スリザリンの闇の中で







セウィルは隣のベッドで寝ているを見ていた。
くいっと髪の毛を軽くひっぱっても起きることがない様子から、完全に寝ているのだと分かる。
思わずくすくすっと笑みがこぼれてしまう。

「変なの…、スリザリン寮で熟睡するグリフィンドール生なんて初めてだよ」

の時代でもこの時代でも相変わらず、スリザリンとグリフィンドールの仲は険悪とも言っていいほど悪い。
それなのに、グリフィンドール生のはずであるには、スリザリンに対する悪感情が全然見られない。


コンコン


軽いノック音と共にセウィルの返事を待たずに部屋の扉がそっと開く。
入ってきたのはリドルだ。
パジャマになっているセウィルとは反対にリドルは私服を着ていた。
まだ起きていたのだろう。

「セウィル、彼はどうだい?」

リドルはゆっくりとがぐっすり眠っているベッドに近寄る。

「ぐっすり眠ってますよ、珍しいことに」

すぅすぅ規則正しい寝息だ。
全く警戒心がないようである。
リドルから思わず苦笑が漏れる。

「変わったグリフィンドール生だね」
「僕もそう思いますよ」

ダンブルドアに言われたからと言って、本当にスリザリンにお世話になるグリフィンドール生がいるだろうか。
普通のグリフィンドール生ならば嫌がるはずである。
それほどまでにグリフィンドールとスリザリンの仲は悪いのだから。

「リドル先輩、にちょっとカマかけてみたら分かったんですけど…、「ヴォルデモート卿」は存在するようですよ」

リドルはそれに僅かに反応を見せる。

「そう…」

だが、呟いた言葉はそれだけだった。
短い言葉だったが、セウィルにはそれで十分。
リドルがそれに満足しているから。

「未来から来た…ね、一体どれくらいの未来なのか…」
「ヴォルデモート卿がいるってことは、そう遠くもなく近くもない未来なんでしょうね」
「だろうね…」

セウィルとリドルはを見る。
未来からのグリフィンドール生。
それがどんな影響を与えるのか。

「僕、と仲良くなれば、僕がもし爺さん側に殺された場合、は爺さん側を恨んでくれるかな…ってちょっと思ったりしたんですけど…」
「彼は敵対する側にいるって言ったのかい?」
「いえ、中立だと言っていました。でも、多分、は最期までどっちつかずになるんじゃないかって思うんです」
「セウィル?それはどんな根拠があっての意見?」

試すかのようなリドルの視線。
どんな根拠があってそういい切れるのか。
目の前でぐっすり寝ているのは会って間もない少年。

の目を見て…でしょうか。多分、って誰も裏切らないし、誰とも深くは関わることはしないと思うんですよね」

誰にでも表面上の感情とはまた別に瞳に宿る感情というものがある。
目は口ほどにモノを言う、という言葉があるように、その人の瞳に宿った感情を読み取ることができればその人の思っていることが分かる。

「それに、はリドル先輩が秘密の部屋を開いたことも、ヴォルデモート卿であることも知っているようでした」
「知っている?」
「はい、何があったかは分かりませんが…、秘密の部屋のことを言っても、ヴォルデモート卿がリドル先輩だというようなことを言っても、それが当たり前かのようで疑問が返ってこなかったので」

リドルは少し考える。
初対面でのは少し驚いたような表情だった。
自分を誰かと間違えたようだったが…。
もしかして、「ヴォルデモート卿」の名は未来ではそれほど恐れられていない?
いや、それはない。
セウィルの問いには中立だと答えた。
それはヴォルデモートとダンブルドアがの時代でも敵対する関係にあることを意味している。
そして魔法界でどちらかにつかなければならないほど、その勢力は双方共に大きいものであることも言える。

「全てを知っていながらも、僕との態度を変えないのか…」
「もしくは、何も知らないただの無知ゆえの態度か、ですね。僕としてはリドル先輩の前者の意見に賛成したいですけどね」
「どうしてだい?」

セウィルにしては珍しい。
相当このが気に入ったようだ。

「僕、と敵対はしたくないですよ。は面白いし…、殺すには惜しい相手です」
「それでも僕が殺せと命じたら?」

リドルは笑みを浮かべながら問う。


「勿論、躊躇いなく従いますよ、我が主様」


にこりっとセウィルも笑みで答える。
やりましょうか?と杖を取り出す。
リドルはそれに首を横に振る。

「ホグワーツでこれ以上の犠牲は出すべきじゃないよ。ダンブルドアにこれ以上怪しまれたら困るだろう?僕らはまだ学生だからね」

笑みを浮かべながらセウィルを制する。

「それに…全てを知っていながら僕への態度が変わらないのなら…それは少し気になるしね」

どういう気持ちで僕と接している?
未来の僕とはどういう関係でいる?

リドルはすっとの髪に手を伸ばす。
サラサラでもない、少し癖のある黒い髪を軽く梳く。


「ん……」


それに気付いたのか、がうっすらと目を開ける。
先ほどセウィルが髪を軽くひっぱていても起きなかったというのに…。
やはり寝ている側で会話をされていたら目覚めやすくなるからなのか。

「ヴォル…さん?なんで、ここにいるの…?」

寝ぼけた様子で尋ねてくるの言葉にリドルは僅かに顔を顰めた。

「寝ぼけているのかい?

リドルは優等生の仮面を被ってに笑みを向ける。
の目は半分だけ開いている感じで、リドルを認識しているのかすら怪しい。

「ヴォルさん、その口調変。…リドルみたいな似非優等生の口調はやめようよ」

寝ぼけているのだろう。
それは分かる。
だが、この台詞はリドルをかなり驚かせた。
横ではセウィルが笑いを堪えている。

「『似非優等生』って…、勇気ありすぎっ…!」

小さな声でセウィルはそんなことを呟いている。
だが、のこの言葉はおかしい。
”リドル”のことをまるで知っているような言い方だ。
初対面から、はずっとリドルを『リドル先輩』と呼んでいる。
口調も丁寧口調だ。

…?」
「ん〜……眠い…」
「『僕』とはどういう関係?」
「…かん…けい?同居人ってことにしてあるけど…、だってヴォルさん勝手に行動するんだもん。フォローは自分でしてよね…」

寝ぼけているために口調がかなりのんびりだったりする
ますますリドルは分からなくなる。
自分が”ヴォル”という人物と間違われているだろうことは分かる。
間違えると言うことは、顔立ちがかなりそっくりなのだろう。
それならば…とリドルは思う。

はダンブルドアとヴォルデモート卿のどちら側の味方?」
「ん……?どっち…?ヴォルさん分かってるじゃん、どっちにも付けないよ…」
「どうして?」
「だって……いずれダンブルドアを裏切ることもありうる…から」

リドルはセウィルと顔を見合わせてしまう。
ダンブルドアを裏切ることもありうる…?
どう見てもは闇に組するような性格には見えない。

はダンブルドア側にはつかないの?」
「…だって、ヴォルさんがいるし………ヴォルデモートさん…は……」

そのまますぅすぅ寝息が聞こえてくる。
ヴォルデモートはなんだと言うのだろう…。
すごく気になる言葉で終わってくれたものである。
寝ぼけいているようだったので、はこのことは覚えていないだろう。

って、謎が多そうですね」

ぽつりっとセウィルが呟く。

「そうだね…」

未来からの不思議なグリフィンドール生。
真っ直ぐなその瞳は心惹かれる。
彼は未来でどんな位置にいるのだろうか…。
セウィルもリドルも、に対して興味を抱いたのは間違いないようだ。