒達が眠りにつく中、は談話室でまったりとお茶をしていた。
「何か目が覚めてて寝れない〜」
明日が試合のせいか、今日は早めに就寝した生徒が多いようだ。
まだ時間は11時である。
起きていてもおかしくはない時間帯である。
「夜の散歩でも行ってこようかな…」
禁じられた森へ行ってシリウスの様子を見てくるのもいいだろう。
はフィルチに見つかったとしても逃げる方法がいくらでもある。
つかまらなければ減点も罰則もない。
「それなら僕も一緒に行ってもいいかい?」
後ろから突然の声にびくっと振り向く。
誰も居ないと思っていた談話室から自分以外の声が聞こえればこれは当然の反応だろう。
声の主の姿を見つけて、ほっと息を吐く。
「脅かさないでくださいよ…ジョージ先輩」
「別に驚かそうとは思ってなかったんだけどね」
苦笑するジョージ。
「ジョージ先輩、もう休まなくてもいいんですか?明日は試合でしょう?」
「ちょっと眠れなくてね」
「でも、明日に備えて体を休ませておかないと、万全の体調で試合に臨めませんよ?」
はクィディッチの試合をしたことはないが、ちらっと見た感じかなり体力勝負のスポーツだと思う。
万全の体調でなければ勝てるものも勝てない。
それはジョージもわかっているだろうに。
「うん、最初は談話室に下りてすぐに部屋に戻ろうと思ったんだけど…」
「それならこんなところで僕と話してないで、部屋に戻って休んでください」
「が居たから、話をしたいな〜って思って」
の言葉など聞こえなかったようにジョージはにっこりと笑みを浮かべた。
そのままが座っていたソファーの隣に腰掛ける。
「別に僕の方には話なんて…ありません…けど……」
ありません、とスパッと言い切ろうと思っていたが、ジョージが笑みを浮かべてをまっすぐ見てくるので言いにくくなる。
ジョージもフレッドもそうだが、結構冷たい態度をとっても気にせずにまた声をかけてくる。
めげないのが彼らのいい所なのだろうが、内心ではあまりキツい態度は取りたくないと思っているにとっては苦手な相手以外の何者でもない。
「逃げないでよね、」
「…に、逃げてませんよ」
じりじりっと少しずつの方に体を近づけてくるジョージ。
はそれに合わせる様にジョージからの距離を取る。
「って僕に近づかれるの嫌なんだ?」
ジョージはとの距離を縮めるのやめてじっとを見る。
その表情にからかうようなものは見られない。
嫌いというより苦手なのである。
とハッキリ言えないのだが…。
「秘密を知られるのが怖い?問い詰められるのが嫌なの?」
「両方…ですね」
苦笑する。
「それじゃあ、と二人だけの時は問い詰めたりしないよ。秘密を探ることもしない」
「ジョージ先輩?」
「だから、そう避けないでよ」
ジョージは少し悲しそうに顔を歪める。
右手を伸ばしての頬に触れる。
はそれにあらがう気にはならなかった。
この手を振り払ってしまえばジョージを傷つけてしまうことが分かっていたから。
「がいなくなって…1ヶ月もいなくて…。僕がカナリアの小屋になんか連れて行かなければよかったって、ずっと思ってた」
後悔しているだろうジョージ。
1ヶ月は長い。
過ぎてしまえば短いものだったと言えるかもしれないが、過ごした期間で感じる後悔はつらい。
「後でハリーに聞いた…。が『カナリアの小屋』を探していたのは、マルフォイの父親が原因だって」
「もう、終わったことですよ」
の言葉にジョージは首を横に振る。
「遅かれ早かれ、僕はいずれあの場所にたどり着いたはずです。ジョージ先輩が悪いわけじゃありませんよ。それに僕がいなかった期間、あの時間は決して悪いものじゃなかったから…」
リドルに会えた。
セウィルに会えた。
その出会いはにとって大切なもので、その時が後悔のないものだったと言い切れる。
ルシウスのお陰で、あの時で得た物は大きい。
「……」
「なんです……か?!ちょ、ジョージ先輩?!」
ジョージはの腕を引っ張り自分に引き寄せて、頭をの肩にのせる。
ジョージの腕はにはまわっていない。
は自分がどんな表情をしていたか気づいていただろうか。
