ドラコにおける彼女の考察
僕の名はドラコ=マルフォイ。
魔法界でもマルフォイ家は純血一族で有名だ。
かなりの権力もある。
僕は今度ホグワーツの3年になる。
勿論ホグワーツのスリザリン生だ。
純血一族でスリザリン以外など考えられない。
混血、マグル出身のやつなんて魔法使いになるべきでないとずっと思ってた。
けど、その考えが今は少し変わってる。
それというのも1人のかなり変わったやつのせいだ。
「何やってるんだ、君は」
僕は呆れたように相手を見る。
彼は僕の部屋の中を興味深そうに見ている。
「いや、だって、こういう部屋って珍しいし…。でも、よくこんな部屋で寝起きして疲れないよね、ドラコ」
「そういう反応を返す君がどんな部屋で寝ているのか少し興味があるよ」
「僕はふつーの部屋だよ。ごくごく一般の普通の部屋」
「つまり、一般の貧しい狭い部屋ってわけだな」
「その通り」
こいつはこういうやつだ。
接してくるうちに、僕はこいつを…に対して見下すような発言をすることが馬鹿らしくなってきた。
言うだけ無駄だ。
グリフィンドール生で学年は僕と同じ。
名前は=。
成績は優秀なのか劣等生なのかさっぱりわからない。
黒髪黒い瞳の眼鏡をかけた平凡な東洋系の顔立ち。
ホグワーツ内でもは結構有名だ。
本人自覚してない鈍いやつだけどな。
が目立つのは誰に対しても悪意を抱いた視線を向けないからだろうと思う。
僕のように貶める発言をする相手でも、態度が変わらない。
だから付き合いやすいんだ。
なら、僕が例え『例のあの人』の側についても態度を変えたりしない気がするから…。
だから、はいろんな人に好かれるのだと…僕は思う。
「そんなに珍しいか?」
部屋の中をまだきょろきょろに僕は呆れたような声をかけた。
よく飽きないものだと思う。
「これだけ豪華な部屋は初めてだしね。どこかの貴族のお屋敷みたいだよ、本当に」
「の家はどうなんだ?」
「僕の…?」
きょとんっとなる。
「とりあえず今住んでいるところは、僕的価値観からすると広いところかな?実家の部屋はもうちょっと狭いけど…」
今住んでいる所…?
実家ってことは、休暇中は家にいないってことなのか?
いや、そうなるか。
の家族が日本にいて、が日本に帰っているのならノクターン横丁で会うことなんて出来ないだろうからな。
何か理由でもあるのか?
「あ、ごめん。話してなかったっけ…?僕は休暇中実家にいるわけじゃないんだ。ちょっとした事情でこっちの知り合いの家にいるんだよ。家族はちゃんと日本に居るけどね」
そう言って、苦笑したはどこか寂しそうに見えた。
だから僕はこれ以上聞くべきでないと思った。
誰にだって言いたくないことの一つや二つはあるだろう。
「よく考えれば、は結構謎が多いよな」
「は…?」
そう、考えてみればの家のことなど何も知らない。
大した家系じゃないんだろうけど、学校内でこれだけ有名にも関わらずプロフィールが全然出回ってない。
「別に謎も何も…普通だけど?」
「どこをどう見て自分が普通だと言い切れるのか、さっぱり分からないが…」
「うあ、ドラコ、酷っ!」
どうして自分を普通だと思い込めるのかそれが僕にはさっぱり分からない。
自分の言動を振り返ってみろと言ってみたい気分だ。
だからこそのかもしれないのだろうが…。
「本当にマグル出身か?と疑いたくなる時も多いしな…。もしかして君は最初から闇に染まりたかったのか?」
ノクターン横丁に平気で出入りしている様子から、最初はそう思った。
けれどもにそんな様子はない。
は闇に染まるような性格じゃない。
寧ろそれを妨げる方につく性格だ。
「そう見えた?」
「いや、そうは見えない。だから君がよく分からなくなる時が多かった」
「多かったってことは過去形?今はそう思ってない?」
「そう言う訳じゃないが…ただ…」
「ただ?」
笑みを浮かべながら僕の方を見る。
その表情からは何も読み取れない気がする。
そう、何も読み取れないんだ、。
僕では…。
君は相手に普通に接しているように見えても、感情をしまってしまう所がある。
日本人は本来、そういう我慢が得意な人種らしいと聞いた。
けれど、僕らはまだ子供だ。
12歳…もうすぐ13歳になるだろうけど…まだまだ感情を隠しきれない子供だぞ?
君の表情から年齢差を感じるのは気のせいか?
