類似していた2人




混乱する頭で、色々考えながらハリーは部屋へと戻った。
もう日は沈んで殆どの生徒は寝ている時間だろう。
部屋に戻ってみれば、ネビルはもちろんの事、ロンも疲れたようでぐっすりと寝ていた。
しかし、人影が一つ、窓際にある。
はまだ校長室のはずだ。

「…誰?」

月の光が逆行になって形しか分からない。
ハリーはゆっくりとその影に近づく。
影は窓の外を眺めているようだ。
ハリーがその影の顔立ちが見えるところまで近づいてきた時

「何の用だ?」

影から声がした。
影が振り向く。
逆行で顔立ちは見えないが、紅い瞳だけはやけにはっきりと見える。
怖いくらいに…。

「リ…ドル」

ハリーの表情がだんだんと険しいものになっていく。
驚きから、睨むように…。
ハリーがリドルと呼んだ影は勿論ヴォルだ。
まだ姿を安定させる為に猫の姿にはなっていないのだろう。
ロンもネビルも寝付いたから戻ってきたのか、それとも疲れたを出迎える為か…。

「何の用だ、ポッター?」

冷めた、突き放すような声。
ハリーを見るヴォルの瞳も冷たいものだ。

「なんで、なんで君がこんなところにいるんだよ!」

ヴォルを睨みつけるハリー。
ヴォルは面倒くさそうにハリーを見る。

「何故?そんなの、を待っているからに決まっているだろう?それ以外に何がある?」

ヴォルのその言葉と態度にハリーはかっとなる。

「なんで君みたいなのがの側にいるんだよ!はヴォルデモートに命を狙われているって言ってた。じゃあ、何でリドルを取り込んだ君が側にいるんだよ!」

納得できない。
例えがヴォルを信じていても、ハリーはが危険だとしか思えない。
ハリーは、ヴォルはいつ裏切るかも分からない闇の者であると認識している。
ヴォルは呆れたようなため息をつく。

「それは俺の方が言いたい台詞だ、ハリー・ポッター。何故お前のような者がの側にいる?」

すぅっとヴォルは目を細めて問う。

「僕とは友達だ!」
「その絆がを危険にさらすんだよ。ポッター、俺は以前言ったはずだが?『の側にいたいと思うのなら、守られなくてもいい程度の力をつけろ。中途半端な気持ちでに近づく事は俺が許さない』と」
「そんなことは分かってる!僕だって魔法使いだ!去年はヴォルデモートを!今年はリドルだって僕が!」
「退けた、とでも言いたいのか?ダンブルドアでさえ無理な事をやり遂げた英雄だと言いたいのか?」

ヴォルはハリーを見下すように見る。
ハリーはその通りだとでも言うようにヴォルを睨みつける。
ヴォルの表情に僅かに殺気がこもる。

「自惚れもいい加減にしろ。お前がしたことは偶然が重なっただけに過ぎない、お前の力ではない。それを自覚しないうちは、の側に近づくな」
「何で君にそんなことを言われなきゃならないんだ!大体、はヴォルデモートに存在を知られた命を狙われるんだろう?僕より危険なんだろう?!なら!リドルを取り込んだ君の側が一番危険じゃないか!」
「俺が裏切るとでも?」
「そうだよ!僕は絶対にヴォルデモートなんかに負けない!でも、君はヴォルデモートの方につくに決まってる!」
「何の根拠があってそんなことを言う?」

怒鳴りつけるハリー。
対するヴォルは冷静だ。

「だって、リドルはヴォルデモートの過去だ!はそれを知らないから君を信じることができるなんて言ってたんだ!」

ハリーはに秘密の部屋についてのことは話していない。
リドルが自分はヴォルデモートの過去の姿だと話したシーンをは見ていない。
ハリーはがそれを知らないと思っているのだ。
ヴォルは一瞬驚いた後…肩を震わせる。

「…くっくっく」

口元に笑みを浮かべてハリーをちらりっと見る。
その瞳はぞっとするほど冷たいものだ。
ハリーは殺されるのではないか、と一瞬思ってしまう。
ヴォルはハリーを殺気すら帯びた視線で見る。
本当ならば、ヴォルは今すぐにでもハリーを排除したいくらいだ。
ハリーがいるからヴォルデモートやデス・イーター達はハリーに対してちょっかいをかけてくる。
はそんなハリーの為に動いてしまう。

がその程度で俺を避けるようになるならば、俺はの側になどいなかっただろうがな」

ヴォルがヴォルデモートだったからと言って、拒否したならば最初から一緒にいなかった。
は全て承知の上でヴォル自身を受け入れてくれている。
そして、今のヴォル自身を見てくれている。
ハリーが何か気付いたようにはっとなり、そして軽くため息をついた。

「…そうだよね。って誰が相手でも同じように接するし」

ぽつりと呟く。
ハリーの大嫌いなセブルス相手でも、ドラコ相手でも、は楽しげに話しかけていく。
セブルスにあんな風に話しかけるグリフィンドール生はくらいなものだろう。