とても優しく微笑んでいた事に。
「僕、あの時無理にでもの側に行けばよかった」
「カナリアの小屋の時ですか?」
「…うん」
にとって得られたものが大きかったあの時。
ジョージは悔しかったのだろう。
自分以外の誰かがにそういう表情をさせるのだから。
「僕としては、ジョージ先輩はついてこなくて正解だったと思いますけどね…」
が過ごしたのはスリザリン寮だ。
ロンほどではないにしろ、ジョージもスリザリン寮生を嫌っている。
「どんな状況でも、がいればきっと楽しいよ」
「そんな事ないですよ」
「僕にとってはそうなんだよ」
くすくすっとジョージが笑う。
の肩にジョージの頭が乗っているので、ジョージの息が肩にかかる。
それが少しだけくすぐったい。
そう思ったら、ジョージがふっと顔を上げる。
の顔とジョージの顔が拳ひとつ分だけ離れて向き合う。
「ねぇ、」
「何ですか?」
目と目が真っ直ぐ合う。
なんとなく目を逸らす事が出来なくて、はジョージの目をじっと見る。
「もっと楽しもうよ」
「は…?」
「僕はもっとたくさんと一緒にいて楽しい時間を過ごしたいよ」
「今でも十分じゃないですか」
「全然十分じゃないよ、足りない」
とジョージの接点と言えば寮が同じということくらいで、学年も違うため一緒に遊ぶようなことなど少ないだろう。
談話室で話をしたり、授業のない日に追いかけられたりということはあるが…。
としてはそれで十分だと思っている。
でも、ジョージとしてはそれでは全然足りない。
「だから、。今度デートしようよ」
「…デート…ですか?」
男同士で?
「は元の姿でね」
「いや、それはちょっと無理…」
ちょっとどころじゃなくてかなり無理があると思うんだけど…。
そりゃ、1年の時、誰にも見れらないだろうからって元の姿でホグワーツをうろうろしていた事はあったけれどね。
「大丈夫だよ!ホグズミードまでは隠し通路で行くし、ホグズミードの日なら生徒がいっぱいで誰が誰なんて分からないはずだからさ!」
「ジョージ先輩と一緒にいると目立ちそうなんですけど…」
「そんなことないさ!ホグズミードの日は皆、自分のことに夢中さ」
ホグズミード行きの日は1回や2回だけではない。
そのうちの1回くらいならば、見知らぬ生徒がいたとしても誰も気にしないだろう。
しかも、ホグズミードに行く時期は冬からだ。
厚着をしているなら尚更、いつどこでどんな人がいたのかなどを覚えていられる事などないだろう。
「と一緒にホグズミードへ悪戯グッズを買いに行きたいな」
「悪戯グッズって所がジョージ先輩らしいですね」
「そうかい?お菓子を買って、女の子らしくアクセサリを見てまわった方がはいい?」
「お菓子はともかくアクセサリなんてどうするんですか。僕はつけられませんよ。ジョージ先輩の妹に買うという理由なら一緒に選びますけどね」
「じゃあ、この指輪だけは特別?」
ジョージはぐいっとの右腕をつかんで上げる。
右手の指にはまっている銀の指輪。
「彼女って誰?は女の子だからもらったその”彼女”の事が好きだから…じゃないよね?」
銀の指輪を彼女から譲り受けたようなものだとジョージには言った。
彼女…シアンとはそんな関係じゃない。
は困ったような笑みを浮かべる。
「似たような境遇の人なんですよ」
「似たような…?それって、が何か隠している事のことでってことだね」
問いではなく、確認するように言うジョージ。
やはり鋭い。
「…って、追求はしないって言ったばっかりなのに、ごめん」
少しだけほっとする。
しないと言った以上、本当に追求してこないつもりらしい。
隠し事に対して追求されるのはやっぱり疲れるものである。
「ジョージ先輩」
「ん?」
言ったことを守ってくれるなら少しくらいはいいかもしれない。
「僕にはやることがあるし、時間が取れるかどうか分かりませんけど…時間が取れればいいですよ」
「…?」
「ですから、ホグズミード行き。時間が取れれば行きましょう」
お菓子を買ってもいい、悪戯グッズを見てまわってもいい。
たまにはそうやって楽しみたい時もにだってある。