「君に関して疑問をもつのは馬鹿馬鹿しいと確信してからは疑問を抱くのはやめた」
「馬鹿馬鹿しいって…」
「こっちが真剣に考えていたことでも、にとったら別に深い意味のない言動だったりすることもあるんじゃないかと思ってな」
真剣に悩んだりして、聞いてみればお気楽な答えが返ってきそうな気がするんだ。
君の場合は特に。
「例えば…?どんなことに疑問持ってたりしたわけなのさ、ドラコ?」
そう問われて僕は少し考える。
1年の時は、ポッター達と一緒にいるタダのグリフィンドールの穢れた血。
目立ってはいたが、別になんとも思っていなかった。
変わったのは2年になってからだ。
「僕はずっとグリフィンドールの穢れた血を見下してきた。それは君に対しても例外じゃなかったはずだ」
「そう?」
「それは君が僕の言葉に対して印象が薄いだけじゃないか?どうして自分を罵倒する言葉に対して薄い印象になるのかも疑問だが…」
「だからそれは、『穢れた血』という言葉が僕にとっては暴言だと捉えられないからで……」
「その言葉に対しての意味を知っているのにか?それに君は僕に対して「助ける」とも言っただろう?」
― 一人じゃあどうにもできないこともある。その時は助けるから言って。
最初、情報を教えると言うのは本当に単なる同情からだった。
父上が気に入った相手に対する仕打ちというのは結構酷いものだ。
本当に気に入っているのかとも問いたくもなる。
けれどもは…。
「どうして、散々罵倒してきた僕を助けるなんて言葉が出るんだ?」
「は?へ…?あ、や……それってドラコにも同じようなこと言えると思うんだけど…」
「なんでだ?」
「だって、ドラコって『穢れた血』が大嫌いじゃない?別に僕がルシウスさんに何されようと放っておくって手もあったのに、協力してくれたし。結構意外だったんだよ?」
「それは何度も言ったが…、父上を甘く見るな、。かなり有名な魔法使いでさえも敵わないようなことを仕掛けるんだぞ?」
「うん、それでもさ…。ホラ、もし僕じゃなくてポッター君かウィーズリー君が同じ立場だったらどうした?」
「……………」
の問いにはすぐには答えられなかった。
ポッターならともかく、ウィーズリーを父上が気に入るなど絶対にない。
天地がひっくり返ってもないことだ。
ポッターがの立場だったら……。
その状況を思い浮かべて僕は思わず顔を顰めてしまう。
「命に関わることになるなら………情報くらいは…」
の時のようにストレートに情報を渡すことなどはできないだろうが…そのまま見ていることはしないと思う。
嫌々そう言った僕には笑い出す。
どうして笑うんだ!
むっと僕がを睨めばは笑いを止めるが表情が笑ったままだ。
「いや、ごめん。やっぱ、ドラコって優しいよ。ひねくれた優しさだけどさ」
「僕が優しい?」
「うん、優しいよ。スリザリンの不器用な優しさ?スリザリン生ってそういうのが多いよね」
誰の事を思い出してそう言っているのか、の目はすごく優しそうだった。
「僕にそんなことを言うグリフィンドールはくらいなものだ」
だけだ。
本当に変わってるよ、君は…。
もし、ポッターがと同じ立場だったら今でならば情報を教えようとは思うが…1年前の僕だったら嫌だと思っただろうな。
に情報を教えると決めたときも、は別に僕を嫌ってないからいいだろう、という考えの程度だったし。
最初に僕が変わり始めたのは、君が僕を「助ける」と言った時だ。
何を言っているんだ?!と思った。
は、絶対に父上の事が分かってないからそんなことが言えるんだと思ってた。
けれど、最初の事件が起こってからもの態度は変わらない。
スリザリンの怪物によって石になる直前に聞こえたの言葉…あの切羽詰った言葉を今でも覚えてる。
あの時、心配されて少し嬉しかったと言うのは絶対に言えない。
確実に僕が闇に近い場所にいると知っているのにも関わらず態度を変えないんだ。
何を知っても態度が分からないんだ。
だから、一緒にいれば楽しいんじゃないかって、楽なんじゃないかって思った。
「、ひとつ聞いてもいいか?」
「うん?何?」
相変わらずの何を考えているか分からない笑み。
それでも…何かあった時に見せるの言葉と表情はきっと本物だ。
「僕が何者でもはずっと態度を変えないでいてくれるか?」
闇の陣営の者になっても。
あの人が甦って、マルフォイ家があの人の下に戻っても。
君はポッターの側で僕と今まで通りの付き合いをしてくれるのか?
「何者でもって、何?もしかしてドラコ、自分の正体を隠しているとか?実は正義の味方で…?」
「そんなんじゃない!まったく、茶化すな」
「いや、冗談だってば。何者でもって……別にドラコはドラコじゃん?何者とか関係ないよ」
当たり前のようなその言葉。
僕はその言葉にほっとした。
けれど、は言葉を続ける。
「例え、デス・イーターになってもね」
平然と、どこか悲しげな笑みでとんでもないことを言う。
僕は思いっきり驚く。
父上が死喰い人であったことは知っている。
そして今もあの人の復活を願っていることも。
僕もいずれは父上のあとを継ぐだろうことも当たり前に感じてしまっている。
けれど、それは周りには知られてはいけない事だということも知っているんだ。
「、君はその言葉の意味が分かっているのか?」
「うん」
「君はダンブルドア…を尊敬しているんじゃないのか?」
「うん。尊敬しているし、いろいろ助けてもらって感謝してる」
「ポッターの友人なんだろう?」
「そうだね。ポッター君とは友達同士だよ」
「僕はそのポッターと敵対する関係になるかもしれないんだぞ?!」
「だから、分かってるって」
苦笑する。
分かっているのか分かっていないのかわからない。
「本当に君は……」
大きなため息がでてしまうのは仕方ないだろう。
分かってるようで分かっていないような表情のに僕は呆れるしかない。
本当はは分かっていてそう言っているのかもしれない。
けど、やっぱり……の話し方と表情を見てるとどうも馬鹿馬鹿しくなってしまう。
深く考えている自分が…。
「は馬鹿なのかすごいのかさっぱり分からないな」
いや、両方か?
「は…?」
きょとんっとする。
僕は思わず苦笑する。
短い付き合いにはしたくない。
そう思えるほどに君は僕の中では結構特別な位置にいる。
権力だけでの付き合いの名前だけの『友』ではなく、損得なしの初めての友人だからかもしれない。
ただ…、いつか全ての『穢れた血』を排除する時に、僕は君を裏切ってしまうのだろうか。
そのいつかが遠い時であることを願っている今の僕は…………君を失う事が恐いのかもしれない。