「ポッター、強くなれよ」
「え?」

ヴォルがハリーを見る。
ハリーは言われた言葉が信じられないかのように目を開く。

「足手まといはの側には不要だ。はお前の側を離れる気はないだろうな、少なくとも学生時代のうちは…」
「なんで?」
「何故かは俺にも分からないが、お前が強ければへの負担はそれだけ減る」

そう、ハリーが強くなればが手を貸すことは少なくなるはずなのだ。
はどうあっても自分のすべきことは譲らないだろう。
危険を承知でも、だ。

「正直言って、俺はお前が気に食わん。今すぐにでも消し去りたい気分だ」
「僕だって君が嫌いだよ」
「だから、強くなれ」

ヴォルはハリーをすっとまっすぐに見る。
大切なのはだけ。
けれど、を悲しませるのは嫌だと、ヴォルは思う。
それならば、が守りたいと思うもの達が強くならなくてはならない。

「強くなれよ、ポッター。せめてヴォルデモート程度は軽くあしらえるくらいにはな」

どこかヴォルデモートを見下したような言い方にハリーはヴォルに対する気持ちが少し変わる。
まるでヴォルデモートを敵としてしかみていないヴォルの言い方。
リドルとは、違う?

「来年、お前が何も変わらず一般生徒と同様のことしかできないまま成長するならば、俺はいずれお前を消す。足手まといは必要ないからな」

ヴォルは本気だ。
ハリーにもそれが何故か分かった。
だから、こくりっと頷く。

「なるよ。このままじゃ駄目だと思うから。強くなる」

そう、このままじゃ駄目だ。
ハリーはそう思う。
1年生で習う呪文も、使いようによってはかなり役に立つ。
けれど、初級の魔法ではどうにもならないときもあるのだ。
気持ちを固めたハリーだが、ふと気になったいたことを思い出した。

「ねぇ、一つ聞いてもいい?」

ハリーの方から話しかける。
ヴォルはリドルともヴォルデモートとも違う気がしたから、だからハリーは話しかける気になった。

「僕はリドルに、僕とリドルは似てるって言われた。…僕がスリザリンに行っていたらヴォルデモートみたいになったのかな?」

ずっと誰かに聞きたかった。
組み分け帽子はハリーにはスリザリンの資質もある、と同じ答えしか出ない。
ダンブルドアはハリーがグリフィンドールを選んだことですでに違うと言っていた。
けれど、もし、スリザリンに行っていたら?

「無意味な質問だな。だが、お前にはまともな両親がいただろう?」
「昔は、ね」
「ヴォルデモートとお前の共通点はたった二つだけ。両親がいない、パーセルマウスである。ただそれだけだ。類似しているかもしれないが同じではない」

一緒にするな、とヴォルは言いたい。
ハリーにリドルの気持ちなど分からないだろうに。
混血でありながらサラザールの血をひき、スリザリン寮へと配属された。
混血であることがばれてしまうことを常に恐れていた。
貪欲に闇の魔術のみを求め、魔法使いであったと言う理由だけで自分と母をいとも簡単に捨てたマグルの父を憎み続けた。
帰る家は、貧しく未来が何も見えない孤児院。

「それ、だけ?」
「そう、それだけだ。一緒にするなよ、リドルの苦しみも悩みも知らないお前が」
「なっ…!」

ハリーはヴォルの言葉に怒りを見せる。
ヴォルはハリーを見下すように見る。

「何だよ!」

ハリーがヴォルに怒鳴る。
ヴォルは別に動揺していない。
わかってて言ったのだ。
ヴォルはハリーに頼られるつもりも、好かれるつもりもない。

「う…ん。ハリー…?」

ロンの声が聞こえた。
そこでハリーははっとなって、口を押さえる。
ぎりっとヴォルを睨みるける。

「怒鳴るとウィーズリーが起きるんじゃないか?俺は別に騒がれても構わないが、お前に言い訳ができるか?」

ロンの目が覚めればヴォルの姿に騒ぐだろう。
そうすれば他の生徒達も起きて駆けつけてくる。
ハリーは別に悪くないのだが、ヴォルの姿を見られて自分で言い訳ができないのは困る。
ハリーはぎろっとヴォルを睨んで、自分のベッドへと向かった。
ロンは寝ぼけていたらしく、寝息のみが聞こえてくる。
起きてはいないようだ。

は大切な友達だけど、僕は君の事は信用できないし、嫌いだよ」

むっとした表情のままハリーはぽつりっとそう言って布団にもぐった。
ヴォルはその様子に呆れたように笑みを浮かべた。
だが、すぐに冷たい視線になる。


(忘れるなよ、ポッター。に害をなす存在になった時は、俺は迷わずお前を消すということをな)

ヴォルがハリーをみる目はどこまでも冷たいものだ。
彼の瞳が優しいものへと変わるのは、を見るとき、の事を想う時だけである。
それを自覚しながらも、ヴォルは今のままで構わないと思っていた。