信用の証と裏切り






―魔力の波動も一緒、形も一緒。違うのは使用年数くらいだね。のつけている方が古い。


自分の言葉に気付いてしまった事がある。
それは、信じている…誰よりも信用を置いている人物の裏切りを意味しているのではないのか…と。



リドルはセウィルとのピアスを確認して、校長に呼ばれ…その後は自室にこもっていた。
ディペット校長の用事は、のことだった。
ダンブルドアと親しそうなあの少年には、目をかけてもいいが変な影響は受けるな、と。
以前からディペットがダンブルドアを疎ましく思っていたのは知っていた。
だからこそ、ディペットを全く頼らず、ダンブルドアを頼っているが気に入らないように感じてしまうのだろう。
そういう感情をむき出しにする今の校長の器の小ささを感じた。


この先の未来から来たグリフィンドール生。
スリザリン生に対しても別段嫌悪的な感情を見せずにいる珍しいマグル出身。
彼がいつの未来から来たのかも、どういう状況で育ってきたのかも全く知らない。


は一体どういう子なんだろう…?


その疑問から始まり…ピアスのことに繋がる。



―信じてください。僕はそんな貴方の生き方に惹かれたんです。
 何があっても、貴方がどんな道に進もうとも…僕は貴方のために尽くすことを誓います。



盲目的とも言っていいだろう、セウィルのその言葉にリドルはセウィルを認めた。
普段は普通の先輩と後輩と言う立場をきちんと演じきり、いざという時は絶対に裏切りをしない。
どんなことでもセウィルはリドルの命令には従った。
例え誰かを陥れることでも…。
だからこそ、リドルはセウィルを大切に想い、セウィルを守る効果もあるピアスを与えた。


「でも、君は……のいる未来には僕の側にいないんだね」


1人呟くリドル。
「ヴォルデモート卿」が健在だとの言葉で分かった。
その側に、リドルが唯一認めた存在はいない。
のいた未来が何年後かは分からない。
セウィルとて人間だ。
寿命によって亡くなったのかも知れない、リドル…ヴォルデモート卿の為にその命を落としたのかもしれない。
だが、確かに…セウィルが身に着けていたはずのピアスはの元にある。

裏切りではない。
そう、裏切りという可能性は低いはずなのだ。
けれど…この心にある不安はなんなのだろう。


僕は、母を捨てたマグルである父が憎い。
マグルは僕ら魔法使いを化け物でも見るかのように扱う。
マグル出身の魔法使いは低脳ばかりで役に立たない。
いるだけで邪魔だと感じる。

だから、新しい世界を作ろう。
新しい家族が………欲しかったんだ。
セウィルは…忠実でもあるけれど、僕にとっての新しい初めての……だと思っていた。




それからリドルは何も起こってないかのように振舞った。
セウィルに対する態度も、に対する態度も変えない。
ずっと優等生という仮面を被り続けていたリドルにとっては造作もないこと。
だが……1人になって考える時間が増えた。
ホグワーツの授業がないから尚更だ。

禁じられた森で静かにたたずむリドル。
既に優等生の仮面ははがれている。
こんな場所で優等生を演じても仕方ないだろう。


くっ……!


びゅっと杖を振って真横の草をなぎ払う。
気付かなければ何も思わなかったはずだ。
今はあの忠実なセウィルが裏切る可能性があるなどと…。
とセウィルがお揃いのピアスを付けて仲良く話をしているたびにその可能性が頭に浮かんでくる。

「やっぱり…混血は、所詮混血ってことなんだろうね…」

スリザリン生に選ばれながらも、リドルは混血であることを隠していた。
母である魔女の血は誇りに思う。
混血であることは、一種のコンプレックスでもあった。

「純血は混血には最終的には従えないってことかい…?」

呟くリドルの顔に自嘲気味な笑みが浮かぶ。
まだ可能性の段階に過ぎない。
それなのに、その低いだろう可能性にリドルは絶望を感じていた。
セウィルの存在はそれほどまでにリドルには大きかった。
裏切る可能性などまったくと言っていい程考えなられなかったのだから…。


「忠実に従う部下が欲しいわけじゃないんだ…」


マグルの一掃を行うためには、確かに部下は必要だ。
それこそ多数の部下が必要だろう。
でも、本当に欲しかったのはそれではない。


僕は…






ぐるぅぅぅぅ…



何かが唸るような声にはっとなるリドル。
静かに音がした方を見れば、草木を掻き分けてくる異形の獣達。
リドルはすぐに杖を取りだす。
すぅっと目を細めて冷静に相手を見極める。


アバダ・ケダブラ!


ホグワーツ内でこの呪文を使うのはあまり好ましくない。
ダンブルドアにでも見つかれば、余計警戒されてしまうに違いないからだ。
だが、今のリドルはそんなことに構う気分ではなかった。


僕は1人だ…。
ずっとずっと1人だった。
信じる相手なんて誰もいなかった。
でも、望んでいたのは……。



たった1人でもいいから欲しかっただけ…。



緑色の閃光が、次に次に獣達に命中していく。
獣達はリドルに襲い掛かる間もなくその命を奪われ、倒れていく。
禁じられた呪文。
学生がそう簡単に使えるようなものではない。
その呪文をリドルはいとも簡単に扱う。
全ての獣達を葬り去っても、リドルには疲れは全く見られなかった。
そのまま、呆然と立ち尽くす。



かさり…



知っている気配と草を分ける音。
誰が来たのかリドルは見なくても分かった。


「リドル…先輩?」


それは、今一番会いたくない相手の声。
リドルは視線のみ相手に向ける。
自然とその視線がキツイものになってしまうのは仕方ないだろう。


君がセウィルを裏切らせたわけじゃない。
セウィルが裏切ると決まったわけでもない。
でも……君さえ来なければ…!
僕はそんな可能性すら思い浮かばなかった!



先ほどの獣達との戦闘で気が高ぶっているのか、感情を抑えようとは思わなかった。
このまま怒りを…想いをぶつけてしまえばいい。
相手がどう思うかなど、どうでもよくなっていた。


「何しに来たんだい?」


地の底を這うような冷めた声で答えるリドル。
目障りならば殺してしまえと…頭のどこかで思った。


欲しかったのはただ1人。
世界中でたった1人でいい。
何の見返りも求めずに、側にいてくれる相手が………欲しかっただけ。