「本当かい?!」
「時間が取れれば、ですよ?」
「分かっているさ!」
予想以上に喜ぶジョージに苦笑する。
ここまで喜ぶとは思わなかった。
としては軽い気持ちで許可をしたのだが、ジョージにしてみれば好きな子とデートができると言う事である。
これだけ喜ぶのも当たり前だろう。
「と一緒なら、ゾンコの悪戯専門店には是非行きたいね」
「そこに行って僕に何を買わせるつもりなんですか。あ、でも…」
悪戯グッズとは言え、馬鹿にはできないだろうし。
いざと言うとき何かに役に立つかな。
「買っておいて損がないもの教えるよ!」
「そうですね。その手のものはジョージ先輩詳しそうですからお願いしますね」
闇の魔法関係の珍しい薬草や道具などの知識はある。
それで生活しているようなものだから。
だが、悪戯グッズに関しては名前を少し知っているくらいだ。
「やっぱり、と一緒だと嬉しいよ」
ジョージはにこにこしながらを見る。
「普通の女の子だと、抜け道使って行くとかゾンコに行くなんて言えば嫌がるだろうしね」
「普通は嫌がるでしょうね」
「でも、は嫌がらない」
嫌がらないというよりも興味がないわけではない、というのが正しい。
ずっと魔法なしで過ごしてきていたとしては、魔法界にある物は未だに新鮮だと感じるものが多い。
悪戯グッズなど特にそうだ。
「だから、が好きだよ」
笑顔でさらっと当たり前のように言うジョージ。
は自分の顔が赤くなるのが分かった。
どうしてこういう台詞がさらっと言えてしまうのだろう。
「、顔赤いよ?」
「………に、日本人はそういうストレートな告白に慣れていないんです」
「ふ〜ん、勿体無いね」
そうは言われても、それが当たり前として育ってきたのだから仕方ないだろう。
正面きって好きだと言われれば照れる。
「好きだって気持ちは言いたい時に言って、伝えたいと時にいっぱい伝えないと勿体無いよ」
言わなければ伝わらない気持ちもある。
伝えたい時に言葉にしなければ伝わらなくなってしまう事もある。
「それは分かっているんですけどね…」
言葉にしない方がいい想いもあるだろう。
好意を向けられるのはやっぱり嬉しい。
でも同じ想いを返す事は出来ない。
「ジョージ先輩」
「何だい?」
「僕はジョージ先輩の想いを同じだけ返す事は出来ませんよ?」
きっと受け入れる事は出来ない。
自分はいつかはいなくなってしまう人だから。
闇とも光ともいえない存在だから。
何よりも、ジョージもハリーと同じで、にとっては守るべき人に入るから。
「先のことなんて分からないよ、。人の気持ちは尚更ね」
だから諦めないよ。
人の気持ちは変わっていくものだから…。
「とりあえずは、明日の試合を頑張るから応援して欲しいかな?」
グリフィンドール対ハッフルパフの試合。
「応援はしますよ。一応僕はグリフィンドール生ですからね」
「間違ってもハッフルパフなんて応援しないでよ?」
「しませんって」
「そうかい?、セドリックと仲がいいって噂聞いたんだけど」
「はい?」
ハッフルパフのシーカーであるセドリック。
がセドリックと話したのは1度だけだ。
優しい紳士的だけではない性格だと言う事をその時分かった。
「どこからそんな噂が出てくるんですか」
「どこもなにもに関する噂って結構あるよ」
「聞きたくないですけど…どんな噂があるんですか?」
「そうだね〜…」
ジョージは考えながらその『噂』をひとつずつ挙げていく。
も少しならば知っているが、根も葉もない噂から、妙に筋道が通っているような噂まで色々あるようだ。
ジョージ曰く、は何かを隠しているように見えるからこそ色々な噂がたちやすいとのこと。
の隠し事がどんなものか、という疑問がつきないからこその大量の『噂』らしい。
ハリー達が知っている様子がないってことはほんの一部分ですぐに消えてしまう程度の『噂』なんだろうけど…。
いや、そんなすぐに消えてしまう『噂』を知っているジョージ先輩もすごいんだけどね。
よく思いつくよね、色々と。
グリフィンドールの談話室で自分の噂をジョージに聞くは、深いため息をつくのだった。